主人公はイバラの恋の道を行くのか…!?:ユダの覚醒(読書感想)
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ユダの覚醒 ジェームズ・ロリンズ 竹書房文庫
シグマフォースシリーズ第3作目です。シグマフォースシリーズは”歴史と科学にまつわる謎をアメリカの凄腕スパイたちが解き、地球を救う”をテーマに、今度こそ地球は滅びるのではないか!? というレベルの大ピンチをえがいています。本作でもそれを忠実に守り、歴史の教科書でもおなじみのマルコ・ポーロの謎をモデルに、不思議な病との戦いをえがいています。
「地球の大ピンチはそれはそれで面白いけど、シリーズ3作目ともなると少しマンネリ感が……」
なんて心配はありません!
この巻では今後のシリーズでも、散々シグマのメンバーを苦しめる、恐ろしい敵が登場します。
そしてシリーズの目玉の一つ、シグマ隊員たちの恋にも注目です。他のメンバーが着々と恋路を進める中、一人孤独な主人公グレイにも大きな転換点が訪れます。
中だるみなんてとんでもない、第1作目と同じくらい、絶対読むべき伏線が散りばめられ始めた3作目でした。シリーズの中でも押さえておきたい1作です。
それではさっそくご紹介していきましょう。
目次
1.今後の内容を左右する伏線
シリーズものならではの、次の作品以降へと繋がっていく伏線、本作もいろいろと登場しております。中でも、恋愛面と、シグマの宿敵についてご紹介しておきましょう。
主人公の恋路はイバラの道か?
『ユダの覚醒』ではあの人が再登場します。1作目『マギの聖骨』にも重要人物として登場していたセイチャンです。1作目では謎めいたテロ組織「ギルド」の女スパイとして登場し、敵か味方かあいまいな、ミステリアスな魅力を振りまいていました。セイチャンは今回はメインヒロインとして登場です。
その再登場シーンからして、胸騒ぎを起こしまくります。実家の庭でパーティをしていたグレイのもとに、一台のバイクが転がりこみます。(本当に文字通り転がってきます)乗っていたのはセイチャン。しかも撃たれて怪我を負っています。セイチャンの口からは「…助けて…」と一言。

スパイ小説としても、恋愛小説としても、こんなに興味を掻き立てられる出だしにはなかなかお目にかかったことはありません。
「これは罠なの? それとも本当に助けを求めに来たの?」前半はこの疑問だけで面白く読めてしまいます。
彼女が転がり込んできたおかげで、グレイは自分の両親をも巻き込んだ大ピンチに陥ります。今回敵となるのは、セイチャンが所属する組織、ギルドです。1作目から名前だけは登場し「なんかヤバい組織らしい」ということしか読者には知らされていなかったギルドが、セイチャンの命を狙って執拗にグレイたちを追ってきます。セイチャンはテロリストとして国際指名手配もされているので、シグマを頼りにするわけにもいかず、グレイはセイチャンを、ギルドからも、自国アメリカからも守りながら、謎解きを進めていなかければならなくなるのです。
今回の謎解きの対象は『東方見聞録』でお馴染みのマルコ・ポーロなんですが、もうそれがサブストーリーに思えるほど、セイチャンとグレイの関係の変化に釘付けになりました。

時に惹かれあい、時に反発しあい……
セイチャンが敵か味方かわからないのに、親密さが増していく2人の関係がたまりません。
しかも、今回のセイチャンは1作目で見せていたスパイらしい鉄の女としての一面だけでなく、実に女性らしいたおやかさも見せてくれます。グレイと言い合いになりながらも 「私はそんな冷たい女じゃないのよ……」と心細げに言ってみたりして、「これはハニートラップってやつでは!?」とドギマギしつつも、ギャップにやられたのは何も私だけじゃないでしょう。(少なくともグレイはやられていたと思う)
これまで恋路ではあまりいい目にあってこなかったグレイ、ついにセイチャンとの恋というイバラの道を行くのか!? とさらに素直に幸せになれそうもない方向へ向かっていきそうですが……読んでいる方としては、障害が多い恋愛の方が面白そうです^Ⅲ^ 今後の2人の関係がどうなっていくのか、さらに期待が高まります…!
宿敵、ギルドの本格登場
思わずセイチャンのことを夢中で書いてしまいましたが、ギルドについても触れておきましょう。謎めいたすごい力を持った組織、という印象を植え付けてきたギルドが、本作でその牙を具体的にむき出しにしてきました。
具体的には作中を読んでいただきたいのですが、ギルドのせいで奇妙な病が目を覚ましてしまうのです。その病にかかった人間の行動から思い出すのは、ホラーやパニック映画などでおなじみの ”アレ” です……ゾンビ。
科学と歴史を重視しているシグマフォースシリーズで “彼ら” にあう羽目になろうとは……驚きです。次々と蔓延していく気配の奇妙な病を目覚めさせるとは、ギルドは本当に迷惑なやつらです。
しかも、その奇妙な病のワクチンはなく、治療法も不明という状態……

こういう自爆行為をする敵は怖いですよね、人間の生存本能に逆らいまくりです。
ギルドが狂気じみた一面を持っていることもわかり、これからもシグマに立ち向かってくるのかと思うと……ゾッとします。
ギルドの存在がフィクションで本当に良かった。
これまで敵対した組織は壊滅状態においやってきたシグマですが、ギルドをいきなり壊滅状態に……というわけにはいきませんでした。
さすがギルド、しぶとい! ギルドとの勝負の決着は、あと数作かかりますので、それまで存分に脅威を振りまいて楽しませてくれることでしょう。
『ユダの覚醒』に登場する大きな伏線を2つご紹介しましたが、実は本作の後半にもう一つの大きな伏線が存在します。どう紹介してもネタバレになるので詳細は避けますが、シグマの隊員の一人が大ピンチに陥ります。その隊員が今後どうなるのか……次作以降でその意外な運命が明らかになりますので、長いシグマフォースシリーズの中でも『ユダの覚醒』は飛ばさずに押さえておきたい作品ですね。
2.コワルスキ、初登場
『ユダの覚醒』では、個人的におすすめポイントがあります。それは、ジョー・コワルスキの初登場回だということです! ジョー・コワルスキは海軍の上等水兵出身の大男で、腕っぷしの強さを買われてシグマにスカウトされたという異例の採用理由の持ち主です。他のクレバーな隊員たちとは異なる特殊な存在感を放っています。
一言でいえばお笑い要員。
レンジャー物で言えば黄色。

彼が口を開けばシグマの隊員たちは呆れるが、読者は笑ってしまうというシリアスな展開が多いシグマフォースシリーズにおいて心のオアシス的存在です。
コワルスキはシリーズ中、私が最も好きなキャラクターです。
初登場にしてその面白エピソードが多々ありましたので、ご紹介します。
ぜひ、みなさんにもコワルスキを好きになってほしいです。
<コワルスキの面白エピソード テーマ:自由人>
①マルコポーロ自身が書いた旅行記を発見したときに一言
「なんだ、ベッドシーンはないのか」
→あるわけないだろ! これが本気か冗談か分からないのがコワルスキの底知れなさでもあります。
②フビライハンがマルコポーロに発行した当時のVIP用パスポート(黄金製)を見て一言
「すごいな」
→シンプルな言葉です……ただし彼の目はドルマークになっていたことでしょう。花よりだんご、歴史より金です。
③周りをギルドの雇った傭兵に囲まれて移動中に一言
「像がいるぞ!」
→このセリフの後、乗りたいとはしゃいでいます。いつ殺されてもおかしくないんだぞ、とグレイが舌打ちしてそうです。空気が読めないを通り越して大物感すら漂います。
<コワルスキの面白エピソード テーマ:仲間との関係>
①ヴァチカンの神父であるヴィゴーとの初対面シーン
誰に対してもあまり態度の変わらないコワルスキは、ヴィゴーにもそこまで興味を示さない。しかし……
ヴィゴー 「お酒のおかわりは瓶で頼んでおいたよ」
コワルスキ 「神父様、あなたのおっしゃることは何でも信じます」
→お酒一つで態度ががらりと変わりました。信仰は酒でも買えるようです。
②グレイとセイチャンで二手にわかれることになり、コワルスキを連れて行けと言われたときのセイチャンからのきつい一言
「役に立たないわよ」
→さすが鋼の女、セイチャン。ほぼ初対面でこの態度。彼女は頭がいい人が好みなんでしょうね。
③遺跡の隠し部屋で古い遺体を発見したとき
「もし動いたら俺は逃げる、本気だからな」
→これは冗談なのか本気なのか? 基本的に誰にでも人当たりのいいヴィゴーなんですが、このセリフには無視を決め込んでいました……でもコワルスキは無視されたくらいでは気にしません。
<コワルスキの面白エピソード テーマ:暴れたい>
①セイチャンから暴れて良いとお許しが出る
セイチャン 「ひと騒ぎ起こすわよ」
コワルスキ 「待ってました!」
→基本的に相性の良くない2人。初めての意気投合でした。
②逃走用の車を調達してきたコワルスキ
セイチャン 「私が使うように指示した車と違うじゃないの!」
コワルスキ 「あれじゃダメさ。こいつはスピード狂にはよだれものの車だぜ」
→この後、コワルスキは盗んだプジョーを乗り回します。コワルスキの判断が吉とでたか凶とでたか……
③グレイに文句を垂れるコワルスキ、その内容は……
「俺は銃を撃ちたかったんだよ!」
→彼は大型銃器や爆発物大好き、破戒王なんです。
どうでしょう? シーンを拾い出すだけでも、彼の魅力が伝わってきましたか? 作中には大小含め笑える「いかにもコワルスキ」な作品がもっと登場します!

理性よりも本能、難しくではなく単純に、やるなら派手に動こうぜ!
彼の特徴をまとめるとこんな感じでしょうか? 本作だけのゲストキャラクターかと思っていたのですが、あまりのキャラ立ちっぷりに彼は今後、しっかりとシグマのメンバーとしてレギュラー出演し続けます。
後には彼を主人公にした短編も発表されます。
『ユダの覚醒』はシリーズの重要な方向性を打ち出した巻でもありますが、コワルスキがでてきたということでも私にとっては記念碑的な作品です! 作中の彼はもっともっと輝いているはずなので、ぜひ読んで笑っていただきたいです。
3.おおまかなあらすじ
あらすじの前に、本作でクローズアップされている歴史のテーマを簡単にご紹介しておきましょう。
歴史ではマルコポーロの謎に挑みます。マルコポーロといえば『東方見聞録』でお馴染みの探検家のイメージでしょうか? 彼は中国に向かい、そこで長い年月を過ごした後、故郷であるイタリアに帰国します。ここからは知っている人は少ないのではないかと思いますが、マルコポーロが帰還する際、時の中国の支配者、フビライハンは大量の船、船員を彼に与えます。しかし、マルコポーロがヴェネツィアに辿り着いたとき、残っていた船と船員の数ははわずかでした。帰国の途中、いったいなにがあって船と人を失ってしまったのか、マルコポーロは最期まで語ることはなかったそうです。
本作では、帰国の途中で「起きていたかもしれないアクシデント」を最新の科学の知識と、作家の想像力で膨らませて、スリルあふれる物語を作り上げています!
それでは、おおまかなあらすじです。
グレイは実家で建国記念日のパーティーを開いていた。そのパーティーの終わりに、一台のバイクがやってくる。運転手は銃で撃たれ、重傷を負ったセイチャン。驚くグレイに彼女は助けを求めた。グレイは戸惑いつつも、彼女を医者のもとに連れていこうとするが、セイチャンを狙ってギルドの追手が現れる。セイチャンがギルドに狙われる理由、それは彼女が持ち出したとある遺物にあった。その謎を解かなければ、地球規模の災害に襲われる。不吉な予言をするセイチャンを信じるべきか否か……グレイは決断に迫られる。
一方、その頃東南アジアにあるクリスマス島を訪れていたモンクとリサ。彼らはシグマから島民たちが発症した奇妙な病の調査をするよう、任務を受けていた。医者のリサは島民たちの治療にあたるが、見たこともない病に患者たちの症状も悪化の一途をたどっていた。彼女は、調査を進めるうちに、その病の驚くべき正体にぶち当たることになる……
いかがでしたでしょうか?
伏線の仕込みが多かった本作、この後のシリーズがさらに面白くなるので、1作目の『マギの聖骨』と同じくらい、重要な巻だったと思います! ぜひ読んでみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。
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