現代のラヴクラフトがここに?! 極限の別世界が体験できる『ダーウィンの警告』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する作品はこちら
ダーウィンの警告 ジェームズ・ロリンズ 竹書房文庫
殺しの訓練を積んだ科学者たちが地球を滅亡から救うスパイ・アクション『シグマフォース』シリーズ第9作目です。
今回もものすごくエグイ脅威がシグマに、アメリカに、地球に襲い掛かります。
アクションという極上のメインに科学や歴史のテーマというスパイスをふりかけて、毎巻とても面白く読んでいますが、今回ご紹介する『ダーウィンの警告』にはシリーズの良さに+αしたソース(魅力)が添えられていました。
その+αのソースというのが、作者さんがマルっと創り上げた地球上のどこかにあるかもしれない別世界です。
これまでに2回、本書を読んだのですが、1回目に読んだのはかなり前だったのでストーリーも結末もぜーんぶ、忘れてしまってました!(笑)が、この作品に登場する「別世界」だけはずっと覚えてたんですね。
作家さんというのは想像力を駆使した仕事だと思うのですが、今回ジェームズ・ロリンズが魅せてくれた世界は完成度もインパクトもとても高い!
読むほうも、想像力を大いに刺激されて楽しい読書体験となること間違いなしです。
それでは、あらすじと感想をまじえながら、作品をご紹介していきましょう。
1.恋愛要素はお休みです
いつも『シグマフォース』シリーズをご紹介する時には、その巻で起きた恋愛の動きから入ることが多い当ブログです。
シリーズものといえば人間関係の変化は欠かせないお楽しみ要素の一つですからね。前作『チンギスの陵墓』で主人公グレイを巡る三角関係は決着がついたので、ここから新展開か……と思われたのですが、『ダーウィンの警告』では恋愛面の動きはほぼありません(残念!)
というか、そもそもヒロインのセイチャンがほぼほぼ登場しておりません^^;(こちらも残念!)
なので今回は特に恋愛面では動きなし。ですが。
細かいところで2つほど、変化はありましたのでそれをご紹介しておこうと思います。
まず1つ目が「ペインターついにゴールイン、か?」です。
冒頭だけでも読んでもらえるとわかるのですが、ペインターはどうやら忙しい合間を縫って、何やら準備をしています。
そう、結婚式ですね。
今思えばペインターが彼女になるリサと出会ったのはシリーズ2作目『ナチの亡霊』でした。
それから数えて8作目、やっとゴールインをする決心がついたようです。
とはいえ「冒頭」で結婚式の準備ですからねー……ペインターとリサはマリッジハイになることもマリッジブルーになることもかなわずに任務に駆り出されてしまいます^^;(かわいそうに)
2人が無事に結婚することが出来るのか!?
そんなにドキドキハラハラはしないかもしれませんが、シリーズの中でもおめでたい進歩ですね。
そして2つ目の変化が「コワルスキ、散る」です。
この書き方だとコワルスキが死ぬみたいですが、そうではありません。彼は最新15作目でも元気に活躍しています。
コワルスキも何作目かは忘れましたがガールフレンドが出来ていたんですよね。シグマ中で奇跡と称されていましたが、カップルとしての未来は閉じたようです。。。(かわいそうに)
今回コワルスキが任務に駆り出された理由に、少しだけこの失恋が絡んでいるようです。任務にコワルスキを送り出したキャットのコメントが笑えます。本文中から探してみてください。
恋愛面での変化はこの2つくらいですが、シグマメンバーの中で本作で実戦現場デビューを果たすキャラクターもいたりして(むしろ作者はこのデビュー戦を大切に書いている節がある)、ちょっとした変化を楽しめるようになっています。
2.極限の別世界
『ダーウィンの警告』では冒頭にも書いた通り、一番面白くて印象に残ったのは作中に登場する「別世界」です。
作中では別の表現が使用されていますが、まるまる一つの世界を想像で作り上げてしまったほどのインパクトと完成度がありました。
今回、ペインターやグレイはその未知なる世界で戦うことになります。未知なる世界と言っても、どこか異世界に飛ばされるとか、ついに宇宙に進出するとか、そういう話ではありません。
地球上にある場所だけれど、もしかしたらそこには私たちが想像もつかない「新世界」が広がっているかもしれない場所、どこだか見当がつくでしょうか?
正解は「南極」です。
雪と氷に閉ざされた世界にはペンギンなどの動物が住んでいることはよく知られています。
しかし、もしかしたらそれは南極のごく表面だけの話で、その奥深くにはまったく未知の生物たちがうごめく世界が広がっているかもしれない……
私も本作を読んでそういう言葉があることを知ったのですが「極限環境生物」という言葉があるらしいですね。試しにネット検索してみますと、大学や学会に「極限環境生物学」として認められていたりWikipediaも存在していました。
極限環境生物というのは、読んで字のごとく、普通なら人や生物が暮らせるような環境ではないところに生息している生き物ということですね。例えば80度以上の高温下や高濃度酸性環境でも生きられる細菌がいるそうです。
どうやら地球上では最近レベルのごく小さな生物しか発見されていないようなんですが、それでも普通の生き物が即死するような環境で生きていられる生物がいるというのは驚きです。
そしてこの極限環境生物の世界が、南極という閉ざされた過酷な土地に、もし思いがけない「発展」を見せていたとしたら……?
ジェームズ・ロリンズはその着想から一つの世界をマルっと、本作で創作してくれました。
奇怪な生き物をいろいろと創作してみせたことで有名な作家にラヴクラフトという人がいますが、個人的にはジェームズ・ロリンズに軍配をあげたい!
生物たちの造形、生態、感情……小説だけど頭の中で架空の生き物がリアルに動き出すように表現されており、「そんな生き物がいてもおかしくなさそう」と思わせてくれました。
極限環境生物が全貌を見せるのはお話も後半ですが、その登場を楽しみに読んでみてほしいなと思います。
いやあ、探しに行きたい……ような、ちょっと怖いような^^;
3.簡単なあらすじ
簡単なあらすじをご紹介する前に、『ダーウィンの警告』の科学と歴史のテーマに触れておきましょう。
まずは科学から。今回のテーマは「大絶滅」です。
過去に恐竜の大全滅があったように、地球環境の激変により地球上の生命が激減するという出来事は繰り返されているそうです。
そして驚きなのは、実は今、現在進行形で「第6の絶滅」が起きていると考えている研究者もいるんだそうです。なんと、一時間に3~4種のペースで絶滅していっている計算になるんだとか。
では、恐竜を絶滅させたのは大隕石の落下と言われていますが、現在の絶滅を引き起こしている原因はなんなのでしょうか……?
いろいろな原因が考えられると思いますが、本書ではあり得る答えの中の一つが登場します。人間が地球の覇権を「彼ら」に譲る日が来ないことを祈ります。
次に歴史から。今回のテーマは「ダーウィン」です。
『種の起源』という著書で有名ですね。そのダーウィンが若き青年だったころ、南アメリカ大陸を訪れる大冒険をしていたことはご存知でしょうか? 私は本書を読むまで知りませんでした^^; てっきりインドア派かと思ってました。
ダーウィンが南アメリカ大陸やその他の地で何を見て、何を感じたのか、『ビーグル号航海記』という著書にまとめてあります。検索してみると電子書籍であれば日本語版がありそうでした、興味のある方はぜひ。
ダーウィンが航海にでたのは1800年代前半のこと。航海術や船の装備なども今と比べれば貧弱で、本当に大冒険だったことでしょう。本書ではダーウィンの大冒険の幅をさらに広げて「もしかしたら足を(船を?)のばしたかもしれないとある場所」に彼が訪れていたとしたら……という「もしも」からお話が広がっています。
訪れていたとしたら? そしてそこで「何か」に出会っていたとしたら……?
ダーウィンは「何か」について記録を残すことは、きっとなかったことでしょう。人類の平和のために。
さて、それではここからは簡単なあらすじのご紹介です。
カリフォルニアにある研究施設が自爆した。施設から漏れ出したのは猛毒のガス。
近くにいたパークレンジャーのジェナは状況の確認のために施設の付近にいたが、そこを謎の男たちに急襲される。どうやら施設は自爆する前、男たちの襲撃を受け、やむなく自爆したらしい。
男たちの目的は、施設で研究されていた「とあるもの」を流出させること。
シグマは何が研究されていたのか、調査に乗り出す。
現地に乗り込んだのは結婚式を間近に控えたペインターとリサ。
自爆した施設を中心に、猛毒ガスにより動植物は死に絶えていた。しかし、変化はそれだけではなかった。死骸や土壌が黒く変色してしまっていたのだ。
変色の原因はなんなのか?
ペインターとリサは、じわじわと拡大を続ける変色現象に立ち向かうことになる。
一方、グレイたちは研究施設の所長の残したデータベースからヒントを得ようとワシントンで分析を急ぐ。
導き出されたキーワードは「極限環境生物」と「南極大陸」。
真実を求めてグレイたちは南極大陸へと飛ぶ。
しかしそこで待ち受けていたのは謎ばかりではなかった。正体不明の襲撃者たちもグレイたちをせん滅しようと待ち受けていた……
いかがでしたでしょうか?
シリーズの中でも恋愛要素薄目でそう言う意味では「読まなくても大丈夫」な回ではあります。
しかし、作者の創造した極限の別世界は本当に衝撃的でした。ぜひ手に取って私の味わった衝撃を感じてみてほしいなと思います。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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