あの名コンビ、再び!『シグマフォース』外伝も安定の面白さ『黙示録の種子』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら
黙示録の種子 ジェームズ・ロリンズ 竹書房文庫
殺しの訓練を受けた科学者たちの世界を救う戦いをえがいた『シグマフォース』シリーズの外伝です。
主人公になるのはシリーズ本編の第7作目『ギルドの系譜』に登場したタッカーとケインの1人と1匹のコンビです。『ギルドの系譜』でも軍用犬とそのハンドラーとして息の合ったコンビネーションを見せてくれた2人(あえてそう言う)が本作は主役として大活躍しています。
『シグマフォース』シリーズの外伝ではありますが、シリーズ本編に負けないぐらい「歴史」×「科学」のテーマを含んだ内容になっていますし、もちろんアクションシーンも満載です。
タッカーとケインのコンビが気に入っていた方はもちろん、『シグマフォース』シリーズがお好きな方にはおススメできる内容です。
それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。
1.タッカー&ケインの紹介
まず、タッカーとケインのコンビを知らないという方に簡単にご紹介しておきましょう。
タッカーとケインは元々アメリカ陸軍レンジャー部隊の隊員です。タッカーはケインを軍用犬として訓練し育て上げ、任務を共にこなして活躍していました。ところが、任務遂行中の不幸な出来事により大きな心の傷を負った2人は、無断で部隊を抜け出し、それ以降は世界中を気ままに転々としながらフリーの傭兵のようにボディガードなどの仕事を請け負って暮らしています。このコンビは大変優秀で、シグマでも大統領の娘誘拐事件(『ギルドの系譜』)という大事件に2人を臨時で雇い入れています。
事件終了後、シグマの司令官であるペインターはタッカーとケインをシグマの正式な隊員として迎え入れようとしますが、気ままな生活を好む2人はそのまま姿を消します。しかし、常に人員不足に悩むペインターがこの2人をそのまま放っておくはずもなく……しっかりと行方を追跡していたことが本作で判明します。本作の舞台は極寒の地・ロシア。そこでとある人物の亡命を支援するのが今回のシグマの任務なのですが、動かせる隊員が誰もいない……そこにちょうど都合よく、ロシアに滞在していたのがタッカーとケインだったのです。
タッカーはぶつくさと文句を言いながらもシグマの依頼を受けるのですが、この任務が簡単にはいきません。アクションあり、謎解きありの波乱万丈な任務の様子が本作では語られています。
本作の筋も十分面白いのですが、なんといっても、ケインの可愛らしさとカッコよさはこの外伝ならではの要素です!
ケインはマリノアという犬種で、検索すると見た目はシェパードです。頭が良く主人にも忠実で、昔から牧羊犬などで人間と共に暮らし仕事をしていた犬種だそうです。見た目がシェパードなので、そのカッコよさはぱっと思い浮かんだ通りです。ケインはタッカーによってよく訓練されているので様々なアクションを颯爽とこなしますし、触られ方や手の合図によって命令を理解します。人間の言葉も1000語以上覚えていますし、さらにちょっとした文法も理解できるというからおどろきです。人間の赤ちゃんが言葉の話始めで話す「お茶、とって」のような2語文、3語文くらいは処理できるようです。賢い!
そんな賢くてカッコいいケインですが、任務遂行中以外の時、休んでいる時や食事中は普通のワンちゃんです。タッカーのそばに寄り添い、可愛らしい姿を披露しています。ケインは人間の表情や心を読み取ることも非常に上手なようで、タッカーが思い悩んだりしていると「どうしたの?」といわんばかりの目線で心配する気持ちを伝えてきたり、タッカーが女性のことを考えていると「やれやれ」と呆れたような顔をしたりするんです。タッカーは人間嫌いの設定ですが、こんな感情豊かで自分のことを気遣ってくれるケインがそばにいたら「人間いらない」って気持ちもわかります(笑)
また、作者さんはケインを人間と同じくらい重要な登場人物として考えているようで、物語の随所に「ケインの視点」の文章が見られます。タッカーの命令に機敏に反応する姿、タッカーの身に危険が迫っていると敏感に察知する様子が、ケインの視点で表現されているのも本作の特徴です。「ああ、犬ってこんなふうに世界を感じ取ってるんだ……」というのはさすがに作者さんの想像力で補っている部分ではありますが^^;、本当にこんなふうに考えているのかもしれないな、と臨場感たっぷりに表現されています。
ケインみたいな犬がそばにいてくれたらなあ。
私は犬より猫派なんですが、それでも本作を読むとケインの魅力にそう思わされました。
タッカーとケインの息の合ったコンビネーションは本作の面白さの一つ、他の作品にはあまりない要素なのでぜひ体験してみてほしいです。
2.孤軍奮闘記
ケインという頼もしい相棒がいるタッカー。ですが、ケインがいくら賢く頼もしいとしても犬です。そこには限界があります。
本作ではタッカーはシグマからの依頼を受けて任務につくのですが、現場に他のシグマの隊員が出てくることはありません。電話で後方支援してくれる人材がいるだけで現場での活動はすべてタッカー任せ。いくらタッカーが優秀とはいえ、正式な隊員でないタッカーに任せすぎじゃないのか、シグマ。
タッカーが請け負うのは要人の亡命支援というボディガードにも似た任務ですが、この要人というのも二癖も三癖もあるおじさんで、タッカーの手を焼かせます。
亡命するにあたっては1人じゃ嫌だと言い張り、連れていく人間はド素人丸出しの研究者。さらに肝心の亡命する本人は最後のロシア生活を満喫しようと人混みの中で遊んでる始末。そこに襲い掛かってくるのはプロ中のプロ。ロシアの大地が生んだ屈強な軍人たちと戦いながら、同じくロシアの大地が生んだユーモラスなおじさんたちを守らなければならないタッカー。なんだか気の毒を通り越して少し滑稽です。
両手に荷物を抱えるどころではない負担を持つことになったタッカーですが、そこに情報漏洩疑惑まで絡んできます。どうやら同行者の中か、あるいはシグマの中にタッカーたちの情報を流して回っているスパイがいるらしいのです。「スパイは一体誰なのか?」タッカーは前半、この疑心暗鬼との戦いに苦戦を強いられます。
本作はタッカーがありとあらゆる疑惑や困難に一人で対応しなければならない、孤軍奮闘記でもあるわけです。
……こう考えてみると、絶対にタッカーを裏切ることのないケインだけが相棒の任務で正解だったのかもしれませんね。少なくとも、ケインだけは信じていろいろ任せられるわけですから、人間相手だとこうはいかない。
3.もはやお約束? 女難の相が出てる主人公
工作員やスパイを主人公にした映画(『007』とか『ミッションインポッシブル』)だと主人公が小悪魔的で魅力的な女性にモテたり振り回されたりするのもお約束の一つですよね。
『シグマフォース』シリーズ本編でも主人公のグレイが恋愛面で悩む様子をシリーズ通してえがき続けています。
そして外伝の本作も例外ではなく、タッカーは女難の相がでてるんじゃないかってくらい、複数の女性に振り回されています。
スウェーデン美人や知的なロシア美人など、魅力的な女性が登場してきます。彼女たちが味方なのか、それとも敵なのか……そういった駆け引きも本作では楽しめます。
加えてご紹介しておきたいのがルース・ハーパーという女性です。
この人はシグマフォースに所属する隊員で、司令官の命令によりタッカーの後方支援要員として任務に参加しています。ルースはタッカーが必要とする宿、武器、移動手段などの確保や情報収集・整理をしてタッカーの任務を支えており、本作のヒロインの一人と言っていいでしょう。
しかし、ルースは本編のほとんどをシグマ本部で過ごしています。タッカーとルースの連絡手段は電話のみ。つまり、タッカーとルースは顔を合わせないままお話は進んでいくのです。
「顔のないヒロイン」。奇妙な言葉ですが、ルースの立場はこの表現がぴったりです。電話だけでヒロインらし魅力が伝わってくるのか……? と思われた方もいらっしゃるでしょう。大丈夫です。タッカーの妄想が補ってくれます。
ルースの声を聞いて「黒髪かな? 眼鏡をかけているかもな」など、タッカーは自分の想像をめぐらせて行きます。声だけなのに(笑) 彼女と連絡をとるたびにタッカーは自分の想像が合っているのか、会話を楽しんでいます。
タッカーのルースへの第一印象(声のみ)は「好きな声」です。タッカーは人間嫌いな割に、女性は好きらしいんですよね(笑)
タッカーの妄想が合っているのかどうか、それは最後まで読むと判明します。
一緒に想像をめぐらせてみると面白いかもしれません。ちなみに、ルースがタッカーのことをどう思っていたのかも同時に判明しますよ。お楽しみに。
4.おおまかなあらすじ
最後におおまかなあらすじをご紹介しておきましょう。
その前に本作で登場する歴史と科学のテーマをご紹介しておきましょう。
歴史の事実として登場するのはボーア戦争です。本作でとりあげられているのは第二次ボーア戦争の方で、南アフリカ諸国が植民地宗主国であるイギリスを相手にした独立戦争です。本作の中では優秀な将軍がボーア人兵士を率いてゲリラ戦を展開している様子が克明に描写されていますが、それは史実に基づいているとのことです。
そして、将軍と兵士たちがたてこもることになった洞窟内で発見された「あるもの」が科学テーマに関わってきます。「それ」は伝染病のように兵士たちの間にあっという間に広がり、次々と命を奪っていきます。それの正体がいったい何なのか? お話は未知の病原体といった話にとどまらずに「生命の起源」にまで及びます。壮大なテーマに少しワクっときませんか? これこそが『シグマフォース』シリーズの面白さです!
それでは、ここから本編のあらすじを簡単にご紹介します。
タッカーはロシアで大富豪のボディガードをしていた。その任務の後、以前に雇われたことのあるシグマフォースの司令官・ペインターからとある依頼が舞い込む。
「とあるロシア人の亡命を助けてほしい」
そのロシア人とは、ロシア製薬業界のスティーブ・ジョブズと例えられる超大物であった。
彼が亡命を希望する理由が「アルザマス16の将軍たちに追われている」というもの。「アルザマス16」とはロシア版ロスアラモスのような場所で、そこでは核兵器などの軍事的・科学的開発が行われていたと噂されるきな臭い場所だった。
タッカーは依頼を受けることにして、すぐに亡命希望者との待ち合わせ場所へと移動する。しかし、タッカーはすぐに追手が放たれていることに気が付いた。
この作戦、どこかで情報がもれている……
タッカーは何を、誰を信じたらいいかわからないまま、相棒のケインとロシアの極寒の地で戦いを繰り広げることになるのである。
いかがでしたでしょうか?
『シグマフォース』シリーズ本編にも負けないアクションと「歴史」×「科学」のテーマ、そして主人公コンビの魅力!
シリーズ本編が好きな方にも、本編未読で試しに読んでみたい方にも、ぜひ手に取ってみてほしい作品です。面白さは保証しますので、ぜひ!
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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