小説で読む人類とウイルスの意外な関係『ウイルスの暗躍』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら
ウイルスの暗躍 ジェームズ・ロリンズ 竹書房文庫
殺しの訓練を積んだ科学者たちがスパイとして活躍するシグマフォースシリーズの第15作目です。
今回の作品はタイトルからして「ドキッ」とした方も多いのではないでしょうか?
本作が出版された時期は新型コロナウイルスが世界を覆い、パンデミックの恐怖を世界中が実感していました。そんな中、本書の中でえがかれるのは「未知のウイルス」が発見され、拡大しつつある危機を回避できるのか、というものです。
作者さんも「出版すべきか悩んだ」と冒頭に正直に吐露されています。
しかし『シグマフォース』シリーズで表現されるのは、単にウイルスの恐怖だけではありません。ウイルスがどんなもので、どういう進化を辿ってきて、そして私たち人類にも遺伝子レベルで深すぎる関係を持っていることがしっかりと記述されています。
ウイルスを恐れるだけでなく、知識を持とう。
そんな思いで出版に踏み切られた作品です。
エンタメ小説としての面白さも相変わらずレベルが高く、時節柄というだけの理由で「お蔵入りしなくてよかった…」としみじみ感じました。
コワルスキやタッカー&ケインのシリーズお馴染みのキャラクターにも大きな動きのある作品でもあります、ぜひ手に取ってみてほしいですね。
それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。
1.コワルスキファンに朗報
みんな大好きコワルスキ。
……かどうかはわかりませんが、少なくとも私は大好きです、コワルスキ。
前作ではトンデモナイ、本当にトンデモナイ目にあってしまいました。
あまり言うとネタバレになってしまうので避けますが、簡単に言うと前作でコワルスキは前巻の任務中のとある出来事により、命にかかわるピンチな状況に陥ってしまいました。
いや、命に係わるピンチは『シグマフォース』シリーズでは毎度(むしろ毎ページ)のことなのですが、コワルスキの直面したのは一瞬の命のやり取りのピンチではなく、生きている限りずっと続くようなピンチ、という意味ですね。
正直、元気に動く姿をみることはもうないかもしれない……と悲しく思っていたのですが。
本作ではまだまだ元気な姿を見せてくれました!
いやあ、タフですね、コワルスキ、さすがです。
しかし、彼のおかれている状況が好転したわけではなく、ただでさえ激しいアクションが求められる任務の上に、今回は未知のウイルスがうよついている環境に突っ込んでいくっていうのだから心配しかありませんーー;
しかし、危険をおかしただけの甲斐があったかもしれません……!
絶望的にも思われていたコワルスキの状況が、本作の終わりには少し改善の兆しを見せています!
そこに至るまでの過程で、今回もコワルスキは再びトンデモナイ経験をする羽目になるのですが(ただし、前作とは違い、本作のトンデモナさは少し笑ってしまった)、まあ、彼にとっては良かったでしょう(主観的にはどうかわかりませんが)
グレイたちが青ざめている中、一人しょうもない軽口で場を和ませてくれる安定感(鈍い?)と、わかりやすい豪快さを持ったコワルスキ。まだまだ、シリーズの中で長く活躍してほしいキャラクターです。
2.タッカー&ケインの近況と悲報
今作では『シグマフォース』シリーズでもおなじみになってきたタッカー&ケインも再登場します。
軍用犬のケインとそのハンドラーであるタッカーは、毎回のレギュラーキャラというわけではないですが、『ウイルスの暗躍』と同時発売された『セドナの幻日』でも中編のスピンオフ作品で主役として活躍するなど、人気が高いコンビです。
本作でも1人と1匹が任務中に大活躍! このコンビがいなかったらシグマは任務失敗していたことでしょう。
私は特にケインの方が好きで、任務についていない時はコワルスキにじゃれついたり美味しそうなお肉のにおいに気を取られたりと普通の可愛いワンちゃんなのに、任務になると敵地にこっそり潜入するのはお手の物、安全確保に敵の撃退にと人間以上に賢く勇猛に躍動する、そのギャップにメロメロです。
だからこそ、本作のなかで起こる事件には衝撃を受けました。
一応、本文中にもフラグがあらかじめたてられてはいたのです。何かが起こるぞ、と。
何が起きてしまうのかとハラハラしながら読み進め、いざそのシーンが来たときはもう泣きそうでした。
ケインの元に走るタッカーの悲痛さ。その気持ちを十分に理解しながらも自分の本分を貫こうとするケインの健気さ……
シグマは危険な任務ばかりなのでこれまでも殉職者がでたり、『チンギスの陵墓』で起きた悲劇のように、読む手が止まる衝撃はこれまでもありましたが、今回は大好きなキャラクターが当事者だっただけに、かなりくるものがありました。
タッカーとケインの身に具体的に何が起こったのか、その結果どうなったのかはぜひ作品を手に取ってみてください。
ネタバレにならない範囲で私の感想を述べておきますと、「救いは感じる」です。
3.簡単なあらすじ
本作の簡単なあらすじの前に、今回クローズアップされた科学と歴史のテーマについてご紹介しておきましょう。
まずは科学から、今回は「ウイルス」がテーマです。
ウイルスは病気を引き起こす元凶として知られていますが、これだけ科学が進歩した現代でも実はわかっていないことも多いのだそうです。
どんな生態なのかはいまだにはっきりとはわからず、人類が未接触・未発見のウイルスの数は何兆のレベルであると推測されています。
さらに、ウイルスは実は私たちの進化にも大いに影響を与えている存在なのだとか。
例えば、私たちが先祖から受け継ぎ子孫へと引き継いでいる遺伝子・DNA。この中にウイルスが起源と思われる箇所が相当数(何十%という単位で)含まれていると言われたら……驚愕ではないでしょうか。
本作では不思議なウイルスの一面について詳述されています。
お次は歴史のテーマです。
今回の物語の舞台はアフリカ大陸の中央に位置するコンゴです。この地で歴史的に起きていた虐殺の悲劇がとりあげられます。そして悲劇は決して今も過去のものではないということも、本書を読めば明らかになるでしょう。
コンゴを訪れた外部の人間の多くは惨劇をもたらしましたが、中には善意をもたらした人物もいたようです。その筆頭が今回クローズアップされているウィリアム・シェパードという一人の宣教師の存在です。
キリスト教の布教にアフリカ大陸を訪れたシェパードですが、その布教自体は失敗に終わったようです。しかし彼は現地の人々と交流し、探検家としても名を馳せています。
ウィリアム・シェパードが冒険の中、もしかしたら発見したかもしれない「どこか」にある「何か」が、今回のお話のキーポイントになってきます。
それでは、ここから簡単なあらすじの紹介です。
コンゴのとある野外診療所では、奇妙な症状を示す患者が出始めていた。その症状は外部の刺激になんの反応も起こさず、傾眠傾向に陥ってしまうというもの。
相当の激痛を与えても無反応なのだから尋常ではない。
現地で働く医師たちの情報を受けたシグマは、たまたま近くにいたタッカーとケビンのコンビにいち早く現場へ駆けつけるよう依頼する。
しかし、彼らが駆け付ける前に何者かが野外診療所を急襲し、患者と医者たちを殺害あるいは拉致しようとうごめいていた。
一方、コンゴへと派遣されたグレイたちは診療所で発見された未知のウイルスについて調査を開始する。
果たして未知のウイルスはどこが感染源なのか?
ウイルスの出所に治療薬の存在の可能性を感じたグレイたちは、コンゴのジャングルの奥深くへと潜入を開始するのだが……そこに待ち受けていたのはウイルスの影響を受けた大自然だった。
ウイルスに感染し凶暴化した動物たち。彼らは容赦なくグレイたちを排除しようと襲ってくる。
しかし、徐々に風にのって感染を広めつつあるウイルスに対抗するため、グレイたちは命がけでジャングルの中を突き進んでいく……
いかがでしたでしょうか?
ウイルスの不思議に驚き、コンゴの歴史に胸が痛み、アクションと人間(と犬)ドラマに興奮しと、相変わらず『シグマフォース』シリーズは魅力的です!
特にコワルスキとタッカー&ケイン好きは次巻以降に持ち越された伏線がありますので、見逃せません。
ぜひ手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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