恋愛も、ギルドとの戦いもここから加速します!(ケルトの封印)読書感想

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今回ご紹介する本はこちら↓

ケルトの封印  ジェームズ・ロリンズ  竹書房文庫

シグマフォースシリーズの第5作目です。「歴史 × 科学 × 謎解き」をコンセプトにアクション満載で手に汗握る展開が続くシリーズですが、今回は別の意味でも心拍数が上がる内容になっています。

本作の表向きのテーマは、タイトルにもある通り、北欧で栄えたケルト文明に絡む謎になるのですが、裏テーマは恋です。

1作目から始まりの予感はしていた、主人公グレイをめぐる、レイチェルとセイチャンというダブルヒロインの三角関係が繰り広げられます。と言っても、少女漫画にあるような、恋の火花がバチバチ飛ぶような話ではありませんので、苦手な方もご安心ください。3人とも20代の大人で、職業がスパイと軍人という感情コントロールが必要な職業ですからね^^; 本作で書かれる恋愛模様は、切ない系です……

そして、本作から、シグマの宿敵・ギルドとの戦いが本格化します。本作とその後に続く2作は「ギルド3部作」と公式にも位置づけられています

シリーズ作品を読む上での醍醐味、人間関係の変化が一気に動く作品になっていますので、現在長編だけで15作もあるシグマフォースシリーズの中でも、必読の作品になっています!

それでは、ご紹介していきましょう。

1.グレイと結ばれるのはどっちの女性?

シリーズの主人公であるグレイ。おそらく女性ファンが最も多いのはこの人だと思われるのですが(私のTwitterでもファンだという方をお見掛けしました)これまで恋愛では、いいことなしの状況が続いていました。モテないわけでもないのに3作目から本作開始時点で彼女ナシ……周りの同僚や上司がパートナーに恵まれる中、独り身で放っておかれたグレイに本作でやっと恋愛面での動きが出てきました

シリーズ1作目以来の、レイチェルとセイチャンのダブルヒロインが登場する本作では、グレイをめぐる三角関係の模様が全編を通して書かれています

三角関係と言っても、3人とも20代の大人で、職業もスパイと軍人なので、情をむき出しにして、いがみ合いやつかみ合いに発展することはありません。むしろ感情を抑えた、切ない恋模様として書かれています

グレイがどちらの女性と結ばれるのか?

読みながら、本編よりも先行きが気になってしまうほど、誤解を恐れず言うならば「萌え」させてくれました。

まずは、本作開始時点での、3人の関係を少しまとめておきましょう。

グレイとレイチェルは以前、超遠距離恋愛をしていましたが、恋人としての関係は完全に終了しています。しかし心の中では互いに好意がまだくすぶっています。嫌いになって別れたわけじゃないですからね。

一方、セイチャンに対しては、グレイにとってはまだ敵か味方かはっきりしない、という疑いを抱く一方で、どうしても惹かれてしまうところがあるようです。セイチャン自身も、グレイと結ばれることはないと理性で判断はしていますが、彼に好意をもっていることは明白な状態です。

うーん、なんだか、絶妙なバランスを保っているやじろべえみたいで、「どちらに転んでもおかしくない!」そんなところから始まっています。

そして物語は、序盤から、グレイは両方の女性と行動をともにすることになります。行動を共にすると言っても、楽しい旅行などではもちろんなく、全員仕事や任務のためという殺伐とした理由ではあります^^;

そうは言っても、人間ですから、機械のように淡々と行動できるはずもなく、3人の微妙な感情の揺れ動きが、要所要所で書き込まれていきます。

セイチャンは国際指名手配を受けている身なので、グレイは行動を共にすることになった時点でシグマへ報告すべきなのですが、それをしません。グレイにも、なぜ報告しなかったか、自分の感情を読み切れないようでしたが、セイチャンへの好意がそこに潜んでいることが明らかです。

そしてレイチェルが、グレイとセイチャンの微妙な関係に気づかないわけもなく、あっさりと2人の間に感情の揺れを見抜いています。

セイチャンはセイチャンで、グレイとの過去を振り返って物思いにふけったりしているし……と三者三様にお互いのことを意識しまくっています。

ここだけ切り出してみると、恋愛小説の紹介みたいですね。それくらい、ベタベタな展開が盛り込まれています。

ただ、ここからがこのシリーズの面白いところで、ただ切ないだけの三角関係で終わらせず、メインストーリーであるグレイの任務遂行と恋模様が密接に絡み合って進んでいきます。

セイチャンは、3作目の『ユダの覚醒』で、ギルドという敵組織に属しながらも、グレイの味方なのかもしれないと仄めかされていました。セイチャンは敵なのか、味方なのか。グレイもまだ判断を決めかねていますが、作者はそんな彼女の立場をうまく利用して、「セイチャンはやはり敵なのでは!?」という大きな事件を起こします

この事件はメインストーリーである謎解きにも大いに影響を与えますし、恋愛模様にも波風をたてまくることになります。この大事件のせいで、セイチャンとグレイの心は離れ、逆にレイチェルとグレイの距離は縮まっていく……

「このままレイチェルと復活愛になるのか!?」という展開を、セイチャンの視点で語らせたりするので、彼女の切ない心情に、キュンキュンさせられてしまいます。

しかし、そのまま素直にレイチェルとくっつくのかと思いきや、まだまだ、ドンデン返しが残されていました。

後半のクライマックスシーンでは、ハリウッド映画のような「愛の試練」が用意されており、2人のヒロインは、真逆の行動をとることに……それが果たして今後の恋愛模様にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

本作のラストは、グレイはどちらかの女性と付き合いだしたのかも!?という非常に意味深なシーンで終わっているのですが……実は、この三角関係、本作では決着がつきません!

「マジか!?」と思われた方、私も同じでした^^;

主人公が幸せをつかむまでは、かなりシリーズを先まで読まないといけません。グレイの相棒のモンクなんて第2子ができたって言ってるのに……コワルスキにも一応ガールフレンドができたことになっているのに……

しかし、もどかしい人間関係の変化は、シリーズものならではの楽しみですよね。

グレイの恋愛面は、次作以降も要チェックです。

2.ギルドに喧嘩を売ったシグマ

本作では、シグマの宿敵であるテロ組織、ギルドとの戦いが本格化します。

本作でギルドは幹部も投入し、本腰を入れた作戦を展開しています。それを迎え撃ったのがシグマ、というわけです。結果、ギルドにとってみれば人も金も投入したのに面白い結果にならなかったであろうことは想像がつくかと思います。

これまでも、ギルドにとってみればシグマは目の上のたんコブぐらいの存在。それが「絶対潰してやるからな!」くらいの対象に格上げになったことでしょう。

シグマフォースもギルドを叩き潰したい思いは同じです。しかし、シグマが掴んでいるギルドの情報は、世界中に工作員を配置した大規模な組織網を持っていること、金と武力と権力の臭いに敏感くらいのことぐらいでした。圧倒的に情報が不足していたんです。

謎に包まれたギルドという組織、それが本作ですこーしだけ、その秘密が垣間見えました

キーワードは「エシェロン」です。

この「エシェロン」という言葉、英和辞典で調べてみると「(命令系統などの)階層」という意味らしいです。

ギルドでは「エシェロン」は役職名として使用されているようです。「エシェロン」の名のもとに、各地に散らばる工作員に命令をくだし、場合によっては役立たずのレッテルと共に死の制裁を与える怖い存在として本作に登場してきます。

そして、「エシェロン」に属する人間には意味深なシンボルを持っていることもわかりました。コンパスと直角定規を組み合わせたフリーメイソンのシンボルによく似た、不思議な形をしたシンボルです。

フリーメイソンといえばダン・ブラウンの『ロバード・ラングドン』シリーズの『ロスト・シンボル』にも謎めいた組織として登場していました。

ギルドはフリーメイソンと何か関係があるのでしょうか?

博識なシグマのボス、ペインターですら見覚えがないと言っているシンボル。

このシンボルの謎は次作以降のお楽しみです。

3.おおまかなあらすじ

おおまかなあらすじをご紹介する前に、本書でとりあげられている歴史と科学のテーマについて触れておきましょう。

本書でピックアップされている歴史上の謎は、11世紀のイングランドで行われた大規模な土地調査に着想を得ています。時のイングランド国王が王国全土に対して行った土地調査は綿密かつ大規模だったにもかかわらず、なぜそのような調査が必要だったのかは、謎のままとなっています。

土地調査の結果は「ドゥームズデイブック」という直訳すれば「土地台帳」にまとめられています。中をのぞいてみると、いくつかの地方の調査結果はたった一言のみで記されています

「荒廃した」

赤のインクで記されており、不吉な印象を与えますが、「荒廃した」土地では何が起こっていたのか、現代には記録が残っていません。本書では「荒廃した」土地で起こっていたかもしれない災厄の正体を巡って、シグマとギルドが衝突を繰り返すことになります。

科学では遺伝子組み換え作物といった昨今よく耳にするようになった言葉と共に「世界種子貯蔵庫」という施設が登場します。戦争や地球温暖化などで作物が絶滅したときのために、世界中のありとあらゆる種子を冷凍保存してあるというこの施設、何と実在しています。現代版ノアの箱舟という異名も持つこの施設は物語の中でアクションの舞台となって登場しますよ。

実は、この記事を書いている2021年現在の世界の状況と、

それが「聖マラキ」の預言です。

聖マラキは12世紀のアイルランドの司祭ですが、

幻想の中で111番目までの未来の法王に関する知識を

得たと言われ、その預言が今日まで残っています。

その預言は2013年まで在位していたベネディクト16世まで、

不気味なまでに当たっているそうです。

さらに不穏なのが、ベネディクト16世が111番目の法王だということです。

聖マラキは、その後の法王の時代に、世界の終末が訪れるとして、

預言を終えています。

つまり、もしかしたら現在の法王の元、世界は終末を迎えつつあるのかもしれない、

ということです。

実は、この記事を書いている2021年現在の世界の状況と、

本書の内容は類似点があるんですよね……

偶然とはいえ、薄ら寒いものを感じながら読んでいました。

「荒廃した」土地が広がらないことを祈りましょう。

それでは、以下、本編のおおまかなあらすじです。

ヴァチカンで爆発事件が起こり、これまでもシグマに協力してきたヴィゴーが巻き込まれた。調査に乗り出したヴィゴーの姪・レイチェルは、現場で不思議なものを見つける。それはヴィゴーとともに爆発の犠牲となったマルコ神父が最後に遺したものだった。

レイチェルは元恋人でありシグマ隊員であるグレイに調査協力を依頼する。コワルスキと共にヴァチカンに飛んだグレイは、そこで思いがけない人物と再会することになる。

グレイたちはマルコ神父の遺した手がかりをもとに、イギリスの湖水地方へと向かう。そこははるか昔、「ドゥームズデイブック」により「荒廃した」と記されていた場所でもあった……

一方、シグマの司令官ペインターはマリで起きた難民キャンプ襲撃事件の捜査をしていた。難民キャンプでは国際企業ヴィアタスが遺伝子組み換えトウモロコシの試験栽培を行っていた。襲撃時に現場の研究員が試験栽培のデータを送信しており、シグマはそのデータを解析することにする。しかし、そのデータがさらなる悲劇を生んでしまうのである。


いかがでしたでしょうか?

長編だけで15作もあるシグマフォースシリーズですが、これはぜひ押さえておいてほしいという作品が『ケルトの封印』です。この後に続く2作は宿敵・ギルドとの戦いが激化しますので、おススメです。

さらに、ギルドとの戦いの中でセイチャンの微妙な立場が浮き彫りになり、グレイとの関係も切なさを募らせていくので、特に女性ファンには読んでほしいです!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。

シグマフォースシリーズの他の作品の記事はこちらからもどうぞ。

本作の一つ前の作品、シリーズ4作目『ロマの血脈』

本作の次の作品、シリーズ6作目『ジェファーソンの密約』

シリーズ最新作、シリーズ15作目『タルタロスの目覚め』

シリーズの前日譚『ウバールの悪魔』

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