三角関係の決着! そしてシリーズ最大の悲劇……『チンギスの陵墓』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

チンギスの陵墓  ジェームズ・ロリンズ  早川書房

殺しの訓練を積んだ科学者たちがスパイとして活躍するシグマフォースシリーズの第8作目です。

7作目の『ギルドの系譜』で主人公たちの天敵、ギルドとの死闘に決着がつき、本作から第2部開始!といった雰囲気です。

前作がシリーズ通してもクライマックスと言っていい盛り上がりだったので、本作は少し様子見か……?と思いきや、いきなりガンガン、いろんなことが起こりすぎてエンジン全開な内容でした。

本作の読みどころは以下の通りです。

  • ヒロインであり暗殺者、セイチャンの過去に迫る
  • 主人公をめぐる三角関係、決着!
  • シリーズ最大の悲劇、起きる……
  • 今回もコワルスキが登場してるよ!

最後の項目は完全に私の趣味です。シグマの壊し屋・コワルスキ大好きです。

シリーズの中でも、「この作品は抜かしちゃダメ!」という内容です。

それではあらすじや感想と共に、ご紹介していきましょう。


1.セイチャンのルーツを探る旅

まず、本作の前半の大部分を使って語られるのが、本作のヒロインの一人であり、超がつく凄腕の暗殺者でもあるセイチャンのルーツを探る旅です。

セイチャンは第1作目から登場し、これまでのほとんどの作品でレギュラーとして活躍しています。にもかかわらず、彼女の個人的なエピソードはほぼ皆無、謎多き美女としてこれまで作中でミステリアスな魅力をふりまいてきました。

そのセイチャンの謎多き過去のベールが、すこーしだけ明らかになったのが、7作目『ギルドの系譜』。そこで得た情報をもとに、シグマの隊員であるグレイとコワルスキがセイチャンのルーツを探る旅に同行している様子が、冒頭からえがかれています。

本作でセイチャンのルーツや過去が分かるのですが、それと共にわかるのが、これまでの彼女の言動から感じた違和感の理由です。

違和感といっては少し語弊がありそうです。言ってしまえば、彼女のギャップですね。

セイチャンは凄腕の暗殺者として訓練を積み、どんなピンチに陥ろうともわずかなチャンスを見逃さない冷静さと、敵と認識した相手には一切容赦せずに牙をむき出しにして襲い掛かる野生の獣のような強靭さをみせてきました。

これだけでもセイチャンの魅力は伝わるかと思うのですが、彼女の素敵なところは、冷徹な暗殺者でありながら、思いやりや優しさを垣間見せるところにあるんです。

老人、子ども、そして動物には優しい一面を見せることが多かった彼女。それがたとえ敵からの襲撃の最中だったり、作戦の足手まといになりそうな状況でも、彼女は出来る限り弱者を助けようという思いやりをみせてきました。

冷徹さと優しさ、正反対の面を併せ持つセイチャンですが、これまで判明していた彼女の経歴からすると、少し不思議に思っていたんです。

彼女は幼い時に両親と別れてストリートチルドレンとして生き抜き、その後、悪のテロ組織ギルドに拾われて暗殺術を叩きこまれ、たった一人で自分の身を守りながら生きてきた女性です。

厳しい生存競争を生き抜いてきた女性に、自分の生存がかかった状況でも他人に優しさを示せるものなのか? と不思議に思っていたのです。

しかし本作を読んで、彼女の優しさの源が分かったような気がします。

これまでもセイチャンの記憶にかすかに残る、母親らしき女性との別れのシーンがわずかに語られてきました。泣きながら我が子・セイチャンに向かって手を伸ばす母親らしき女性……この記憶が正しければ、セイチャンが母親からどのように育てられてきていたのか、なんとなく想像がつきます。本作でそれが裏付けられました。

自分が優しくされたことのない人間が他者に優しくすることは難しいかもしれませんが、逆のことも言えます。記憶には残っていなくとも、セイチャンの性格の中に過去は息づいていたのだな、と心温まるものがありました。

2.グレイをめぐる三角関係、決着

グレイの恋の行方問題もまた、1作目からずっと続いていたシリーズのお楽しみ要素(?)の一つです。

主人公グレイは、同僚や上司が次々に恋人や妻を得てプライベートでは幸せになっていくのに、ただ一人プライベートではロクな目にあっていませんでした。主人公なのに不憫だねえ……

とはいえ、主人公のグレイがモテないというわけではありません。グレイには恋人候補が2人、存在しています。

1人がセイチャン。彼女とは当初、敵として出会っていますので、2人の間には疑心暗鬼が長らく漂っていましたが、今は信頼とそれを超える絆が生まれつつあります。

もう1人がレイチェル。イタリアで軍人として働く美貌のキャリアウーマンで、グレイとは一時期恋人関係にありましたがその後破局。今もお互いに想いを残しているようですがアメリカとイタリアの遠距離はしんどい、というのは共通の認識のようです。

両女性とも、魅力的ではありますが彼女にするにはちょっとめんどくさそう……ではあります^^;

この3人、長らく三角関係を作っており、セイチャンとレイチェルの間にはそのせいで打ち解けられない壁のようなものが存在し、全然関係ないコワルスキにまで「お前ら中学生みたいだな」と突っ込まれる始末でした。(当のコワルスキはスマートにデートに誘うことも難しい癖に……)

この三角関係、本作で、8作目にしてやっと! 決着がつきます!

おめでとうグレイ!

作中、間違いなく一番カッコいいのに長らく大変だったね!!

どちらと結ばれたのかはぜひ読んで確かめてみてくださいね。とりあえず、どちらとくっつくにしろ、そう簡単に「結婚だ! 幸せいっぱいだ!」というわけにはいかない感じではあります。これからもグレイの恋愛関係はずーーっとネタにされ続けるので、ここで一区切りというところです。

3.シリーズ最大の悲劇、起きる

シグマフォースシリーズは正義の味方である主人公たちが悪の組織と戦うのがシリーズのお決まりです。その任務は危険で、しょっちゅう命を狙われますし、シリーズの中には最も安全であるべきシグマの本部まで襲撃を受けたこともあります。

任務の最中に命を落とした隊員もいました。とはいえ、言葉は悪いですが殉職した隊員はぽっと出のキャラクターで、読者としては思い入れがそこまでない人がほとんどでした。

しかし、本作では読者にとっても、おそらく作者にとっても、思い入れの深かったであろうキャラクターが亡くなっています

最初に本作を読んだ時は「ウソでしょ!?」と亡くなったシーンを二度見、三度見したくらいです。それくらい衝撃でした。大げさでなく、シリーズ最大の悲劇です。

もうこのシリーズには登場することはないのか……と思うと悲しかったです。しかし、せめてもの慰めというか、このシリーズならではの弔い方というのか、作者によるサービスが「エピローグ」で紹介されています。

悲しみのない人生はないけれど、悲しみに出会ったしまった時、何で慰めを得るでしょう?

宗教? 時間? 本作では、科学による慰めが披露されています。

私たちの住んでいる世界に対する根本的な問いが関係しています。内容は屁理屈ともとれますが、ちゃんと最新の科学の知見に基づくものです。

科学による慰めっていうところがいかにもシグマフォースシリーズらしい!

4.もはや定番化したコワルスキ

3作目に登場した時は、レギュラー化するとも、こんなに大好きになるとも思ってなかったコワルスキ。

気が付けば人気者になったようで、短編集では主役を飾っていたりします(『シグマフォース機密ファイル』参照)

彼の愛嬌あふれる魅力ならそれも当然……と思いますが、ここでコワルスキの登場パターンを考えてみると、毎回ほぼ固定していることがわかります。

コワルスキ、圧倒的にグレイ、そしてセイチャンとトリオを組まされることが多い!

グレイもセイチャンも凄腕のスパイなので、正直コワルスキはお荷物じゃない? セイチャンにいたってはコワルスキとの性格の相性はあまり良くなかった気がするけど……

しかし司令官であるペインター(その背後にいる作者)は「もうこれが定番!」と言わんばかりに、3人で任務に派遣します。

この理由を少し、私なりに考えてみたんですが、気づいたのは、「あ、これレンジャーものに例えるとわかりやすい!」ということです。

子どものころ、見ていた人も多いんじゃないでしょうか? 正義の戦隊もの、〇〇レンジャー!

通常5人、ないしは3人のメンバーで構成され、赤がリーダー、青が副リーダーと決まってるアレです。

何が言いたいか、分かった方もいらっしゃるでしょう、グレイ、セイチャン、コワルスキをレンジャーの色に当てはめると、きれいに収まります。

赤がグレイ、青がセイチャン、黄色がコワルスキ。黄色はコミカル担当でコワルスキにピッタリです。

こうやってみると、キャラクターの性格の相性が抜群にいい3人組だってことがよくわかると思います。そしてたぶん、お話を創るときにも便利そうです。

グレイが引っ張り、セイチャンが脇を固め、コワルスキが笑いを取ったり意外性を出す。すごくバランスがとれてます。そりゃ、何回もこのパターンでいきたくなるのも当然ですね。

本当のところは作者の頭の中を覗いてみない限りわかりませんが(笑)、他の作品にも隠れレンジャーが潜んでいるかもしれませんよ?

5.おおまかなあらすじ

あらすじをご紹介する前に、本作でとりあげられた科学と歴史、それぞれのテーマをご紹介しておきましょう。

まずは科学から……といっても、今回の科学テーマはかなり難しく、作中に登場する専門家の言っていることがちゃんと理解できる人は少数でしょう(ペインターも理解できているか、微妙だった)。

今回はダークエネルギー、宇宙に充満しているはずなのに、現代科学では検知することもできずその正体は長らく不明(本当に実在するのかも含めて)という不思議な物質がキーワードになります。

他にも量子力学、シュレディンガーの猫、超紐理論、マルチユニバース……と、いろいろと最新物理学の言葉が登場します。

一番面白いなと感じたのは目新しいバイオテクノロジーの世界ですね。シグマの新しい隊員、ダンカンが自身の身体に施しているとある技術が、とても珍しいです。人間の5感に手術により6感目を埋め込む感じの技術です。おそらく日本ではできないんじゃないかな……

身体をいじるのは怖いですが、少し体験してみたい気もする、そんな世界を知ることが出来ますよ。

そして歴史のテーマはアッティラ、そしてタイトルにもなっているチンギスも見逃せません。

チンギスは超有名人ですね。モンゴルから世界の半分を支配するに至った男です。しかし、彼のお墓は実は行方不明なのだとか。イメージではものすごく手厚く、ド派手に葬ってありそうですが……彼のお墓には世界中から集められた財宝が眠っている可能性があるそうです。探してみたい方はぜひ。

アッティラはご存知の方は少なそうですね。5世紀に生きた人でローマを陥落寸前まで追い込んだフン族の王様です。当時の法王レオ1世と会談し、軍隊を陥落寸前のローマから撤退させた謎の行動をとっています。その理由がなんだったのか? レオ1世が何かアッティラを脅迫するような材料をもっていたのではないか……?との説もありますが、その「何か」は現在までわかっていません。

それでは前置きが長くなりましたがおおまかなあらすじのご紹介です。

ペインターは軍事衛星の実験に参加していた。実験は失敗し、衛星は墜落してしまう。しかし、衛星が最後に送ってきた映像が問題視される。その映像ではアメリカ東海岸の主だった都市、ニューヨークやワシントンが炎上し廃墟と化していた。しかし、現時点においてニューヨークもワシントンも無事に存在している……映像を解析すると、驚きの事実が判明する。映像はなんと4日後の未来のものだというのだ。

また、イタリアではレイチェルとその叔父でありバチカンの神父兼スパイであるヴィゴーが不思議なものを手にしていた。それはヴィゴーの旧友から送られてきたもので、人間の頭蓋骨と、人間の皮を装丁に使用した本だった。ヴィゴーはそれらを詳しく観察し、地球の破滅を予告していることを知る。その期限は4日後に迫っていた。

奇妙な一致を見せた2つの予言。ペインターは調査の必要アリと判断し、グレイたち隊員を調査に派遣しようとする。

しかしグレイは、セイチャン、コワルスキとともにマカオにいた。セイチャンのルーツを探るため、情報を売りたいと申し出た人物と会うためだった。危険と隣り合わせの作戦とはわかっていたが、やはり交渉は順調にとはいかず、グレイたちは銃撃戦に巻き込まれてしまう。

破滅の期限が迫る中、グレイはセイチャンのルーツを探り当て、さらに無事地球を救うこともできるのだろうか……?


いかがでしたでしょうか?

シグマフォースシリーズが新展開を迎えるその第1作目。普通なら様子見になったり新設定を説明するのに中だるみすることが多いですが、そんなのは無縁の衝撃の連続でした。

シリーズの中でも必読の1冊です、ぜひ手に取ってみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださったありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

本文中にも登場しているシグマフォースシリーズ第1部完の『ギルドの系譜』の記事はこちらからどうぞ↓

コワルスキも登場する本作の1作前の短編集&ファンブック『シグマフォース機密ファイル』の記事はこちらからどうぞ↓

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