『四畳半神話大系』の面白おかしい世界、再び『四畳半タイムマシンブルース』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

四畳半タイムマシンブルース  森見登美彦  角川文庫

京都を舞台にした男子大学生ものを書かせたら天下一品!!

そんな評判を持つ森見登美彦先生ですが近年はお得意のパターンを封じた新しい作風の作品を発表されていましたそれはそれで面白いけれど、初期からのモリミーファンにはちと寂しい……

そう思っていたところに登場したのが今回ご紹介する『四畳半タイムマシンブルース』でした。

京都を舞台にした男子大学生が主人公の作品で、馬鹿々々しさと可愛らしさと少し不思議な雰囲気はモリミー作品大好き人間(=私)にとっては「ドストライク!!」の作品でした。

それでは、あらすじと感想をまじえながら、ご紹介していきましょう。

1.前作『四畳半神話大系』

『四畳半タイムマシンブルース』をご紹介する前に、別作品についてご紹介しておきましょう。

その作品とは同作者による『四畳半神話大系』という作品です。

タイトルを見てピンときた方もいらっしゃるでしょう。『四畳半タイムマシンブルース』は『四畳半神話大系』の続編にあたります。

『四畳半神話大系』は単行本が2004年に発売後、アニメ化もされたヒット作です。

主人公は京都の一部屋四畳半のボロアパートに間借りしながら大学に通う青年です。この青年が不毛な大学生活を振り返り、勉学にも邁進せず、サークル活動に燃えることもなく、さらに自分の横で微笑んでいるはずの黒髪の乙女すらもゲットできていないのはどういうわけか、と憤慨するところからお話は始まります。

その後、青年はしょうもない現状を打開すべく、くだらない試みを企んでは失敗したり、トンチンカンな努力をしては後悔の涙を流し……と、相変わらずしょうもない日常を続けながら、意中の相手である黒髪の乙女「明石さん」をゲットすべく奮闘する様子が面白おかしく描かれています。

総じてだらけた男子大学生の日常をえがいているわけですが、『四畳半神話大系』には森見登美彦さんによる「面白おかしく」「可愛らしく」「奇想天外摩訶不思議」な仕掛けが満載してあるのが楽しいんです。

……と、ここからかなり『四畳半神話大系』について語りだして長くなってしまったので、面倒な方は読み飛ばしてください^^; 肝心なのは『四畳半タイムマシンブルース』には『四畳半神話大系』という前作があり、登場人物はほぼ同じで作品の魅力も引き継いでいる、ということです。

「面白おかしく」

『四畳半神話大系』の魅力といえば、まず、主人公の周りにいる人物たちが超絶変人ばかりがあげられます。

見た目が妖怪のようで自称主人公の親友・小津青年。

主人公と同じアパートに住まう実はこの人も大学生?な仙人じみた樋口さん。

見た目は快活美人な歯科衛生士、しかし酔っ払うと舐め魔になる羽貫さん。

傲慢で俺様な映画サークルの主、しかし裏では人形を溺愛する青年の城ケ崎先輩。

一癖も二癖もある個性的なメンバーに囲まれた主人公の大学生活は、つねに事件が起きて波乱万丈です。はたから見ると「なかなか充実した大学生活ではないか」と言いたくなるのですが、主人公は「理想と違う!」とご不満そう。ご不満そうにしながらも愉快な仲間たちとわちゃわちゃし続ける姿が癖になります。

「可愛らしく」

『四畳半神話大系』にはキーアイテム「もちぐま」というのが登場します。名前の通りもちもちとした触り心地のぬいぐるみなのですが、これの持ち主がヒロイン・明石さんです。

明石さんは主人公と同じ大学に通う後輩という設定です。性格はクールで、週末の予定を聞こうものなら「なぜそんなことをあなたに教えなければならないの?」とばっさり切られます。ちょっと怖い。

しかしこの明石さんも可愛らしいところがあり、「もちぐま」というぬいぐるみを大事にしているんです。

クールな美女に可愛らしいぬいぐるみ、なんとも魅力的な組み合わせに思えます。

それに「もちぐま」というネーミングセンスもいい。いかにも手の中でもみくちゃにしたくなるような感触が想像できます。

いいな、もちぐま。

ところがこのもちぐま、作中でしょっちゅう行方不明になるんです。

その出所は神出鬼没で、主人公の部屋に突然現れたり、主人公が使うコインランドリーの中身とすれ変わっていたり……出たり消えたりを繰り返す不思議な存在です。

このもちぐまの存在も含めて3つ目の「奇想天外摩訶不思議」な作品の魅力に繋がります。

「奇想天外摩訶不思議」

『四畳半神話大系』は全4話の短編が収録されています。普通の短編集であれば、それぞれが独立したお話になっているか、時間経過や登場人物の視点を変えて繋がりあった連作のかたちをとっていることが多いと思います。

が、しかし『四畳半神話大系』はどちらも当てはまりません。

いえ、正確にはどちらにも当てはまるけど、どちらにもぴたりとは当てはまっていない、という言い方が正しいでしょう。

謎かけみたいなことを書いていますが決して言葉遊びをしているわけではありません。

『四畳半神話大系』に収録されている4話は、全て同じ出だしから始まる「パラレルワールド」となっているのです。

どういうことか。

どの短編集も主人公の青年が自分のくだらない(と本人は思い込んでいる)大学生活をぼやくところから始まります。そのぼやきの内容はほぼ一緒。そのため、読んでいるこっちは4回、ほぼ同じような文章を繰り返し読むことになります。

しかし、まったく同じかと言われればそうでもないのです。

現実の大学生活もそうですが、大学生活というのは自由度が高く勉学を勤しんでもいいし、サークル活動に明け暮れてもいいものです。そしてサークルは無数に新入生に群がって勧誘のビラを押し付けてくるものです。

主人公の青年は入学当初、輝かしい大学生活を夢見て4種類の過ごし方で悩みます。サークルに入ろうか、弟子求ムという怪しげなチラシに飛びついてみようか……などなど。

そう、4話の短編集は主人公が入学時にどんな大学生活をするかを決めてからその後、その決定を悔いているところから始まっているのです。

理想からかけ離れた大学生活をぼやいていることには変わりはないけれど、主人公の運命は入学当初の選択により微妙にずれている、そんな「パラレルワールド」世界が広がっているのが『四畳半神話大系』です。

4つのお話はどれも主人公が大学生活を強く悔やみ、これではいかんと一念発起した後のエピソードをえがいていますが、似たようなシーンが出てきたり、小津や明石さんといった同じ登場人物が出てきたりと、それぞれ独立した話でありながら密接に関係しあっています。

作者さんも、4つのお話のタイムテーブルを書きだし、どの話で起きたことが別のお話に影響を与えて……と頭をこねくり回して作品を作り上げたそうです。

前述した「もちぐま」の登場と消失もその一つです。一つの話で「もちぐま」が消えたタイミングで、別の話で「もちぐま」が登場する、など本当によく練られています。

こういったいたずらに近い仕掛けも『四畳半神話大系』の大きな魅力の一つでした。

『四畳半神話大系』は4つの短編集というよりは、4つのよく似たお話の集合体といった方が正確でしょう。それぞれのお話がどのような結末を迎えるのか、とても面白い作品なのでこちらも手に取って確かめてみてほしいなと思います。

2.簡単なあらすじ

前作『四畳半神話大系』の紹介が思った以上に長くなってしまいましたが、ここからが『四畳半タイムマシンブルース』のご紹介です。

まず、申し上げておきたいのが、『四畳半タイムマシンブルース』は『四畳半神話大系』の続編にあたりますが、その言葉の通り、続きのお話を書いているのかというと、違います。

主人公は同じ青年で、ぶつぶつ文句を言うところから始まっています。そう、お話は再び(五度?)自分の大学生活に大変不満足な状態からはじまっているのです。

『四畳半タイムマシンブルース』は『四畳半神話大系』の5つ目の「パラレルワールド」を書いた作品といったほうが、しっくりくる内容です。

さて、簡単なあらすじのご紹介にうつりましょう。

今回の主人公は何についてぶつぶつ文句を言っているかというと、「夏」に文句を言っています。

まあ、夏って暑いですよね。私は関東圏で10年以上夏を迎えていますが、最近の関東の夏は本当に暑い。実家のある日本海側に帰ってもやっぱり暑い。そして、京都はずっと前から「盆地の夏はやばい」といって、酷暑の町の代名詞でもありました。

とにかく暑い真夏に、それでも主人公はキラキラとした夏を過ごしたい!という欲求を捨てきれません。勉強もしたい、スポーツもしたい、遊びにも行きたい、できれば黒髪の乙女が隣にいてほしい! ……しかし現実は厳しい。勉強もスポーツも遊びもせず、当然黒髪の乙女もいない。

そんな不幸な主人公にさらなる悲劇が襲い掛かります。

クーラーの故障。

『四畳半神話大系』からのファンはむしろ驚かれると思うのですが、主人公が住んでいる下鴨幽水荘というボロアパートには、ちゃんとクーラーがついてたんですね! いつ崩れてもおかしくないはずなのに!

その辺のツッコミは置いておくとして、真夏のクーラーの故障は大問題です。しかし、正確に言えば故障したのはクーラーではなく、クーラーのリモコンだったのです。

だから主人公は同じアパートにすむ樋口さんや、ヒロインの明石さんの手を借りてリモコンをなんとか修理しようと奔走します。

しかし、いろいろ手を尽くしてもリモコンはピッともうんとも言ってくれない……

絶望が主人公たちを包んだ時、突然現れたのは「タイムマシン」でした。

……

読み違いじゃないですよ。タイムマシンです。ドラえもんでお馴染みの。

私も最初に読んだ時は「たいむましん?」と急な展開に驚きました。でもよく考えればタイトルにタイムマシンって入ってました。

ともかく、タイムマシンという急な要素はありますが、かといって作品の持つ世界観がぶっ壊れることなく、しっかりと面白おかしい世界に仕上がっていましたので、そこはご安心ください。

話を元に戻しますと、このタイムマシンが来たことで主人公たちは一計を案じます。

「壊れる前のリモコンを過去から取ってこればいいではないか!」

確かに、それで問題は解決できそうです。主人公たちは意気揚々と、少しおっかなびっくりしながらタイムマシンに乗り込み過去へと戻り……

と、すんなりことが進めばよかったのですが、そうはいかないのがお約束です。

3.壮大、かつ馬鹿々々しい

タイムマシンによりリモコン復活のチャンスを得た主人公たちが乗り込んだのは、リモコンが壊れるちょっと前の世界。そこには当然、過去の主人公もいれば、リモコン騒動や夏のバカ騒ぎに集まってきていたいつものメンバーが集っています。

明石さん、小津、樋口さん、羽貫さん、城ケ崎先輩。

少し過去の自分たちがいる中、リモコンをとってこようとするのですが、そこで問題が発生します。

もし、自分達が過去にやってきたことで過去が変わってしまったらどうなるんだろう……?

タイムトラベル物でよくある「タイムパラドックス」の問題ですね。

過去が変われば未来も変わる。世界の変化がどこまで影響を及ぼすのかは不明。もしかしたら最悪、宇宙が消滅して終わってしまうかもしれない……

急に壮大な話になってきました!

(たぶん)真面目な性格の主人公や明石さんは過去を変えないように「どうにかしなければ!」とつじつま合わせに頭を悩ませ焦ります。

しかし焦る真面目組とは正反対に、天真爛漫な性格をした羽貫さんや、そもそも悪ガキがそのまま大きくなったような小津、そして何を考えているかさっぱりわからない樋口さんはたとえ過去でも自由気ままに動きまわってしまいます

なんとかしてみんなを回収して過去が変わらないように現在に戻らなければいけない!

宇宙の消滅を回避するために主人公や明石さんは奔走することになるのです……が。

そのためにやっていることと言えば、なぜか銭湯に行ってシャンプー泥棒を捕まえようという話になったりするのです

なんとも馬鹿々々しい(笑)宇宙の消滅を防ぐためにやることが銭湯でひと汗流すことだとは(笑)

壮大な目的のわりに、やっていることがしょうもない日常の延長すぎて笑えます。

他にも「なんでそうなるんだ?」というハプニングが満載です。そもそも、主人公と明石さんだけの力で樋口さんたちを止められるなら、主人公の日々の悩みもとっくに解決しているはず。

タイムマシンがあろうがなかろうが、結局バカ騒ぎになるいつものメンバーに安心の微笑みがこぼれるお話でした。

4.パズルを解くように

「タイムパラドックス」といった小難しい話がでてきても安定の面白さの本作ですが、前作から受け継いでいるのは面白おかしさだけではありません。

出たり消えたりする神出鬼没だった「もちぐま」のように、今回もいくつかのアイテムの行方がお話の鍵になります。

まずはリモコン。そしてヴィダルサスーン(笑) ヴィダルサスーンは皆さんご存知、お高めのシャンプーですね。その持ち主が誰かはぜひ作品を読んでいただくとして(けっこう意外な人です)、これらのアイテムがどこで無くなり、それは何でなのか? パズルのように入り組んだ作りになっています。

他にもいるはずもないの出現する羽貫さんだったり、主人公が知らぬ間に誰かとお祭りに行く約束をしてしまっている明石さんだったりと、いくつもの「違和感」がいたずらっ子のしわざのようにいくつも見つかると思います。

たぶん、今回も作者さんはタイムテーブルを書き出して練り上げてくれたんじゃないかな……

タイムマシンという飛び道具を使って巧妙に仕掛けられたパズルを解く楽しさも味わえます。


いかがでしたでしょうか?

森見登美彦さんは私の大好きな作家さんで、特に『四畳半タイムマシンブルース』のような京都を舞台にした男子大学生ものは超大好物です。

ぜひ、手に取って面白おかしい世界観を感じてみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想などコメントに残していってくださいね。

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