過去一手強い謎なのに名探偵役不在!?『蝶の力学』読書感想
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蝶の力学 麻見和史 講談社文庫
推理力の鷹野・閃き力の塔子の刑事コンビが活躍する『警視庁殺人分析班』シリーズの7作目です。『石の繭』『水晶の鼓動』に続きドラマ化もされています。
シリーズは既に10冊を超えていますが、中でも本作がドラマ化に選ばれたのはなぜでしょうか? その理由は読んでいくうちにすぐにわかりました。
鷹野と塔子、息の合ったコンビにシリーズ開始以来最大のピンチが訪れます!
事件もね、面白いんですよ。殺人現場は意味深に飾られているし、犯人から警察にゲームを仕掛けてきたり……
でも一番ハラハラさせられたのは鷹野と塔子のコンビの行く末でした、仲が良かった2人なのに……
ヤキモキとさせられるのはシリーズ随一ではないでしょうか?
あらすじと感想をまじえながらご紹介していきたいと思います。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
今度の事件は東京都調布市から始まります。不動産会社の社長・天野が他殺体で発見されます。毎回、『警視庁殺人分析班』シリーズでは猟奇殺人を思わせる「装飾」が死体に施されていますが、今回は「花」。かききられた遺体の喉に、華道のように綺麗な青い花が活けられていたのでした……
捜査を担当するのは無敗イレブン、主人公・塔子が属する11係のメンバーです。
捜査初日の夜、捜査会議中に一通のメールが入ります。それは犯人からでした。このメールが捜査本部に激震を走らせます。
犯人は被害者の妻を誘拐し「早く見つけださないと死んでしまうぞ」と脅迫を仕掛けてきたのです。
一刻も早く第二の被害者を助け出さなければ……!
焦りと犯人に対する怒りで色めき立つ捜査本部。もちろん我らが塔子ちゃんもその一人なのです、が。
彼女の頼りになる相棒・鷹野の様子がどうもおかしいようです……
2.謎解きはシリーズ随一の手強さ
今回の事件もかなり猟奇的ですね、死体に花を活けるってすごい発想です。作者さんの頭の中はどうなっているんでしょうか???(笑)
とはいえ、これも毎回ですが死体の装飾にはそれ相応の意味があるのもパターンの一つです。お花にはどんな意味があるんでしょう?
他にも気になるのは第一の被害者・天野の妻をその場で殺さずに連れ去ったところでしょうか。連れ去ったわりに、早く助けないと死ぬぞなんて脅してくるあたり、支離滅裂なものを感じさせますが、これにもきっと意味がある……
こんなふうに一見不可解ですが、犯人側の理屈を読み解いていくのも本シリーズの面白さの一つですね。
そして今回の犯人は、今まで以上に手強い! ぜんっぜん何を考えているのか分かりません^^;
理由はいくつかあるのですが、まず単純に、今回の謎の難易度が高いということ。謎を紐解くには専門的な知識も求められますし、犯人の犯罪手段も殺人、誘拐、その他いろいろと複雑に仕掛けてくるので、「君はいったい何がしたいんだい!?」状態のままお話がどんどん進んでいきます。
最後の謎解きも一筋縄ではいかず、いつもならこれで「謎が解けてめでたしめでたし」となるところもまだまだ犯人の手のひらの内であることがわかったりして「もう残りページほとんどないんですけど……」とまさかの次巻へ続くとかだったか? と不安になりました。(大丈夫、1冊でちゃんと完結します)
他にも、いつもなら「犯人側の視点」がお話の随所に入るのですが、今回はナシ。これで犯人が何を考えているのか、復讐なのか愉快犯なのか、何か別の目的があるのか……ノーヒントで話が進んでいくのも不気味なところでした。
そして最後に、これが一番の理由かもしれませんが、今回は「あの人」の様子がおかしいんです。次の項に続きます。
3.絶不調の主人公コンビ
様子がおかしい「あの人」というのは、あらすじでも書きましたが塔子の相棒・鷹野のことです。
類まれなる推理力の持ち主で、塔子属する11係の事件解決率が群を抜いて高いのはこの人のおかげといって過言ではないでしょう。鷹野は本シリーズの「名探偵役」なんですね。塔子の閃きが鷹野の推理を助け、事件が解決へと向かう……それがいつもの流れ、でした。
ここであえて「でした」と過去形にしたのはもちろん訳があります。今回、鷹野の推理はとある理由からあてにならないという状況へ追い込まれてしまうのです。
そもそも、冒頭から不穏だったんですよ…… 塔子がお昼をとろうと外に行くと、なんと偶然にもそこには偶然鷹野の姿が、しかも女性と一緒! 「デート!?」と塔子も焦って、焦りながらもしっかりと様子をうかがおうとするところが彼女の素直なところなんですが(笑)どうも楽しく盛り上がっているわけではないようで……
お昼が終わっても鷹野の様子がどことなく変。上の空だったり携帯をいじっていたり……
「どうした!? 鷹野!?」とヤキモキさせられました(笑)
ただ、相棒の塔子はヤキモキだけでは済まなかったようで、かなり鷹野との仲が……
と、ここからはぜひ本編を読んでください。塔子も鷹野も大人で、思いやりある優しい性格をしているのでこの展開はかなり意外なものでした。事件の謎が気になるのもそうだったんですが、本書は鷹野と塔子の仲がどうなってしまうのか、が気になりすぎて早く読み進めてしまいました。少女漫画とかそうなんですが、早く仲良くなってほしくてどんどん読んじゃう時ってないですか? ないかな……^^;
この塔子と鷹野の名コンビの不調が、本作をドラマ化に押し上げた要因じゃないかと私は思っております。
いや、読んでいる時はハラハラでしたが、読み終わってみれば意外性もあり、ラストも納得いき、私は大満足でした。
4.尾留川は実は……
今回、鷹野の不調の裏で大活躍した人がいます。それが尾留川です。
尾留川といえばチャラいが第一印象の男です。彼が実際にどんなふうに捜査しているのか、実はまだちゃんと作中で書かれていたことはなかったんじゃないかな、と本書を読んで気づきました。
いつも捜査会議で「俺の彼女によると~」なんて驚きの前置きがつく発言をしていたこともありましたが、真面目に働いているのか? 本書で明らかになりました。
結論から言うと、尾留川くん、ちゃんと刑事やってました!!(笑)
今回、塔子は尾留川と行動を共にするシーンが多いのですが、正直、ちょっと頼りないコンビだな、と思っていたんです。先輩とは言えいつもチャラチャラした尾留川は鷹野と比べればどうも危なっかしい(笑)塔子も「私がしっかりしなきゃ」と思っていたことでしょう。
しかし、そんな下馬評(?)を裏切って(?)尾留川くんは聞き込みでも荒っぽい立ち回りでも大活躍でした。見えないところでちゃんと刑事やってたんですねー……いやあ、シリーズ7作目にして初めて知りました。
刑事としてすごかったのも初めて知りましたが、尾留川の人間的魅力もじんわりと伝わってきました。今回は鷹野との仲がギクシャクしてしまう塔子は、イライラ、むしゃくしゃ、彼女らしからぬ感情の荒波に襲われて大変そうです。そんな塔子の胸中に気づき、そっと気遣ってくれたのが尾留川だったんです。
わざと軽い調子で話しかけて気分を明るくしようとしてくれたり、ちょっとくらい命令違反しても塔子の望みを叶えようとしてくれたり……
尾留川、すっごくいい奴!!
本当、見直しました。尾留川のことが好きだった人には必読の7作目、そうでない人にも彼の見せ場を楽しんでほしいです
いかがでしたでしょうか?
謎解きの難しさあり、主人公コンビのピンチあり、尾留川の見せ場ありと、ドラマ化も納得の面白さでした!
シリーズの中でも特におススメできる1冊です、手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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