死体の周りを飾るのは……頭がいこつ?『蟻の階段』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

蟻の階段  麻見和史   講談社

『警視庁殺人分析班』シリーズの第2作目です。どうやらこのシリーズ、毎回、死体発見現場が猟奇的な雰囲気をかもしだしているのがお約束の一つらしいです。

前作は死体がモルタル漬けで発見されましたが今回は……? 儀式めいた不気味さがありました。

主人公の塔子の活躍はもちろん、相棒の鷹野が捜査一課のエースとして本領を発揮していましたのでファンには読み応えたっぷりです。

それでは、あらすじと感想を交えながら作品をご紹介していきます。

1.簡単なあらすじ

まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。

住宅街の一軒家で男性の死体が発見されます。被害者はローテーブルに横たえられ、遺体の周りには4つの品物が置かれていました。動物の頭蓋骨、生花、時計、そして伏せられたスープ皿……意味深に置かれたそれぞれの品物は犯人がわざわざ残していったものに違いないと判断され、塔子と鷹野のペアが捜査にあたることになります。

初日の捜査ではこれといった手がかりを見つけることが出来ず、夜の捜査会議を迎えようとしていた捜査本部に、珍客がやってきます。その人は元捜査一課の刑事であり、既に定年退職していた加賀見でした。

加賀見が捜査本部に持ち込んだのは一本の録音テープ。中には加賀見の自宅にかかってきた電話のやり取りが録音されていました。電話相手は、塔子たちが追っている殺人事件の犯人は自分であると言います。

自称「犯人」は加賀見が現役時代に加賀見から取り調べを受け、冤罪にも関わらず服役することとなった、と恨みごとを述べます。犯人は加賀見と他にも復讐したい人間がおり、そのために殺人をしたのだといいます。犯人は今後も犯行を繰り返す予定であること、加賀見にこれからも連絡をとることをほのめかし、電話を終えます。

捜査本部はこの情報を重要視し、塔子たちに加賀見と接触し情報をもらってくるように任務を追加します。ところが加賀見は頑固で不愛想なとっつきやすいとはいえない相手。気難しい加賀見の相手をするのに塔子は苦心しつつも、彼女の何気ない一言や一生懸命さが徐々に徐々に加賀見は心を開いていきます。

塔子の特技・「閃き」も前作より成長し、相棒である鷹野も捜査一課のエースらしい活躍をみせますが、2人の前にたちはだかる最大の謎は死体の周りに置かれたアイテムたち……

塔子たちは無事、謎を解けるのでしょうか……?

2.1番の謎は死体の周りにある

今回の事件現場の変わったところは、死体の周りに意味深な品物が置かれている、という趣向でした。

残されていたのは動物の頭蓋骨なんて不気味なモノから、時計やスープ皿と言った連想ゲームにもなりそうにない品物ばかり。

あらすじには書きませんでしたが、殺人事件が1件で終わるはずもなく、1件目の品物の推理もおぼつかないのに第2の事件でさらに意味不明な品物は増えて……と塔子をはじめとする殺人分析班のメンバーを悩ませます。

今回の事件では真犯人が誰か、その動機は何か、といったことよりも、何よりもこの死体の周りに置かれた品々の謎が、最後まで引っ張る最大のミステリになります。

ちゃんと真相はわかるのですが、これはたぶん、読者で真相に辿り着ける人はいないんじゃないかなあ……? 一応、本文中にヒントになりそうなものはちらつかせてはありました。

でもそれも、最後まで読んで真相を知れば「あ、あのときの!」くらいのもので、よほど勘のいい人でないと……というレベルです。

勘がいいといえば、むしろ今回は犯人の方が当てやすいかもしれません。前回もそうでしたが、犯人の名前は、中盤であっさりと判明します。だからといって、犯人はそう簡単には姿を見せません。犯人がどこに潜んでいるのか、は塔子達と一緒に悩んでみてください。

ちなみに、品物の謎も犯人の潜伏先も、私はどっちも外れましたー^^;

品物の方は最初から「これは当てられそうもない」と塔子たちに早々に丸投げし、犯人の方は裏をかきすぎて、ちょっとここで書くのも恥ずかしい推理をしてしまいました……

どんな推理だったのか、この記事の最後の方にちらりと書いておくので、笑いに飢えている方は読んでみてください。

3.塔子、閃きます

ひよっこ刑事である塔子は、今回も成長を遂げていました。

前回は少しわかりづらかった彼女の特色である ”直感力”。今回はかなり磨きをかけてきました。

ずばり当てたものもあれば、それはさすがに無理あるだろ、というものまで、積極的に意見を出している姿がよく見られます。

少し可愛いな、と思ったのは何か思いついた時に「閃きました!」と言うようになったこと。

小柄な女性がピン、と背筋を伸ばしてそんなこと言っていたら、愛らしい感じがしませんか? 塔子本人が聞いたら嫌がりそうですが、私は彼女のこういう普通の女の子っぽいところが大好きです。

他にも、彼女が今回活躍したのは気難しいおじいちゃん、加賀見の対応でしょうか。ほんとに絵に描いた ”孤独で頑固な爺様” なんですよ、加賀見さん。

そのお目付け役をおおせつかった塔子と鷹野ですが、鷹野がおじいちゃんの面倒なんて見る姿は想像すらできないので、塔子が全面的に相手をすることになるのだろうな、と容易に想像がつきますよね。

しかし2人の出会いは友好的とはお世辞にも言えないピリピリとしたものだったので「あー、これは大変な目に遭いそうだな」とマイナスからのスタートです。

しかしそこは刑事力よりも人間力の方が現在は数値が高い塔子なので、現役刑事と引退刑事というよりは、なんだか孫と愛情表現の下手なおじいちゃんのやり取りみたいに徐々になっていきます。

殺人事件の捜査という暗いメインストーリの中に、微笑ましいシーンが合間に入るので、いつの間にか2人の会話の場面が出てくるのが楽しみになっていました。

4.さすが捜査一課のエース、鷹野

本作である意味主人公の塔子より活躍するキャラクターが鷹野です。彼は捜査一課のエースであり、塔子の教育係も任されるベテラン刑事。彼の持ち味は何と言っても推理力で、閃き重視の塔子とは違い、理屈を積み重ねていくタイプです。

しかし前作では彼のマイペースな性格を描写することが優先されたようで、推理も塔子のように閃きに救われており、いまいち「彼らしさ」が表現されていませんでした。

それを挽回するように、本作では後半、鷹野の推理が大当たりしまくります。

1番の謎である現場に残された品物の由来も含め、ほぼすべての謎をこの人が解いたのではないでしょうか。

カッコいい鷹野を読みたかった人には必見です。

個性豊かなキャラクターが多数登場するシリーズものでは、作品ごとにスポットライトを浴びるキャラクターを変えていくのが普通なので、今回は鷹野に焦点が当たっていたということでしょう

殺人分析班のメンバーはあと3人もいますので、次作は誰にスポットライトが当たるのか、それも楽しみに読みたいと思います。


いかがでしたでしょうか?

えー、本文中で前フリしておりました、私の「深読みしすぎた犯人」の推理ですが、「真犯人は加賀見さんだ!」 というものでした。

犯人との電話の会話もきっと自作自演だ!

現役の頃にきっと何か因縁ある事件があったんだ!

塔子たちと距離を縮めているのも捜査状況を知りたいからに違いない!

……などなど、はい、ミステリの読みすぎです。

うがった見方というのはこういうことを言うんでしょうね^^;

ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

『警視庁殺人分析班』シリーズの詳細な登場人物紹介もしています↓

シリーズ1作目『石の繭』のあらすじと感想はこちらからどうぞ↓

シリーズ3作目『水晶の鼓動』のあらすじと感想はこちらからどうぞ↓

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