金田一耕助も殺人事件も脇役のミステリ!?『迷路の花嫁』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら↓

迷路の花嫁  横溝正史  角川文庫

この作品はみんな大好きなあの名探偵、

金田一耕助が登場します。

しかし、他の金田一作品とは少しおもむきが違っているようで……

金田一耕助好きにはがっかりする情報かもしれませんが、

金田一、あまり出番なしなんです。

途中、あまりにも登場してこないので、

私も読みながら「金田一は何をしているの?」と思っていたのですが、

最後まで読むと、金田一をあえて不在にした作者の意図が見えてきた気がします。

一風変わった金田一作品、ファンの方にも納得の一冊になると思います。

それでは、あらすじと感想を交えてご紹介していきましょう。

目次   1.おおまかなあらすじ
     2.金田一耕助すら脇役
     3.金田一は何をしていたのか?


1.おおまかなあらすじ

薬子という女霊媒師が自宅で殺された。

発見者は作家の浩三。

彼は現場近くから走り去る謎の女を目撃していた。

また、足が不自由な千代吉という乞食の男も、

現場の家から一人の女が走り出してくるのを目撃していた。

薬子には弟子の奈津女がおり、多門という胡散臭い男の元で

霊媒師として2人は働いていた。

薬子には後援者がおり、それが資本家である滝川である。

事件から10日後、滝川の娘である恭子の結婚式の直前、

警察は薬子殺人事件の重要参考人として恭子の元を訪れる。

恭子は犯行を否認するが、現場近くには彼女の手袋が残されていた……

このあと、普通の金田一耕助作品であれば、

第2、第3と事件が続いたり、捜査の進展があったりして

どんどん事件が盛り上がっていくのですが、

本作は違います。

続く事件も起こらず、かといって捜査も進まず、

進展は何もないまま、なんと3カ月も経過してしまいます。

金田一もちらりと顔を見せてから、ほとんど登場しません。

その間、小説世界では何が起こっているかというと、

作家・浩三が探偵の真似事をして事件を探ったり

胡散臭い多門がとんでもない女たらしであることが判明したり、

ちょい役かと思われた千代吉に意外にも出番が多いことがわかったりと、

登場人物たちが脈絡なく、好き勝手に動き回るシーンが続きます。

「ん? このお話は一体どこへ向かっているんだ?」

「殺人事件は? 金田一は何をしているんだ?」

頭に「?」マークを浮かびまくりです。

しかし、脈絡のない描写が徐々に結びついていき、

この物語が何を書いているのか、

その輪郭がはっきりと見えてくるようになります。

そして分かったのは、このお話のメインは殺人事件でもなければ、

金田一耕助の活躍でもない、ということです。

2.金田一耕助すら脇役

金田一耕助作品なのに彼が脇役ってどういうこと? と思われる方も

いらっしゃるでしょう。

しかし、これ、時代の古い探偵小説にはけっこうありがちだったりします。

例えば横溝正史と共に名探偵もので名をはせている江戸川乱歩。

彼の生み出した名探偵と言えば「明智小五郎」ですが、

明智小五郎が登場する作品では、この「名探偵は脇役」パターンがけっこう多いんです。

事件が起きて、最後まで気を揉ませた挙句、

最後の最後で明智小五郎が登場して

さっさと事件を解決してしまうという、

せっかくの名探偵、少しもったいない使われ方をされているんです。

ただ、江戸川乱歩の作品で明智小五郎が脇役になることはあっても、

事件の方まで脇役になった作品は私はまだ出会っていません。

しかし、『迷路の花嫁』で横溝正史は事件すらも脇役にしてしまいました^^;

ではこのお話の面白さは何か、というと、

あらすじにも書いた、

「脈絡のない描写が徐々に結びついていき、

徐々にこの物語が何を書いているのか、

その輪郭がはっきりと見えてくるようになる」過程にあります。

小説にしろ、映画やゲームにしろ、創作物が好きだ、という方には

「すべてが見えてきたぞ!」という感覚がたまらない快感で大好物だ、

という方、多いんじゃないでしょうか?

そして『迷路の花嫁』がさらに面白いのは、

見えてきた輪郭が「悪党をとっちめる話」だというところにあると思います。

この悪党が誰なのかは、読んでいくとすぐにわかります。

そして、この悪党がまた、本当にどうしようもない奴で、

そりゃ報復にあっても仕方ないと思えるだけの卑劣さなんです。

「この悪党をとっちめる黒幕が誰なのか?」

これが作者から読者に提示された本当の謎になります。

ぜひ考えながら読んでみてください。

言っておきますと「金田一耕助」ではないですからね^^;

真の「英雄」は別にいます。

この人がまた粋な人間でカッコいいんです。

ちょっと危ない橋を渡ったり、露悪的なところもありますが、

最後には絶対に応援したくなると思います。

3.金田一は何をしていたのか?

さて、金田一作品なのに終盤になるまでほぼ出番なしの金田一、

その使われ方は、一見すると

「せっかくの名探偵、もったいない」とも読めます。

名探偵が登場するミステリで読者が期待することは

やはり名探偵の活躍でしょう。

最後の最後だけ出てきて鮮やかに解決するというのも

悪くはないですが、もうちょい謎解きに苦労したり、

犯人に出し抜かれたりしながら、

ハラハラドキドキさせてほしいものです。

そういう意味では、『迷路の花嫁』はちょっと物足りなくはあります。

しかし、最後まで読み切ってしまうと、

金田一が本当に最後になるまで謎解きに出てこなかった意図が、

分かるような気がします。

作中では金田一は言い訳がましく「他に優先すべき事件があったもので」

などと言っていますが、嘘だろうなと思います。

このお話は悪党をとっちめる話なんですが、

ずるいし、人の心を弄ぶだけの知恵もあって、

悪党はそう簡単にくたばってはくれません。

とっちめるにしても、黒幕である人物が

様々な手を打ってやっと、その羽を全てもぎ取ることに成功するんです。

もし、金田一がさっさと警察の捜査に加わっていたら……

おそらく黒幕は悪党を倒すだけの時間が足りなかったことでしょう。

金田一はそこまで事件の裏側・全貌を読んだうえで、

あえて事件を解決させないまま、数カ月も放っておいたのでは?

数々の事件で相棒役を務めている等々力警部には少し気の毒ですが、

金田一のこういう清濁併せ吞むような正義漢は、

彼をただの名探偵ではない、人情味あふれるキャラクターにしていて、

やっぱり金田一作品はいいなあと思わせるモノがありました。


いかがでしたでしょうか?

いつもの金田一作品のような残酷な事件ではありませんが、

たまにはこういう「変わり種」もいいですね。

ぜひ手に取ってみてください。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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