展開の読めなさ度MAX、顔を焼かれた遺体の意図とは?『聖者の凶数』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

聖者の凶数  麻見和史  講談社文庫

『警視庁殺人分析班』シリーズの5作目です。

物語の中の季節は楽しくふわふわとした気分漂うクリスマス……しかし、事件は時期なんて選んでくれません。今回発生する事件もまた、猟奇的な雰囲気を感じさせる現場なっていました。

事件の先行きが見えない度ではここまでシリーズ最高レベルですね。読んでも読んでも、手掛かりらしい手掛かりが浮かんできません。さらに事件が解決したからと言って、真相がすべて明らかになったわけではないようですよ……!?

また、今回は殺人分析班のあの人の意外な一面が見られたりして……

事件以外にも面白ポイントが(今回も)盛りだくさんだったので、あらすじと感想を交えながらご紹介していきましょう。

1.おおまなかあらすじ

まずは簡単にあらすじをご紹介しましょう。

今回の事件の舞台はクリスマスも間近に迫ったころ、東京は上野駅に近いぼろアパートの一室から始まります。一人のホームレスが寒さをしのぐために忍び込むのですが……そこで死体を発見してしまいます。

呼び出しを受けた塔子たちは、さっそく現場に向かい、そこで対面した遺体の異様な姿に驚きます。

死体は顔、そして両腕を焼かれ、さらに腹部には「27」という謎の数字。遺体のそばには意味深な「聖エウスタキウス」のカードが残されていました。

この事件は猟奇殺人ではないか? 捜査本部の上層部はその意見に傾きます。

塔子と鷹野は、最重要である被害者の身元確認を任されます。ところが、正攻法で攻めても、ちょっと目先を変えて捜査してみても、空ぶるばかり……

もし、猟奇殺人であれば2件目があるかもしれない。焦りを見せる警察をあざ笑うかのように、2件目の殺人が起きてしまうのです。

今度の死体も顔や腕を焼かれ、腹部には謎の数字、そして指を切られ……と死体の損壊具合はエスカレートしていたのです……

2.なぜか残された指紋

あらすじを書いて改めてゾッとしました。酷い遺体の状況ですね……警察が猟奇殺人では?という見方を強めた理由もよくわかります。

今回の遺体は顔をつぶされており、一見しただけでは誰が殺されたのかわからなくなっています。これが塔子と鷹野の被害者特定任務を予想以上に困難にする主な原因になっているのですが……

「顔のない遺体」と聞くと、ミステリ好きなら思い立つことは一つ、人物の入れ替わりトリックです。よくあるのが、真犯人Aが、別人Bを殺してその顔と指紋(場合によっては歯型を消すために口の中もメチャクチャにしている犯人もいる)を潰して、別人Bの死体を真犯人Aのものだと見せかけるパターンです。こうすることで真犯人Aにはアリバイなど気にせず、自由に動けるようになるというメリットがあるわけです。

……と、ここまで書いてきて、多分このトリックを今回の事件に当てはめるのは無理があると気づかれた方もいらっしゃるでしょう。そう、このトリックは、クローズドサークルと呼ばれる、人の出入りが不可能になった吹雪の山荘など、限られた登場人物と捜査法しかない場合にはメリットを見出せます。が、現代日本で死んだことを装っても、よほど特殊な理由がない限り、犯人には殺した後に遺体を壊す分、やることが増えるだけ、ただの手間にしかなりません。DNA鑑定とかされたら一発で見破られますからね。

本書の事件の犯人も、顔を潰したのに肝心の指紋はそのまま残しっぱなしだったりと、遺体の身元を隠すために行ったとしたら片手落ちな状況です。

だからこそ、猟奇殺人が疑われたわけですが……

遺体には「焼かれている」以外にも、謎の数字や意味深なカード、遺体の一部を持ち帰るなど、事件を解決するヒントが残されています。犯人の意図が猟奇的なモノでないとすると、一体どんな動機が隠れているのでしょうか?

中でも謎の数字はもしかしたら勘づく人もいらっしゃるのでは? と思います。私は全然ダメでしたけど^^;

今回は事件解決のために、読者に向けた伏線は方々に張り巡らされています。塔子たちがそのヒントに気づくのは後半に入ってからになりますので、一緒に挑戦してみてください。

3.いぶし銀、徳さん

冒頭でもちらりと書きましたが、今回意外な一面を見せるのは徳さんこと、徳重英次です。

徳さんはベテラン刑事で、昇進する機会を蹴ってまで現場にこだわる現場派です。これまでもベテランらしい余裕のある態度で若手の塔子をフォローしたり、自分より若いけど階級は上の鷹野にさりげない気遣いをしたりと、その穏やかな性格が前面にでていました。

ネット魔でもある徳さんが、掲示板でつけられたあだ名は「仏の徳さん」。素性が分からないネット上でも彼は普段と変わらない柔らかな笑みを相手にみせていたようです。

そんな徳さんが、本書で見せる顔とは……

今回、塔子は序盤は徳さんと行動を共にするシーンが多くあり、その中で初めてじっくり彼が事件関係者と話をするところをみます。事件関係者との会話を任されたのは塔子という場面でしたが、関係者は突然のことに怯え混乱し、まともに受け答えできないばかりか、後日改めて話を伺うのも困難になりそうなほど、警察への信頼を失いかけました。そこを救ったのが、徳さんです。

何気ない会話から関係者の心をほぐし、事件について話しやすい雰囲気を作ったり……そうかと思えば鋭い指摘をはなったりと、その様子は「ザ・ベテラン」。本人は塔子の師匠役でもある鷹野の出番を奪ったかな、とおどけていましたが、鷹野の言う通り「お見事でした」な存在感でした。

手練れな刑事の顔を見せてくれた徳さんですが、本書では他にも彼のこれまでの刑事人生を忍ばせる素顔を見せるシーンもあります。そちらは事件が起きた上野という場所に関係が深いようです。

これまで目立つことの少なかった徳さんが、いぶし銀な活躍をみせています。カッコいい徳さんをぜひ読んでみてくださいね。

4.鷹野のクリスマス

さて、こちらは事件とは全く関係がありませんが、個人的に面白かったのであえてご紹介しておきます。

今回の事件はクリスマスも間近なころに発生します。東京の町にはクリスマスツリーやイルミネーションがあふれ、パーティに浮かれ騒ぐ人も多い……が、警察の仕事はそんなこととは無関係。夜遅くまで捜査と会議。塔子たちはそれが終わったら近くのファミレスで殺人分析班のミーティングです。

クリスマスを楽しむ余裕なんてないですね。塔子が何気ない調子で鷹野に話をふると「そんなことはない」との返事が。

塔子はおそらく、鷹野の方に顔をばっと向けたことでしょう。今、なんて言ったんですか、鷹野主任、と。

鷹野はクリスマスは自分にも大いに関係あるし、しかもワインを飲む予定まであるとか……

どんな関係があるんだよ! ワインってもしかしてデート!? ……と思わずワクワクしてしまいました。

そして、鷹野のクリスマスが気になったのは私だけじゃなかったみたい……

気になりつつも、鷹野に聞くことはためらわれる、そんな乙女な塔子の姿もみられます。

鷹野にとってクリスマスがどんなものなのか、その正体はけっこう早めに明かされてしまいますが、確かめてみてください。

5.刑事としてのアイデンティティ

最後に、今回の塔子の様子をご紹介しておきましょう。新人刑事である塔子の成長も『警視庁殺人分析班』シリーズでは毎作テーマを決めて、丁寧にえがかれてきました。

本作のテーマは「どんな刑事を目指すのか?」、刑事としてのアイデンティティに悩むというものでした

鷹野には推理、門脇や徳さんにはベテランらしいテクニック……など、先輩刑事たちは自分にはない何かをもって、刑事として活躍しています。

じゃあ自分には何があるのだろう? 塔子はそんなことを考えます。

女性だし、身長も低いし、推理力もテクニックもまだまだ……そんな自分が、刑事としてキャリアを積んでいくには如月塔子ならではのものを見つけなければならないのではないか、そんな焦りが彼女の中で生まれます。

確か刑事部に異動してまだ2年くらいしか経っていないし、しっかり役にも立っている気がするんだけどなあ……と彼女びいきの私なんぞは思ったりもしますが、生真面目な塔子は1冊通して悩み通します。

そして、彼女が辿り着いた答えはいかにも「如月塔子らしい」ものでした。彼女の決意を聞いた鷹野も「いいんじゃないか」とすぐに頷いてくれました。

こういう、真面目で、少し心配になるけど、しっかりと前に一歩足を踏み出すところが、私が塔子のファンたる所以だと、彼女のことがまた好きになりました。


いかがでしたでしょうか?

カッコいい徳さん、鷹野のクリスマス、塔子の成長など、楽しめる要素は多々ありますが、本作の面白さは先行き不透明すぎる展開が一番です。

読みながら一緒に謎解きを試みましたが、本当に一切わかりませんでした……それだけ難易度が高くてやりがいはあると思います。ぜひ挑戦してみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

本作の1作前の『虚空の糸』のあらすじや感想はこちらの記事へどうぞ↓

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