塔子、試練の時。刑事生命のピンチ!?『水晶の鼓動』読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

水晶の鼓動  麻見和史  講談社文庫

『警視庁殺人分析班』シリーズの第3作目、そして1作目の『石の繭』に続いてドラマ化された作品でもあります。

2作目の『蟻の階段』も面白かったのになぜ飛ばされた? と読む前まで不思議に思っていましたが、読んでみて納得しました。

事件のスケールも、塔子が直面する困難も、

『水晶の鼓動』の方が前作より数倍上回ってます!

今回は東京の街中が非常事態に陥りますよ……!

それなのに塔子は刑事人生の大ピンチで鷹野との息があってきたコンビも解消の危機です。彼女のファンである私は「がんばれ、塔子!」と感情移入しまくりでした^^;

塔子は自分と東京を救えるのでしょうか?

それでは、あらすじと感想を交えながら作品をご紹介していきましょう。

1.簡単なあらすじ

まずはおおまかなあらすじをご紹介しましょう。

民家の玄関口で死体が発見される。実際の殺害現場は家の中のようで、塔子たちが中に入ると部屋の中は真っ赤なスプレーによって染められていた。部屋の中は執拗に物色され、現金やメモ、写真などが持ち去られていた。

強盗か? それとも計画殺人か?

塔子と鷹野は証拠品捜査に割り振られ、捜査を開始する。捜査中、塔子たちが乗っていた電車の近くで爆発事件が発生。しかも、その夜、2件の爆発事件が連続発生する。

そして翌日、今度は2件目の殺人事件が発生。爆発事件に浮足立つ中、塔子と鷹野は殺人事件の捜査を継続するが、その最中に近くでまたも爆発事件が発生する。被害者救護のために応援に駆け付ける塔子たち。しかし、時間差で再度爆発が起き、塔子はそれに巻き込まれてしまう。

幸い軽傷で済んだが、爆発の衝撃で父の形見の腕時計が壊れてしまい、さらに爆発の衝撃をまともにくらった警察官の姿を目の当たりにしてしまう。

第1作『石の繭』でも爆発に巻き込まれ、その時は運よくほぼ無傷で助かっていた塔子。しかし、今回の爆発でトラウマを直撃され、彼女は平静さを欠いたまま捜査をしなければならなくなる。

だが、それが塔子の命と刑事生命、両方の危機を招いてしまう……

2.鷹野との息の合ったコンビ、しかし……

第1作目からずっとコンビを組んで捜査をしている塔子と鷹野。作品が進むにつれて、その会話は息の合った夫婦漫才のようになってきました。鷹野は容赦なく塔子の身長の低さや童顔をからかい、むくれる塔子に「それがお前のいいところだ」とさらりと流す、これがいつものパターンです。

最近は、塔子も負けてはいません。

捜査中に、視点の低いところに重要な証拠品が残されていたことを鷹野が見過ごしたことに、「探索の仕方が甘い!」と指摘します。ところが、鷹野のは即座に「なんてことだ、低すぎて気づかなかった」と打ち返します。

言い訳にしても、機転がきいた返しに、塔子のリアクションは特に書かれてませんでしたが、ほっぺを膨らませていそうですよね。

鷹野は塔子の指導員という立場ですが、「阿吽の呼吸」とでもいうものが出てきた感じがします。

絆が育っていくのはバディものの醍醐味ですよね

嬉しくて思わずにやけしてしまいます。

このまま塔子と鷹野のコンビの活躍が始まるのだろう、と思っていたのですが。

なんと、まさかの鷹野とのコンビ解消の危機が訪れてしまうのです。

3.塔子、試練の時

きっかけはあらすじにも書いた通り、塔子のトラウマを直撃した爆発事件にあります。いくら警察官とはいえ、まだ新人の時期に2回も爆発に巻き込まれたわけですからね。まともな人間ならショックを受けて当然です。

我らが塔子ちゃんも、気丈に振舞ってはいますが、内心は恐怖にグラグラ揺れてしまいます。さらに、彼女が父の形見として使っていた腕時計も壊れてしまい、ダブルでショックです。きっとお守りが亡くなってしまった時の妙に焦るような、今にも不幸が襲い掛かるような心細さに近い気持ち、それを数倍にした心境でしょうね。非科学的ではありますが、もう守られていないんだ、と愕然とする気持ちはわかる気がします。

その塔子の恐怖や落ち込みに、女性心理に敏感な尾留川はもちろん、うとそうな鷹野まで気づきます。

しかし塔子はさすがだなあ、と思ったのですが、自分が揺れている時でも、少し悩んでいる尾留川の本音を聞いて「一緒にがんばりましょう!」と励ますところなんですよね。

自分も辛いのに先輩を励ますなんて本当に塔子は良い子です

後輩にいてほしいタイプ、尾留川がうらやましい。

それはさておき、気丈に振舞う塔子でしたが、彼女にも限界が訪れてしまいます。捜査中、鷹野から離れて一人になったところで身の危険と犯人逮捕のチャンスが同時に訪れるのです。

いつもの塔子なら冷静に鷹野を呼ぶなり、一人でも勇敢に立ち向かうなりしたかもしれませんが、彼女は死の恐怖と直面したばかり、警察官らしい動きができませんでした。これには塔子本人もひどく落ち込みましたし、何より周りの目が痛い。

そして追い打ちをかけるように鷹野とのコンビも一時解消されてしまい、鷹野に見捨てられてしまったように感じてしまいます。

刑事になってしばらく、塔子は頑張ってきましたが、そこで本音に気づきます。

「誰よりも、鷹野主任に認められたかった」と。

塔子が落ち込んでる時に、鷹野、ちょっと冷たくない!?

頑張って!! 塔子!!

鼻息荒くしながら読み進めることになったのですが、ここで終わるようなら物語の主人公は務まりません。

塔子は彼女らしい閃きとガッツを見せてくれます。

彼女の芯の強さに私も鷹野もビックリです。

見習わなければ、と励まされました。

ここから、物語は一気にスピードをあげて面白さも増していきます。

4.警察組織がスパイスに

本作ではさらに、過去2作にはなかった面白さが加わっています。

これまで、警察小説として、捜査一課内での捜査方針の食い違いや個性豊かな刑事たちの活躍が書かれてきましたが、ここで警察という大きな組織そのものへとその目を向けさせられました。

警察組織には塔子が所属する捜査一課だけではなく、所轄と呼ばれる地域を守る警察官も登場すれば、警察庁内でも公安などの毛色の全く違う部署もあります。

部署や階級、性別の差で同じ警察と言えど一枚岩になり切れないところがクローズアップされます。

学校や会社もそうですよね。みんなが学園祭やプロジェクトを頑張るかというと、そうではないんです。

でも、ちょっとしたことで、みんな急にやる気が出て、一気に準備が進んだ、なんて経験ありませんか?

あの不思議な高揚感や一体感の正体はなんなのか……本作を読むと、その正体が少しわかった気がします。

好い例として、管理官である手代木と、捜査一課の門脇にでてきてもらいましょう。

緻密な捜査をモットーにする手代木と豪快さが売りの門脇。2人は性格も仕事の仕方も正反対で、これまでも捜査会議で多少の衝突を繰り返してきました。

しかし今回は今までにない大衝突を起こし、「えー? 門脇さんそこまで言っちゃう?」と、ヒヤッとするシーンがあります。

これに対して、ブチ切れて返すという選択肢も上司である手代木にはあったのでしょうが、かわりに彼は自分の信条を話します。

これが部下たちの成長を願う、なかなかの名演説なんです。

自分の上司がこんなふうに部下のことを考えてくれていたと

知ったら、めちゃくちゃやる気出るだろうな。

手代木の印象がガラッと変わりました。

この手代木の演説に、さすがの門脇も「言い過ぎでした」と素直に頭をさげますし、翌日からはやる気の薄かった所轄の捜査員も気合が入ったようでした。

人間がたくさん集まった時に、同じ方向を向けるかどうかは「この人のためなら」といった、ちょっとしたきっかけが必要なのかもしれませんね。

この後も、警察という組織が一枚岩になれたらどうなるのか? きっとすごい捜査が出来るに違いない、というワクワク感を、作品の要所で見せてくれました。

後半には「手代木 VS 門脇」以上に盛り上がる対戦カードとそれを超えた先の団結をみせてくれますので、期待してください。


いかがでしたでしょうか?

『水晶の鼓動』は1作目、2作目と本の厚さもほとんど変わらないのですがいろんな要素を詰め込んだ満足感のある一冊でした。

ぜひ読んでみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。

『警視庁殺人分析班』シリーズの登場人物紹介はこちらをどうそ↓

2作目『蟻の階段』、4作目『虚空の糸』のあらすじと感想はこちらからどうぞ↓

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です