高校生の八雲はシリーズ本編にはない面白さ!『心霊探偵八雲 青の呪い』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら
心霊探偵八雲 青の呪い 神永学 講談社
『心霊探偵八雲』は幽霊をみることができる八雲という大学生が主人公のホラーミステリシリーズですが、
本書はそのスピンオフのような作品です。
スピンオフだけあって、シリーズ本編とは作風が違っていました。
読んでみて気づいたのは↓こんな感じです。
- 八雲は大学生ではなく高校生
- 主人公は八雲ではなく、その同級生
- 事件の見え方が違う!
- 誰が幽霊か分からない
主人公が八雲じゃないのは寂しい……
でも本編ではできなかった面白さがあり、
ミステリとしても小説としても、本編より読み応えがあったかも!
それでは、あらすじと感想をまじえながら、ご紹介していきましょう。
1.おおまかなあらすじ
まずはおおまかなあらすじからご紹介していきますが、
その前にシリーズ本編を知らない方のために、ちょっとだけ補足。
心霊探偵八雲シリーズとは
八雲という生まれつき幽霊が見える力を持った男の子が主人公のホラーミステリです。
毎回、ヒロインの春香と共に心霊現象がらみの殺人事件や行方不明事件に巻き込まれ、幽霊を見る力と冷静で明晰な思考力を武器に名探偵役として謎解きをしていく、というのがお決まりのパターンです。
頭もよく、容姿端麗という設定なので人気者になりそうなのですが、八雲はその能力のせいもあって、生まれてから散々な目にあってきた(この辺は本書でも少し触れています)ので、基本、誰も信用せず、誰とも打ち解けず、孤独な存在でいることを好む性格をしています。
シリーズ本編では主にヒロインの春香のおかげでかなり性格が丸くなっているのですが、本書はまだ出会う前なので、八雲の性格は最高にツンツンしております。
シリーズファンの方には「そんな頃もあったなあ」と懐かしく読めるかも……
本作から読む方には、パッと出て意味不明なことだけ言ってくる感じの悪いヤツに思えるかもしれませんが、本当は優しいところもあるんですよ~
……という補足でした。
それではあらすじ紹介です↓
青山琢海は高校に入る前に両親を事故で亡くしており、妹と2人、叔母である仁美の保護のもと暮らしている。
琢海はサウンドカラーという、人の声に色がついて見えるという変わった力があった。
そのため、人がウソをついたときや、喜怒哀楽の程度がわかってしまうのだった。
琢海には両親を亡くした直後に病院で出会った少女の存在が忘れられなかった。
綺麗な青い色の声をした彼女は、悲しみに沈む琢海の心を慰めてくれた憧れの存在だった。
高校に入学して、琢海は同じ高校にその憧れの彼女がいて、お近づきになる機会を得る。
そのきっかけが、美術室にある「呪いの絵」。
”血で描かれている”、”描いた本人が自殺した”、”見たら幽霊に呪われる”など、ロクな噂のない絵。
しかし彼女は絵の噂の謎を突き止めようと琢海を誘う。
琢海も彼女と仲良くなるために調査に乗り気だったが、それを止めに入ったのが同じクラスの八雲だった。
「あの絵に近づくな」と意味深に言いたいことだけ言って理由も述べようとしない八雲。
当然、淡い恋心のためにそんな警告を受け入れない琢海だったが、憧れの彼女と教師の小山田との黒い噂を聞いてしまったり、八雲にさらなる警告を告げられたために調査はやめにしようと彼女に言われてしまったりと、前途多難である。
そんな時、琢海は携帯を忘れたために夜の学校に行き、教師の小山田と、彼女と思われる声の持ち主が揉めている現場に立ち会ってしまう。
その翌朝、早朝に学校を訪れた琢海は彼女と玄関ですれ違う。
その後すぐに、美術室の呪いの絵の前で小山田他殺体を発見してしまった。
一体誰が小山田を殺したのか?
琢海は次第にある人物への疑いを深めていく。
その疑いを晴らすために、琢海はついに重大な決断をしてしまうのだが……
2.シリーズ本編にはない面白さ
本書の帯には「青春 × 特殊設定」という煽り文句がついていましたが、まさにその通りの内容でした。
主人公の琢海が淡い恋心に戸惑ったり、まだ大人ではない自分に焦ったりする姿は、思春期ならでは!
彼が持つサウンドカラーという個性も、これのために重大な誤解が生じたりして、お話の重大な鍵としていい仕事をしていました。
本書はシリーズ本編を知らなくても、ライトミステリとしてちゃんと楽しめる作品だったと思います。
しかし、私はシリーズ本編から入った身なので、どうしてもシリーズ本編と比較しながら読んでしまいまして^^;
八雲が主人公じゃないと、作風がかなり変わるんだな!と新鮮な思いでした。
どう違っていたのか、シリーズ本編の紹介もかねて3つのポイントを挙げたいと思います。
① 二転三転するストーリー
これは少し誤解を招くかもしれません。
シリーズ本編でも、ストーリーは面白く展開しています。
しかし、ストーリーの中心は常に事件にあって、しかも名探偵役の八雲が優秀過ぎるせいもあり、わりと真相にまっしぐらに進んでいる感じはあります。
いわゆる、どんでん返しや、衝撃的な展開、というのは少ないんですよね。
でも『青の呪い』では呪いの絵の噂から始まり、琢海の淡い恋心に注目を集め、そこから殺人事件が起こって……
ストーリーの中心になるものがどんどん変わっていって、その度に「これからどうなるんだ?」と予想のつきにくい展開にワクワクさせられました。
特に、主人公は殺人事件の中心人物ではないというのが早々に判明するので、どう事件に関わっていくことになるのか……
徐々に危ない決断を迫られていくような展開に、読んでいる側も息苦しくなるようなプレッシャーでした。
主人公の決断に説得力も共感もできましたけど……
そうきたか、と意外性もあって後半は特に読み応えがありますよ。
② 誰が幽霊なのかわからない
シリーズ名に心霊探偵、という言葉が入っているくらいなので、常にお話には幽霊などの心霊現象が関わってくるのがシリーズのお約束です。
本作でも「呪いの絵」といういかにもな学校の怪談が登場します。
「「呪いの絵」を見た後に幽霊が出たんだって!」と大騒ぎする生徒たちもいて、主人公の琢海もそんな馬鹿な……と思いつつ半信半疑です。
でもこの状況、実は珍しいことなんですよね。
八雲が主人公なら、見れば一発で解決、幽霊かそうでないか、すぐにわかっちゃうわけです。
でも今回は八雲が幽霊を見分けてくれるわけではないので、「登場人物の中で誰かが幽霊なんじゃないか?」「あそこで見えた人影は本当に幽霊だったのか?」などなど
かなり疑り深く読み進めなければならないことに……!
謎解きに「幽霊か否か」の一要素が加わっただけで真相解明への道はいつもよりかなり難易度アップです。
ぜひ謎解きに挑戦してみてください。
ちなみに私は玉砕です。一つも当たらんかった……^^;
③ 人間は見たい現実しか見ない
最後のこれは、作者さん自身、どこまで意識して書かれていたか不明ではあるのですが……
主人公を始めとして、登場人物たち全員が自分に正直というか、直情径行というか、思い込んだら即行動、という感じなんですね。
人生に「これだけしか選択肢がない」という場面というのは限られていると思うんです。
意識的にも無意識的にも、日々いろいろな可能性を取ったり捨てたりして生きているのではないでしょうか?
特に八雲は、幽霊が見えるという能力のために、いろいろな可能性を検討する傾向が強い人物だという印象です。
生きている人間以外の世界も見えている身としては、常識や良心すら疑ってかかって当然なのかもしれません。
だから八雲はシリーズ本編でも「他にも選択肢はあったはずだ」というセリフをよく言っている気がします。(もちろん本作でも言う)
今回、主人公を変えることで、いつもは事件を解決する側の視点でストーリーを見ていたのが、事件の関係者の目線で書かれたのも大きかったです。
作中で下す、琢海の大きな決断は、先ほど書いた通り説得力も共感もできるんですけど、「他にも選択肢なかった?」 「本当にそれでいいの?」と言いたくなるような決断でもあったんです。
さらに言うなら、決断するに至った根拠も確信があるだけで確証があるわけではないというあいまいさ。
人間は見たい現実しか見ないという名言がありますが、見たくない現実でもそれが頭に浮かぶとそれしか考えられなくなる、というのも真理なのかもしれません。
琢海から見た殺人事件は、まさにそうでした。
他の登場人物たちも、他の選択肢を少しでも考えることが出来たら……
という切なさ、後味の悪さが残る事件の結末でした。
いかがでしたでしょうか?
心霊探偵八雲シリーズは、本編や読み切りなどは角川文庫から出版されています。
『青の呪い』を読んで本編に興味を持たれた方は、角川文庫の棚を探してくださいね!
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。
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