美味しい料理は人と奇跡を呼び寄せる!『異世界居酒屋のぶ 二杯目』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

異世界居酒屋のぶ 二杯目   蝉川夏哉  宝島社文庫

前作『異世界居酒屋のぶ』の続編です。

今回も「のぶ」ののれんをくぐる異世界・古都<アイテ―リア>に住む人々が「トリアエズナマ」や「カラアゲ」に舌鼓をうって、楽しいひと時を過ごしています。

前作では「異世界の人々が日本の居酒屋メニューを飲み食いすることで、定番メニューの魅力を再発見する」ことをテーマに「飯テロ」作品として美味しそうな雰囲気を出していましたが、今回は少し、装いが変わっています。

美味しそうな料理とお酒はそのままに、よりストーリー性がアップした内容になっていました!

本作はドラマ化もしていますが、公式発表されている情報を見る限り、ドラマのseason2の原作は本書だと思われます。ドラマを見てから原作を楽しむもよし、ドラマの予習に読んでみるもよし! ぜひ原作も手に取ってみてくださいね。

それでは、『2杯目』ならではの魅力をご紹介していきましょう。

1.不吉な噂、魔女狩り

いつもこのブログでは本を紹介する時、簡単なあらすじもご紹介しているのですが、前作の『異世界居酒屋のぶ』ではあらすじらしいあらすじのご紹介はしませんでした。

というのも、『異世界居酒屋のぶ』はごく短いお話が寄り集まってできた本で、そのお話は基本的に1話で完結。主人公もお話ごとにどんどん変わっていくのでストーリーというものがないのが、特徴の一つだったんです。

基本的な構成は『二杯目』も変わりません。ごく短いお話がたくさん収録されており、主人公もお話ごとに変わっていきます。

しかし、『二杯目』では「のぶ」が開店している町・古都<アイテ―リア>で流れている不吉な噂がまとわりつくように物語の中に登場します。

その噂が「魔女」

どうやら古都のある異世界には「魔女」に関する怖い言い伝えがあるようです。とはいえ、魔女が本当にいるとは、古都の人々も思ってはいない様子。あくまで「悪いことをすると魔女がきますよ!」といった、大人から子供への脅しレベルの存在のようです。

ところが、その「魔女」の噂がきっかけになったのか、大司教が古都にやってきてしまいます。ちなみに大司教は宗教界のそこそこ偉い人、くらいの意味で使われているようです。

この大司教が来たことで古都に新たな恐怖の噂が流れます

「魔女狩りが始まるらしい……」

歴史の授業で聞いたことがある方も多いでしょう「魔女狩り」。宗教で異端とされた人々を「魔女」として虐殺してまわったという、忌まわしい昔の出来事です。古都でも「魔女狩り」は野蛮な風習とされ100年以上は行われていない……はずでした。

大司教がなぜ古都にやってきたのか? 本当に「魔女」が目的なのか? そんな目に見えないうっすらとした不穏な霧が古都の、そして「のぶ」の常連さんたちの間にも漂っている様子が多くの短編の中に読み取れました。そして読み進めていくうちに、その霧はどんどん濃くなっていくばかり……古都の町の夜は、特に女性は出歩くのが危険と思われるほどに緊張感が高まっていくのです。

現代日本の店である「のぶ」には「魔女」なんて関係ない……というわけにはいかないようです。「のぶ」もしっかり「魔女狩り」騒動に巻き込まれていくことになるのですが……それが本作の一番の盛り上がりになります。

2.新しい人生

『二杯目』のメインになるのは「魔女」と「魔女狩り」の噂についてですが、他にも前作にはなかった要素が登場します。その一つが、「新しい人生」です。

『二杯目』にも数多くのお客さんが登場します。前作から引き続き登場する常連さんもいれば、『二杯目』から始めましての人もいます。

そのお客さんのうち数人にはどうも悩み事があるらしい……ということが「のぶ」で交わされる会話からわかってきます。

誰しも悩み多き人生、愚痴は酒場の肴みたいなもんです。が、悩みが「今後の人生の身の振り方」だとかなりの大事です。酒場で愚痴って解決するような類の悩みではありません。

しかし「のぶ」では奇跡が起こります。そもそも、異世界で開店できているだけで奇跡みたいな店なので神のご加護ばっちりなお店です。「のぶ」で起きる数々の出会い、そして美味しいお料理とお酒が重大な決断の後押しをしてくれるのです。

さらに、新しく踏み出すのは何も客だけではありません。今回は「のぶ」の厨房を任されている大将・信之が料理人として苦悩する様子もちょいちょい出てきます。前作から思っていましたが信之さん、料理人としての腕は大したもので「一体何を悩むことがあるんだ?」と思ったりもしますが、上級者には上級者の悩みがあるようです。

信之も「のぶ」の奇跡に助けられて新たな道を切り開いていく一人……ひたむきな努力を重ねる彼に「がんばれ」と素直に応援したくなりますし……なんと言っても料理人としての苦悩=多くの試作品なわけで……もう思い出しただけで食べてみたくなる料理にお腹がすいてきました。

神のご加護がついた店員も客も前に進める奇跡の起こる店、「のぶ」みたいなお店が近所にあったらなあ、素直にそう思います。

3.酒場と言えば……

『二杯目』では、お客さん同士の出会いや交流が前作より加速するところも特徴の一つです。

中には元々、古都の住人ではなく、旅をしてたまたま「のぶ」に辿り着いた人までが、そこで運命の再会を果たしたりします。その再会がその人にどんな意味を持つのか……少し切ないものもあれば、飛び上がらんばかりの狂喜を呼ぶこともあります。

なんにしろ「出会えてよかったね」と「トリアエズナマ」で乾杯したくなるようなものばかり。

「魔女」や「魔女狩り」で不穏な空気は漂っているものの、一つ一つのお話は前作と変わらず、優しく包み込んでくれるような癒し系のお話ばかりです。世間が多少狭すぎる感じもしますが、「のぶ」の行ってみたくなるような魅力は健在です。


いかがでしたでしょうか?

今回登場する料理の中で一番食べたいのは天ぷらでした。家で美味しくあげるのって、本当に難しいんですよね……古都でも「揚げる」調理方法は馴染のあるものらしいですが、天ぷらは珍しいようで次々とお客さんたちの口の中に消えていきました。

夜に読むのは相変わらず控えた方がよさそうな美味しい1冊でした!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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