妖怪と人間の恋路…その結末の一つがこちら『虚構推理 岩永琴子の純真』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら
虚構推理 短編集 岩永琴子の純真 城平京 講談社タイガ
半分人間やめてる岩永琴子と桜川九郎の2人が妖怪たちの困りごとを解決していく『虚構推理』シリーズ4作目です。
目的達成のためなら、自分が悪役になろうが、残酷な嘘だろうと意外な真実だろうとなんでも利用する岩永の活躍ぶりは本作でも健在です。
5つの短編が収録されていましたが、そのうちメインとなるのは「雪女」が登場する2編です。
いつものように、事件が起きてその解決に岩永が駆り出される……という流れではあるのですが、今回は事件の解決よりも、もっと別の面で岩永が一肌脱いでいました。
『虚構推理』シリーズはアニメの2期目も製作決定しています。公表されている内容を見ると今回ご紹介している『虚構推理 短編集 岩永琴子の純真』が原作のお話を製作中のようです。アニメの予習に復習に、原作も手に取ってみてください。
それでは、あらすじと感想を交えながら作品をご紹介していきましょう。
目次
1.おおまかなあらすじ
まずは5つの短編それぞれのあらすじを簡単にご紹介しましょう。
雪女が登場するお話は1番最初と最後で、登場するキャラクターもかぶっているし、お話の内容も少し続いていますが、ここでは本に収録されている順番通りにご紹介します。
『雪女のジレンマ』
今回の依頼人は雪女。雪山で助けたことをきっかけに仲良くなった人間の男が、殺人容疑でピンチに陥っているという。その男にはアリバイがあるのだが、そのアリバイを証明できるのは雪女だけ。
警察にも裁判官にも、雪女の存在すら信じてもらえないだろう。雪女の証言なしに男の無罪を証明できないか、岩永は相談を受けるのだが……
岩永が語りだしたのは、雪女にとっては残酷な ”可能性” だった……
『よく考えると怖くないでもない話』
便利屋たちがとある廃屋で作業を進めている。作業は順調に進んでいるというのに、男たちの顔は暗い。その理由は、作業中の廃屋にまつわる ”怖い噂” のせいだった。
怪奇現象が起こるらしい……まさか、そんなことあるわけない。いや、でも、もしかしたら……
恐怖に怯える男たちだが、そこにバイトで雇われた一人の青年・桜川九郎が現れた……
『死者の不確かな伝言』
岩永が高校時代に所属していたミス研、その同期の怜奈は不思議な女性・六花に会う。
岩永の恋人・九郎の従姉であり、岩永のことも知っているという六花。しかし岩永の高校時代のことはよく知らないらしい。怜奈は自分がミス研に持ち込んだとある相談ごとにまつわる話を語って聞かせる。
相談ごとの解決のために、岩永が ”悪魔のごとき知恵” を振るった、忘れがたい思い出の一つを……
『的を得ないで的を射よう』
立派な一揃えの弓矢を拾った妖怪2匹が、その所有権をめぐって争いを始めてしまう。競っても、実力は互角で勝負がつかない。
妖怪たちは、どちらが弓矢を持つに相応しいか、その裁定を岩永に依頼する。
岩永は嫌がる九郎を無理矢理ひきつれ、妖怪たちの前に姿を現す。岩永が提案した裁定方法は、逃げ出したくなるくらいトンデモナイものだった……
『雪女を斬る』
高校時代に所属していたミス研の同期づてに、とある依頼が岩永の元に舞い込んだ。
依頼人は人間の男性。相談内容はその祖先に関係するものだった。
男性の祖先は名だたる大剣豪だったのだが、その剣の道を極められたのは「雪女」を斬ったからだと伝えられている。祖先の生涯は数々の名誉に彩られながらも、多くの謎を残して死んでしまった。
その謎たちはことごとく「雪女」の存在を指し示しているのだが……
「雪女」など存在しない、その前提に立って祖先の生涯の謎を解くよう求められた岩永。
しかし、彼女が導き出したのはあまりに残酷なものだった……
2.他人の恋路のために一肌脱ぎます
冒頭にも書きましたが、今回収録されている5つの短編のうち、メインは最初と最後の2つ、雪女が登場する物語です。
あとの3つは少々ギャグ風味で、『虚構推理』シリーズにしては深く考えずに楽しめる作品になっていました。
メインの2つの物語には、共通するテーマがありました。それが「人間と妖怪の恋は成立するのか?」というものです。
作中でも紹介されていますが、雪女といえば小泉八雲の『雪女』が有名でしょう。小泉八雲の作品と知らなくとも、雪女が「お前は美しい」という理由で青年を殺すのをやめたシーンを知っているという方は多いと思います。この昔話の雪女の原型を作ったのが小泉八雲というわけです。
小泉八雲バージョンでも、雪女はその後、青年のもとを人間のふりをして訪れまんまと妻の座に居座ったりするのですが……雪女は人間と容姿がよく似ているため、恋愛関係になるのも想像しやすいということなのかもしれませんね。
本作でも雪女と人間の組み合わせの恋物語が登場します。
くっ付くのか? くっついたとして上手くいくのか?
人間同士でもままならないことが多い恋路、興味がいきつくところはこの2つだと思います。今回の物語で、『虚構推理』風の答えがしっかりと語られていました。
そしてもう一つ気になるのが、主人公の岩永嬢がこの恋愛にどう絡むのか……というところです。彼女、自分の恋愛も今一つ上手くいっていない(と本人は思い込んでいる)し、恋愛=下ネタと思っているところがあるので、他人の恋路に口を挟むのは嫌な予感しかしないわけです、が……
なかなかどうして、ちゃんと協力できていました。これには読み終えて軽く驚きました。他人の恋路の方がうまくやれるんじゃない、岩永嬢。
おかげで読後感はシリーズ中、最も良かったです。
ただ、協力と言っても「いかにも岩永らしいな~」というやり方で、少女漫画にでてくるようなナイスアシストを期待してはいけません……
事件の解決とも絡めて、岩永が他人の恋のためにどう一肌脱ぐのか、注目です。
あと、本作では「この本から『虚構推理』シリーズを読み始めた人にもわかりやすいように、設定や作風を改めて紹介」していました。2022年秋にアニメ2期を控え、さらにアニメの原作となっているだけに初めて手に取る読者にも親切設計になっています。
最初からシリーズを読んでいる私には少々、まどろっこしさや冗長さを感じた部分ではありましたが、読後感の良さにそれも忘れました。
3.作中に登場する古典作品
この項は本当に読書好きな方のために書かせていただきます。
本作では古典作品がいくつか、作中に紹介されています。岩永と九郎の会話の中で「どんな作品か」はおおむねわかりますし、そもそも有名な古典なのでご存知の方も多いと思いますが、原典を読める、しかも無料で! という作品が見つかったのでご紹介しておきます。
1つ目が小泉八雲の『雪女』。
2つ目が楠山正雄の『田原藤太』。
3つ目が『大岡政談』(こちらは作者不詳でした)。
これら3作品が青空文庫で無料公開中です。
青空文庫は著作権切れになった作品をWeb、アプリ上で無料公開している電子の本棚のようなものです。ボランティアの方々の作業で毎日、古い作品が少しずつアップされていっています。
有名どころでは夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、江戸川乱歩……といった超ビッグネームの作品も多数公開されていて、私は毎晩お世話になっています。今回のように古い作品をすぐに探して読めるので重宝しています。
作中に登場する別作品もよみたくなっちゃう方はぜひ、青空文庫の方ものぞいてみてくださいね。
いかがでしたでしょうか?
雪女が登場する2編も面白いですが、残りの3編も楽しい内容です。わたしのお気に入りは『よく考えると怖いでもない話』ですね。九郎の存在は意外な形で役に立ってました。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。
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