他のミステリでは真似できない!? 風変わりな密室3種盛り合わせ『虚構推理 岩永琴子の密室』読書感想

こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。

今回ご紹介する本はこちら

虚構推理 岩永琴子の密室  城平京  講談社タイガ

妖怪たちの知恵の神となったヒロイン・岩永琴子が一風変わった謎解きをするミステリ『虚構推理』シリーズの6作目です。今回は短編集でした。

副タイトルにもある通り、本書のテーマは「密室」。ミステリではお馴染みですね。被害者以外は入ることのできなかった部屋で、どうやって殺人が行われたのか……普通のミステリなら、これが探偵の解くべき謎になるわけです、が。

『虚構推理』シリーズがそんなありきたりな手法で「密室」を採り上げるわけもありません。

「そうきたか!」と『虚構推理』シリーズならではの「密室」ミステリを魅せてくれました。

それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。

1.『虚構推理』が魅せた3種類の密室

今回の短編集には5作品が収録されていましたが、うち3作が「密室」に関するものでした。

毎回いろいろと理屈をこねくり回して一風変わったミステリを提供してくれる『虚構推理』シリーズ、今回の3作の密室ものも、「密室」がテーマではあるものの、その調理の仕方が3作とも違うという、美味しい使われ方をしていました。

それぞれがどんな「密室」だったのか、あらすじと一緒にご紹介していきます。

『みだりに扉を開けるなかれ』

タイトルからも密室を感じさせますね。このお話に登場する事件自体は夫が妻を殺すというありきたりなものです。

しかし夫はいろいろと工夫を凝らし、妻の死体を一人自宅のお風呂場に閉じ込めることに成功。妻を自殺に見せかけ、罪を逃れるまであと一歩の状況を作り出しました。

しかし妻も負けてはいません。最期の、というか死後の力を振り絞って彼女がしでかした「あること」が事件を一変させていました。

一体何が起こったのか?

ネタバレになるので肝心なところは伏せますが、犯人の夫にとって、遺体発見後の事件現場はかなりホラーな状況に感じられたことでしょう……

多くのミステリは「密室をどうやって作り上げたのか」を苦心して考えますが、本作は逆転の発想を使っており、それがいかにも『虚構推理』です。

ちなみにこのお話、めっちゃ短いんですが、「密室」の新しい可能性といい、岩永が妖怪になりうる可能性といいぎゅっとユーモアが詰め込まれていました。

『かくてあらかじめ失われ……』

『みだりに扉を開けるなかれ』の流れを汲んだ作品です。『みだりに~』で起きた事件が妖怪たちのいたずら心を刺激し、別の殺人事件にまで影響を与えてしまいます。

この作品でも自殺と見せかけた殺人事件が発生するのですが、妖怪たちの活躍(?)により事件はあっさり他殺とバレてしまいます。

さぞかし犯人は焦っていることだろう……と、妖怪たちはにんまり。

ところが、当の犯人の様子はというと「よし、計画通りだ」こちらもにんまり。

これには妖怪たちが逆に面食らってしまいます。驚かせようとしたのに驚かされるなんて、と逆恨みも入った悔しさまぎれに、妖怪たちはさらに事件をひっかきまわしてしまい、秩序の番人たる岩永の出番となりました。

密室を作ることで他殺を自殺と見せかける効果を狙う犯人の思考は理解できます。しかし、密室を作り他殺を自殺と見せかけたのに、その密室が崩れて他殺だとバレたのに「これで計画通りだ」とのたまう犯人の思考は意味不明です。

犯人の真の狙いはなんだったのか?

これだけでも一冊本が書けそうですが、本作はさらにややこしい男女の人間関係もからめて作りこまれています。登場人物はそんなに多くはないのですが、もうぐっちゃぐちゃ(笑)飛び交う矢印の多さは事件の真相以上に混迷していました。

登場人物たちも悪人ではないけれど性質は良くない人物ばかり。

それでもみんなできるだけ幸せになれるように取り計らうのが『虚構推理』シリーズっぽい

人生そう綺麗に生きていけるわけではないですよね。とはいえ、本作の人間関係はドロドロすぎですが(笑)

『飛島家の殺人』

こちらが今回のメイン。その内容は「ザ・密室」です

他2作が少々邪道なのに対して、この作品では王道の密室がとりあげられています。

あらすじはこうです。それはもう50年以上も前のこと。才女として財政界をかけのぼり、一代にして飛島家を名家の地位へと押し上げた女傑・龍子。しかし彼女は50年前のとある殺人事件をきっかけに夫と腹心の部下を失い、それ以来ずっと、黒いベールでほとんどの時間を素顔を隠して生きるようになってしまいました。

そして50年後の現在、龍子に長く使えてきた使用人が死に、その幽霊が龍子の孫の元に現れこう言います。

「龍子様の腹心の部下は、間違いなく龍子様の夫に殺されました、ご安心ください」と……

孫は当然、当時の事件の詳細を知りません。しかし、幽霊の伝言はあまりに不穏です。孫は幽霊の必死の訴えにも心動かされ、謎解きの天才として有名な岩永に助力を請うことになるのです。

事件が起きたのは50年前、手掛かりは既になく、当事者たちの記憶も曖昧になっていく中、確かなのは殺人事件の現場となった場所は意図せず密室になってしまった、ということでした。

現場へ行くには一つの道しかなく、犯行可能な時間帯にそこをたまたま見張っていた事件とは無関係な第三者がいたのです。

しかし、どうにかして密室を崩し「殺人事件が可能であったこと」を岩永は証明しなくてはならなくなりました。

「本格派」として有名な有栖川有栖さんや綾辻行人さんの小説にも出てきておかしくない設定です。城平京さんの本格ものというだけでもワクワクしますが、解答も複数用意されていて、さすが城平京さん、ミステリの引き出しの多さが半端じゃないです。

ちなみにこのお話、50年もの間、ベールをかぶり続けているおばあちゃんが可哀そうだと、孫や息子がそのベールを死ぬ前に外してもらおうと頑張る話でもあるのですが、個人的な感想は「余計なお世話だな」でした。50年もかぶっていたら外す方が嫌になっているでしょうに。マスク生活を数年していただけで口元を人に見せるのがなんとなく嫌だ、化粧も楽になって助かったと思っている私なんかはそう思うんですが、少数派なのかな。

2.密室じゃなくても面白い

密室がからまない残り2つのお話も収録されています。こちらはいかにも癖が強いというか、他の作品だったら「やりたくてもできない」ような仕掛けのお話でした。

それでは、あらすじをご紹介しましょう。

『鉄板前の眠り姫』

場末のお好み焼き屋に入った岩永。店主は一見「いいとこのお嬢さん」にしか見えない岩永に戸惑いつつも居心地よく過ごしてもらおうと接客します。

ところが、外はあいにくの雨。雨が降ってくると眠気に襲われる岩永はお好み焼きを食べている途中で眠ってしまいます。

途方に暮れる店主でしたが、そこに「岩永を迎えに来た」という一人の青年が現れます。

店主は「ああ、よかった、これで厄介払いができる」……とはならなかったようで、「お前は本当にこの娘(岩永)の知り合いなのか?」と店主 VS 青年の舌戦が繰り広げられることになります。

シリーズを読んできている私たちからしてみれば、迎えに来た青年は九郎であり引き渡してしまって何の問題もない相手だとわかりますし、そもそもどこの馬の骨だろうと岩永に関わったら、関わった方が痛い目にあうにきまっているので「さっさと岩永引き取ってもらえばいいのに」と思っちゃいますが、このお話に登場する店主さんはそうは思わなかったんですね。

九郎が岩永の知人だと、どう証明するのか?

一緒に撮った写メ・プリクラくらいしか、恋人関係である証拠って思いつかないですよね。そしてこの2人がそんなもの撮っているわけもなく(笑)

そもそも岩永がお好み焼き屋に入ったのも偶然なので、どうやって居場所を知ったのかと。実は九郎はストーカーで、岩永の跡を追っかけまわしているのではないかという店主の疑りも、理解できないことはないですよね。

シャーロック・ホームズ辺りなら強引に「実は店の前の泥はねから……」とか口から出まかせのような推理で丸め込めたかもしれません。

さて、このお話はその後、意外な方向に発展していきます。店主さん、良い人なので何かの機会に再登場しないかな、とちらりと思います。

『怪談・血まみれパイロン』

そもそも、パイロンって何でしょうか?

要はカラーコーンですね。工事現場とか、体育館とかによくある三角形のアレです。赤い色が一番メジャーでしょうか。

このお話はその「赤い色のパイロン」に祟られちゃった男性の体験談です。

読み間違え、書き間違えじゃないですよ。赤色コーンに祟られちゃったんです。

男性は酔っ払いながら夜道を歩いていた時、赤い色のコーンを蹴っちゃったんですね。それ以来、夜になるとアパートの扉を叩く音がして、出てみると赤い色のコーンが玄関前に鎮座しているという……

って、この話、恐いですかね?(笑) 一応タイトルにも「怪談」ってついているくらいですし、起きている現象は怪奇現象以外の何物でもないのですが……

赤色コーンの呪いって(笑)

ホラーとしては全然怖くない。むしろギャグっぽい。

クスクス笑いながら読み進めていけます。

が。それだけで『虚構推理』が終わるはずもなく、オチは二段構えで「え? そうだったの……?」と絶句する展開もありの、「ちょっとかわいかったな」というほのぼの感もありの、短いながら感情が目まぐるしく変わっていくお話でした。

こんなコーンなら祟られるのも悪くない。


いかがでしたでしょうか?

『虚構推理』シリーズは前作の5作目で物語として大きな節目を迎えましたが、6作目は閑話休題的な肩の力を抜いて楽しめる短編集でした。

シリーズが未読の方でもいきなり読んで楽しめる短編集ですし、「密室」もの3作もいかにも『虚構推理』シリーズらしい工夫があり、『怪談・血まみれパイロン』みたいな可愛らしい(?)世界観の話もあって、大満足でした!

ぜひ、手に取ってみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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