九郎が岩永に冷たい理由を考察してみました『虚構推理 岩永琴子の出現』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

虚構推理 短編集 岩永琴子の出現  城平京  講談社タイガ

ほぼ人外の岩永琴子と桜川九郎のカップルが妖怪たちのトラブル解決に奔走する『虚構推理』シリーズの2作目です。

副タイトル通り、さまざまな場所に岩永が現れてはトラブルを解決していく5編の短編が収められています。

短編集ということもあり、前作に比べて「ここがパワーアップ!」や「岩永と九郎の関係が進んだよ!」と思えるところもなく、少々期待外れなのは否めません^^; しかし、前作が好みだった人には引き続き面白く読める内容だったと思います。

前作をお読みになったことがある人にはお分かりかもしれませんが、虚構推理では普通のミステリや謎解きもののように、事件の真実を解き明かしません。岩永と九郎は妖怪たちから持ち込まれる悩みやトラブルを、岩永の頭脳と九郎の異能でもって解決します。しかし、その方法は理屈をこねくり回して「いかにもありそうな虚構(ウソ)」をひねくりだすという変則的なもの。推理が真実かどうかは関係ありません、ウソでも八方丸く収まればそれでよろしい!という、言ってしまえば「嘘も方便」を地で行くような内容の作品です。

本作でも岩永は一生懸命理屈をこねくり回しております。

そして、岩永と九郎の関係も恋人というよりは、熟年夫婦のような愛情はあるけど恋愛感情は薄いという関係のまま特に進展はありませんが、軽妙な2人の会話は笑い(失笑?)と同情を誘います。

相変わらず九郎は岩永にそっけないですが、ほんの少し、九郎の本音が見え隠れしていたかなとは思います(これについては後ほど詳しく)

それでは、簡単なあらすじと感想を短編ごとにご紹介していきたいと思います。

シリーズ1作目『虚構推理』の記事はこちらからどうぞ

1.ヌシの大蛇は聞いていた

(あらすじ)

山奥の沼の主、大蛇が岩永に相談をもちかける。大蛇はとある夜、沼に死体を捨てる女を見つけるが、その女が呟いた一言が気になって仕方ない。

「早く見つけてくれるといいんだけど……」

沼に捨てたのは死体を隠すためではなかったのか? 女の矛盾した言動に大蛇は頭を悩ませていた……

(感想)

岩永が理屈をこねくり回して女の行動に理屈を通そうとするのですが、相談を持ち掛けてきた大蛇、性格に難ありです。人間並みの知能をもっているだけでも厄介な相手なのに、重箱の隅をつつきにくるタイプの性格です。部下の仕事を見張らないと気が済まない上司のような妖怪でした。

細かい性格の大蛇のおかげで岩永は何度も理屈をこね回す羽目に……

1つの事件に複数の質の高い真相候補が揃い、前作の良さをそのまま受け継いだようなお話でした。

そしてこのお話は九郎の岩永への態度がひどい。恋人にそんな理由でデート(?)を断られたら大半の女の子は泣くと思う(岩永は泣かなかったけど)。

あと、本筋とは全く関係ないですが、この話を読むと豚汁が無性に食べたくなります。しかも外で食べたくなる。たまには本とコーヒーではなく、本と豚汁で公園のベンチでまったりするのもいいかもしれません。

2.うなぎ屋の幸運日

(あらすじ)

高級うなぎ店で食事をしているのは男性2人組と、岩永。男たちは中学生にも見えてしまう謎の女の子が気になって仕方のない様子。

男たちはうなぎを食べながら、岩永の素性を推理したり、お互いの近況を報告し合ったりと会話が弾むが、その内容は殺人の告発へと向かっていく……

(感想)

前作では岩永の目線で書かれた文章が多かったので気づいてなかったのですが……岩永ってものすごくビジュアルがいいみたいです。西洋人形のような容姿をしているそうですよ。西洋人形みたいな可憐(見た目のみ)な少女が堂々とウナギを食べていたら確かに気になりそうです。

「おひとり様」という言葉も出来て久しいくらいなので岩永が一人でいて浮くような店を探すのも一苦労だったんではないかな? と作者のシチュエーション作りに想いを馳せてみたりして。焼き肉屋ラーメン店なんてイマドキ普通にいそうですもんね。

とりあえずウナギが食べたくなりました。そういえば前作でも食事シーンやチョコを食べるシーンがあったりして、「食べる」シーンを本シリーズは大切にしているのかもしれませんね。主役の岩永が妖怪じみているだけに、人間味のあるシーンとして食事は大切かもです。

3.電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを

(あらすじ)

孫を事故死で失った男の作った木の人形。

さびれた漁村で起きる魚の大量死。

これらは一見なんの関係もなさそうに見えるが、実はとても厄介な状況を生み出していた。

このままではいつ人が死んでもおかしくない……!

そんなSOSに応えてやってきたのは岩永と九郎の2人組だった。

(感想)

このお話が一番私のおススメです!

理由は2つありまして、まず1つ目が九郎の能力がどのように発揮されるのか、しっかり書かれた最初の作品だからです。

九郎は2つの異能の持ち主で、岩永の知恵と九郎の異能が組み合わさることで妖怪たちのトラブルも解決しやすくなっている、はずなんですが。

前作はその辺、非情にあいまいに書かれていたのが一つ残念なポイントで、「九郎は異能をどう使ってるんだ?」というのがわかりづらかったんですよね^^;

それが、この作品でやっと「具体例が出てきたな」とも思いましたし、「なるほど、これは九郎の異能もないと解決できなかったな」と納得できるシチュエーションでもありました。

おススメの理由2つ目が九郎の岩永への本音が、本人の口からちゃんと聞けたことです。

客観的に見ると岩永は九郎にちゃんと愛されてるな、とも思うのですが岩永の求める愛情とはちと違うようで……

彼女と一緒につい、私も「おい!九郎!(怒)」とか思っちゃうわけです。彼らの会話を読んでいると、岩永が不安にならないわけがないというのは女性読者共通の想いではないでしょうか?

滅多に岩永への本音を語らない九郎が、ぽろっと彼女への想いを漏らした珍しい作品でもあります。「へえ、そういう風に思ってたんだ、」とも思いましたし、「ならちゃんと本人に言ってやれ」とも思いました^^;

4.ギロチン三四郎

(あらすじ)

人を殺した後、その遺体の首をギロチンではねる、という事件が発生。

そのニュースを見たひとりの女性は胸に不安をよぎらせるが、いつしか日々が過ぎて不安も消え去ろうとしていた。

ところが、そんな時に出会ったのが警察より不吉な2人組だった……

(感想)

この1つ前の『電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを』では、九郎が岩永を不安にさせることに怒っていた私ですが、これを読むとまた意見が変わりました

岩永が九郎から素直に愛情表現を受けられないのは、彼女にも原因、ありますね。

完全に自業自得です。

恋愛相談を受けたら張り倒したくなる(もしくは完全に聞かなかったことにする)恋人たちです。

物語の内容としては、2人組と出会ってしまう女性が気の毒になるようなお話でしたね。私もこの2人組にリアルでは会いたくないです。お話で読むくらいがちょうどいい禍々しい2人組です。

5.幻の自販機

(あらすじ)

化け狸たちが運営する「うどん」の自動販売機。そこに食べに来たのが殺人犯だったから大変。本当はないはずのアリバイが出来てしまいます。

アリバイを裏付ける捜査が入らないように、岩永が現役刑事と対決です。

(感想)

イメージは『平成狸合戦ぽんぽこ』ですよね。かわいらしいほわほわした化け狸たちが肉球つきのお手てでうどんをつめたり、だし汁補充したりする姿を思い浮かべるとほっこりした気持ちになります。

このイメージに憑りつかれたのは読者だけではなく、作者もそうだったのかな、と勝手に想像しています。

なぜなら、このお話、「化け狸たちが運営する自販機」ありきで肉付けされたような気がしてならないからです。

そのせいか推理もお話の展開も若干、無理があるかな……

「なんでそうなった?」と思う部分がチラホラ

ちなみにうどんの自販機は実在するようです。化け狸たちと同様に、大切に補修しながら使われているようですので、見かけたら今のうち!の味かもしれませんね。

6.岩永に冷たい九郎、その理由を推測してみた

冒頭にもちらりと書きましたが、最後に岩永と九郎の関係について、私の憶測を語っておこうと思います。

前作から引き続き、恋人というよりは熟年夫婦のような掛け合いを披露している岩永と九郎。そこにあるのはどう見ても甘い恋情ではない2人です。

特に、九郎が岩永のことをどう思っているのか?は本人が岩永には口が裂けても言うつもりはないようなので、他の登場人物との会話や、その言動から推し量るしかありません

前作の最後や、本作でも「電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを」なんかには九郎の本音がちゃんと文章で書いてあるので、「たぶん、九郎も岩永のことが好きなんだよ」とは思います。

でも、「たぶん」がつくんですよね。どうも信用しきれない。

それもこれも、九郎の岩永への数々の仕打ちがけっこうひどいせいです。例えば山奥に夜に向かうのに自分は同行しなかったりとか。これって別に彼女という存在じゃなくても、若い女子の取り扱いとしてはどうなんだ?という疑問が残りますよね。岩永じゃなくても文句の一つも言いたくなるというものです。

しかし、よくよく九郎の立場を考えてみると、彼にも彼なりの気遣いがあるのかなと思わんでもないです。

私なりに九郎の言い分を予測してみました。

九郎の言い分 その①

「自分がついていくと岩永の仕事がやりにくくなる」

本作では触れられてなかったですが、前作では九郎が、妖怪たちからどう思われているのかが、度々書かれていました。九郎も半分人間やめているような存在なので、妖怪たちからすると相当気味の悪い存在のように思えるらしいです。

だから下手に岩永のトラブル解決についていくと「化け物がついてきた!!」と妖怪たちを無用に怖がらせて、岩永の仕事の邪魔になる可能性が高いと思われます。

そう考えると、岩永の行先が夜中の山奥でも、九郎が一緒に行かなかった意味もわからんでもないです。

途中までついていけばいいのに、とは思いますが。

誰も好き好んで足手まといにはなりたくない、迷惑をかける相手が恋人ならなおさら、ということにしておきましょう。

九郎の言い分 その②

「たぶん、同じ人生を歩むのは難しい」

これはもしかしたらこの先、作中で触れられる可能性もあるのでは、と思っています。岩永と九郎は、どちらも人間ではなく半分妖怪に近い存在ですが、九郎の方がその異能のために人間を止めている度が高いです。

もしかしたら、その異能のせいで岩永と同じように年をとって、やがて死んでいくことすら難しい可能性があります。九郎自身がその可能性にどこまで気づいているのかは定かではないですが……もし同じように人生を歩めないとしたら、九郎はいつかは岩永の前から消え去るしかないわけです。それが年をとって死別するわけではないとしたら、悲劇と言って差し支えないでしょう。

当たり前の夫婦の別離ができないなら、変に岩永の想いに応えるのは彼女を傷つけるだけだ……もしかしたらそんな風に考えているのかもしれません。

これらの九郎の言い分は完全な私の想像です。

この先のお話で九郎の本音が岩永に届くことを祈っています。


いかがでしたでしょうか?

締めくくりに、『虚構推理』シリーズが気に入った方への読書案内をしておきます。

おススメするのは三津田信三さんの『刀城言耶』シリーズです。『刀城言耶』シリーズは主人公が事件の推理をし、その推理をの穴を自分で突き崩した後にまた新しい推理を披露して、ということを繰り返す「独りドンデン返し」がウリになっています。主人公が披露するいくつもの推理はどれもレベルが高く「もうどれが真相でもいいじゃん」と思えます。『虚構推理』シリーズとその辺りの作風がよく似ていますので手に取ってみてください。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。

『虚構推理』シリーズの1作目の記事はこちらからどうぞ↓

『虚構推理』シリーズの3作目の記事はこちらからどうぞ↓

九郎が岩永に冷たい理由を考察してみました『虚構推理 岩永琴子の出現』読書感想” に対して2件のコメントがあります。

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