こんなヒロイン、見たことない。キャラ立ち×新感覚ミステリ『元彼の遺言状』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

元彼の遺言状  新川帆立  宝島社文庫

2021年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。

略して「このミス」大賞という愛称で親しまれているこの文学賞、募集要項を読まれたことはありますか?

主宰の宝島社のホームページから一部引用しますと「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を募集しており、「斬新な発想や社会性および現代性に富んだ作品」や「ミステリーとしての要素や冒険小説的興味を多分に含んだ作品」であれば設定は問わないとされています。

つまり「このミス」大賞はジャンルで言えば「ミステリ」だけど「エンタメ性」が高くないとダメ、と募集要項でうたっているんですね。

そのためか、「このミス」大賞出身の作品群は、ミステリと言ってぱっと思いつく横溝正史や江戸川乱歩、綾辻行人や有栖川有栖といった「エンタメ性」を保ちつつガッツリ「ミステリ」に取り組んだ作家さんたちとは方向性が真逆です。受賞作の中には「これはそもそもミステリと言えるか?」と首を傾げてしまう作品もあります(ジャンルがどこに属するかの問題であって、作品自体は面白かったですよ)

そんな中、『元彼の遺言状』はしっかりと「ミステリ」に片足を深く突っ込みつつもう片方の足を「このミス」大賞が求める「エンタメ性」にしっかりと伸ばした「このミス」大賞ならではの作風の作品だったと思います。

何より作品のもつインパクトが大きくて、1ページ目から「これはすごそうだな」と思わせる勢いがありました。

それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。


1.おおまかなあらすじ

主人公の剣持麗子は弁護士。

ある日、大学時代の元彼、栄治が奇妙な遺言をのこして死んだと知ることになる。

栄治は「僕の全財産は僕を殺した犯人に譲る」と遺言状をのこしていたのだ。

付き合っていた当時はそうとは知らなかったが、栄治は大企業の御曹司であり、その総資産はざっと計算しても1000億超……

お金が大好きな麗子は、もし「犯人を仕立て上げる」ことができれば、自分の元にも150億円という大金が転がり込むともくろみ、このチャンスに喰いつくことにする。

ところが、ことは大金を巡る争いにとどまらず、遺言状の盗難事件や、果ては殺人まで発生してしまうのである。

2.こんなヒロイン、見たことない

本作の特徴はなんといっても、主人公・剣持麗子の個性にあります。

小説の最初も最初、1ページ目から彼女のインパクトは強烈です。

冒頭のシーンは麗子がレストランで指輪を差し出す男性を目の前にしているところから始まっています。このシチュエーション、そう、「プロポーズ」です。横には花束を抱えたウェイターもおり、おそらくレストランもけっこうお高そうなところ……プロポーズが家の中だった私には少々眩しい状況です。

麗子はプロポーズにどう答えるのか……!

と、ドキドキしたいところですが、どうも様子がおかしい。麗子、喜ぶどころか驚きもしていないというか、テンションも全然あがっていないというか、むしろ……怒ってる?

麗子の予想外のリアクションに、プロポーズした彼氏とその場に花束を持たされているウェイターと同じくらい読んでるこっちも落ち着かない気分にさせられます。

ここから、麗子は自分の個性を全開にしてプロポーズへの返事(らしきもの)をします。

その個性を一言で言ってしまえば「お金、大好き!」です

プロポーズの返事がお金にまつわるものばかり……というのはなんとも寂しい気もしますが、麗子にとってはそれが一番大事。彼女は弁護士らしい理論整然とした言葉をまくしたて、それはそれは彼氏さんに同情を覚えるほどでした。

このインパクトありまくりの最初のエピソードを読んで、麗子の個性は十二分に伝わりました。が、同時に不安も湧きあがりました。

このヒロインに、最後までついていけるのかな……?

お金が嫌いという人もいないと思いますが、麗子のお金好き度は尋常のレベルじゃありません。ここまで何かを「好き!」と素直になれたら、世の中生きていきやすいだろうなと羨ましくなるほどです。

さらに麗子は「弁護士になれるくらいの優秀さ」+「美人」+「年収2000万円越え」というスペックの高さで、なんだか手に負えない人種のような気さえしてくる始末。

しかし安心してください。麗子はそんな嫌な女ではありません

お金大好き以外に、彼女を表す一言をつけるならそれは「公平」です。

本作には麗子の他にもいろいろなタイプの女性が出てくるのですが、そのほとんどの女性に対して麗子は「長所」を見つけて「感心してしまった」と、素直に良いところを褒めています。

他にも、大して儲かりもしない町の弁護士をしている村山という男性が出てきますが、彼に対しても麗子の態度は極めて「公平」です。おそらく、お金第一な麗子の価値観では、弁護士になったのにわざわざ儲からない仕事をしている村山は「理解不能」な人物だろうに、最後には彼に感情移入するほどです。

麗子の第一印象は「鉄の女」という感じでしたが、もっと正確に表すなら「荒縄の女」くらいかもしれません。丈夫だけど、その形は極めて柔軟に変えられるのです。

麗子に関することでもう一ついいなと思えたポイントは、その性格の背景がしっかりと描写してあったことです。

登場人物を作る時には、その人物の過去を考えるというのは鉄則のようなものです。その人がどんな環境で育ったのかは、現実の人間を考えればわかる通り、その人の性格や個性を把握するうえでとても大事なことですよね。

作中には麗子の父、母という彼女の育ってきた環境を推測するのに十分な情報が登場してくれます!

国家公務員で官僚がこの世で一番すごい職業と思っている父。

その父に黙って従っている、少し何を考えているのか分からない母。

麗子は父への反発心から「世の中には価値観が一つではない」と思うようになったのだろうし、母を見て「私は自分の思ったように生きよう!」と思ったのではないでしょうか。

彼女が「お金大好き!」と素直なのと、他人を見る目が「公平」な理由がきちんと示されていて、ただヒロインに極端な個性をくっつけただけではないとわかってよかったです。

こうして、いろいろとフォローはあるとはいえ、麗子という「イロモノ」ともいえる際どい性格をしたヒロインを主人公に据えるなんて、作者さんは思い切ったことをしたもんだと思います。

キャラ立ちをウリにしたミステリといえば『謎解きはディナーの後で』などの超ヒット作をもった東川篤哉さんがいます。彼にも超がつく高飛車な女を探偵として登場させた『館島』という作品がありますが、あれですらその女探偵は脇役でした。

ちなみに『館島』面白いです。キャラ立ちがウリですが、東川篤哉さんの他の作品と同じく、ミステリとしては本格派といっていい骨太さです。麗子みたいなインパクトある登場人物が好きな方は読んでみてください。

3.「このミス」らしい目新しいミステリ

せっかくの「このミス」受賞作品なので、ミステリとしての魅力も語っておきましょう。

ミステリというと、何か事件が起こり、「誰が犯人なのか?」「どんな方法を使ったのか?」「なぜ犯罪をおかしたのか?」などの疑問を解明していく物語がほとんどです。

しかし『元彼の遺言状』では主人公の麗子が「お金が大好き」過ぎるせいで、そう簡単に探偵役をしてくれるはずもありません^^;

では、どうやってお話にミステリ要素を加えたかというと、「犯人をでっちあげる」というひねり技を繰り出してきました。

そもそもの事件の発端は、麗子の元彼の死ぬ直前にのこした奇妙な遺言にあります。

「僕の全財産は僕を殺した犯人に譲る」

こんな遺言を残された側としては

  • 元彼の死因は殺人だったのか?
  • 殺人ならなぜ事件化していないの?
  • 犯人は誰なの?
  • なんでこんな変な遺言を残したの?

……などなど、数々の疑問が頭を駆け巡り、故人のしのぶ気持ち半分、好奇心半分くらいで真相が知りたくなるのが人情……だと思うのですが、麗子はこれらの疑問を一つも気にすることなく「元彼の遺産を相続するためにどうやったら犯人をでっちあげられるか?」に優秀な頭を全力投球するのです。

そうして、彼女が作り上げた「遺産相続作戦」もとい「犯人はこの人だ作戦」はしっかりと練り上げられていました。しかも、それがかなり意表をつくようなアイディアなんです。

さすが作者は現役弁護士なだけはある!

犯人をでっちあげるという目新しさ狙いだけでなく、ちゃんと解決方法も説得力のあるものでした。

麗子は「犯人でっちあげ作戦」を成功させるために、自らいろいろと動き回ることで物語はどんどん進んでいくのですが、ここで安心してください。

さきほどいくつかあげた元彼の奇妙な遺言状にまつわる謎は、すべて解明されます

ちゃんと読者が持つであろう疑問に答えを用意してくれているのは親切でした。その代わり物語も後半に入っていくと「犯人でっちあげ」の要素は薄まり、普通のミステリになってしまうので少し残念なところでもあったのですが……

ちなみに、「犯人でっちあげ」の方向を貫いた作品に城平京さんの『虚構推理』があります。真相を暴くのではなく、「誰もが納得できるウソを組み上げる」という一風変わったミステリです。「このミス」のようなひねりのあるミステリが好みの方にはおススメできる作品です。

『虚構推理』のあらすじ、感想はこちらの記事をどうぞ

4.ちょっと勉強にもなる

本作は面白い作品である上に、読むと少しお得なことがあります。

それが、ちょっとした法知識、経済知識が得られるということです。

作者は現役弁護士です。現在は執筆に専念されるために休職されているそうですが、本作を書いていた時は現役でバリバリと働いていたわけです。

だからこそ思いつけるようなアイディアがネタとして使われていますし、作品の随所に法知識、経済知識が散らばっていて少し勉強になります

もちろん、フィクションの世界のことなので多少の誇張があって鵜呑みにはできないですが……

普通に生活していて知る機会の少ない知識ばかりなので「へえ~」と知的好奇心もおおいに刺激されました。

小説を読んで少し賢くなる、お得な感じがしてよかったです。


いかがでしたでしょうか?

「キャラ立ち」+「目新しいミステリ」

本作を簡単にまとめるとこれに尽きると思います。

「キャラ立ち」したミステリであれば東川篤哉さん、「目新しいミステリ」を貫いたのであれば城平京さんの作品の方が、突き抜けている分、小説としての完成度は上だなあ、というのが正直な感想です。しかし、「読んでいる人を楽しませたい!」という作者の意気込みが伝わってきて、終始明るい気持ちで読める作品でした。

手軽に読書を楽しみたい方にピッタリな作品です、手に取ってみてください。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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