何かを諦めそうなときに……背中を押ししてくれる一冊です『ラブオールプレー君は輝く!』

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ラブオールプレー君は輝く!  小瀬木麻美  ポプラ文庫

バドミントンに賭ける青春をえがく『ラブオールプレー』シリーズ、最後の作品です。

シリーズで唯一の短編集で、これまでシリーズの中で登場したキャラクターがそれぞれ主人公としてスポットライトを当てられています。

これまでのシリーズではバドミントンの天才たちの成長と内面に迫る内容でしたが、今回は趣が少し違っています。

4つの短編それぞれで切り口は異なっていますが、全て「何かにつまずいている人への応援メッセージ」のような話です。

天才も、天才でなくとも、たとえ絶望しかなくとも、それが何かを諦める理由にはならない……という厳しくも力強い激励の気持ちが込められていました。

他にも、前3作のシリーズ作品では語られなかった部分を補完するような裏話もたくさん含まれていましたよ。

それでは短編それぞれのあらすじと感想をご紹介していきたいと思います。

前作『ラブオールプレー夢をつなぐ風になれ』のあらすじと感想はこちらからどうぞ

第1章 チームメイト

主人公は横浜湊高校バドミントン部の松田航輝と榊翔平です。

ともに、シリーズ第1作目『ラブオールプレー』から登場しており、1作目の主人公・水嶋亮の同期です。

この2人、松田はクールで、榊は熱血と、性格的には合いそうにもないんですが、実は松田の家に榊が頻繁に泊りに行ったりと、いつの間にか「超仲良し」になっていたことが、1作目の途中で明かされていました。

でも、なんでそんなに仲良くなったのか、そのきっかけまでは書かれていません。

このお話では、そのきっかけとなったエピソードがメインです。

あらすじ

横浜湊高校で初のランキング戦で松田は水嶋と対決します。苦い思いを味わった松田は、一人モヤモヤとした思いを抱えたまま帰宅。熱くなり過ぎない性格の自分が、なぜ今日に限って苦しい思いを引きずっているのか、松田自身も分からないまま、夕食を食べに近所で評判の洋食屋に入ります。しかし、そこで出会ったのは意外な人物で……

松田は1作目で登場した時からクールで、慣れあいを好まない性格として書かれていました。彼のその性格は、生まれつきというよりも育ってきた環境が大きいようであることも、このお話で見えてきます。どうも、松田君はネグレクト気味の家庭で育ったようで、何かに期待することに臆病になっているようです。

一方、人懐っこく熱血な性格に見える榊は、実は繊細な思いやりの持ち主で、松田のつけたクールな仮面にただ一人、気づいていたようです。

2人の距離が縮まる話も素敵でしたが、2人が語り合った「絶望」についての考え方が、「人生何周目?」というくらい大人びていました。

松田も榊も、ごく身近にいる「天才たち」を目の当たりにして、「絶望」を高校生にして味わっていることは共通しています。

でも、彼らにとって「絶望」は何かを諦める理由には決してなりません

「絶望」だって、諦めなければ次へと繋がる助走にできるということを教えてもらいました。

人間生きていると、大きな壁にぶち当たる人の方が圧倒的に多いでしょう。

壁にぶち当たるのなんて嫌なもんです。

でもただでは転ばない、ということが大事なんですよね。

もうちょい若い時に読みたかったのが本音ですが、過去の自分の頑張りを誇れるような気持ちになれたことが嬉しかったです。

第2章 天才なんかいないけど

主人公というか、メインで書かれるのは1作目の主人公・水嶋亮の中学時代の親友でありバドミントンの相棒だった静雄が進学した高校のバドミントン部の同期・拓斗です。

1作目を読んだことのある方は覚えてらっしゃるでしょうか?

横浜湊高校の練習試合の相手として静雄たちがやってきたシーン。

水嶋が静雄との再会を喜んだ場面がえがかれたくらいで、あっさりと終了してしまったワンシーンなんですが、そこに行きつくまでに、静雄くんたちは相当苦労をしていたようです。

あらすじ

顧問のやる気はゼロ。

練習場所の確保すら難しい。

当然、部員たちのやる気は低い。

そんな状態でも部長の拓斗と副部長の静雄は、なんとか目標である関東大会出場を目指して、目の前の一勝を積み上げることをがむしゃらになって目指します。

タイトル通り、静雄たちの高校のバドミントン部には天才プレーヤーはいません。それでも、彼らは腐らず、めげずに、目標へとひた走ります。

「青春だなあ……」の一言で済ませるのは簡単ですが、大人になった今、静雄たちをマネできる人が何人いるでしょうか?

大人になると「これを続けて何の意味があるのか?」と、つい打算的に考えてしまいがちです。才能もなく、もっと若いころから始めてた人間に勝てるはずもなく、それでも必死になって頑張る意味はあるのか?と二の足を踏んでしまう。

そんなためらいや諦めを吹き飛ばしてくれるのがこのお話に込められたメッセージです。

もし目標としているところに届かなくても、悔しかった思いは仲間との絆に変わったりと、人生にとってはいい経験になるはず。

それに、なんだって夢中でやった方が絶対に楽しいことは間違いありません。

天才じゃないなんて言い訳を考えずに挑戦・継続できていたころの純粋な気持ちを思い出させてくれるお話です。

第3章 ツインズ

主人公は横浜湊高校の東山太一、陽次の双子の兄弟です。

彼らは中学のころから注目されているダブルスの選手で、1作目の主人公水嶋亮の同期でもあります。

この2人、双子だということもあり仲もいいしダブルスの相性もぴったりで、少しメンタルが崩れやすいくらいで順風満帆のバドミントン人生を歩んできた……くらいの認識しかありませんでした。

シリーズのレギュラーキャラにもかかわらず、ここまであまり掘り下げられてくる機会のなかったツインズの過去と、双子でもけっこう性格が違っていたことが明かされます。

あらすじ

中学に入るタイミングでそれまで続けてきた別のスポーツからバドミントンへ転身することに決めた太一と陽次。

双子ということもあり、ダブルスを組んでメキメキと実力を伸ばしていく2人ですが、陽次はどうもバドミントンに本気になることができません。

陽次のやる気スイッチを押したのは、シリーズでもおなじみのあのペアでした。

才能は間違いなくあるのに本人のやる気だけがついてこない、というより、才能があるゆえに、ちょっとの努力で周りを圧倒してしまうがゆえにやる気がでないという、贅沢ともいえる悩みを書いたお話です。

ただずっとずっと上、日本一を、そして世界を目指すなら、そんな考えでいてはもちろん甘いわけで、その厳しい現実を突きつけられるお話でもあります。

少し何が言いたいのか、ぼんやりとした作品ではあるのですが、読んでいて感じたのは「本人が本気にならなければ、才能だけでは周りも認めてくれないし自分にとっても最高の居場所は作れない」ということでした。

私の大好きな漫画に『ハイキュー!!』というバレーボール漫画があるのですが、その中の一人のキャラクターを思い出しました。そのキャラクターはバレーボールが大好きで才能もあり、さらには「彼の本気には本気で応えなければと思わせるモノがある」と後輩からも慕われています。

もちろん、周りを巻き込むことが出来るかどうかは運や相性の問題もあるでしょう。

でも、まずは自分が本気を出すことが大事で、それが結局、自分の居心地のいい場所を作る第一歩なのだなと忘れがちなことを思い出させてくれるお話でした。

第4章 今が輝く時

主人公は岬省吾、水嶋と同学年です。

中学時代は神奈川にいて水嶋とも対戦しているシーンがあります。

高校は別の地方へ行き、その後水嶋と同じ大学に進学し……と、登場シーン自体は少ないのですが、水嶋の視点では同世代のライバルの一人であり、この人もバドミントンの天才の一人です。

水嶋と対戦したときの不敵な様子から、岬は自分の才能を信じて努力を重ねてきたタイプかと思っていましたが……全然違ったようです。

あらすじ

小学生のころは地元で敵なしの天才少年だった岬。

しかし中学から神奈川に移り、環境が一変。神奈川には本物の天才・遊佐賢人が君臨していました。バドミントンをしている時が一番自分らしくいられた岬の自信やプライドはペシャンコにされてしまいます。

遊佐賢人、水嶋亮といった天才たちから逃げるように、高校からは関西へ移った岬。彼はペシャンコにされた自信を回復できないまま、それでも自問し続けます。

「天才を超えるにはどうしたらいいのか?」と……

他にも、「才能とは何か?」 「チームとは何か?」といった難しい問いを岬の視点で考えていくお話になっています。

これらの問いに上手く答えられる人っているんですかね? そもそも正解ってあるんだろうか? 自問し続ける岬自身も、結局、言葉ではうまく答えを見つけられなかったようです。

でも、彼が努力を重ね、日本のトップクラスの選手へと成長していく過程にこそ、答えが表現されていたのではないかと思います。

岬は何度も挫けそうになりながらもバドミントンを諦めることはありませんでした。

才能とは挫折を知らないことでも、常に一番でいることでもない。失敗を重ねてもなお、しがみつけるかどうかが最も重要……なのかもしれません。

そして才能を育むのは1人では難しいのだということも、このお話では語られていたと思います。

自分を追い抜く可能性のある存在が身近にいることは脅威です。脅威ですが、そういう存在がいた方が結果として自分も大きく成長できるし、それがチームの持つ可能性なのではないか? なんてことを考えながら読んでいました。

同じ目標を共有できるライバルなんてこれまでの人生で自分は出会えたことがあったかなー?^^;

そう考えると、岬自身はそのありがたみがピンときてないようでしたが、少しうらやましいです。


いかがでしたでしょうか?

4つの短編は「諦めない」ことが大きなテーマとして貫かれていたと思います。

天才でも、天才でなくとも、「諦めない」というのは一つの才能であり素晴らしい経験になる、ということをいろいろな角度から表現されていました。

読むと、「私も!」と気持ちが前を向く『ラブオールプレー』シリーズの良さもあれば、これまで掘り下げられてこなかったキャラクターの裏話もあったりと、作品の魅力がつまった短編集でした!

『ラブオールプレー』シリーズはこれでおしまいのようですが、ぜひ1作目から全部読んでみてほしいです。

面白いですし、何より前向きな気持ちと勇気がもらえますよ!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

シリーズ1作目『ラブオールプレー』のあらすじと感想はこちらからどうぞ

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