ずっと読みたかった八雲と春香がここに……後日談×ファンブック『心霊探偵八雲 コンプリートファイル』読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら

心霊探偵八雲 コンプリートファイル  神永学  角川文庫

まずこれだけ言わせてください…

『心霊探偵八雲』シリーズ、完結おめでとうございます!!

長かったですね~。シリーズは2004年開始らしいので15年以上かけての堂々完結! シリーズがここまで続いたこともすごいですし、ちゃんと完結までしたことはもっとすごい! 世の中、読者泣かせなことに「未完の名作・傑作」はかなりありますからね。シリーズが終わっちゃうのは寂しい気持ちもありますが、ちゃんと物語を見届けられたのは読者にとっても幸せなことです。

本書はシリーズ完結記念を祝して最終12巻『魂の深淵』と同時発売になったファンブックです。中身は作者・神永学氏のインタビューだったり、八雲たちの後日談だったり(需要しかない)と盛沢山。

どんな内容なのかちらりとご紹介したいと思います。

…………

あ、ご紹介に入る前に一つだけ。「シリーズ完結」とさっきから書いてますが、正確には「シリーズ本編の完結」です。『ANOTHER FILES』として刊行されている読み切り作品などはこれからも出版される可能性はあるそうです。現に、最終12巻発売後に『INITIAL FILE』として『幽霊の定理』という本が出版されています。こちらは神永学さんのもう一つのシリーズ作品『確率捜査官 御子柴岳人』とのコラボ(?)作品のようです。

読み切りでも八雲と春香にまた会えるのは嬉しいですよね。それにコンプリートファイルを読む限り、もしかしたら後日談的なものを書いてくれる可能性もあるとかないとか……! 後日談は需要しかないと思うのでぜひともがんばっていただきたいところです!

さて、寄り道はこれくらいにしておきまして、『コンプリートファイル』の中身をご紹介していきましょう。

1.こんな感じの内容でした

まずはコンプリートファイルの中身からご紹介していきましょう。

①インタビュー

要は『心霊探偵八雲』シリーズの、そして作者・神永学さんのファンブックなので、よくある「インタビュー」や「対談」が5編も入っています。

「ちょっと数多いな…」と思いますが、対談相手が豪華です。京極夏彦さん(直木賞等受賞の売れっ子作家)、藤巻良太さん(元レミオロメン)、鈴木康士さん。

最後だけ「誰だろ?」と思ってしまったのですが(すみません……)神永学さんとの関係を知ってハッとしました。鈴木康士さん、文庫本版の『心霊探偵八雲』シリーズの表紙絵担当の方だったんですね……! あの「絶対このテイストは真似できそうもない!」というラフスケッチの良さも残しつつも美麗で繊細なイラストを手掛けられていた方と作者ご本人の対談は、作品の世界観を作り上げたもの同士の秘話も詰まっていて、「こんなふうにクリエイターは考えるんだ」と刺激たっぷりでした。

刺激たっぷりと言えば、単行本版の表紙絵担当の加藤カツアキさんと鈴木康士さんの対談もあり、単行本版と文庫本版では神永学さんからの要望が異なっていて、それも興味深かったです。いろいろと作品世界のこと、そして読者のことを考えて本は作られているんですねえ……

他にもインタビューを読んでいると、『心霊探偵八雲』という作品群がどうやって神永学さんの中で育まれていったのか、も感じ取れました。神永学さんの半生がけっこう色濃く投影されているようです。作品が生まれた背景を知ると、何気ないシーンや八雲の立ち振る舞いにも奥行きが見えてきて、より作品を楽しめると思います。シリーズを読み返す前に、知っておくと絶対何倍も楽しくなりますよ!

②幻のデビュー作『赤い隻眼』

神永学さんのプロデビューのきっかけはご存知ですか? 

普通、小説家がデビューする時は公募の新人賞をとるケースが最も多いかと思われます。最近でこそ、ネット小説からデビューという道もありますが、神永学さんがデビューされた時期はそんなに一般的ではありませんでした。

しかし神永学さんは文学賞を受賞されたことはたぶんない……そう、小説家としては異例の経歴の持ち主なのです。

きっかけは自費出版した『赤い隻眼』こちらが出版社の目に留まって、新人作家発掘・応援キャンペーンの流れにのって、あっという間に人気を得て……ざっといえばこんな経緯で人気作家の仲間入りをされたのです。この辺りの経緯は本書に当事者の目線から語られていますので気になる方は読んでみてください。

さて、その自費出版された『赤い隻眼』。タイトルからも察せられる通り、現在の『心霊探偵八雲』シリーズの前身ともいえる存在です。すでに八雲も春香も登場しており、八雲の赤い片目には幽霊が見えており、その能力と類まれなら推理力のおかげで八雲は名探偵として活躍している、という設定も出来上がっています。

そもそもが自費出版で部数も少なかったこと、出版から時間が経っていることもあり、現物を入手するのは相当に困難でしょう。

しかし、本書には大!サービスとして『赤い隻眼』に収録されているうちの1編をまるっと、そのまま、載せてくれています! これはファンには嬉しい!

前述したように設定や構成はほとんどプロデビュー後の第1作『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』の第1話と同じです。でも、細かい文章の表現やキャラクターの言動が少しずつ異なっています。

読み比べてみると、確かに『赤い瞳~』の方が、読みやすさや伝わりやすさによりこだわった表現になっていることがわかります。

本を出版する際に、作家自身が作品をブラッシュアップしていく努力をされているのはもちろんですが、最初に作品に目を通す編集のアドバイスというのも、作品に大きく影響を与えているんだな……ということがよくわかります。

小説を書いているすべての方に参考になる「資料」です、読み比べてみてくださいね。

2.お待ちかねの後日談

『心霊探偵八雲』の最終巻まで読み終わり、そのラストに胸を震わせた方は多いでしょう。しかし同時に「ここで終わりかーー!!!」と思った方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。

ここで終わりにしてもらっても全然いいんですよ。「みなまで言うな、言わなくてもわかる」というもどかしさこそが萌えだという意見もあるので。しかし、12巻(+αの読み切り)まで読んできた私としては、シリーズ通して春香ちゃんの片思いに感情移入しまくってきた私としては「あと一押し!」が欲しかったのは事実です。

その「あと一押し!」を実現してくれる後日談が『コンプリートファイル』には収録されています!

八雲と春香の後日談はもちろん、シリーズのレギュラーキャラが登場し、シリーズ後にどんな人生を送ることになるのか、その行く末を思わせる短編が5編も!収録されています。

ざっと登場キャラクターを紹介しますと、

宮川、畠、石井、真琴、恵子、敦子、奈緒、後藤、英心、八雲、春香。

こうして名前を並べてみると、シリーズの主要キャラも増えましたね。最初は八雲と春香と後藤の3人だけだったんですが^^; 特に監察医の畠先生とか、怪物めいたキャラそのままに要所要所で不気味さを演出してくれました。もし実写化したら誰が演じるのかちょっと気になります(笑)

後日談はシリーズの終わりに相応しい幸福感が感じられる内容でした。これはファンだったら読んだ方がいいですよ。

3.物足りんのよ!

『コンプリートファイル』はファンブックとしてはかなり満足度が高く、シリーズ読み通した人には迷いなくおススメできる1冊です。

しかし、ここで私はあえて言いたい……!

少し、物足りない、と!

『コンプリートファイル』やシリーズの内容のことじゃないですよ。そこは誤解しないでください。私が物足りないのは「もうちょっとその後の姿をみてみたいなあ」ということです。

八雲も春香も、それはそれは、シリーズ本編では苛め抜かれたわけじゃないですか(笑) 八雲の父にも、七瀬美雪にも、とことん振り回されて、特に八雲なんかは人生の半分くらいは孤独に沈んでしまっていたわけです。

やっと、全てに決着がついて心も晴れやかになったのに、そこで終わっちゃうのって少し、いやかなりもったいないという気がするんですよね。

もう少し、八雲と春香を(そしてついでに私も)幸せにひたらせてくださいよ! という感じです^^;

要するに、シリーズが新章なり読み切りなりで、なんらかの形で続いていってほしいなあという想いでいます。続いてもホラーミステリ路線だから殺人事件が起きちゃうだろうから幸福感いっぱい、というわけにはいかないんだろうけど(笑)

いるかわからないですが、私と似たような思いを抱えている方にはここで少し朗報です。

作者の神永学さんが『コンプリートファイル』の中で、シリーズの今後についても触れられているのですが、「続編、もしくはこれまでの『ANOTHER FILES』のような読み切りは出すかもしれない」という主旨のコメントをされていました!

これはぜひとも期待したい!!

そして、この期待はちゃんと発信されなければ意味がない!

というわけで、微力ながらここで期待の想いを発表させていただきました。

神永学さん、そして編集の皆さん、『心霊探偵八雲』シリーズ続編、お待ちしてますよ!


いかがでしたでしょうか?

『コンプリートファイル』には作品の世界観を作り上げてきたクリエイターたちのこだわりも語られ、八雲と春香たちの後日談もあり、と大満足な内容でした。

シリーズファンの方はぜひ手に取ってみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です