岩永ファンは必読、劇薬娘の良いところとは?『虚構推理 スリーピングマーダー』読書感想

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虚構推理 スリーピングマーダー  城平京  講談社タイガ

虚構推理シリーズの3作目です。

人間よりも妖怪に近い存在の岩永琴子と桜川九郎が活躍する一風変わったミステリがウリの虚構推理シリーズ。今回も主人公たちの元には「無理難題」が持ち込まれます。

無理難題を「虚構」つまり「ウソ」でもって、いかに四方八方まるく収めるかがこのシリーズでは大事にされてきましたが、今回は少々意外な結末へと向かいます。

長編と銘打ってありますが、岩永の高校時代の話あり岩永の宿敵(恋敵?)でもある六花がメインのエピソードもあり、と短編集のような趣向になっていました。

シリーズでお馴染みの岩永と九郎の熟年夫婦じみたやり取りも健在です。この2人のやり取りも「全然甘さが感じられない」という苦笑から、「もはやこれは始終どこでもいちゃついているということでは……?」とノロケに思えてきました。

それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。


1.おおまかなあらすじ

冒頭にも書きましたが、本作は長編と銘打ってあるものの、大きく3つの話にわけられ、それぞれの話がゆるーく繋がっているという短編集のような構成になっています。3つのお話にわけて、おおまかなあらすじをご紹介しましょう。

岩永の高校時代

まず最初に語られるのは岩永琴子が高校1年生のころのお話です。岩永は高校入学と同時に、その人形のような容姿と生粋のお嬢様という生まれのせいで学校中からの注目を集める存在となっています。岩永自身は周りとつかず離れずの一定の距離を保とうとしていたようですが……

恐れ多くも岩永を入部させようと企んだ命知らずがおりました。その名も「ミス研」。

廃部危機に立たされているミス研。その危機を免れるべく、何かと目立つ岩永を勧誘しようとしますが……

前作、前々作と読んだ人には「あんな劇薬みたいな娘を巻き込んで大丈夫か……?」と不安しかありません。

ミス研の運命やいかに……

六花はそのころ

桜川六花。この名前が出てくるのはシリーズ1作目以来ですが覚えていらっしゃるでしょうか? 読んでいない方のためにも軽く説明しておきますと、彼女は岩永の恋人、桜川九郎の従姉にあたります。岩永が九郎と出会った場所、病院にずっと長期入院していましたが、退院して現在は行方不明となっています。彼女も半分人間を止めてしまった存在で、自分のとある目的のために岩永と敵対するような行動をとることがある危険人物です。

その六花が行方不明中に、どんな暮らしをしているのかが明かされます。

1作目以降、気になる存在としてずっと記憶に引っかかっていた六花。

六花の具体的な容姿や生活パターンが明らかになりますが……怪しいの一言です。

さらにそんな怪しい人が事故物件に住んだりするんだから……興味のかきたてられる状況ですよね。

そして本題

ここまでですでに半分くらいページは過ぎています。ここからやっと本題に入ります。

今回の岩永の依頼人は人間です。もう間もなく病死することが決定しているおじいちゃんですが、彼の若かりし頃に起きたとある殺人事件について無理難題をふっかけてきます。

おじいちゃんは昔、妖狐に頼んで自分の奥さんを殺害してもらったと岩永に告白します。殺人事件が発生した時間、おじいちゃんには鉄壁のアリバイがありました。当然、容疑者から外れ、事件は迷宮入りとなりました。

しかし、おじいちゃんは「殺人を自分がやったことにしてほしい」と言い出すのです。

依頼殺人ですから、その事実が明らかにできればおじいちゃんは奥さん殺害の罪に問われることでしょう。

が、依頼した相手が妖狐だからややこしい。

一般人に「妖狐に殺人を依頼しました」と言っても、「おじいちゃん、ボケちゃったのね」と言われておしまいでしょう。それじゃあ、マズいわけです。岩永お得意の「ウソ」を駆使しておじいちゃんが犯行可能な状況をひねり出す必要があります。

さらに今回は、ただウソをひねり出せばいいというわけではない、特殊な条件つきです。殺人事件の解答を考えるために、新たに殺人事件が起きかねない状況に追い込まれる岩永……

ウソをひねりだしていく過程でも、次々と新事実が飛び出し、緊張感のある小どんでん返しの連発です。それだけでも面白いのですが、今回は説得力のあるウソが構築されたそのさらにあと、ある意外な結末が待っていました

このラストを想像できた人はいないことでしょう。ぜひ、見届けてください。

2.岩永ってそんなにたち悪いか?

岩永の先輩、同級生、六花、その他もろもろ……本作に登場するキャラクター達に共通する思いがあります。

それが「岩永はたちが悪い」というもの。

これは何も本作に限ったことでもなく、前作でも前々作でも、岩永の評判はまあ、悪い(笑)

「触らぬ神にたたりなし」の神を「岩永」に読み替えてしまってもいいほど、周囲の人物に危険人物扱いされています。

とはいえ、これには当の本人、岩永にも責任はあります。

彼女の言動は常識からは外れていることも多いし、連れ立っていることも多い九郎への態度も下品だったりして初対面で彼女に良い印象を持つ人間はそうはいないでしょう。

しかし、本作では、今まで植え付けてきた「岩永はたちが悪い」という印象を「本当にそうか?」と疑問をなげかけるのが一つのテーマだったと思えます。

確かに、本作でも岩永の評判は悪いままです。

例えば、岩永の最初の犠牲者、高校時代のミス研部長。彼は岩永を利用しようと近づいて、手ひどいしっぺ返しにあってしまいます。そして愚痴めいた口調で「岩永に関わるんじゃなかった……」と漏らすわけです。

しかしこれって、よく考えればひどい話じゃないですか? 自分は利用しようとしたくせに、思い通りにいかなかったからって後悔するって、自業自得もいいとこのような気が……^^;

本作で岩永にぎゃふんと言わされる人には「因果応報」という言葉がよく似合っている気がします。

こんなふうに「岩永はなぜ評判が悪いのか?」という理由を考えてみると、その理由の根底にあるのが「自分の思ったように岩永が動いてくれなかったから」という他の登場人物たちの利己的な心情がみえ隠れしていたのが本作だったと思います。

さらに、岩永について一歩踏み込んで、彼女はなぜ自分を利用しようとするやから達をやり込めるのか、その理由も追及してあります。

この理由を知ると、妖怪たちが彼女を祀り上げるようになった理由もよくわかるというものです。妖怪たちの方が人間を見る目があるのかも。

あまり目立たない(?)岩永の良いところがしっかり表現されているので彼女のファンは必読です。

しかし、岩永の本質を見抜いていたのは妖怪だけではないようです。

3.もはやノロケに思えてきた

岩永の本質を見抜いていた存在、それは九郎です。

時に岩永の頭をわしづかみにするような横暴な態度もとる岩永の恋人・九郎ですが、その本心がちらっと垣間見えるのが、虚構推理シリーズのキュンとくるところです。

本作でも、九郎と岩永の熟年夫婦のような容赦ないやり取りは健在です。時に殴り合い、時にののしり合い……周りの目を気にせずにケンカに忙しそうな2人の姿は笑えます。

しかし、目撃者によれば「九郎はけっこう岩永のことを大事にしているようにみえる」らしいです。なんでも、九郎は岩永の横を歩くときにさりげない気配りを見せていたりするのだとか……

さらに、毎作恒例となってきた、九郎の岩永への本音が漏れるシーンも最後にしっかりと書かれていました!

これは、どんなに邪見に扱おうが九郎は岩永のことをしっかりとよくみてくれている、良き理解者……ってことでいいんですよね?

2人がののしり合いながら殴り合いをしている時、それはある意味2人の世界に没頭しているってことなんでしょうか?

不安は完全には消え去らないものの、岩永と九郎の遠慮のないやり取りは実は「ノロケ」だとそろそろ確信してもいいのでは……?

なんだかんだ「お似合い」に思えてきた2人。しかし、2人の行く末について不穏な予告(?)も登場しており、恋路の行く先も少しきになってきました。


いかがでしたでしょうか?

本作だけでも十分面白く読めましたが、印象としては、このお話はどうやら次にある大きな動きの伏線になっているんじゃないか……? という節がありました。

特に気になるのは六花の動向です。本作で彼女を登場させたのはいったいどんな意味があったのか……

4作目もさっそく読もうと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。

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