魅力的な登場人物たちと熱い展開に導かれて迎える最高の読後感!『火喰鳥』読書感想

こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。

今回ご紹介する作品はこちら

火喰鳥  今村翔吾  祥伝社文庫

twitterの読書アカウント界隈で、一時期、連日のように #読了 報告が流れてきていたこの作品。

どのtweetにも「おススメです!」「面白かった!」という好感触な内容が書かれていて

これは読まねばなるまい!

……と思い、手に取りました。

結果……

大正解です!

さすが読書アカウントの皆さん、おススメに従って間違いなしですね!

本書は江戸時代の火消(今でいう消防士さんですね)のお話なんですが、普段時代小説をあまり読まない私でもすっと話に入っていけましたし、何より登場人物たちの生き生きとした活躍・生き様がとても魅力的でした

読み終わった今でも、火消たちが燃え盛る江戸の町を背景に命がけで、しかし情熱をもって任務に挑んでいる姿が目に浮かぶようです……

本作が1作目でその後シリーズ化されたというのも頷きの面白さでした。

それでは、あらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。

1.簡単なあらすじ

物語の舞台は江戸時代。

この時代「火事と喧嘩は江戸の花」なんていわれていましたが、裏を返せばそれだけ火事が多かったということでもあります。

火事の時、現代のように電話一本で消防車が駆けつけてくれるわけではありません。

そのかわり活躍していたのが「火消」と呼ばれた男たちでした。

今でいう消防士であり、火事が起きたとなれば一番に現場に駆け付け、延焼を防いだり消火にあたったりと身一つで消火活動を行う、命がけの仕事でした。

本書の主人公、松永源吾も火消の男です。

それも、かつて「江戸随一」と呼ばれていたほど優秀な火消です。

しかし物語開始時点で彼の身分は浪人。火消を辞めてしまい、一応武士という身分ではあるもののどこかの藩に雇われているわけでもなく、貧しい暮らしを妻の深雪と細々とおくっています。

そこに飛び込んだのが出羽新庄藩からのお誘いでした。

再び火消となって、出羽新庄藩お抱えの火消組織の立て直しをしてほしい。

源吾は渋るものの、深雪は給金の高さに話しに飛びつき、あれよあれよと言う間に源吾は火消組織の親分になってしまいます。

こうなれば乗り掛かった舟と、源吾も火消組織の立て直しにやる気を出すのですが……

出羽新庄藩の火消組織の通称は、なんと「ぼろ鳶(とび)」。

組織立て直しのために用意された予算は少なく、肝心の火消したちも頼りなさそうなひよっこばかり。組織の副リーダーたる新之助もふわふわチャラチャラした性格で打ち合わせにも遅刻してくる始末。

まさに名前通り、火消組織はぼろぼろの状態です。

あまりにも前途多難。源吾は果たして再び「火消」として江戸の花となることができるのでしょうか……?

2.魅力的な登場人物

主人公・源吾は「ぼろ鳶」をよみがえらせることが出来るのか? 本書の前半は組織の立て直しに奔走する源吾の姿がえがかれます

私も本作を読んで知ったのですが、火消と一言で言っても、いろいろな役割があるそうです

例えば、火事の延焼を食い止めるために大事な役割をするのが壊し手という存在です。

火が燃え広がる前に、燃え移ってしまいそうな家屋を壊すのがその役割。だからとにかく力と体力が重要な役どころです。

他にも建物の上に身軽にのぼり上からの消火活動を行う纏持ち(まといもち)、火事現場で風向や気温から火の行方を予測する風読み。

火事現場でこれらの人材が協力し合うことで、人々の命を救っていたんですね。

しかし、我らが「ぼろ鳶」は圧倒的な人材不足。ここで例にあげた役割の者はだーれもいない、という壊滅的な状況からスタートしています。

まずは人材を集めねば!

源吾は口入屋(今でいうハローワーク)に出入りしたり、あちこち歩きまわって「いい人材はいねぇか?」とやってみたり、手あたり次第です。

「これは無理ゲーでは……?」と序盤はかなり不安にさせられますが、そこは小説。源吾の努力と人徳のおかげで一人、また一人と人材が集ってきます。

その登場人物たちが、魅力的なんです。

例えば現役力士である寅次郎。彼は元々はとても強いお相撲さんでしたが最近は低迷中。弟分にあたる若手が大関昇進も間近か?と騒がれているのを横目に成績が振いません。

それでも大きな体と馬鹿力は火消しにはもってこいと、源吾は寅次郎をヘッドハンティングしようと声を掛けるのですが寅次郎は頷きません。

なぜか?

寅次郎には寅次郎なりの事情がありました。一つに過去の火消したちとのトラブル。そして、もう一つが「この生まれ持ったからだと力をどう活かすか?」という寅次郎なりの理想です。

寅次郎の理想を追求するならこのまま相撲の道を行くしかない、たとえそれがもはや潰えようとしている夢でも。

寅次郎の相撲へかける思いも理解できるし、でも次の人生の道として火消は絶対に向いていると確信できる部分もあって、源吾が寅次郎を説得できるかどうか? ハラハラと見守ることになりました。

源吾がスカウトするのは寅次郎だけではありません。他にも超男前だけど一途な恋路を貫く彦弥、理屈っぽいけれど内に秘めた正義感の持ち主である星十郎など、個性的で魅力的な火消候補たちが登場します。

しかし、源吾が出会う火消候補たちは一筋縄ではいかないものばかり。

人にはそれぞれこれまでの人生と、理想と、事情と、さまざまな要因があっていきなり「火消しになってくれ」と源吾が頼み込んだところでどうにもなりません。

それでも、何度か話すうちに、そして実際に源吾が火事現場でどう業火に立ち向かうのかを目の当たりにするうちに、彼らの心も次第に変わっていき、火消という仕事にというよりは、源吾という一人の男に心酔していく様子が表現されていました。

こう書いているうちに『ONEPIECE』を思い出しました。あのお話もルフィが誘っただけで素直に「仲間になります」なんていうキャラクターはいなくて、一緒に冒険したり戦ううちにルフィの人柄に惚れ込んで仲間になるというお話です。

ルフィを源吾に置き換えて、『火喰鳥』では源吾に惚れ込んだ男たちが集う話で『ONEPIECE』に通じるものがありますね。

魅力ある火消候補たちがどうやって源吾の元に集うのか、面白いし感動するエピソードだったので前半だけでもかなりの満足感のある物語になっていました。

3.なぜこの2人は結婚したのだろう……?

個性豊かな仲間が集う『火喰鳥』ですが、個性的なのは火消しだけではありません。

源吾を火消しに誘う武家折下左門の献身的で清廉な人柄も物語に安心感を与えてくれていますし、ほとんど名前だけの登場ですが時の権力者・田沼意次の存在感もなかなかのものです。

しかし、物語の冒頭からインパクト大な登場をして物語に華を添えたのはこの人、深雪、源吾の妻です。

『火喰鳥』の物語は源吾と深雪の住まいに侍が「雇いたいから一回屋敷に来てくれない?」と誘いかけるところから始まっています。

仕事内容、不明。なんで源吾に目を付けたのか、不明。とにかく「来てくれ」しか言わないのだから不安と不審しかありません。

ところが、そこに深雪が一言「お給料はどれくらいですか?」と聞いてから雰囲気が激変。結構な金額の提示に深雪は「すぐに伺います」「どんな役目でも、試し切りでも(!)なんでも使ってくださいませ」とさばさばと応えます(笑)

冒頭だけでなく、源吾が仲間たちを家に連れてきても「夕ご飯代はいくら、お茶代はいくら」と細かく集金(笑)

口入屋の利用料でもめた時も深雪の素早い金勘定で商人をも言い負かす始末。

深雪さん、一時期流行った「鬼嫁」なる言葉がぴったりくる感じの第一印象です。

深雪がこんな感じなので、てっきり源吾との夫婦仲は夫を尻に敷きつつも仲睦まじく暮らしているのだろう……と思っていたのですが、話が進むにつれてどうにも違うらしいぞ? ということがわかってきます。

いえ、お互いに想いあっていることだけは伝わってくるんです。

源吾が深雪に心底惚れてめとったことも。

深雪が言語の人柄に惚れ込み信頼していることも。

お話のはしばしから2人の気持ちは感じ取れるのです。

しかし、実際の2人はどうかというと「会話がない」「夫婦関係も冷えているようだ」という様子なんですね。

それも、結婚生活も長くなれば冷めた空気になるとか、どうもそういうことでもなさそうなんです。

源吾と深雪。この2人の間にも何やらいろいろな事情があって、現在の夫婦関係は冷戦状態という様子です。

正直、中盤くらいまではこの2人はどうして結婚したんだろう? と疑問に思わないでもなかったですが、終盤で過去に起きた事件が明らかになるにつれ、とても素敵なカップルだと思うようになりました。

源吾と深雪の関係が冷え込んでしまった理由がわかってくると、今度気になってくるのは2人がずっとこのまま冷戦状態を続けるのだろうか?ということです。

本作はずっと冬の時代を過ごしてきた夫婦の関係が変わっていく様子も表現されています。

これがまた熱いというか、感動的なんですよね……深雪さん、女の私でもいい女だなあ、と思います。

夫婦の関係がどう変わっていくのか、注目です。

4.源吾はトラウマを乗り越えられるのか!?

ここまで、登場人物たちの魅力を語ってきましたが、肝心な人についてまだあまり触れていません。

そう、主人公の源吾です。

源吾は江戸随一の火消しだったという過去を持ち、実際に火消組織のたて直しのために奔走する姿は、火消しに相応しい心構えも矜持も持った人柄として伝わってきます。

物語の中ではほとんどずっと火事が起き続けているような印象ですが、火事と聞いてだまっていられないのが源吾です。

ぼろ鳶と呼ばれようが、大した働きはできなかろうが、少しでも人の命を救うため、源吾の火事現場へと急行する姿はとてもカッコいいです。

それにしても、こんな人がなぜ、火消しを辞めることになってしまったのだろう?

当然浮かんでくるのはこの疑問です。

実は、これに対する答えは序盤から少しだけ片鱗を見せています。

どうやら源吾は「火」が怖いようなのです。

火消しは火に立ち向かっていくのが仕事です。

火消しとして申し分ない実力をもっているはずの源吾がなぜ火が怖いのか。

疑問は疑問を呼び、その本当の答えは物語の後半になって徐々に明らかになっていきます。

なんというか、事情を知ると「それはトラウマになっても仕方ないかもなあ……」と思えます。火消しとして一流の腕前と心構えを持った源吾だからこそ、心に深い傷となっていることがよくわかりました。

しかし、恐い恐いと立ちすくんでいては物語の主人公は務まりません!

源吾がどのようにトラウマを克服するのか?

再び火消しとして輝きを取り戻せるのか?

そして「ぼろ鳶」の汚名を返上し、見事火消し組織を立て直せるのか?

物語の終盤は怒涛の展開です。

登場人物たち全員が胸をすくような活躍を見せ、熱い人間ドラマに涙できるクライマックスが待っています。

読んでよかった。

最高の読後感が待っています。


いかがでしたでしょうか?

登場人物も魅力的、お話の展開も熱くて感動的、そして圧倒的に爽やかな読後感!

『火喰鳥』を読めば、きっとあなたも誰かにおススメしたくなること間違いなしな作品です。

ぜひ手に取ってみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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