読書感想|これを読めば与謝野晶子を知ったかぶりできます。歌集、恋衣(与謝野晶子ら)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

青空文庫より 歌集 「恋衣」 与謝野晶子ら を読みました。

短歌がメインで、与謝野晶子の有名な「君死にたまふことなかれ」も収録されています。

山川登美子、増田雅子の2人の女性歌人との共著になっています。

このブログのために3人の女性歌人を調べていくと、歌集そのものよりも、彼女たちの人間関係の方が気になりました。

なかなかに情熱的でパワフルな女性3人組だったようで、中には三角関係にあった2人もいます。

短歌は読むけど、読み解くのは苦手なので、「恋衣」に絡む人間関係をメインに書いていきますね!

目次
 1.恋衣 詩人薄田泣菫(すすきだ きゅうきん)に捧げまつる
    ・恋衣の意味
    ・薄田泣菫と与謝野晶子
 2.三人の女歌人
    ・与謝野晶子
    ・山川登美子
    ・増田(芽野)雅子
 3.詩って難しい


1.「恋衣」 詩人 薄田泣菫(すすきだ きゅうきん)に捧げまつる

歌集「恋衣」、素敵な響きのタイトルですよね。

名づけの由来を知るともっと素敵に思えますから紹介しますね。

そして、「恋衣」は、「詩人薄田泣菫に捧げまつる」の一文から始まっています。

私は名前の読み方さえ、最初わからない詩人さんだったので、この方のことも少し調べました。

・「恋衣」の意味

こいごろも、と読みます。

名付けは著者3人が所属した東京新詩社の主宰者であり、かつ与謝野晶子の夫でもある与謝野鉄幹の命名と言われています。

恋衣の意味は「常に離れない恋」の意味。

恋心を、常に身にまとる衣に見立てた造語なんですね。

うわー素敵! 

……と調べた当初は思ったのですが、よく考えたら衣って着替えますよね?

常に身にまとうけど、常に同じ人を思ってるとは限らないのよ……? みたいな意味深な言葉にも取ろうと思えばとれそうです。

ロマンチックな純情ととるか、移ろいやすき女心と読み解くか、どちらがお好みですか?

・薄田泣菫と与謝野晶子

詩の冒頭に名前を挙げるくらいだからさぞ親交があったのだろう、と思うのですが、残念ながら詳細は不明です。

ただ、与謝野晶子ら3人の著者と、薄田泣菫は同じ「明星」という、与謝野鉄幹が発行していた詩を中心とした文芸誌に投稿しており、それがきっかけで知り合うようになったのではないでしょうか。

薄田泣菫は倉敷の出身で、現在も生家が残されており、一般公開されています。

そこには与謝野晶子や芥川龍之介といった、生前に親交のあった文豪との書簡も展示されているそうです!

薄田泣菫の生家についてはこちらからどうぞ

つまり与謝野晶子の手跡が見られるんですね。それだけで行ってみたい。

2.3人の女歌人

それでは、恋衣の3人の著者の生涯を順番に見ていきましょう。

ネームバリューも考慮して与謝野晶子をまず紹介しますが、歌集の順序は山川登美子→増田雅子→与謝野晶子となっています。

・与謝野晶子

代表作「みだれ髪」で当時では珍しい女性の素直な恋愛感情を描き有名になり、日露戦争に赴いた弟の身を案じた反戦歌「君死にたまふことなかれ」もよく知られています。

生まれは没落中の和菓子屋で、しかも3人目の女の子ということで、家族から恵まれた愛情をうけたわけではないようです。

そのかわり、文学や学問を自由にやらせてもらえたのか、女学校時代に源氏物語や小説に親しみ、20歳ころより和歌を投稿するようになります。

そして、この投稿がきっかけで運命の出会いが訪れます。

当時妻帯者であった与謝野鉄幹と出会い、道ならぬ仲となります。

後に夫となった鉄幹の発行する文芸誌「明星」に、あの「君死にたまふことなかれ」も含む数々の詩や和歌を寄稿していきます。

その後の人生は激動だったようで、鉄幹に従いパリに行き、そこからヨーロッパ各国をまわり、帰国してからは男女共学学校を日本で初めて開校するなど、男女平等の思想家としても活躍することになります。

夫鉄幹はどんどん稼ぎが悪くなり、12人も子供がいた(内1人は生後まもなく死亡)与謝野家は、晶子を大黒柱に奮闘したそうです。

母は強し、とはよく言いますが、強すぎじゃないでしょうか、晶子さん。

経歴を見るだけで桁外れの情熱の持ち主だったことがうかがえますね。

現代に生まれたとしても、目立った活躍ぶりを見せたのではないかという働きっぷりです。

ちなみに、反戦家のイメージのありますが、反戦を主張していたのは日露戦争くらいで、後の戦争では戦争賛美の詩を作るなど、一貫した姿勢を持っているわけではなかったようです。

日露戦争に従軍していた弟は、無事帰還を果たしたそうです。よかったですね。

・山川登美子

3人の女性のなかで30歳という女盛りで死んでしまい、最も薄幸な印象なのが山川登美子さんです。

その人生は、与謝野晶子を陽とするなら、まるで彼女の陰のようです。

彼女の生家は由緒正しき武家の家系で、維新後も父は銀行頭取を務めたりと、厳格な家庭だったことが想像できます。

晶子が比較的自由に育ったのに比べ、厳しさにも耐え忍ぶ精神を生まれながらに学んだのが登美子という感じがします。

この差が、彼女たちの運命をはっきりとわけることになります。

登美子は詩を「明星」に投稿し、これがきっかけで与謝野鉄幹、晶子と出会います。

鉄幹に恋した登美子は詩の道へ進むことを決めます。

恋と詩作、どちらでもライバルとなった晶子と登美子が、ばちばちと火花を散らしながらも、ここが登美子の人生にとっては最上の時期でした。

この後、登美子の人生は坂を転がり落ちていきます。

まず、親からの縁談。登美子は鉄幹に思いを寄せていましたが、旧家の宿命でしょうか、彼女は恋心を伏せ、縁談を受け22歳で結婚します。

しかし、その夫とは翌年死別。

一方の晶子は鉄幹と結婚し、「みだれ髪」が大絶賛されます。

しかし、登美子はくじけず、勉学を続け、晶子らとの共著「恋衣」を発行します。

この「恋衣」に晶子の「君死にたまふことなかれ」が収録されてあったのがまたも不幸でした。

この詩が世に物議をかもしたため、共著者であった登美子は大学を休学処分にされてしまいます。

その後、夫の命を奪った結核に彼女自身も侵され、短い生涯を閉じます。

うーん、晶子が登美子の幸福をすべて吸い取ったかのような印象を受けます。

偶然とは言え、事実は小説より奇なり、本当にそう感じさせる壮絶な人生です。

・増田(芽野)雅子

「恋衣」には増田性で寄稿していますが、旧姓で、ネット上で調べるには結婚後の芽野性で調べた方が多く情報が出てきます。

彼女もまた「明星」に投稿したことで鉄幹、晶子らと知り合いになり、それがのちの「恋衣」発行につながります。

「恋衣」により、晶子、登美子とともに3人の才媛として世に知られるようになります。

彼女も結婚にはひと悶着あったようで、当時学生だった茅野蕭々(ドイツ文学者)から熱烈なアプローチを受け、親からの反対にあいながらも、絶縁覚悟で彼と結ばれます。

「明星」廃刊後も「スバル」や「婦人の友」に寄稿するなど、意欲的な活動を続け、日本女子大学の教授にまで昇りつめる才女となりました。

夫とは最後まで寄り添い、彼が死んだ4日後にまた、彼女も亡くなったそうです。

雅子が一番出てくる情報が少なかったのですが、こうして書いてみると、彼女もパワフルな人ですね。

会って、話をしてみたい魅力が感じられます。

「恋衣」はこの、情熱と向上心を燃え滾らせた3人の女性によって完成したのです。

3.詩って難しい

さて、それでは「恋衣」に収録されている詩を見ていきましょう。

「恋衣」には数多くの詩が収録されていますが、いかんせん私は詩は高校で習ったのが最後、という有様のド素人なので、正確な解説はできません。

ド素人の私が読んでも、わかりやすい感情の動きを感じた、2篇のみをご紹介します。

増田雅子
  みなさけか ねたみか仇か あざけりか ほほゑみあまた 我をめぐれる

わかりやすくあらかじめ区切っておきました。

なんだか一瞬、ぎょっとして辺りを見回したくなるような詩ですね。

雅子もまた才能に恵まれ、夫となる人に熱烈なアプローチを受けた人ですから、おそらく魅力的な女性だったのでしょう。

「恋衣」は雅子25歳の時の発行です。

若く魅力的な女性は、ちやほやもされたでしょうが、同時に頭のいい彼女のことですから、その裏にある嫉妬や妬みを感じ取るには十分な悪意も含まれていたのでしょう。

笑ってても、本音は何考えてるかわからないわよね。

そんな雅子のため息が聞こえてきそうです。

与謝野晶子
  わが恋は 虹にもまして 美しき いなづまとこそ 似むと願ひぬ

前半と後半で随分と受ける印象が違います。

前半は恋する若い乙女らしい恋に夢中な様子が表現されています。

面白いのは、やや陶酔的で自己中心的な印象を受けることです。

恋に夢中になっていながら、晶子はそんな自分を冷静に観察もしています。

しかし、後半はどうしたのでしょう?

いなづまとは、音と光で嵐を賑やかすあの雷のことでしょか。

それに似るように願う、とはどういう意味か?

前半の虹と、後半の雷と、同じ自身の恋心を例えるにしても、2つの言葉が与える想像は正反対です。

後半では恋に夢中になりすぎて、ただ相手を盲目的に求めるような激しささえ感じます。

恋をすると女性は変わるといいますが、このころ、晶子は既に鉄幹と出会っているはずです。

……恋する晶子さんは、どんな女性に変わってしまったのでしょうか?

想像してみると……ちょっと怖くなってきました。

恋にのめりこむのもほどほどにしといた方が……とアドバイスしたくなります。


いかがでしたでしょうか?

3人の女性歌人の人生を中心に書きました。

後半は主観たっぷりの私の感じたままの詩の感想を記しておきました。

このほかにも「恋衣」には多くの詩も、有名な「君死にたまふことなかれ」も収録されています。

詩のいいところは、短くすぐに読めるので、ちょっとした移動中や待ち時間に、さっと読めてしまうところです。

少しずつ目を通して、お気に入りの1篇を見つける、という楽しみ方もできそうですね。

青空文庫で無料で読めるのも嬉しいところです。

よければお気に入りの詩や、ブログを読んでの感想・ご意見をコメントに残していってくださいね!

ここまで読んでくださってありがとうございました!

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