生きて帰ってきて……!大自然に挑む探検隊の全記録『利根水源探検紀行』読書感想

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今回ご紹介する作品はこちら

利根水源探検紀行  渡辺千吉郎  青空文庫で無料公開中です

タイトルだけ見ると小難しそうな内容に思えるこの作品……しかし読んでみると印象は一変します。

内容はタイトル通り、利根川の水源を求めて探検した記録を日記調にまとめたものです。

書いたのは探検隊の一員であり、本文は冒険に決死の覚悟で挑む、気迫あふれる文章で始まっています

それもそのはず、読んでいくと、この調査探検がどんなに危険で無謀な計画であるか、判明していきます。

生きて帰れるかどうかも怪しい冒険に、決死の覚悟で挑む探検隊の波乱万丈の記録です。

ハラハラ、ドキドキ、もう引き返せばいいのに!……彼らに襲い掛かる困難に釘付けでした。

例えて言うなら「和製インディジョーンズ」、昔の人たちは勇ましかった……

文章の量は小説で言えば短~中編ほどのボリュームですが、そうとは思えないくらい満足感のある文章です。

それでは全27名の勇者たちの冒険譚をご紹介していきましょう。


1.無謀な探検隊

本作が記録している調査探検隊は明治28年9月に結成されました。

その一番の目的は、関東を流れる大河川、利根川の水源がどこなのかを探ることにあります。

衛星などもなく、当然詳細な地図もなかった昔のこと、利根川の水源がどこにあるのか、長い間の謎になっていたのです。

探検隊のメンバーは途中で離脱を余儀なくされた者を除けば全27名。なかなかの大所帯です。

肩書をみると役所の人間が多く、なぜか学校の先生まで加わっています。

著者によると全員が体が丈夫で健脚の持ち主とのことで、探検隊の成功に自信を見せています

メンバーの中には木登りが得意で道に迷った時に木の上から行き先を確かめることが出来る者や、米を担いで山道を平気で歩ける者などもいて、「なるほど、確かに強者が揃っているようだ」と私も納得して読み進めていきました。

ところが、メンバー紹介が終わり、いよいよ出発の直前という時になって、この探検隊の無謀さが明らかになっていのです。

なんと、全行程がどれくらいになるのか、実は見当がついていないことが判明します。

これは正確な地図もないため仕方のない部分もありますが、それにしたって、出発直前まで大体のルートすら決めずにいたようだから驚きです。

じゃあ、その代わり装備を充実させて臨むのかといえばそうでもないんです。

人によっては全行程20日くらいはかかるだろうと見積もっているのに、彼らが持っている食料はその半分の10日分……

挙句の果てに初日に泊めてくれた地元の人に「食料の足しにしたいから山で栗は拾えるか?」と聞く始末。

まさか食糧まで現地調達を前提に考えていたとは……

「無理だ、引き返せ」と止める地元の人の意見に肯定しかありません。

しかし、何故か成功に自信満々でここで引き返すなんて男が廃ると言わんばかりの一行は、次の日から深い山奥へとずんずん踏み入っていくことになります。

そしてここから、彼らの波乱万丈の冒険が始まるのです。

2.探検隊に襲い掛かる悲喜劇

情報も装備も不十分なまま、山に分け入った探検隊。

彼らはいくつもの山の洗礼にあい、時に山の恩恵に浴しながらひたすれ前進していきます。

具体的にはぜひ本文を読んでほしいので、ここではちょっとだけのご紹介にとどめておきます。

私がまず驚いたのは、探検隊が前提にしていた「食料現地調達」を実現させたことです。

しかも、何を調達したと思います……?

木の実や魚じゃないんですよ。

蛇、しかもマムシです。

マムシってあの猛毒の……?

それをその場で生皮はいで食べたって言うんだから……開いた口がふさがりません。

なんとも野性味あふれるエピソードですよね、お腹空いてたとしても食べられるかな……私……

そして探検隊は山奥に入るにつれ、意外なことに悩まされます

それが「水不足」です。

目的が利根川の源泉を探るためだったはずの探検隊に襲い掛かるのが「水不足」とは……何とも皮肉です。

でもこれ、シャレになりませんよね。

人間は食べなくても1週間くらいは生き抜けるらしいですが、水がなければ3日も怪しいです。

さらに山登りなんて過酷な負荷を体にかけている時ですからね……水なしでは2日ともたないでしょう。

この「水不足」は探検隊一行を何回も襲います

その度にぜいぜいとあえぎながら進む探検隊の様子が目に浮かんで……

生きて帰って来いよ!と読む手にも力が入りました。

よく考えたら、探検隊が無事に戻ってきたからこの記録が残っているわけで、そう心配する必要もなかったか、と気づいたのは読み終えてからでした^^;

他にも、探検隊一行は様々な経験をします。

中にはちょっとうらやましいことや、少し私も現地に行って見てみたいなあという景色に出会ったりもしていました。

読書の醍醐味が疑似体験だとしたら、こんな大冒険ほど素晴らしい記録はないですね。しかも実話ですから、それがすごい。

3.利根川の水源を探る歴史

最後に、利根川の水源を探る歴史をご紹介して終わりにしたいと思います。

利根川の水源は長い間、謎となっていましたが、実はこの明治28年の『利根水源探検紀行』が記録に残っている中では最も古い探検隊になります。

この記録中では、「水源を見つけることが出来た!」と喜んでいる描写があるのですが、どうやら正式には認められなかったようで、その後大正15年の第2回探検隊を経て、昭和29年の第3回探検隊でやっと、その目的を達せました。

水源発見までなんと60年もかかったんです!

なんとも偉大な「人類 VS 大自然」の闘いではないですか!

これだけの年数がかかったのは、もちろん利根川の上流部が険しい山奥にあるからです。

どれだけの難所が待ち構えているのかは、今回ご紹介する『利根水源探検紀行』を読めば分かります。

たぶん、現在ではより詳細な地図や便利な携行品もあるんでしょうけど、それでも安易に行ける場所ではないことだけははっきりしていると思います。

昔の人は本当に勇気があったんですね。正確な地形を知るということに価値があることはわかりますが、その知識を得るために、きっと多くの人が亡くなったんでしょう……そう思うと『利根水源探検紀行』の登場人物たちは、簡単な旅路ではなかったですが、ものすごい幸運に恵まれた人たちだったんだなと思います。


いかがでしたでしょうか?

探検隊がどんな困難にあい、無事に生還を果たしたのか、ぜひ読んでみてください。

絶対インドア派な私でも、ほんの少しだけ山登りに行ってみたくなりました。

もちろん、行くとしてもちゃんとした登山ルートがある山に行きます。

こんな大冒険は読書で十分です!!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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