読書感想|樋口一葉を見出した評論家の代表作、油地獄(斎藤緑雨)
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油地獄 斎藤緑雨 青空文庫にて無料公開中
今回ご紹介する斎藤緑雨、知っているという人の方が少なそうですね。
わたしもたまたま青空文庫で目に留まって読んだだけで、どんな作家なのか全く知りませんでした。
後ほど紹介しますが、どこかで聞いたことのあるフレーズや名警句を生み出し、評論家として有名な人だったようです。
『油地獄』は彼の小説家としての代表作です。
斎藤緑雨の生涯とともに、紹介していきますね。
目次
1.斎藤緑雨の生涯
2.『油地獄』おおまかなあらすじ
3.女に溺れた男の末路
1. 斎藤緑雨 の生涯
1968年に現在の三重県で生まれ、10歳で上京します。
明治大学まで進学しますが、弟たちの生活苦のため、筆をとって稼ぐことを決意し学問を諦めます。
その後は今回ご紹介する『油地獄』を含めた小説作品を世に出しますが、生活は火の車でした。
そのうちに新聞にアフォリズム(名言・警句の意味)を連載し、小説よりもこちらの方が評価がたかかったようです
そして、樋口一葉の真価にいち早く気づいた斎藤緑雨は、森鴎外・幸田露伴とともに「三人冗語」で一葉を紹介します。
書簡や往訪を繰り返した二人は、親交も深まり、斎藤緑雨は樋口一葉に批判を寄せ、それに対して樋口一葉からは「 敵にまわしてもおもしろい。味方にするとなおおもしろそうだ 」と日記に残すなど、意外にも良好な関係を築いていたようです。
一葉の死後は、全集の校訂を引き受け、遺族の生活や日記の管理などを執り行い、自らの死が近まると、馬場孤蝶に後事を託したそうです。
齊藤緑雨は肺結核にかかり、36歳の若さでこの世を去りますが、死ぬときに 「僕本月本日を以て目出度死去致候間此段広告仕候也」という死亡広告を新聞に寄せたそうです。
随分と皮肉な印象の辞世の句ですが、他にも、緑雨が遺した警句は今見ても唸らされるものが多いです。
いくつかご紹介しますね。
”貧を誇るは、
富を誇るよりもさらに卑し。”
”人は常に機会を待てども
機会は遂に人を待たず。”
”遊びというものの味が真正
にわかったなら、遊びは
面白いことではなくて怖い
ことである。怖いことを
知って遊ぶ者に過ちはない
けれども、それまでに一度
面白いことを経ねばならぬ
ので、過ちはそのときに
おいて多く発生する。”
”懺悔は一種ののろけなり。快楽を二重にするものなり。
懺悔あり、ゆえにあらたむるものなし。
懺悔の味は人生の味なり。”
……などなど。辛口ですね~。
わたしは遊びについてのコメントが一番好きです。
本当に、そうだな、と納得しました。
彼の住居はもう残されていませんが、跡地には記念の看板があり、場所はわかるようになっています。
興味のある方は訪ねてみてくださいね。
↓住居跡所在地
東京都墨田区両国2-13-1
2.『油地獄』おおまかなあらすじ
目賀田貞之進は本郷にて下宿している学生で、無口で硬派な人柄で通っていた。
あるとき、地元の交遊会に誘われ行ってみると、綺麗な芸者・小梅に出会う。
緊張して小梅に話しかけることも出来ない貞之進だが、その日から小梅の虜になってしまう。
学費や下宿先に預けておいた金まですべてつぎ込んで小梅に会いに行くが、小梅にはパトロンがいるのではないかという噂が付きまとう。
貞之進は信じたくないあまりにさらに金をつぎ込んで小梅に会おうとするが、ある日を境に小梅に会うことができなくなる。
後日、新聞に小梅がパトロンの一人に身請けされることになったと報じられ、貞之進は小梅に遊ばれたと憤慨する。
そして、大事に持っていた小梅の写真を熱く煮えたぎった油の中に落とし、燃やすと、そのまま病をえて寝たきりになってしまうのだった。
3.女に溺れた男の末路
あらすじからもわかる通り、花街の女に惚れて痛い目に遭った男の話、という内容です。
貞之進の性格が初心で硬派(今風に言うとヘタレ、かもしれません)なので、小梅との関係は進みそうもないなあ、と早々と読者にはわかってしまいます。
うじうじと小梅との関係を深めたいと悩む貞之進と、体よくあしらう小梅との対比が気の毒なような、滑稽なような……
夏目漱石の『ぼっちゃん』、『三四郎』に少し雰囲気は似ているかもしれません。
ただ、この2作品よりも後味は確実に悪いです。
当時においてもこの作品は扱っている題材のせいか、古風すぎる、という評判をもらったようで、齊藤緑雨は小説家としてよりも評論家として有名になったというのも頷ける気がします。
ただ、徐々に小梅に狂っていく貞之進の心情は丁寧に描かれていますし、タイトルにもある油による小梅への憂さ晴らしはぞっと背筋を凍らせるものがあります。
女に溺れる男の心情に興味のある方は読んでみてもいいのではないでしょうか。
そういう内容の小説を書いてみよう、とか思っている方には参考になると思います。
いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した作品『油地獄』よりも、警句の方が読んでいて面白さを感じました。
どんなに文才のある人でも、書くものとの相性ってあるんだなあ、なんてちょっと切ない思いもこみあげる読書経験になりました。
とはいえ、これは齊藤緑雨の作品のなかの1作に過ぎません。
他の作品も機会があれば読んでみようと思います。
よければコメントで足跡を残していってくださいね。
ここまで読んでくださってありがとうございました!