『シグマフォース』シリーズの作者が魅せる世界観の幅広さ『セドナの幻日』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する本はこちら
セドナの幻日 ジェームズ・ロリンズ 竹書房文庫
殺しの訓練を積んだ科学者たちがスパイとして活躍するシグマフォースシリーズで有名なジェームズ・ロリンズの短編集です。
以前にも『シグマフォース機密ファイル』という本で短編集を出版していますが、こちらが『シグマフォース』シリーズの短編集だったのに対して、『セドナの幻日』は『シグマフォース』シリーズ以外の作品も含まれている作品集になっています。
全4編が収録されているのですが、コラボあり、ファンタジーあり、闘犬の悲しい物語ありと、『シグマフォース』シリーズからジェームズ・ロリンズの作品に入った私には意外に思える作品もありました。
メインは表題作になっている『セドナの幻日』で、こちらは『シグマフォース』シリーズに登場する名コンビが大活躍しています。
読んでみてのザックリとした感想はというと、「作者のファンなら読んで損はない!」です。『シグマフォース』シリーズ以外にもいろいろ書いている(邦訳もされている)作者なので、他シリーズの入門にはちょうどよいのではないでしょうか?
それでは、4作品を簡単なあらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。
1.アマゾンの悪魔
作者の親友だというスティーヴ・ベリーとのコラボ作品です。
スティーヴ・ベリー自身は日本ではほとんど無名と言ってもいい状態の作家さんのようですが、ニューヨークタイムズのベストセラーランキングの常連(ジェームズ・ロリンズ談)だそうです。
スティーヴ・ベリーは歴史をテーマにした作品を得意としている作家さんで、デビュー作『琥珀蒐集クラブ』は同じような作品を書いているダン・ブラウンから絶賛を受けています。(残念ながら『琥珀蒐集クラブ』は邦訳はされているものの絶版に近い状態のようです…)
ジェームズ・ロリンズはスティーヴ・ベリーの作品に推薦文を寄せたことがあるそうで、それ以来2人は親交を保ち、互いの作品に自分の登場人物を登場させてはコラボを楽しむ関係なのだとか。
『アマゾンの悪魔』では『シグマフォース』シリーズから主人公のグレイ・ピアース、スティーヴ作品の主人公のコットン・マーロンが登場しています。
グレイは当ブログの『シグマフォース』シリーズの記事もありますし、そもそもこの記事に辿り着いた方はご存知の方が多数だろうと思いますので省略して、コットン・マーロンについて簡単にご紹介しましょう。
グレイ、というか『シグマフォース』シリーズについて詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ
コットン・マーロンは年齢はおそらく40~50代、アメリカの情報機関マゼラン・ビレットの元工作員です。既に現役は引退しておりコペンハーゲンで稀覯本(きこうぼん、珍しい古本のこと)の店を営業しています。しかし、工作員としての腕は衰えておらず単発で依頼に応じるフリーランスをしています。『アマゾンの悪魔』では彼女とともに旅行中に元同僚からの依頼を受けて潜入したクルーズ船で、グレイと鉢合わせた……というところから始まっています。
お話の内容としてはクルーズ船に乗っている悪党から「とあるやばい薬」を奪おうとグレイトコットンが共闘するという展開でした。
グレイは安定のカッコ良さですし、コットンもおそらくナイスミドル風な感じなんだろうな……とイケメンを思い浮かべて楽しめました。
残念なのはコットンが登場する作品が日本語では読めないところですかね……スティーヴはアメリカではベストセラー作家らしいので英語が得意な方は洋書をあたってみるといいかもしれません。
2.LAの魔除け
『シグマフォース』シリーズからジェームズ・ロリンズを読み始めた人にとっては衝撃の作品がこちらです。
お話はヒロインの女の子がストリートアートをどこかの壁に施しているシーンから始まるのですが……どうもただの若気の至りというわけではなさそうです。
ヒロインには予知の力があって、LAの街の中で起きる悲劇(強盗といった犯罪絡みから地震といった自然現象まで)を察知しては、そのそばにストリートアートを施し、最後に作品に向かって手をかざして力をこめると……
なんと、悲劇を未然に防ぐことができるのだとか。
すごい便利な能力!
そう、本作は現代のLAを舞台にしたファンタジー作品なんです。
最新科学と下調べバッチリの歴史をモチーフに扱っている作者からファンタジーというジャンルが飛び出すとは、驚きでした。
しかし、実はこれ、驚きでもなんでもないようで、作者はデビュー当時から別名義でファンタジー作品を作っていたのだとか。
だからこの作品はむしろ「原点回帰」と言った方が正しいようです。
お話はその後、悪いヤツが出てきてヒロインは彼氏と手と手を取り合って悪党に立ち向かう、という展開をみせるわけですが、その悪党の倒し方がなんともジェームズ・ロリンズらしい!!
ファンタジー作品にそんな要素を取り入れましたか、そうですか。こんなこと思いつくのは世界広しといえどもジェームズ・ロリンズくらいでしょう。
ヒロインもどこか応援したくなる感じの良い子でほのぼのと楽しめました。
3.ブルータスの戦場
この作品はかなり冒険的な内容でした。
まず、主人公が、犬。
それもただの犬ではありません。
闘犬です。
闘犬に使われる犬種が逃げ出した、とニュースになることが日本でもたまにありますよね。それくらいしか日本では闘犬という言葉を聞くこともないのですが、世界のどこかではまだ、続いている文化なのかもしれません……
全編、ブルータスという名の1匹の闘犬の視点で物語が紡がれています。
彼の目から見る世界の残酷さ、トレーナーへの憎悪、そして幼いころの幸せな日々の思い出が語られて、心が痛いとはこのことだ、というほど、ブルータスに感情移入しまくりでした。
この話はあまり詳しく語りたくはありません。というか、犬好きな方は絶対に読まないでください。
残酷過ぎた……
でも、一応申し添えておきますと、ハッピーエンドではあります。そこはご安心を。
ちなみに、このお話を作るにあたって、ジェームズ・ロリンズは依頼元の作家ジョージ・R・R・マーティンを唸らせたかった、と前書きで書いていました。
ジョージ・R・R・マーティンはファンタジーシリーズ『氷と炎の歌』が代表作の売れっ子作家で、日本ではドラマ『ゲームオブスローンズ』の原作者といった方がわかりやすいかもしれません。この方の作品は邦訳も簡単に手に入りそうです、興味のある方には朗報ですね。
4.セドナの幻日
表題作になっている、タッカーとケビンの名コンビが主役のお話です。
タッカーとケビンの1人と1匹のコンビが初登場したのは『シグマフォース』シリーズの第7作目『ギルドの系譜』です。そこで超賢くて可愛い元軍用犬のケビンの大活躍と、そのケビンが心からの信頼を寄せているハンドラーのタッカーの人気が爆発。2作の長編も含むスピンオフ作品も出版されており、『シグマフォース』シリーズの中でも屈指の人気キャラクターに成長しました。
今回、この名コンビが挑むのは不思議な「時間結晶」の存在です。
正直、この時間結晶なるものがどういうものか……作品を読んだだけでは難しくて理解できなかったのですが^^;、作品中では近づいたもののトラウマを引きずり出しその幻覚を見せ、リアルに再現して見せてしまうという、なんとも性質の悪い存在として登場しました。
元軍人のタッカーには絶対に忘れられないトラウマがあり、見事に時間結晶に囚われてしまうのですが……
時間結晶の檻からどう抜け出したのか、感動で胸温まるストーリーになっていましたのでぜひ、手に取ってみてほしいなと思える作品に仕上がっていました。
時間軸的には『セドナの幻日』と同時発売された『シグマフォース』シリーズの第15作目『ウイルスの暗躍』の前日譚になります。といっても、特にお話同士の関連はないのでどちらから先に読んでも大丈夫です。
それにしても時間結晶は怖いな、自分だったら一体何を見てしまうんだろう? と考えちゃいますね。しかも時間結晶、実在もすれば軍事向けに転用できないかと研究まで進められているそうな。怖すぎる。
いかがでしたでしょうか?
ベストセラー作家・ジェームズ・ロリンズの作品の幅の広さにいい意味で驚かされる1冊でした。ファンタジー作品も面白かったので、別シリーズにも手を出してみようかと悩むこの頃です(読みたい本が多すぎる問題)。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。