皇帝陛下のご縁もつなぐ!? 恋の花咲く予感の『異世界居酒屋のぶ 三杯目』読書感想
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異世界居酒屋のぶ 三杯目 蝉川夏哉 宝島社文庫
異世界で日本の居酒屋が開店したらどうなるか? そんな「もしも」を表現した『異世界居酒屋のぶ』シリーズ、3作目です。
本作でもイカメシ、チーズフォンデュ、串カツに親子丼……美味しいお料理とお酒が文字の上を飛び交い、読めば無性に居酒屋に行きたくなる飯テロ要素は本書でも健在です。
飯テロに加えて、本作のテーマは「縁結び」。のぶは「縁結び」でも一役かっています。
居酒屋は店員と客、あるいは客同士の出会いの場でもあります。しかし、単なるご近所の常連さんたちの縁を結ぶだけでは終わらないようです……
どんなご縁が結ばれるのか、ご紹介していきましょう。
1.お偉いさん、御用達
まずご紹介するのは、「のぶ三杯目」のメインエピソードである「お見合い」のお話です。ザ・縁結びなお話ですね。
お見合いするのは皇帝と王女様。皇帝の方はのぶが開店している古都も領土に含まれる帝国の一番偉い人、王女様はその帝国に隣接する東王国の王女様です。皇帝は既に30歳を越え、対して王女様はまだ19歳。身分を見ても年の差を見ても「政略結婚だな」とわかります。
これまでも東王国の名前は登場してきていましたが、帝国とは友好国というよりは仮想敵国同士、いつ揉め事が起こってもおかしくない間柄、という感じでした。そこにこの政略結婚ですから、両国にとって国益のため、平和のために大事なお見合いになるわけです。
……と、ここまで読んでみて「そんな大事な話に裏町の小さな居酒屋がどう関係してくるんだ?」と思われるでしょう。そう、普通なら皇帝や王女のお見合いなんてのぶには関係のない話です。しかし、前作までを読んだ方は覚えていらっしゃるでしょうか? のぶにはたまーに、お忍びで通ってくる一人のおじいちゃんがいたことを。実はのぶには身分のものすごく高い人も、そうとは知られずに通ってきているのでした。
皇帝と王女様のお見合いにものぶが絡んでいける細い糸が見えたところで、この政略結婚が上手くいきそうなのかというと「そうでもない」のが物語の面白いところです。皇帝にとって東王国の王女様は「才媛の噂は高いが権謀術数に長けすぎた悪女」というイメージであり、また「30歳を越えて皇帝という身分でありながら結婚相手も自由にならないのか!」という落胆も隠せません。できるなら「お見合いなんて蹴ってしまいたい」これが皇帝の本音のようです。
0からのスタートどころか、マイナスからのスタートとなる政略結婚、もといお見合い。のぶは奇跡を起こせるのか? 起こしたとしてどんな奇跡を起こしたのか?
美味しい料理の結ぶご縁を楽しんで読んでみてください。
2.仲直りのきっかけ
縁結びと言えば男女の仲だけとは限りません。親子や兄弟の縁を取り持つエピソードも登場します。
親子や兄弟の縁なんて生まれた時からあるもので取り持つ必要なんてないじゃない、と思われるかもしれません。
でも、親子や兄弟でも意地を張りあったり、逆に愛情を持て余して良かれと思ってやったことが裏目に出たり……と、仲直りのきっかけを必要とする時って、ありますよね。
今回、のぶにはそんな互いを思うあまりにすれ違ってしまった親子や兄弟が登場します。
主役に躍り出るのは1作目から登場しているハンスとゲーアノート。うろ覚えの方に補足しておきますと、ハンスにはガラス職人の父親と家業を継ぐ予定で修行中の異母兄がいます。ハンス自身、1作目から自分の将来について思い悩むところがあったので、今回で父親や異母兄とそのわだかまりが解消できるかどうか……が描かれています。
ゲーアノートの家族についてはもしかしたら初登場かもしれませんね。彼にも血の繋がった家族が生存しています。しかし、とある理由から疎遠になってしまっているようで……。これまでのゲーアノートといえば、仕事には抜け目なく、ナポリタンにはとことん弱い、そんなユニークなキャラクターでした。本作ではゲーアノートが不器用な愛情を見せる姿が、少しキュン(笑)とくる、そんなエピソードが登場します。
どちらも『のぶ』シリーズらしい、心温まるいいお話でした。現実もこう上手くいくといいのになあ!(笑)
3.縁結びと言えば!
最後になってしまいましたが、「縁結び」といえば! ですよ。これは恋愛のことをさすわけですよね。場所は居酒屋、美味しい料理とお酒を楽しみながらいつもより気分も高揚して開放的になっている時に魅力的な相手と出会う……居酒屋は出会いに絶好の場所なんです(たぶん違います、少なくとも私の身の回りには居酒屋婚した人はいない)
今回は2組ほど、のぶで知り合った恋人たち誕生の予感です。
が、しかしこの2組、けっこう意外でした。1組は『二杯目』の方でフラグが立っていましたが、もう1組は完全にノーマーク。『三杯目』の中でもそんな雰囲気無かったのになあ?? と一緒に帰ったりしている描写をみて「えーー!?」っという感じでした。
恋の予感がどうなるのか、それは『四杯目』以降にお預けのようですが、シリーズを読む楽しみがまた増えました(『四杯目』も購入済)
恋の予感と言えば、主人公2人、大将のぶと看板娘のしのぶちゃんはちょっとまだわからないですね。そもそも2人の関係が雇われ人と雇い人のお嬢さんという関係から始まってますし、お互いに仕事や家族に悩みを抱えていることもあって、恋愛という意味では互いに見ていない、見えていないのかもしれません。
個人的には2人はビジネスパートナー以上、早く付き合えよ未満くらいの関係でとどまって、ヤキモキさせてほしいなあ、と思います。
いかがでしたでしょうか?
縁結びをテーマに心もお腹も温まるのぶらしい「安心して読めるお話」ばかりで今回も安定の面白さ&癒しでした! ぜひ手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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