読書感想|新章開始なのに主人公不在?ソードアートオンライン15(川原礫)
元ライターである管理人が、作家目線で本を読んでいく当ブログへようこそ!
累計発行部数1000万部突破済の超ヒットライトノベルシリーズ、ソードアートオンライン15をご紹介します。
ソードアートオンライン15 アシリゼーション・インベーディング 川原礫先生 電撃文庫
前巻まででソードアートオンラインは大きな死闘を経て、15巻からは違った戦いが始まります。
違った敵とはいえ、無敵のキリトには適わないはず……と思いたいのですが、今回はキリトはほぼなんにもしない不在状態になってしまっています。
それでも主人公キリトの存在感は抜群です。
そして、新章開始時は設定の説明などが多くなり、物語としては薄くなりがちなのですが……さすが超ヒット作、新章開始から面白いです!
その理由を探っていきましょう!
目次
1.簡単なあらすじ
2.キリトのかわりに動き出すヒロインたち
3.ソードアートオンラインの根底にあるもの
※これ以降は軽微なネタバレがあります。嫌な方はご注意ください。
1.簡単なあらすじ
アドミニストレーターとの死闘で相棒のユージオが死に、アリスと生き残ったキリトだが、心を失い、廃人同然となってしまい、アリスと2人、辺境の地であるルーリッドの村で暮らしている。
村の人々の自分たちに対する差別的な態度に戦う理由を見失っていたアリス。しかし、ある日ルーリッド村に襲い掛かった闇の軍団と対峙したときに、彼女は思い出す。強い意志でこの世界を守りぬこうとたった2人で世界支配者を相手に挑みかかり勝利したキリトとユージオの雄姿を。
アリスは戦う力を取り戻し、闇の軍団との戦いに備える整合騎士団長のもとに赴くことを決める。
一方、現実世界では、キリトがダイブしているアンダーワールドの制御施設であるオーシャン・タートルが謎の傭兵たちに襲撃されていた。
迫る危険の中、アスナたちはなんとか防衛エリアを作ることに成功していた。
しかし、キリトの精神状態が著しく危険な状態になっている上に、アンダーワールドで「アリス」を救出しなければ敵に機密情報を奪取されてしまうという危機に陥っていた。
キリトの危機に、ついにアスナは自らアンダーワールドに潜り込み、キリトを回復させ、「アリス」を救出することを決意する。
そして、オーシャン・タートルを襲った傭兵たちのリーダーであり、新技術であるシステムの要、「アリス」の奪取を悲願とするガブリエルは自らアンダーワールドに潜り込むことにする。
ガブリエルはアンダーワールドの闇の皇帝、ベクタとなって、「アリス」を探すために闇の軍団全軍をアリスたちが守る人間界へ進軍させるのだった。
2.キリトのかわりに動き出すヒロインたち
主人公のキリトは、あらすじでも触れましたが前巻までの激闘がたたって、廃人同然になっています。
キリトの代わりに主人公役になっているのがアリスです。
物語開始当初のアリスも戦う気力をなくし、辺境の地であるルーリッドの村でほぼ隠居生活を送っている状態です。
このアリスが、いかにして前を向いて戦いに再度身を投じていくかがこの巻のメインです。
アリスはルーリッドの村人たちの傲慢で思いやりに欠ける姿に失望し、なぜ自分がこの人間たちを守らなければならないのか?とまで思っています。
キリトとユージオが心と命を失くしてまで守ったものに価値が見いだせず、葛藤している状態です。
しかし、アリスが気力を取り戻すのをゆっくりと時は待ってはくれません。
闇の軍団の先鋒が、ルーリッド村に襲い掛かり、無力な村人たちに襲い掛かろうとする寸前に、アリスは村人たちと向かい合います。
口々に、勝手なことばかり言い、そのくせ身を守るにはどうすべきか、正しい判断もできない村人に憤りを感じるアリスですが、そこで思い出すのは、ただアドミニストレーターを主と仰ぎ、盲目に従っていたかつての自分の姿でした。
その自分の目を覚まさせてくれたのは心を失う前のキリトです。
アリスはそのことに気づき、キリトのように、自分の意志で何を守るか、何のために戦うのか、初めて選び取ることになります。
キリトはこの巻ではほとんど何もしないのですが、こうして多大なる影響をヒロインに与えています。
ヒロインといえば、アシリゼーションシリーズが始まってからほとんど出番がないシリーズ通してのメインヒロイン、アスナがやっと物語の主要人物として登場しそうです。
心を失ったキリトを救うため、そして「アリス」をガブリエルたちから守るためにアンダーワールドへもぐることを決意します。
もちろん、アスナの一番の目的はキリトを救い出すことでしょう。
2人のヒロインの行く末を定める重要な決意に、キリトは深く関係し、主人公らしさを発揮しています。
そして、わずかですがキリトの心が復活する鍵になりそうなものが作品のなかでいくつか暗示されていました。
やっぱり飄々として、おいしいところを根こそぎ持っていくカッコいいキリトが読みたいですよね。
次巻以降に動くキリトの活躍を期待です。
3.ソードアートオンラインの根底にあるもの
ソードアートオンラインは現実世界からゲーム世界へと意識を潜行させ、仮想現実の中で冒険する主人公たちを描いた作品です。
シリーズ最初の1冊目こそ、生死のやり取りが発生する、遊びの範疇を超えたものでしたが、それ以降は言ってしまえば、たかがゲーム世界の話を描いていたわけです。
(あの手この手で緊張感はしっかりと出してはいましたが)
たかがゲーム世界の話なのに、ここまで大人気になった秘密が、この巻でわかった気がします。
ソードアートオンラインの世界観では、しっかりとシステム設定が説明されます。
前にガンゲームの中に入りこんだときは、ゲームの中で殺気を感じるかどうか、システムの仕様を踏まえた上でキリトが真剣に考察していました。
この巻でも、アンダーワールド世界の重要要素である武装完全支配術や心意の太刀を、現実世界のシステムに即して説明しています。
システムによる制御が先で、そのあとにゲーム世界での現象がある、という当たり前といえば当たり前のルールがしっかりと守られているわけです。
ただ、ここぞ! というところで、ソードアートオンラインはこのシステムによる制御を外します。
登場人物たちの感情が、システム制御を超越して働き、本来なら成し得ない奇跡を起こすのです。
最初の1巻目でも、システムで動きをロックされたはずのアスナが、キリトのピンチに反応し、システムの制御を超えて動き出しました。
今回でいえば皇帝ベクタに扮したガブリエルに襲い掛かるシャスターの起こした死の嵐がそれです。
本来ならあり得ないことですが、 人間の意志がシステムすらも凌駕する、というファンタジックでこうだったらいいのに、という希望を描き出しています。
そこに、ゲーム世界を超えた感動を引き起こす、人間の感情を最上位とした作者の世界観があります。
人間の願望に勝る強さはない、というメッセージが、多くの読者の心をつかんでいるのだと思います。
いかがでしたでしょうか?
ソードアートオンライン15は新章開始とあって、宿敵の登場に、果たさなければならない目的の設定に、と説明すべき点が多くあり、さらに主人公キリトが活動不能状態であるなど、本来ならそんなに盛り上がりようもない内容になる……はずが、ヒロインたちの重要な決断や人間の意志が引き起こす奇跡をうまく織り交ぜることにより、すっかり面白く読めてしまいました。
15巻目だというのに発売されてから20回以上も増刷されている、すごい化け物シリーズですね。
続きを本屋で買うのが楽しみです。
ちなみに、気になったので副タイトルの意味を調べてみました。
アシリゼーション …… 本作の造語で「アリス化」という意味らしい
インベーディング …… 侵入するの意味のinvadeの現在進行形、侵入されている最中、くらいのニュアンスでしょうか?
中身を読むと、納得のタイトルですね。
ここまで読んでくださってありがとうございました!