半分人間やめてる主人公の繰り出す虚構(ドンデン返し)の数々に夢中『虚構推理』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

虚構推理  城平京  講談社タイガ

人気漫画原作者による小説です。

まずタイトルからして不思議な言葉の組み合わせですよね。

虚構、すなわち「ウソ」と「推理」の組み合わせ。

「ウソ」をついているのが誰か推理するってこと?

それとも「推理」は真相に至るまでは「ウソ」だってこと?

いろいろ思い浮かびますが、どれもハズレです。

タイトルは意味不明だけどなんとなく魅力的な言葉の組み合わせに惹かれて、とりあえず読んでみよう……と開いたが、最後。

今までいろんな本を読んできましたが、それでも唸らされるほどのトンデモ設定のオンパレード

設定に驚きつつテンポよく展開する物語に引きずり込まれていくうちに判明する『虚構推理』の意味……

確かに、この小説のタイトルは『虚構推理』以外ありえません。

面白かったですし、それ以上に作品のもつ個性にやられました。

これほど「個性のカタマリ」のような本には出会ったことはありません。

作品のもつ底なしの穴のような魅力を知っていただけたらと思います。

それではあらすじと感想を交えてご紹介していきましょう。


1.作者、城平京とは

作品をご紹介する前に、作者である城平京さんについて一言。

この方の小説を読むのは本作『虚構推理』が初めてでしたが、作品を読むのは初めてではありません。

城平京さんは、小説家としてデビューされましたが、漫画原作者としての方が、もしかしたら知名度が高いかもしれません。

私が城平京作品に触れたのも、漫画が先でした。

  • 『絶園テンペスト』
  • 『スパイラル ~推理の絆~』
  • 『天賀井さんは案外ふつう』

これらは皆、城平京さんが原作をつとめた漫画作品です。

これらの作品の特徴は、作品の設定や世界観自体はSF並みに奇想天外、それにもかかわらず、内容は超理屈っぽいところにあります。

例えて言うなら妖怪が起こした密室殺人事件に名探偵コ〇ンが挑む! そんな感じです。

ちなみに『スバイラル ~推理の絆~』が1番面白いです、おススメです。

横道にそれましたが、理屈っぽい作風ということは、漫画のわりには文字が多くて読むのも理解するのも大変だということでもあります。

私は活字中毒気味なのに、漫画は文字数多いの苦手という面倒な人なので、城平京作品は面白いのですが、少し苦労しました^^;

だからなおさら思っていたのです。

城平京さん、漫画よりも小説の方が向いてるんじゃない? と……。

そして今回、『虚構推理』で初めて小説作品を読んだのですが、私の勘は当たっていました!

城平京さん、小説(も)面白いです!

2.おおまかなあらすじ

それでは、『虚構推理』のおおまかなあらすじをご紹介しましょう。

主人公の岩永琴子17歳は、お嬢様っぽい外見に似合わぬ口の悪さで、少し変わった女の子。

彼女が通院している病院で一目ぼれしたのが桜川九郎という青年で、彼は従姉のお見舞いに彼女・紗季とよく来ていた。

このままでは琴子にチャンスはない、が、九郎は紗季と別れてしまう。

琴子は九郎に近づき、ほぼ初対面であることを無視して、彼に告白をする。

しかし、九郎には人には言えない大きな秘密があった。

それを知られたがゆえに、結婚を約束までした紗季に振られてしまったのだ。

ところが、大きな秘密を持つのは、岩永も同じだったのである。

「大きな秘密を持ち、普通の人間とは相容れない同士、仲良くしませんか?」

そんな口説き方に心動かされたわけでもないだろうが、ここから岩永と九郎の奇妙な恋愛(パートナー?)関係がスタートするのである。

そして2年後、警察官になっていた紗季は、管轄内に流れる不思議な噂を耳にする。

「変死したアイドルの幽霊が鉄骨を持って襲って来る」

その名も「鋼人七瀬」。

普通なら愉快犯のしわざだろうと思うところだが、紗季は違っていた。

「鋼人七瀬」という幽霊は本当に存在するのではないか……

紗季が「鋼人七瀬」の話を聞いたその夜、彼女は衝撃的な出会いを迎えることになる。

3.序盤から「?」の嵐

よく、小説や映画などの創作物の最初には「フック」と言われる仕掛けが重要だと言われます。

見ている人を釣りあげて物語の世界に興味を持ってもらうためのものですね。

ミステリ小説でいきなり殺人シーンから始まったりするのが典型的です。

「この事件、誰が犯人なんだろう?」

この「?」を起こさせるのが、「フック」の役割です。

どんな創作物でも最低一つはあるはずです、探してみてくださいね。

最低一つ、と書きましたが、『虚構推理』は、というと、もうすごい^^;

冒頭数ページを読んだだけで一気に「?」が出てきました。

  • 「岩永の過去にどんな事件があったの?」
  • 「岩永に近づいてきた影の正体は?」
  • 「なんでステッキ使ってるの?」
  • 「なんで病院に通ってるの?」

疑問が生まれるとどうしても解消したくなるのが人間というもので、私もあっさりと釣られてしまいました。

そして、主人公の岩永の変人っぷりもなかなか強烈です。

岩永の過去にまつわる何かの事件についての謎を解く話なのかな?

そんなことを考えながら読んでいったのですが、

まだまだ、これらの疑問は序の口だったのです……

4.テンポ良く走るストーリー

主人公・岩永に関する数々の疑問が湧き出たところで、今度はその恋のお相手桜川九郎が登場します。

この2人の初対面とは思えないくらいぶしつけなやり取りの応酬をいきなり始めるのですが、なんと、この会話の中で前述した岩永に関する疑問の答えが、全てわかってしまうんです!

「あれ? 岩永の謎をとく物語じゃないのか!?」

という驚きと共に、岩永の設定のトンデモさに二重に驚かされました。

「この子、半分人間やめてるようなもんじゃん!」

岩永はほぼ初対面かつ、恋する相手である九郎にも傍若無人な態度をとるような強烈な性格の持ち主ですが、それを抜きにしても彼女の設定はぶっ飛んでいます。

しかし、岩永の上をゆくトンデモ人間がいたのです。

九郎、その人です。

ここまででまだ全体の4分の1もページは進んでないと思うのですが、とにかく驚きの情報ばかりが飛び込んでくるので脳が忙しくて仕方なかったです。

疑問を抱かせてはそれに予想の斜め上をいく回答を繰り出して、どこまでも底が見えない深い穴をのぞきこんでいるような気分になりました。

この後も、九郎の元カノ・紗季が登場して「鋼人七瀬」についての噂が披露され、その直後のシーンで紗季が「鋼人七瀬」に襲われて、その大ピンチに岩永が飛び込んできたりと怒涛の早さでテンポ良く、というかテンポよすぎてついていくのがやっとなくらい、スピーディーに物語が展開していきます。

そのためちょっと、ご都合主義がすぎるかな?という印象もあるのですが、とにかく読者としては物語に飽きる、中だるみする、ということが全くないので満足感の方が強かったです。

5.トンデモな設定の中に光るロジックとリアリティ

テンポ良く進む物語の土台にあるのは、主人公・岩永とそのパートナー・九郎、この2人のトンデモ設定です。

人間と呼んでいいものか、怪しいレベルの2人が活躍するお話で、しかも敵となるのは「鋼人七瀬」とかいう、元アイドルのくせに可愛さのかけらもない鉄骨振り回してくる亡霊なので、お話の後半はビックリ人間のアクロバットショー的内容にでもなるのではないか…(それはそれは西尾維新の戯言シリーズのように)と予想すると、それはハズレです。

いや、実は半分は当たっているんですが、お話のメインはそこではありません。

というのも、「鋼人七瀬」、弱らせないと物理的攻撃を無効するという不死身の亡霊なんですね(矛盾した言い方ですが…)

じゃあ、どう弱らせるのか、というと、ここからが城平京さんの本領発揮でした。

「鋼人七瀬」が不死身になるほど力を持ったのは、「鋼人七瀬」の噂をする人間たちがその亡霊の存在を信じているかららしいんです。

弱らせるには、「鋼人七瀬」なんて亡霊はいない、と皆に信じさせるしかない。

では、どうやって……?

一度信じたものをひっくり返すのは、「いないんだって~」と反対の噂を流すくらいでは無理です。

だって、亡霊がいるってことにしておいた方が面白いから。

この人間の野次馬根性に打ち勝つには、変死したアイドルの死因にまでさかのぼり、亡霊が存在するという噂よりも、もっともっと、そっちの方が魅力的だ! という噂を一から構築するしかない!

主人公の岩永はそう判断し、警察官である紗季の力も借りて、変死事件の調査内容も読みふけり、ネットに出ている様々な事件に対する無責任な推理も把握し、ありとあらゆる可能性を考察し、

「これならありうる、しかも本当だったら面白い!」

と思える「ウソ」の噂を作り上げるのです。

そこに必要なのは、「ありうる」と思わせるロジックとリアリティです。

ロジックをこねくり回すような作品を作り続けている城平京さんの真骨頂!

みんなに支持してもらえる「ウソ」を組み立てる、その過程はまさに『虚構推理』。

物語後半に岩永がまくしたてる様々な虚構(ウソ)はいわばドンデン返しの連続でもあります。

読んでいて、「よくもまあこれだけウソを思いついたこと!」と、興奮しながら読んでいました。

京極夏彦のような、一見不思議にみえるけれど、その裏にはちゃんとした理屈が組み立てられるのだという世界観が好きな人や、ミステリでどんでん返しモノが好きという方、ぜひおススメです。

いや、本当によくできた虚構だったので、いろんな方に読んでみてほしいです。

6.意外とロマンチック

『虚構推理』はものすごく個性的な物語だ、ということをここまでお伝えしてきたのですが、個性的なお話の中にも恋愛要素が練りこまれています

実はこれも城平京さんの得意とするところで、『絶園テンペスト』では「妹の彼氏が誰だったのか?」という問いが世界の命運を左右するキーポイントにまでなっていました。

『虚構推理』では九郎を巡って、今カノの岩永と、元カノの紗季という三角関係が出来上がっているんですが、その勝敗は物語をぜひ読んでいただくとして、ここでは岩永と九郎の面白い関係をご紹介しておきましょう。

この2人、一応「付き合っている」んですが、会話には甘さがまったくありません。

九郎は岩永に「お前に弱みを握られたくない」とはっきり言っていますし、岩永からの九郎への愛情表現はどうも下ネタになりがちで、しかも平気で暴言を吐いています。

「本当に付き合ってんの?」とため息をつきそうになりますが、この2人の間には奇妙な絆が存在はしているようなんです。

九郎は岩永に求められれば手を握ってくれたりしますし、岩永が頭を酷使している様子を見ればチョコレートを差し入れしてくれたりするんです。

しかも、リボンがかかったお高そうなチョコレートを、です。

言葉にはロマンチックさが抜け落ちているのに、ふとして時にみせる九郎の岩永への思いやりに「実は好きなの? 面と向かって暴言はきつつ、実は好きなんじゃない?」と前のめりになりました。

そういうフィルターを通してみれば、岩永の九郎への暴言ももはや彼女というより、熟年夫婦の息の合ったやり取りのように読めなくもない……

最初は「うーん……」とおもっていましたが、これはこれで、最終的にはラブコメのように盛り上がって読めました。

肝心の九郎の岩永に対する本音は、ちゃんと書いてありますので安心してくださいね。


いかがでしたでしょうか?

『虚構推理』の魅力をまとめてみましょう。

  • キャラクターの際だった個性と設定
  • 「鋼人七瀬」を追いつめる論理的かつ現実的な「虚構」の数々
  • 最後はドンデン返しの嵐
  • これはこれで萌えなくもない恋愛要素

特に岩永が繰り出す「虚構」の数々は、もう一度記憶を失くしてワクワクしながら読みたいなあと思える妙な中毒性があります

幸いにも『虚構推理』はシリーズ化していますので、そちらも読み次第、ご紹介したいと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

『虚構推理』シリーズ2作目の記事はこちらからどうぞ↓

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