天才を支える献身的な男の魅力が満載『ラブオールプレー夢をつなぐ風になれ』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

ラブオールプレー夢をつなぐ風になれ  小瀬木麻美  ポプラ文庫

バドミントンに燃える青春シリーズ第3作目です。今回の主人公は横川  。

シリーズ中、圧倒的存在感を放ち続けるバドミントンの天才・遊佐賢人のダブルスのパートナーです。

これまで、作中では目立つというよりは遊佐を支えて後輩たちに慕われる兄貴分のような渋い活躍を見せてきた横川ですが、彼の過去や性格、バドミントンプレーヤーとしてどうなりたいのか、などの具体的な情報はあまり書かれてきませんでした。

本作は今までどっしりと皆の後ろで構えて抜群の安定感を見せていた横川の内心に迫る内容になっています。

彼はすごくいい男ですね、彼氏にしたいナンバー1かもしれません。

それでは、あらすじや感想と共に、横川の魅力を語っていきたいと思います!

前作の『ラブオールプレー風の生まれる場所』のあらすじと感想はこちらからどうぞ

1.おおまかなあらすじ

まずはおおまかなあらすじをご紹介しましょう。

出だしは、前作『風の生まれる場所』の続きから始まります。

遊佐賢人 VS 水嶋亮。

大学対抗の団体戦で、ぶつかり合う天才2人を横川は見守っています。

遊佐の戦いぶりを見終え、彼の健闘を嬉しく思いながら、横川は自分の過去へと思いを馳せます。

思えば、横川がここまでバドミントンを続けて来られたのは奇跡に近いことでした。

中学最後の試合を終えた時、父親の作った借金や女性問題のせいで、横川母子は生まれ故郷の北海道を離れ、夜逃げ同然に誰も彼らを知る人のいない土地へと逃げることになりました。

幼馴染の梓との別れ際、横川は彼女から「バドミントンを続けてね」と言われます。

本当は自分のバドミントン人生はここまでだと諦めかけていた横川ですが、梓に勇気づけられ、バドミントンを好きだという気持ちは持ち続けよう、と誓います。

その後、引っ越した神奈川で横川に会いに来たのが横浜湊高校のバドミントン部監督、海老原先生でした。

横川の事情をすべて知ったうえで、お金の心配もいらないから横浜湊高校でバドミントンをしてみないかと誘われる横川。

この出会いが彼の運命を変えました。

横浜湊高校に進学することを決めた横川に、さらにもう一つの運命の出会いが待っていました。それが、同じく横浜湊高校に進学予定の遊佐賢人でした。

当時から既に全国トッププレーヤーだった遊佐。

横川は彼とダブルスを組むことになり、夢中になって練習し、部長を引き継ぐまでの選手に成長します。

部長として、横浜湊高校の悲願である全国団体優勝の夢を引き継いだ横川は、その成就のために遊佐とのダブルスのみに専念することを決意します。

横川と遊佐のダブルスは全国最強にまで成長するのですが、この時点で、横川は遊佐とのダブルスをずっと続けるという未来は見えていませんでした。

なぜなら、遊佐はシングルスプレーヤーとしては同世代で敵なし状態の天才だったから。

「自分は遊佐とのダブルスをいつまで続けることが出来るのだろう?」

横川は自分が世界に通じるようなバドミントンプレーヤーになるには、遊佐とのダブルスしかありえないと悟っていました。

しかしその思いを遊佐に伝えることはせず、ダブルスを続行するも、解散するも、決断はすべて遊佐に任せようと決意したまま、横川は彼を誰よりも近くで支え続けるのです……

2.無自覚のすごい人、横川

さて、横川のバドミントン人生はどうなるのか?

前作を読んだ人は、相棒の遊佐のバドミントン人生がどうなったのかも含めて、ぜひ本編を読んでみてください。

本作では、横川が自身の未来が不透明なままに、それでも献身的に遊佐の横を走り続ける横川の魅力がたくさん詰まっていました

彼は、作中、遊佐や水嶋といった天才プレーヤーとは違う魅力を持ったプレーヤーとして書かれています。

シングルスでも無類の強さを誇る遊佐がどんなプレーをしてもそれをカバーする応用力。

ダブルスの弱い方と判断され狙われ続けてもシャトルをさばきつづける根気強さ。

そして相棒である遊佐のメンタルケアもお手の物の安定感!

遊佐と水嶋がバドミントンの天才なら、横川はバドミントンダブルスの天才でしょう。テニスの王子様で言う、大石君みたいな感じです。本人はみじんもそんなことは思ってないようですが。

しかし事実、彼は実は遊佐とコンビを組まなくてもダブルスではかなり、いやすごく強い。

そして、組んだ相手に「めちゃくちゃやりやすかった!」と必ず言わせる巧妙さがあります。

バドミントンプレーヤーとしても横川の魅力とすごさがよくわかった本作ですが、彼の素晴らしさは普段の生活にも発揮されています。

これまでも、面倒な先輩=遊佐、後輩に慕われる先輩=横川の図式はよく見られましたが、本作ではみんなが横川のことを頼りにしていることがよくわかりました。

例えば、横浜湊のみんなで集まっている時、誰かが失言してしまっても「まあまあ」といって間に割って入るのは必ず横川です。

さらに、本書を読むと、横川が空気を読んで割って入っていた以上に、みんなが、悩んでいるとき、少し気まずい時に「横川さん、なにか一言お願いします!」と声には出さないまでも、救いを求めるような視線を横川に向けていたことが判明します。

さらに、彼は恋愛に奥手な水嶋の後押しまでしてやって……

本人は気負わずにさらっとやってのけていますが、登場人物の中で一人だけ人生経験の高さが際立ってます^^;

みんなの兄貴、それが横川です。

これまで、彼だけやたら精神年齢が高い気がしていましたが、その理由も本作を読んでわかりました。

若いとき(今も若いけど)に相当苦労してたんですね。

その生い立ちのために、横川はまずは失ってしまう可能性を第一に考えてから、何かを決めているような気がします。

だからこそ、現状に対しての感謝の想いが人一倍強く、皆への心配りや思いやりにも通じているのだろうと思います。

そんな横川が、本作で直面する「失ってしまう可能性」は彼のバドミントン人生を左右する相棒・遊佐の存在でした。

ダブルスの将来を遊佐に委ねるとだけ、自分の中で決めてどんな時もいつだって最高のパフォーマンスを提供できるように努力を積み重ねる横川の覚悟には胸が痛いほどでした。

そんな状況でも全力で頑張れるって、気持ちはわかるけど実際にできるかどうかと言われたら……自信がないです。

横川は自分に実力がないからこういう決断になったと思っている節がありましたが、自分のすごさを一番わかってないのは横川自身のようです。

あなたも、十分すごいですから。

3.人生を通り過ぎる人々

あらすじにはほとんど書きませんでしたが、横川がバドミントンを続けてこられたのは実に多くの人の支えがあったからでした。

特に前半の、横川が故郷から神奈川へと引っ越すシーンに、多くの人が関わって、横川母子を助けます。

幼馴染の梓とその父親。

困窮家庭を支援するNGO団体。

半年ほど在学した中学校の担任の先生。

その間、居候させてくれた海老原先生の家。

それぞれの登場シーンは一瞬なのですが、心に温かく残り、今でも思い出すとほっこりするし、心強さを感じます

きっと自分の人生にも、一瞬で通り過ぎたけど助けてくれた人がたくさんいたんだろうな……

いい大人になった今は、誰かにそれを恩返ししていかなければならないな、と本書の感想からはズレるかもしれませんが、そんな思いに気づかせてくれました。

4.好き、その向こうの世界

横川が主人公の本作ですが、前作と同様に、横浜湊高校のみんながその後、どうしているのかがわかるように細かいところも書いてくれているのが、『ラブオールプレー』シリーズの嬉しいところです。

まあまあ、みんな元気に自分のやるべきこと、やりたいことをやっていましたし、恋愛面の進捗具合もわかってめでたしめでたし……

と思っていましたが、ちょっと心配な子もいました。

水嶋です。

これまで、才能と努力でバドミントン界を駆け上がってきた水嶋にもついに試練が訪れたようでした。

彼が今以上のバドミントンを目指すには、今のままではだめだ、と気づいた辺りから、スランプに入ったようなんです。

正直、悩みのレベルが違い過ぎていまいちピンとこなかったというのが本音ではありましたが、悩みを聞いていた横川の様子から察したのは、好きだけで突き進める世界には限界があるのかもしれない、ということでした。

抽象的な表現で申し訳ないのですが、それこそ、世界のトップを目指そうと思うなら、好きはまず大前提で、その好きを超えた先にある何かを掴まなければならないのかな、と。

これはもしかしたら作者である小瀬木麻美さん、ご自身の経験を元に書かれているのかもしれないと思いました。

プロの作家として、作品を世に出し続けるには、それこそ「小説を書くのが好き!」だけではやっていけないでしょう。

好きを超えた向こうにある何かを目指さなければ、きっと『ラブオールプレー』シリーズも生まれなかったはずです。

そんなご自身が迎えた試練を、水嶋に託したのかもしれないですね。


いかがでしたでしょうか?

『ラブオールプレー』シリーズは登場人物たちが真っ直ぐにバドミントンと向き合ってい生きているので、読んでいて本当に気分がよくて、読後の爽快感が凄いんですよね。

彼らのように本当にストイックになるにはまだまだですが、私も育児に家事に、そして読書にと自分の “好き” を今よりももうちょっと気合を入れて取り組んでみようと、勇気をもらえます。

特に本作は最強かつ、最高にバランスのとれたメンタルの持ち主である横川が主人公だったので、「こんなふうに広い視野と思いやりをもって、日々を送っていきたい」と心の中で彼をモデルとして記憶にとどめておこうと思いました。

息子に怒鳴りたくなっても、横川を思い出して頑張ります。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

次作『ラブオールプレー君は輝く!』のあらすじと感想はこちらからどうぞ

天才を支える献身的な男の魅力が満載『ラブオールプレー夢をつなぐ風になれ』読書感想” に対して4件のコメントがあります。

  1. 福田 秩子 より:

    最後の方のページに、横川くんの彼女三上梓さんとの繋がりがなくなるといううところが気になります。子供の頃から、親子で苦労してきた彼には幸せになってほしいので、その後の展開がすごく気になります。その後の小説があれば知りたいです。

    1. asanosatonoko より:

      コメントありがとうございます。ラブオールプレーシリーズは4作出版されていまして、横川くんに関しては、3作目の主役の『夢をつなぐ~』で彼のバドミントン人生の方向性が決まったところまでが書かれています。
      一応4作目『君は輝く!』でもちらっと、元気にしているらしい描写はありました。彼女の三上さんとの関係は3作目に書かれていることがすべてだと思います。幸せになってほしいですよね、横川くん。バドミントンも三上さんとの関係も、きっと堅実に歩んでいくんではないでしょうか。

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