女の二面性か、それとも命の営みか『女』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する作品はこちら
『女』 芥川龍之介
芥川龍之介、言わずと知れた大文豪ですね。
有難いことに、芥川の作品は死後50年以上経っているため、著作権切れとなり青空文庫でかなりの作品が無料で読み放題状態となっています。
今回ご紹介する『女』も無料公開されている作品のひとつです。
ごく短い作品なのでスキマ時間にサクッと読める文章量なんですが、それでいて読み始めと読み終わりで作品への印象がガラリと変わる作品です。
芥川らしい、鮮やかな印象操作が行われている作品は私、大好物でございます(笑)
それでは、作品をご紹介していきましょう。
目次
1.あらすじ
2.芥川の考える「女」とは
3.作中の素朴な疑問「庚申薔薇」とは?
1.あらすじ
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
『女』は1匹のメス蜘蛛が主人公という一風変わった作品です。
薔薇の花の近くに陣取ったその蜘蛛は、薔薇の蜜を集めにきた蜂を捕まえ食べ始めます。
その様子をややグロテスクな描写で表現したのが前半です。
そして後半、蜘蛛は捕食することをやめ、とある行動に移ります。
蜘蛛と言えば糸。糸を吐き出し作ったものは巣……かと思いきや、我らが主人公の蜘蛛は糸を絡めて繭を作ったようです。
そして、やがてその繭からたくさんの子蜘蛛が誕生します。
子どもたちは新しい生命の躍動を感じさせる様子で外の世界へと旅立っていきます。
しかし、そのすぐそばで主人公のメス蜘蛛は命尽き果て、ひっそりと死んでいる……と、ここでお話は終了します。
2.芥川が考える「女」とは
あらすじを読むとわかる通り、本作のテーマは「女性の二面性」にあると思われます。
残酷さを持つ反面、自身を犠牲にしても次世代の子供を生む母性を持ち合わせた存在といったところでしょうか。

芥川は前半と後半でガラリと文章から受ける印象を変える名人だと私は思っているのですが、そんな彼の鮮やかな手腕が光る作品だと思います。
とまあ、ここまでがさらっと一回読んだ後の感想だったのですが、ここから数回、さらに読み返しまして、改めて感じたことがあります。
確かに、文章から受ける印象は前半と後半でガラリと変わっている。
しかし、果たしてこれは女性の二面性を書いた作品だったんだろうか?
最初に書いたことをあっさりと反故にしてしまうことを書いていますが、よくよく読み返してみると、メス蜘蛛のとっている行動は、全てが「次世代の子供たち」への行動であるとも思えます。
食べて、栄養をつけて、それを糧に子供を生み、自身は見守るように死んでいく……

突き詰めれば自己犠牲によって命は次世代へと繋がれていく過程を描いた作品とも受け取れそうです。
なんにしろ、芥川が考える母性(女性ではなく)は母親自身や何か他の命の犠牲の上に成立しているとも読める作品だと思います。
私はあまり、「母性ってすごい!」という風に考える傾向にない人だと思うのですが(一応これでも母親ですけども^^;))芥川は奥さんや自分の母親に対して思うところがあったのかなあ……と妄想しております(笑)
3.作中の素朴な疑問「庚申薔薇」とは?
さて、感想をひとしきり書き終えたところで、作品を読んでいてどうしても気になった部分をつついて終わりにしようと思います。
メス蜘蛛が陣取っている場所として登場するのが「庚申薔薇」という植物です。
薔薇はわかるけど「庚申」とは?
これはそのまま、「こうしん」と読ませるようなのですが、申(しん)の方は「さる」とも読める通り、十二種類ある干支のひとつ、申年の申(さる)ですね。
一方、庚(こう)の方は、こちらも生まれ歳によって一つ決まっている十干という要素の一つです。その字の通り、十干には10種類の要素があり、10年周期でぐるぐると繰り返しています。非常に十二支と似た概念ですね。
生まれた年で十二支と十干の組み合わせが一つ決まり、1983年生まれの私ですと癸亥(きがい)という組み合わせになるようです。占いなどで馴染のある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
この十二支と十干は60年周期で繰り返されているのですが、ここでやっと、最初の「庚申」薔薇に戻ってきます。
「庚申」の組み合わせも60年周期で繰り返されているように、庚申薔薇は60日周期で繰り返し繰り返し咲くほど花を咲き続けてくれる種類のようで、この名前がつけられたとのことでした。
他の組み合わせも60年周期じゃん……とツッコミたくなりますが、そこはきっと今は忘れられてしまった他の理由や、単純に語呂の問題とかがあったんでしょう。
ともかく「庚申薔薇」は繰り返し咲くという特徴をもった花だということですね。

繰り返し、繰り返し……なんとなくではありますが、芥川がメス蜘蛛の居場所を「庚申薔薇」としたのは、この「繰り返し」に心惹かれるものがあったからではないかと思ってしまいます。
命が繋がっていく過程はまさに「繰り返し」ですからね。
亡き文豪がどこまで花に詳しかったかはわかりませんが、何か思わせぶりな符号を感じさせますね。
いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した『女』は芥川龍之介の作品の中でも短く、そしてテーマもわかりやすい作品だと思います。
そして何より、無料でWeb上で読める!(笑)
巧みで美しい日本語使いであった芥川龍之介の文章に触れてみてはいかがでしょうか?
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。