銀座のショーウインドウに飾られた衝撃のものとは……?『奈落の偶像』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する作品はこちら
奈落の偶像 麻見和史 講談社
個性派刑事5人組が活躍する『警視庁殺人分析班』シリーズ、9作目です。
今回の事件の舞台は銀座ということで、これまでの事件よりも町の雰囲気とかを想像しやすいのではないでしょうか?
私も10年以上前になりますが、都内に住んでいたことがあるので銀座には時々行っておりました。
特に買い物とかするわけでもなく、いわゆる「銀プラ」ってやつですね。
作中にも聞き覚え、見覚えのある地名や建物がチラホラ……途中で銀座の地図も掲載されていて、作品の構想を練るときに作者さんも実際に銀座の町を「銀プラ」されていたのではないでしょうか?
後半の大詰めになってくると、銀座の地形が重要ポイントにもなってきますので、皆さんも機会があれば「銀プラ」してみると、より作品を楽しめそうですね。
それではあらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単なあらすじからご紹介していきましょう。
冒頭にも書いた通り、今回の事件の舞台は銀座です。
銀座には大小さまざまなブティックが町のいたるところに存在しています。
共通点は「どこのお店もお値段が高いこと」。
店構えからしてオシャレで高級な敷居の高い店ばかりです(私は冷やかしでしか入ったことない)。
そんな銀座の高級ブティックの一つで事件は起こります。
朝、店員が店に到着すると店内に違和感を感じます。
「もしかして泥棒……?」
そう思った店員が警察を呼び、一緒に店内の異常を点検し、シャッターを開けたところ……
お店のショーウィンドウに男性の首つり遺体が発見されるのです。
みせびらかすように飾られた遺体……
なかなか強烈な事件の始まり方ですよね。
演出方法も派手ですし、場所も銀座ということもあり人通りも多かったためかショーウィンドウの死体はSNSなどを通して拡散されます。
もしや犯人は「劇場型」か?
緊張感が捜査員の間に走る中、塔子たち11係が捜査を開始します。
捜査を開始してすぐ、事件現場から「奇妙なもの」がなくなっていることが判明します。
それは「マネキン」です。
それも普通のマネキンではなく、人型をとって作るようなとっても精巧な出来のいいマネキンです。
マネキンをとっていったのはおそらく犯人、でもどうして?
いまいち犯人がしたいことが分からない塔子たちをあざ笑うように、銀座の町には不審なICレコーダーが発見されます。
録音されていたのは監禁され、殺害されようとしている第二・第三の犠牲者たちの助けを求める「肉声」。
なぜこんな非情なことを!?
被害者たちの命のタイムリミットが迫る中、塔子たちが銀座の町を駆け抜けます。
2.謎めいた犯人の視点
本作のメインは当然、塔子の視点で、銀座の町を闊歩しながら犯人と被害者たちの行方を追い求めていくことになるのですが、もう一つ、本作の特徴に「犯人の視点」が存在します。
これは過去、本シリーズでもよく取り入れられていた手法で、犯人が誰かはわからないけど、その犯行の一部を犯人の視点で追っていくことになります。
私の記憶では1作目の『石の繭』の犯人、通称トレミーの視点が印象的ですね。
トレミーは頭もよく、冷静で、残酷で、なんというか、突き抜け感のあるカリスマ性すら感じさせる強烈な犯人像を植え付けてくれました。
ところが、ですよ。
今回の犯人、どうもその点、少し「弱さ」を感じるんですね。
犯行前の犯人の心情描写から本作は始まるんですが、「冷静にならなければ」と焦りも感じられるし、トレミーから感じられた「自分の犯行はなすべきことである」という間違ってはいるけど犯人本人にとっては絶対的正義という信念が薄いように思えるんです。
「なんだ、大したことなさそうだな」
本作の犯人に対する私の第一印象はこの一言でした。
しかし、物語が進んでいくと、犯人の印象が少しずつ変わっていきます。
「おや、思ったより狡猾かもしれない」
「あれ? この犯人もしかして侮れない?」
「あ! この事実は塔子たちは気づいてないぞ……!」
と、徐々に手ごわさを増していくのです。
それに伴い、劇場型犯罪の演出も残酷さを増していき、物語全体の緊張感が高まっていくという効果を生んでいます。
さすがシリーズ9作目、ちょっとした描写の工夫で盛り上げてくれます……!
3.これって何かの伏線ですか?
『奈落の偶像』のあらすじと感想については以上なのですが、少しこのシリーズについて気になっていることがあります。
思い返せば『奈落の偶像』から数作前からその傾向はあったのですが……
これって何かの伏線なの?
と、妙に思わせぶりな描写があるんですよね。
その描写というのが「吉富部長」。
この人の言動がめちゃくちゃ気になってます。
なんで気になっているか、その理由をご説明する前に、まず「吉富部長って誰だっけ?」という方に簡単に彼の紹介をしておきましょう。
吉富部長は刑事部の部長。つまり塔子たちの上司になります。
上司と言っても、塔子たちの上には手代木管理官、神谷課長といった捜査会議のシーンになると出てくるお馴染みの登場人物もいますが、吉富部長はそのさらに上の役職、刑事部部長の位置にあります。
まだまだぺーぺー感の強い塔子にとってみれば雲の上の人。
普通なら会話を交わすことはおろか、ほとんど会うこともないくらいの人でしょう。
しかし、この吉富部長はちょくちょくと塔子を見つけては「最近どう?」と(口調はもっとかしこまってますが)と話しかけてくるのです。
他の部下、例えば鷹野や早瀬にわざわざ話しかけているような描写は作中にないですし、そもそも大所帯の刑事部の主が末端の捜査員の顔と名前を一致させていることも珍しいことではないでしょうか。
一応、作中で吉富部長が塔子を気にかけて話しかけている理由としては「塔子が吉富が推進する女性捜査員育成プログラムのモデルケースとして捜査一課に所属しているから」とされています。
塔子が結果を出せば吉富部長の成果になり、逆もまた然りというわけですね。
だったら気にかけるのもわからんでもないか……?
とは思うものの、最近は1作につき1シーンは吉富部長が塔子に話しかけるシーンが出てきますし、『奈落の偶像』では「え? そこまでする?」という少し驚きの優遇を塔子に見せています。
うがった見方になりますが、面倒見の良すぎる上司というのは物語においては「裏切り者」だったり「実は悪役だった」みたいになるケースがおおいきがするんですよね……
これって、後々何かの事件の伏線になっているのかしら……?
シリーズ中では完全にちょい役の立場の吉富部長ですが、彼の言動が妙に気になって仕方ありません。
いかがでしたでしょうか?
銀座の町を舞台にした『奈落の偶像』、そういえば真犯人当ては全くのダメダメでした^^;
もはや誰が怪しいともよくわからず^^;
無関係にしか思えない人だったり、意外な人を疑ってみるといいかもしれませんよ……?
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
『警視庁殺人分析班』シリーズの登場人物紹介はこちらからどうぞ↓
8作目『雨色の仔羊』のあらすじと感想はこちらからどうぞ↓