人間パズルが複雑すぎる…どうしても真相が当たらないミステリ『女神の骨格』読書感想
元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!
今回ご紹介する本はこちら
女神の骨格 麻見和史 講談社文庫
『警視庁殺人分析班』シリーズ6作目です。本作をこれから読もうという方にできるアドバイスは1つ。
一気読みしてください。
シリーズのこれまでも難事件でしたが、今回はややこしさMAXです! 鷹野が謎解きを始めるまで事件の謎がほとんど見通せない上に、出てくる登場人物の多さはパズルみたいです。解決編を読みながら「え? すごく複雑じゃない?」と塔子と一緒に頭を整理するのに忙しかった……
それだけに読後の満足感も高かったですし、塔子&鷹野のペアが好きな方にはご褒美的なラスト付きでした!
それではあらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単にあらすじをご紹介しましょう。
今回の事件の舞台は東京都国分寺市から始まります。洋館と呼ぶにふさわしい立派な家で火事が発生。幸い、家に人はいなかったようですが、消火後に点検していた消防士が隠し部屋とその中に安置されていた白骨化した遺体を発見します。
遺体の周りにはよくわからない化石やら昔の医療器具やら……普通の人にはガラクタにしか見えないようなものがズラリと並べられています。その中でも異様な存在感を放っていたのが「赤い仮面」です。美しい女性の顔をしているのに色が真っ赤で超不気味……不吉な雰囲気のアイテムに塔子たちも戸惑います。
しかしさらに不気味な事実が次々と判明していきます。隠し部屋にはのぞき穴があり、部屋の外から内部を監視できるようになっていたこと。そして、白骨の頭部と体がそれぞれ別人のものであること、発見された遺体は “2人分” だったのです。
塔子たちは少ない手がかりをもとに周囲の聞き込みを行ったり、証拠品の出所を探ろうとしたりと捜査に奔走しますがほとんど空振り……なんの成果も出せないうちに、第2の事件が発生。一見無関係に見える男性の転落死でしたが、男性の遺体には塔子たちが追っている事件で見つかった「アレ」が残されていました……
2.人間のパズル
この後、塔子たちは懸命に捜査するのですが、新事実が分かるたびに謎が増え、筋読みもひっくり返されといつも以上の大苦戦を強いられます。そしてそれは読んでいるこっちも同じ、というわけで今回の(も?)事件も大苦戦でした^^;
なにせ事件の謎解きが一つもわからない! いつもなら「これは確実だろう」と思われる部分正解、みたいなのもなし! 事件の不透明度がほぼ100%の状態で解決編に入ってしまいました……
これはミステリ読み漁っている身としてはかなりショックでした。推理力は皆無でも、設定やら話の意外性やらから推理して「この人がたぶん犯人」とか、なんとなくわかってしまうスキルを身に着けているはずなのに!
その分解決編を読んでいる時の驚き具合は「おお……!」と声が出てしまうほどだったのですが^^;
しかしこの解決編も読んでも「超複雑」でした。そこはさすがに売れっ子作家の文章力なので、読めばちゃんとわかるように書いてあるんですが、これ、同じように私が他の人に説明しろ、って言われても高難易度の伝言ゲームになったと思います。プロの文章力すごい。
ややこしさMAXだった本作ですが、その原因になっているのが「人間のパズル」です。事件の真相が見通せないまま登場人物たちがどんどん増えていくんです。きっと中にはMOBもいるだろうに……「君はお話にどこまで関係あるんかいな?」とぶつぶつ呟きながら読んでいました。
そして正体不明の人物も多いからさらにたちが悪い! なにせ、冒頭から登場する白骨遺体だけですでに正体不明者が2人分ですからね……遺体の身元特定に塔子たちも大苦戦していました。
ちょっと前に横溝正史の『スペードの女王』という長編を読みましたが、これも正体不明人物がガンガン登場してきて事件の難易度が跳ね上がっていた作品でした。こちらもおススメです。
脱線しましたが、冒頭にも書いた通り、ややこしさがすごいので一気読みをおススメします。
ちょっと時間を置いたりして内容を忘れてしまうと、非情に勿体ない作品です。最後まで読んで「そうだったのかあ!」と塔子と一緒に驚くという楽しみのためには記憶が新鮮なうちに、ぜひ読み通してくださいね。
3.鷹野爆弾
塔子&鷹野ペアの絆の成長もシリーズファンは毎作楽しみにしているところですよね。本作は爆弾級のサプライズがありました。
本作の季節は寒い冬。新年が明けてしばらく経った頃という設定です。実はこの時期、塔子にとっては嬉しいようなちょっと焦るような、そんな微妙な気持ちになる時期と重なっています。
しかし警察っていう仕事は因果なものですね、微妙な女心にひたるまもないまま、仕事仕事、事件事件で塔子の日常はあっという間に過ぎ去って……
いくんですが! ラストに大きなご褒美待ってました!! よかったねえ、塔子……^^
警察ものはバディものであることが多く(たまに一匹狼パターンありますが)『警視庁殺人分析班』シリーズも新人・塔子と敏腕・鷹野のペアが少しずつ絆を深めていくのを追ってきていました。しかしそこはやはり男女のペアなので、ちょっと恋愛めいた期待もしてしまうんですよね。
何作か前のあとがきで作者さんも「読者から2人の関係がどうなるのか、という声が届いている」という主旨のコメントをされていました。が、同時に「鷹野があの性格ですからね……どうなるかわかりません」とも書かれていました。
どうなるんだ!? どうするつもりなんだ!? と興奮気味にページにグッと顔を近づけたのを覚えてます(笑)
仕事のために組んでいるペアだし、塔子も鷹野も全然恋愛脳じゃないし、個人的にもそんなに距離をぐいぐい詰めていってほしくはない……でも、でもでも。なんとなくですがバディ以上両片思い未満的な感じになってくれたら一番ニヤニヤできて楽しそうだなーとは思っています(笑)
なんにしろ、1作目ではこの「鷹野爆弾」は落ちなかったなあ、と思うと2人の距離の縮み方ににんまりしてしまうのでした。
4.塔子、パクる
最後に、これもシリーズ通してのお楽しみ要素、塔子の成長についても触れておきましょう。
塔子ちゃんは本当にいい子なので、たとえ最初は彼女に負の感情を抱いていてもいつの間にか好かれてしまうという性格美人さんです。その分、刑事としてやっていくには優しすぎたり考えすぎたりするところもあって、そこがまた放っておけない魅力です。
そんな塔子も少しずつ、捜査の中で自分らしさを発揮してくれるようになってきました。今回見せたのは「聴取テクニック」。お見事なお点前を披露してくれました。
しかしこれ、前作の『聖者の凶数』を読んだ方にはお分かりの通り、徳さんの丸パクリなんですよね^^; 前回の聴取時はあわや失敗の危機だったのでかなり成長したってことでしょう。
シリーズの定番にもなってきた塔子が真犯人を最後に諭す言葉もどんどん力強さが増している気がしますね。
これだけは他の11係のメンバー、たとえベテランの徳さんや敏腕の鷹野であっても様にならない仕事で、塔子ならではの良さがでるシーンなので毎巻楽しみになってきました。
いかがでしたでしょうか?
事件の難易度も高く、塔子が個人でも、鷹野とのペアでも成長した姿をみられて大満足でした。
ドラマ化からは漏れている作品ですが、ぜひ手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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