血文字のタオルを運んだのは…小学生!?『雨色の仔羊』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する本はこちら
雨色の仔羊 麻見和史 講談社文庫
個性派刑事5人が猟奇的殺人事件の真相を追い求める『警視庁殺人分析班』シリーズ8作目です。
毎回、あの手この手で先を見通せない展開と「そうだったのか!」という真相解明のアハ体験を提供してくれるシリーズですが、今回も「この事件の謎気になるー!」と好奇心を煽りに煽ってくれました。
さらに、事件そのものも面白いのですが、今回は主役の塔子ちゃんも刑事らしい活躍をみせてくれました!
これまで、ものすごくいい子だし鷹野の推理にも役立っているしと、ちゃんと活躍の場はあった彼女ですが、今回は「頼もしくなっちゃって……」と孫の成長に目を細めるような思いで読んでしまいました。
塔子ファン、必読です。
それでは、あらすじと感想をまじえながらご紹介していきましょう。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単にあらすじをご紹介しましょう。
塔子が休日に買い物をしていたところ、上司の早瀬に呼び出されます。
原因は一枚のタオル。それには血文字で「タスケテ」と記されていました。
塔子は相棒の鷹野と共にタオルが発見された赤羽に向かい、近辺で何か事件が起きているのではないかという推測の元、捜査を開始します。
そして一軒の空き家で男性の遺体を発見します。
その遺体は激しい暴行にあっており、鎖に繋がれたまま手足の骨を折られた状態での発見でした。
猟奇殺人か? それとも深い怨恨によるものか?
血文字タオルの血が男性の遺体と同一であることがわかり、塔子属する「無敗イレブン」こと、捜査一課第11係が事件の調査を開始します。
現場周辺の聞き込みや防犯カメラを検証するうちに、血文字のタオルを遺体発見現場から運んだのは、なんと小学生の男の子だと判明します。
塔子たちは子供の保護を最優先に行動し、そのかいあって男の子はすぐに発見、保護されました。
が、しかし。事件の重大な鍵を握ると思われるその男の子は、明らかに様子がおかしかったのです……
2.本作最大の謎「子供」
毎作、よくこんなに残酷な状況を思いつくなと感心する『警視庁殺人分析班』シリーズですが、今回もむごいですね~……まるで犬のような扱いを受けた遺体です。
さらに今回は事件関係者の中に無垢な子供もいるのでより、残酷さが際立っている気がしますね。
さて、あらすじにも登場した小学生の男の子。
遺体発見のきっかけとなった血文字タオルを運搬したことからもわかるとおり、今回の事件の鍵を握る存在です。
塔子たちは知る由もないですが、実は今作の冒頭はこの小学生の男の子・大橋優太くんが自宅で何者かに誘拐されるところから始まっています。
犯人はなんのために優太くんを誘拐したのか?
遺体となって発見された男と優太くんの間には何か関係があったのか?
優太くんは血文字タオルを運ぶ際に一人で行動していたがなぜ助けを求めたり、逃げたりしなかったのか?
さらにシングルファザーである優太くんの父親も行方不明になっており、事件に関わっているのかもしれない、それも被害者ではなく、加害者という立場で……という疑いが浮上する始末。
とにかくまだ小学生なのに不審なところばかりが目立つ優太くん。
軽擦に保護された後、当然塔子たちは彼から重要な情報が得られるものと考えていたわけです。
が。
優太くん、発見された直後は名前や学校の名前など、年齢に似合わない気丈な様子で答えていたにもかかわらず、事件に関することを聞いた瞬間に、黙り込んでしまったのです。
何を聞かれても答えようとしないばかりか、目を合わせようともしてくれなくなってしまった優太くんに、警察はほとほと手を焼かされます。
いつもなら、仏の徳さんこと、大ベテランの徳重さんが登場してするすると情報を引き出したりと、塔子の周りの先輩刑事たちが助けてくれるところですが、どうも子供相手では誰も調子が出ない様子^^;
しかし大事な手掛かりであることは間違いない優太くん。今回は彼の心をいかに解きほぐすのか、が事件解決の鍵となる展開になっていました。
貝みたいな優太くんをどうにかしなければならない11係。
こればっかりは鷹野も頼りにならない!?
しかし、11係には我らが塔子ちゃんがいるのです。
3.塔子の成長
『警視庁殺人分析班』シリーズも8作目。1作目で塔子は「新人さん」として登場し、時に活躍しつつも、むしろ大きな挫折や失敗を繰り返しながら、少しずつ成長する姿がえがかれてきました。
そして本作で、彼女の強みがまた一つ、花開いた展開となりました。
その成長を感じさせてくれたのが、小学生男子の優太くんです。
優太くんは「ほんとに小学生か?」というくらい、気丈な性格の少年として表現されています。
最後まで読んで理由を知れば「なるほど、しっかりせざるを得なかったのね」と納得のいくものでしたが、その理由もよくわからない中盤では、鷹野の脅し(脅すなよ……)にも屈せず、公安の不気味なすり寄りにもめげず、優太くんは口を閉ざし続けます。
そんな優太くんの心を唯一、ひらける可能性を感じられたのが塔子でした。
と、ここで「塔子は若い女の子だし、背も低くて小学生男子には親しみやすい存在かもね」と思ったら、そういうことではない、とはっきり言っておきましょう。
優太くん、そんな見た目とかに騙されるほど甘い頭の持ち主ではありませんでした。
優太くんが完全に心を許してくれるまで、塔子は彼にできる限り寄り添い、言葉をかけ続けるのですが、その方法がなんとも塔子らしくもあり、刑事らしく成長した姿でもありました。
例えば、何が好きかもわからない小学生の男の子といっしょにジュースを選ぶとしましょう。どうせなら一番好きなジュースを飲んでもらいたいですよね。しかし肝心の男の子はどれが自分の一番好きなジュースかすらも、教えてくれないのです。
さて、どうやってジュースを選んだらいいのか?
これは作中で実際にあったシーンなのですが、塔子は見事、優太くんの好きなジュースを当ててみせました!
これは純粋にすごいと思いました。塔子らしい気遣いと、そして刑事らしい駆け引きの仕方を見せてくれたシーンで、本作の中でもトップクラスで印象的なシーンです。
こういう、ちょっとした塔子のアプローチで徐々に徐々に、優太くんが塔子に心を開いていくのがわかるのが、塔子ファンでもあり、シリーズを8作まで読んできた私には大きく心に刺さるものがありました。
いやあ、成長したなあ、塔子ちゃん。
塔子と対比するために、優太くんの面倒見役として子持ちの女性警察官を登場させたのも、いい対比になっていてよかったなと思います。
安易に小学生男子だから子持ちの女性なら懐くだろ、ではなく、ちゃんと一人の人間として向き合おうとした塔子の良さが伝わってくる丁寧な表現がよかったです。
さらに、塔子と優太くんのコンビは本作の最後の最後まで活躍を見せてくれます。塔子と小学生のコンビにしてはなかなかにアクロバティックな動きを披露してくれます。こちらも楽しみに読んでみてください。
いかがでしたでしょうか?
本文が塔子の成長に終始してしまいましたのでここで補足しますが、今回の事件もなかなかに入り組んだ構造でした。
うん、本当にひとかけらもわからなかったですね^^;(だから感想に書けなかったわけです……)
シリーズが進んでレベルアップしているのは塔子だけではないようです。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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