マンネリ打破と胸熱展開の10作目『鷹の砦』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する作品はこちら
鷹の砦 麻見和史 講談社
個性豊かな刑事5人組が猟奇殺人事件に挑む『警視庁殺人分析班』シリーズ、10作目です。
記念すべき2桁台の1冊でしたが、テーマは「マンネリ打破」だったと思います。
これだけ長くシリーズが続くとお決まりのパターンが決まってくるもので、殺人事件が発生 ⇒ 急行する主人公たち ⇒ 事件捜査開始というのが本シリーズのパターンでした。
『鷹の砦』に辿り着くまでもお決まりのパターンを少しアレンジして別の事件を本筋の殺人事件の導入に使ってみたり、あえてシリーズ初期の過去作を踏襲して主人公の成長を強調してみたりと、様々な工夫がなされてきました。
そして本作『鷹の砦』は事件の進行の仕方、主人公の成長、主人公と仲間の刑事たちの絆という、本シリーズが大切にしてきた3つの柱をこれまでにない新しい形で読ませてくれる1冊になっていました。
さすが2桁台にいく人気シリーズだけはあります。
もっともっと、塔子たちの活躍をこれからも読んでいきたいと思える作品です。
それでは、あらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
マンネリ打破の10作目と冒頭に書きましたが、お話の始まり方からして、今までは異なります。
廃アパートで男性が暴行を受けて死亡されているのが発見されます。
いつもならこの事件現場に入るところから始まるところですが、今回はお話の開始時点で既に事件発生5日目。
しかも早くも容疑者を特定しており塔子と鷹野コンビが監視についている、という状況から始まります。
しょっぱなから塔子と鷹野は犯人を追いつめるべくピリピリとした雰囲気に包まれており「いつもとは違う!」感がでています。
しかもここからお話はさらに急展開。
監視と尾行に気づいた犯人グループはカーチェイスの上、逃走。
一般市民を巻き込んだ立てこもり事件へと事態は悪化の一途をたどっていくのです。
さらに犯人グループは人質の解放の条件に「捜査員の中にいる女の刑事と交換」というトンデモナイ条件を突き付けてきます。
女の刑事、そう塔子のことです。
塔子の身の安全を考え渋る上司、同僚、そして鷹野でしたが……塔子は意を決して人質となることを決意します。
塔子は彼女なりに覚悟を決めて犯人たちの元に赴くのですが……
この後、塔子の身に次々と暴力が襲い掛かるという、読んでいて辛くなる展開が続きます。
極めつけは塔子が気を失っている間に、どことも知れぬ場所で白骨死体と共に置き去りにされるという大ピンチです。
生きている人の気配もない、食料もなく、このままでは生存は絶望的……
ここから、塔子の知恵と勇気と、そして仲間たちとの絆が試されます。
2.マンネリ打破の10作目
あらすじを読んだだけで「いつもとは違う」感じが伝わったでしょうか? 伝わっていなかったらそれは私の責任なのですみません^^;
今作の特徴は「しょっぱなかな緊張感マックス」なところが挙げられます。
殺人分析班シリーズはこれまで死体が発見されて捜査開始となるところからお話がスタートし、そこから犯人へたどり着くまでの道のりを塔子の視点で追体験していく形で読み進めていくのですが、序盤は犯人への手掛かりの片鱗すら見えてこないことも多々ありました。
構成が巧妙な証拠でもあるのですが、こうなるとお話の盛り上がりとしてはスロースターター気味で、エンジンがフルスロットルまで入るのはかなりの後半になります。
今までのスロースターターな構成でも十分楽しめていたのですが、今回は既に「殺人事件捜査開始5日目で容疑者特定済」な状態で、さらに「容疑者に監視もついている」状況からスタートしているので、否が応でも緊張感が高まります。
そういえばこれまで、塔子ちゃんは犯人を目の前にして取り逃がしちゃったりすることもあったんだよねえ……
……なんて、過去作の記憶を思い出してみれば「今回はちゃんと捕まえられるのか!?」と心配な親心まででてきます。
冒頭から緊張感をだしてきましたが、今回はその緊張感がどんどんと高まっていくばかりの展開が続きます。
監視していた容疑者たちが備考に気づきカーチェイスを繰り広げ、そこからの人質立てこもりへと発展し、果てには塔子自身が人質となるというジェットコースターのような急展開。
しかし、そこからさらに塔子はどんどんとピンチというか命の危険レベルにまで追い詰められていってしまうのです。
これまでも爆弾で吹っ飛ばされかけただとか、銃を向けられたとか、いろいろ塔子ちゃんもピンチな場面があったなあ……
……なんと、またもや過去作の記憶がよみがえってきますが、今作のピンチはまた質が違います。
なぜなら、これまで塔子のピンチの時には必ず周りに誰か、具体的に言えば相棒であり頼りになる男「鷹野」がそばにいたのです。
普段はぼーっとしているようなところもあるけれど、抜群の頭のキレを持ち、刑事らしい立ち回りもできる鷹野がそばにいたからこそ、読んでいるこちら側も「鷹野がいるからなんとかなるだろう」と言ってしまえば少し高をくくっていた部分があったわけです。
しかし今回、塔子は完全に彼女一人きりの状況に放り込まれます。
しかもそばにいるのは物もしゃべらぬ白骨死体のみ。
私ならそんな状況耐えられそうにありません。
でもそこはヒロイン、塔子は諦めることなく生存と帰還へ向けて知恵と勇気を振り絞っていくのですが……
塔子の頑張りにより、序盤から高まった緊張感から引き続き「がんばれ!」と応援する気持ちに火をつけて読む手を進めてくれます。
そして、読む手を進めてくれるのは塔子の頑張りだけではありません。
3.胸熱ポイント多数!
塔子が物語開始早々にピンチに陥る一方、鷹野や他の同僚刑事たちは何をしているのでしょうか?
彼らの様子は大ピンチに苦しみ戸惑う塔子の様子と交互にえがかれます。
人質となり、連れ去られてしまった塔子を鷹野達は当然追いかけるわけですが、追跡むなしく塔子の行方は途中で分からなくなってしまいます。
どうにかして塔子の行方の手掛かりを見つけ、彼女を救い出さなければ……!
同僚刑事たちは懸命に塔子の行方を追いかけます。
中でも、特に必死になるのが彼、塔子の相棒の鷹野です。
いつもはひょうひょうとしていて冷静で熱くなるところはシリーズのこれまでもほとんど見られなかった鷹野ですが、彼の「やる気スイッチ」は意外と簡単なところにあることがわかっています。
そう、「塔子のピンチ」ですね。
今回は今までにない大ピンチなので鷹野は持ち前の頭脳を回転させ、執念深く塔子の行方を追い求めていきます。
そんな捜索の中でも、鷹野の頭をよぎるのはこれまで数々のピンチにさらされながらも、持ち前の気丈さで恐怖や自信喪失という高い壁を乗り越えてきた塔子の姿です。
そんな思い出がよぎる頭を掻きむしりながら諦めるなと自分を叱咤するような様子の鷹野。
その姿になんだかジーン……とくるのは私だけじゃないはず。
これまで築き上げた塔子と鷹野の関係を前提とできる10作目だからこその演出ですね。
そして塔子のピンチに熱くなるのは鷹野だけではありません。
塔子に想いを寄せているらしい「あの人」ももちろん登場し、重要なヒントをもたらします。
その「あの人」と鷹野のやり取りも、個人的にはニマニマと読んでしまいました。
いつもは少し険悪さすら感じさせるのに、間に塔子のピンチを挟むと共闘、協力といった関係になるのね……
塔子を絶対に助けようと手をとりあう鷹野達の姿は本作前半のクライマックスであり、シリーズを読み続けてきた読者へのご褒美のような胸熱展開でもありました。
いかがでしたでしょうか?
記念すべき10作目にふさわしいスリルあり、胸熱展開アリの充実した作品だったと思います。
シリーズものなのでできれば1作目から読み進めていってほしいところですが、途中から読み始めた知人の話によれば、『警視庁殺人分析班』シリーズは途中から読み始めてもまったく問題なく楽しめたそうです。
試しにこの作品から読んでみるのも全然ありかもしれませんね!
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。