読書感想|科学+歴史で間違いのない面白さ、自閉症の世界(スティーブ・シルバーマン)

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自閉症の世界 スティーブ・シルバーマン 講談社ブルーバックス

一般書よりも濃い内容で、専門書よりも初心者に寄り添った内容でお馴染みの科学読本、講談社ブルーバックスシリーズより、『自閉症の世界』をご紹介します。

帯に書いてあって知りましたが、ニューヨークタイムズのブックレビューでベストセラーリストに載ったことがあるそうです。

ブルーバックスシリーズには内容が難しく、理解に手間取るものもありますが、本書はとても読みやすく、そして面白いです。

さすがベストセラー本。

それでは、どこに面白さを感じたのか、内容とともにご紹介していきますね。


まずはおおまかな内容から。

本書では自閉症について誰よりも時間を費やし研究を重ねてきた作者が、自閉症の歴史を振り返りながら、その症状の多様性と、理解や教育の必要性を訴えています。

自閉症の歴史を紐解いていくとわかるのは、その歴史は迫害と隔離の歴史であるということです。

自閉症という言葉がまだなかった時代、奇妙な行動や偏執的拘りをみせる自閉症者は社会からつまはじきにされ、保護という名の劣悪な環境の集団施設に閉じ込められたり、病気になっても治療せずにただ死ぬのを待ったりと、まともな人権が認められることは少なかったのです。

親といえども社会の風潮には逆らえず、泣く泣く我が子を施設に送らざるを得なかった、というエピソードも多く載せられていました。

もちろん、自閉症的行動を示す我が子に、なんとかして普通の生活を送らせようと、「治療」を施そうとする両親、医療関係者もいました。

しかし、その多くは過激な食事療法や、多量の薬物投与などで、自閉症者の肉体・精神に多大な苦痛をもたらすものでしかなかったのです。

自閉症という言葉とともに理解や適応の仕方の模索が始ったのはわりと最近のことなのです。

このように、自閉症者の歴史は、近年に入るまで、悲惨としか言いようのないものでした。

ただ、悲惨なエピソードの中にも、わずかな社会適応の成功例も記されています。

自閉症者が暮らすコミュニティ自身が、自閉症者のことを理解し、受容する環境を工夫し整えてあげること、それができた場合に自閉症者が幸せに暮らせる社会を作り出せました。

残酷な歴史とわずかな光明に彩られた歴史は、事実は小説よりも奇なり、の言葉通り、物語性豊かに、科学読本にも関わらず読み進める手が止まらないほどに面白く仕上がっています。

実際の家族の話やコミュニティの中に生きた人々の話の中で語られるので、読者の想像力を刺激し、ただ症状を羅列されるよりも具体的に、寄り添って考えられるようにできています。

しかも、そこにブルーバックスシリーズならではの科学的要素がふんだんに散りばめられているのです。

自閉症の歴史から読み取れるのは、

・自閉症というのは連続的症状をみせるものであり、幅広い個性を見せる症状だということ

・自閉症者を無理解で隔離、迫害することは害悪でしかなく、教育や理解が必要不可欠であること

・自閉症的症状をみせる原因は実はよくわかっていないこと

・自閉症の定義も時代によってさまざま、移り変わっていく曖昧なものであること

これだけでも、自閉症というものが向き合うに如何に困難で、根気がいるものか想像できようというものです。


次に読んでいて印象に残った2点をあげておきます。

1点目は自閉症者から見た我々の世界がいかに理不尽なものかということです。

自閉症の特徴の一つに、一つのことにとことん集中してしまう、というものがあります。

我々から見れば、それは偏執的にこだわっているように見えますが、視点をひっくり返してみるとどうでしょう?

絶えず外部の刺激に心奪われ、落ち着きなく集中するものがどんどん変わっていく周りの人々。

絶えず焦点が変わっていく人々は、自閉症者にとっては理解しがたい存在だと想像できますよね。

私だって、集中して読書したいときに、子供がうるさく遊べ、と言ってきたらイラっとしてしまいます。

それが日常、常に頻発するとしたら、その心境はイライラする、どころではありませんよね。

2点目は歴史は常に大多数が勝つ、ということです。

我々が大した集中力も持たずにうまく社会に適応できているのは、我々が大多数だからにほかなりません。

もし、自閉症者の方が多数の世界だったらどうでしょう?

きっと辛い思いをして生活していくのは、あちらこちらと集中が途切れてしまう我々の方でしょう。

今、暮らしやすい社会に生きていると思えることは、ただ自分が大多数の傾向を示す人間であるから、という理由に過ぎないのです。

実はこの本を読み終えたのは1か月以上前になります。

人間の記憶というのは日々失われていくそうで、1カ月も経てばほとんどは脳の片隅の容易には取り出せないところに追いやられているはずです。

それでも、今でも鮮明に思い出せる部分がある、というのは『自閉症の世界』がそれだけ理解しやすく、そして心情に訴えてくる部分のある良書であった、ということだと思います。


いかがでしたでしょうか?

『自閉症の世界』はかなりボリュームのある本ですが、内容は読みやすくなっていますので、ブルーバックスシリーズが好きな方はもしろん、これから読んでみようかなという方にも優しい本になっていますよ。

特にサイモン・シンの『暗号解読』や『宇宙解読』など(ともに新潮社より発刊)、科学+歴史のジャンルに興味がある方にはお薦めです。

もちろん、『自閉症の世界』を読まれて面白かった方には、上記のサイモン・シンの本を読んでみることをお薦めします!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントを残していってくださいね。

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