読書感想|一気読みしたいならおススメです、仮面病棟(知念実希人)

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仮面病棟 知念実希人 実業之日本社文庫

本屋でよく平積みされていますし、Twitter内でも大人気な作家さん&作品ですね。

フォロワーの方がTweetでよくおススメされていたので、読みたくなってお迎えした一冊です。

そして、評判通りの面白さで、一気読みできる本でした!

ジャンルはミステリで、おそらく読んでいく中で真相に辿り着ける方もいそうな作品でしたので、最後の真相の部分は伏せますが、真犯人は誰、はネタバレしてます。

その上で、今回は少し思考実験「もし、〇〇だったらどうなるか?」を考察していきたいと思います。

お題は、プロローグをいじってみよう、です。

それではこれ以降ネタバレあり、です、注意してくださいね。

目次
 1.おおまかなあらすじ
 2.思考実験 : プロローグを変えてみよう


1.おおまかなあらすじ

外科医の速水は当直のために田所病院を訪れる。

ところが、そこにピエロのマスクをかぶったコンビニ強盗犯が人質とともに逃げ込んでくる。

速水は逃走途中に負傷させてしまった女性、愛美の治療をしろとピエロに要求される。

愛美の処置を終えたが、ピエロは病院を出ていかず、朝までここに籠城すると言い出し、所持していた拳銃で速水たちを脅す。

当直看護婦の東野と佐々木、そしてたまたま病院に残っていたという院長の田所と入院患者65名とともに病院に閉じ込められてしまう速水と愛美。

外に通報しようにも携帯は何故か圏外、病院の出口付近はピエロに固められている。

速水は怪我人である愛美だけはなんとか守り抜こうと決意するが、大きな密室と化した病院内で、患者の一人が手術跡を破られ負傷する事件が起きる。

明らかに人為的な負傷にも関わらず、田所と看護師たちは患者が自分でベッドから落ちて負傷したのだと言い張る。

不審な様子を見せる院長たち、さらにピエロも偶然逃げ込んだように見せかけて、田所病院内で何かを探しているそぶりをみせ、速水は院内で何が起こっているのか探り出す。

その最中に、佐々木が他殺体で発見されるが、犯人はピエロではないと速水は推理し、院長たちへの疑いをさらに深める。

そして速水と愛美は、病院内の隠し部屋をみつけ、院長たちが違法臓器移植を秘密裏に行っていたことを突き止める。

ピエロが探していたのは違法手術の証拠、院長たちは必死でそれを隠蔽しようとしていたのだ。

事実が明るみ出て、証拠がピエロにより世に出れば身の破滅である院長は、目撃者である速水たち全員を殺そうとするが、警官隊の突入が重なって、速水だけは助け出される。

その後の事情聴取で、速水はピエロ、院長、佐々木、東野が全員死体となって発見されたことを知る。

しかし、ほとんど行動を共にしていたはずの愛美だけは姿がどこにも見当たらず、速水の記憶錯誤として処理されてしまう。

愛美が自分の幻想だったはずはないと確信する速水は、この事件の真犯人は愛美であるという事実に気づくのだった。

2. 思考実験 : プロローグを変えてみよう

『仮面病棟』の本編は、ピエロという得体の知れない暴力的な男と、院長たちの不穏な秘密という二重の危険性にさらされ、息つく間もないほど緊張感のある展開が続きます。

しかも主人公である速水は、医者になるだけあって頭のいい人物であり、それでいてなかなかヒロイックな性格をしています。

ピエロに拳銃を向けられながらも怪我人である愛美を真っ先に心配し、守ろうと決意したり(下心はありますが)、田所病院に潜む秘密を進んで見つけようとしたり、頭脳を働かせて状況を打開しようとする能力に優れているのです。

読んでいて、ハリウッド映画の主人公を彷彿とさせるほどでした。

この先一体どうなってしまうのか? スリルのある展開に惹きこまれてどんどん読み進められる本ですが、主人公である速水が最後どうなってしまうのか、だけは読者は心配せずに済みます。

なぜなら、本編前のプロローグで、事件後に警察から事情聴取を受ける、少なくとも身体は元気そうな速水の描写があるからです。

ヒロイックな主人公というのは、裏を返せば無鉄砲とも言えます。

アクション映画でも、主人公は生き残れるのかしら?とハラハラしながら観るのが醍醐味だったりしますが、本書ではその心配だけはないわけです。

でも、ここでふと思ったのです。

なぜ、主人公である速水の無事を読者に先に知らせてしまったんだろう?と。

プロローグの内容を変えれば、あるいはプロローグ自体を削ってしまえば、読者にはさらにハラハラする要素、主人公の安否が付け加わって、もっと面白くなった、かもしれません。

というわけで、思考実験です。

プロローグを変えてみましょう。

わずか2P半ほどの短い文章で、刑事と速水の会話がほとんどです。

これを、例えば、誰かが事件後に生き残ったが、誰かはわからないように書いてみるとどうでしょうか?

速水は会話文では「俺」という一人称を使っていますので、プロローグ内で一人称を使うと少なくとも「男性」が生き残ったとバレてしまいます。

なのでプロローグは一人称を使わず、刑事からも「あなた」と性別をぼやかして話しかけてもらうことにします。

例:机に肩肘をついた金本という名の中年刑事は、疑わし気に目を細めながら秀吾を睨め上げてくる。

  →机に肩肘をついた金本という名の中年刑事は、疑わし気に目を細めながら自分を睨め上げてくる。

  「先生の話と現場の状況で、合致しない点があるでしょう。それがどういうことなのかなと思いまして」

  →「あなたの話と現場の状況で、合致しない点があるでしょう。それがどういうことなのかなと思いまして」

この要領で読み替えると、誰かが生き残ったことだけはわかる描写になりますね。

誰が生き残るのかわからなければ、読み進めていく中で危険に身をさらす速水に「もう大人しくして!」と悲鳴を上げたくなるシーンも出てくることでしょう。

この方が、格段にスリル感は増す作品になりますね。

しかし、作者である知念先生は敢えて冒頭で速水の無事を暴露しています。

理由の一つには、読者が生き残ってほしいと感じる人物は速水、愛美くらいしかいないから、というのが考えられます。

やはり読者というのは主人公に感情移入しますから、どうせなら生き残ってほしいわけです。

そして作中に、特に速水にとって代われそうな魅力的な人物も、ヒロインの愛美くらいしか見当たりません。

となると、この時点で勘のいい読者には「どっちかが生き残るんだな」、と気づいてしまいます。

さらに、もう一つの理由として、ヒロインである愛美がおそらく真犯人であろうと、本編の途中でなんとなくわかってしまうことにあります。

トリックや犯行動機はともかくとして、偶然に人質になったにしては、愛美という人物は魅力的に描かれ過ぎているので、浮いてるんですよね。

この人は何か重要な役割を持っているに違いない、と勘づくことになります。

こう考えていくと、別にプロローグをぼかしたところで生き残ったのは速水、とまあ分かってしまうわけで…

途中で妙なネタバレ感が出るくらいなら、冒頭でばらして少し安心感を持って速水をみてもらおう、という知念先生の配慮がプロローグの内容を決定づけたのかもしれません。



いかがでしたでしょうか?

文豪ストレイドッグスの原作者でありライトノベル版の作者でもある朝霧カフカ先生が、以前に創作脳を鍛えるための方法として、「完成している物語に、尺をもう少し伸ばすとしたらどうするか、もう一人登場人物を加えるとしたらどうするか」を考えるとよいと述べられていました。

ちょっと今回はそれを真似してみましたが……撃沈してますね。

やはり考え抜かれた物語を変更するというのは並大抵のことではありません。

でも個人的に考えてみる分には面白い実験だと思いますので、皆さんもやってみてください。

良ければ感想など、コメントを残していってくださいね!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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