読書感想|スウェーデン発のサスペンスはミレニアムだけではない、魔女(カミラ・レックバリ)

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魔女(エリカ&パトリックシリーズ) カミラ・レックバリ 集英社文庫

こちらは遠いスウェーデンから海を渡ってやってきたサスペンス小説、エリカ&パトリックシリーズの第10作目になります。

スウェーデンといえば『ミレニアム』が数年前に話題になりましたね。

あちらもインパクトの強い作品でしたが、こちらも負けてはいません。

ミステリ、と分類されることが多い作品のようですが、読者があれこれ推理するような要素はほとんどありませんので、あえてサスペンスとして紹介させていただきます。

シリーズの概要を簡単に説明しておきますと、ノンフィクション作家のエリカと、警察官のパトリック夫妻が、スウェーデンの小さな町、フィエルバッカを舞台にした殺人事件の解決に挑む、という内容になっています。

殺人事件が進行・解決していくストーリーがメインになりますが、多数の登場人物がおり、群像劇としても面白く読めます。

主人公のエリカとパトリックの人生は平和ですが、周りの人物は激動の人生を送っていますので、後ほど、ご紹介しますね。

それでは、これ以降ネタバレありです、ご注意ください。

目次
 1.おおまかなあらすじ
 2.次々と変わる視点の妙
 3. シリーズ通しての面白さ


1.おおまかなあらすじ

フィエルバッカの町にある農場でネーアという幼い女の子が行方不明になった。

警察官であるパトリック達の奮闘むなしく、ネーアは他殺体となって発見される。

奇しくも、事件は30年前にも幼い女の子、ステラが行方不明となり他殺体となって発見されていた場所と同じ場所で起こった。

しかもフィエルバッカには、今、ステラ事件の容疑者でありながら未成年であったために逮捕されなかったマリーが仕事で帰ってきていた。

過去のステラ事件と、現在のネーア事件、同じ場所で同じ容疑者が揃う状況に捜査も町も混乱する。

一方、ノンフィクション作家のエリカはステラ事件を取材し執筆しようと準備を進めていた。

エリカはステラ事件を掘り起こすことでネーア事件との関連がわかるかもしれないと、過去の関係者たちに接触をする。

そして、フィエルバッカでは事件の他に、難民受入に対する是非でも揺れていた。

シリアからの移民たちは必至でスウェーデンに馴染もうとしているが、町民からは煙たがられネーア殺人事件の容疑までかけられる始末。

ネーア事件の捜査が難航する中、何者かがシリア移民の避難施設に放火するという大事件が発生する。

積み重なる事件の中、ステラ事件の容疑者であるマリーの娘イェシーとヘレンの息子サムが急接近していた。

ステラの姉であるサンナの娘ヴェンデラはイェシーが気に入らずなんとか二人に痛手を与えようと、男友達の二人を使ってイェシーをひどく傷つけることに成功する。

サムとイェシーはヴェンデラたちに復讐を誓い、とんでもない惨劇を引き起こす。

そしてエリカとパトリックたちは、ステラ事件とネーア事件、両方の真相にやっと辿り着いたが、その時には多くの関係者が殺し合い、死亡してしまっていた……

2. 次々と変わる視点の妙

このシリーズの特徴の一つに次々と変わる視点があります。

主人公はエリカとパトリックですが、他にも多数の登場人物がでてきます。

準主役級のフィエルバッカ警察著のメンバーたち、エリカの妹のアンナ、そのパートナーのダーン、パトリックの母親のクリスティーナ。

毎回出てくるメンバーだけでも10人近くいるわけです。

そして、その巻におけるゲスト、今回は巻頭の登場人物一覧に記載されているだけでも16人もいました!

巻を通してしっかりとした役割を持つ人物が30人弱。

これは登場人物数としては相当多いと思います。

そして、この30人弱、全員というわけではないですが、これだけ多数の人物たちが入れ替わり立ち代わり、それぞれの目線でストーリーを語っていくわけです。

エリカが新作の準備について悩んだ描写の次に、事件の捜査会議を行いパトリックの視点から警察著のメンバーが描かれ、アンナがダーンと会話するシーンに移っていく…

目まぐるしく変わっていく視点で主人公たちの日常と事件が語られていくので、読者は様々な角度から物語を体験でき、飽きることなく惹きこまれていくのです。

これはフィクション全般的に言えることだと思うのですが、登場人物というのは多ければ多いほど、創作難易度は高くなります。

作中で名前もなく通りすぎるような人物、いわゆるモブが多い分には割と簡単に済むのですが、名前とセリフと役割を持ったキャラクターをたくさん、私だと10名もいると、もうパンク状態になるであろうことが想像できます笑

人物ごとに、心情は? 事件についてどこまで知っているのか? もちろんこれは場面が変わっていくたびに次々と変化していきます。

登場人物たちの現在の状況を正確に把握して書いていくだけでも大変なのに、この作者は情報の小出しの仕方が大変にうまい!

その登場人物だけが知っている情報を、少しずつ本文に落とし込んでいくことで、読者も少しずつ事件の概要が見えていくようになっているのです。

少しずつ、というところもポイントで、有名になる作家さんは情報を細切れにして、それを出すタイミングも大変上手な人ばかりだと思います。

情報の整理がうまい、ということなんでしょうね。

シナリオを書いていた時に、シナリオを通して出すべき情報をいったん全部まとめて、どこで開示すべきか、書き始める前に考えるように指導されたことがあります。

一見、フィクションを書く上では情報の整理は必要ないようにも思えますが、大事なスキルだったりするのです。

3.シリーズ通しての面白さ

エリカ&パトリックシリーズも本作で10作目。

冒頭でもちらりと書きましたが、主人公の2人を除くレギュラーメンバーたちの人生はシリーズを通して激動しています。

特に、エリカの妹であるアンナの人生は波乱万丈、起伏にとんでいますので、この人ちゃんと幸せになれるのかな!?と読んでいて、主役の2人を差し置いて気になるほどです。

覚えている範囲でですが、アンナの人生をまとめてみますと

・DV夫に悩まされる日々

・DV夫から逃げようと決意するも失敗し、さらならDVに

・DVが殺人未遂レベルに達し、夫を殺害してしまう

・裁判の末、正当防衛が認められる

・ダーンと出会い、事実上のパートナーとなり、子供を妊娠する

・しかし交通事故で流産してしまう
(この時、同じく妊娠中だったエリカも事故に巻き込まれていますが、彼女は無事出産します)

・ダーンとの関係がギクシャクし、たまたま出会った男と浮気、しかもその男は殺人犯

・ダーンとの関係に亀裂がはいるが、なんとか復縁し、再び子供を授かる(←今ココ)

姉であるエリカが作家の仕事で成功し、子宝にも優しい夫にも恵まれている間に、妹のアンナの人生は踏んだり蹴ったりなわけです。

アンナの人生の行く末が気になってしまう気持ちがお分かりいただけたかと思います。

そして、アンナだけではなく、パトリックの同僚たちもパートナーの喪失、同姓婚の難しさ、孤独な老境など、それぞれの人生を苦しみながら生きていたりします。

これらの要素は物語の本筋とは離れたストーリーですが、シリーズ通して読み進めていく上での楽しみにもなり、また、シリーズを買い進めてしまう原因にもなっているわけです。



いかがでしたでしょうか?

この小説シリーズはブ厚めですが、内容はライトですし、翻訳された文章も読みやすく簡潔です、すらすら読めるようになっていますよ。

海外小説でも読んでみようか、というときに、検討してみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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