猟奇×警察小説をミックスした『邪神の天秤』ヒロインの氷の壁を壊す1作目(読書感想)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら

邪神の天秤  麻見和史  講談社

こちらは、同作者による大人気シリーズ『警視庁殺人分析班』のスピンオフ作品です。

『警視庁殺人分析班』にも登場した捜査一課のエース、鷹野秀昭が公安に異動した後の活躍をえがいています。

元々ミステリ好きですし、そういえば警察小説って久しぶりだなあ、と期待たっぷりに手に取らせていただきました。

そして、物語の最初、いきなり発生する事件の現場に釘付けになりました。

いやあ……これはなかなか、猟奇的……ミステリ好きにはたまらんかもです。

でも、かるい描写になっているので苦手な人でも大丈夫ですよ^^

警察小説でお約束の主人公が組織の捜査方針とぶつかるシーンもあり、「猟奇×警察小説」の良さがミックスした良作でした。

そして嬉しいことに、『邪神の天秤』、シリーズ化されることが決定済です!

シリーズ名は『警視庁公安分析班』。

そしてなんと、1作目を出版する段階で、シリーズ化が決定されてたという……これには本当にビックリです。

この出版不況の昨今、売れっ子作家が出した作品ですら、必ず売れるとは限りません。

にもかかわらず! なんですね。 

1作目から「これも? あ、これもそうかな?」とあちらこちらに伏線がばらまきまくってあり、しかもそのほとんどが未回収!!

既に2作目『偽神の審判』も出版済で、2022年にはドラマ化も決定されています。

しょっぱなから勢いのあるシリーズのようで楽しみですね!

それでは、あらすじと感想をご紹介していきたいと思います。

 

『警視庁公安分析班』シリーズに出てくる登場人物紹介はこちら↓


1.おおまかなあらすじ

まずはおおまかなあらすじからご紹介しましょう。

主人公の鷹野秀昭は刑事部捜査一課から公安五課に異動したばかり。

公安として初めての事件は赤坂で起こった爆発事件と殺人事件の捜査だった。

爆発事件が起きたビルの1階にはレストランが入っており、爆発が起きた直後、停電してしまった。

客を避難・誘導後、行方不明者が一人いることがわかった。

その行方不明者はレストランの近くのビルで他殺体で発見された。

被害者は与党の幹事長、真藤だった。

真藤の遺体からは臓器が抜き取られていた。

そして、現場には天秤が置いてあり、羽の形をした置物と被害者の心臓が釣り合うようにのせられていた。

さらに謎めいたことに、血を流したワニのイラストと、エジプトの古代文字・ヒエログリフが記されたプラスチック板が残されており、現場は猟奇的な雰囲気となっていた。

捜査は鷹野の古巣、捜査一課11係と公安五課の合同捜査となる。

鷹野は公安五課の班長である佐久間の指示に従い、テロや政治犯の犯行として捜査を開始する。

しかし、鷹野は刑事部でつちかった経験から、猟奇的な殺害現場から感じられるメッセージを無視するような捜査に違和感を抱くのだった。

容疑者の一人、真藤の秘書の森田は疑わしいものの、真藤を殺害する時間まではないとして泳がされることになった。

そして、爆発物が過去に日本国民解放軍というテロ組織で使用されていたものと組成が同じであることが判明し、元メンバーの郡司の関与が疑われた。

鷹野は氷室沙也香とコンビを組んで郡司を張りこむことになる。

そして郡司が何者かに爆発物を売ることが判明し、鷹野が郡司を尾行すると、接触した取引相手は真藤の秘書・森田だった。

なんとしてでも、この後の取引の様子を確認したいところだったが、近くで襲われそうになっている女性を見つけた鷹野はそれを放っておけずに、取引現場で大騒動を起こしてしまう。

当然、郡司と森田は騒ぎが収まったころには逃げてしまっていた。

公安五課のメンバーからは怒られ、班長の佐久間からは見捨てられ、鷹野は「公安は向いていないのかもしれない……」と失意のうちに最初の爆発現場へと足を向ける。

そこで鷹野は古巣の捜査11係の係長に会い、「捜査一課に戻ってきてもいいんだぞ」と声を掛けられる。

それが、逆に鷹野の心に火をつけた。

公安でのキャリアを諦める前に、まだ自分にはできることがある……!

開き直った鷹野の挑戦が始まる。

2.秘密主義の同僚たち、ラスボスはヒロイン

冒頭でも書きました通り、本作は「猟奇×警察小説」のミックスで、ミステリ好きも、警察小説好きも楽しめる良作です。

どんな猟奇的事件が発生したのか、詳しくはあらすじの方をご覧頂くとして、ここでは警察小説としての魅力を語りたいと思います。

警察小説といえば、お約束なのが主人公 VS 組織 の構図ではないでしょうか。

小説ではないですけどロングヒットドラマの『相棒』、あれも警察を舞台にしています。

『相棒』では主人公たちは他の刑事たちからはさげすまれ、物置みたいな狭い部屋で捜査権すら与えられずに警察組織の片隅に追いやられている、という設定です。

しかし、そんな状況をものともせず、抜群の推理力とコンビネーションで難事件を次々解決していく、というのが面白さの一つになっています。

個人の力で組織に対抗していく、これは特に会社勤め経験のある人にはものすごい憧れを感じる「夢」のようなものではないかと思います。

『邪神の天秤』でもそんな「夢」を疑似体験ができるように、鷹野の活躍が随所に織り込まれています。

事件の解決で活躍するのは当然として、『邪神の天秤』では公安五課のメンバーが少しずつ、鷹野に心を開いていく様子がえがかれています。

公安は警察組織の中でも特に秘密主義で、信頼が置けなければ、たとえ同じ班のメンバーであっても、過去の捜査情報や自分の捜査手法は明かさない、という暗黙のルールがある、という前提で作品が書かれています。

そのため異動したての鷹野は当初、メンバーからは浮きまくり、捜査現場で何をしたらいいかすら教えてもらえません。

鷹野も周囲の様子を見つつ、最初は空気を読んで大人しくしていた……のですが。

そんな冷ややかな雰囲気の中、鷹野は大ポカをやらかしてしまうわけです。

隠密な尾行中に大立ち回りをしてしまった鷹野に、公安五課のメンバー全員が「こいつ、この仕事向いてないな」と痛い、本当に突き刺さるような視線を向けてくるわけです。

しかし、そこで挫けるようなら作品の主人公は務まらないわけで、ここから鷹野の奮闘が始まります。

捜査方法に刑事部の方法を取り入れたりして仕事でも活躍の場が増えていきます。

さらに、いい意味で吹っ切れた鷹野は、職場でも「トマト、好きなんですよ」と朝ご飯を食べたりして、ある意味、KYになって自分らしさを出していくようになるわけです。

それがきっかけで、同じ食べ物が好き同士で親近感がわいて雑談が出来るような関係になったりするんですよ。

「すごい、溶け込んできた……!」と浮きまくりの転校生が学校に馴染むのを見て感動する先生のような気持になりました。

そして『邪神の天秤』で1番のラスボスは、にわかにコンビを組まされた沙也香でした。

彼女は本シリーズのヒロインだと思うんですが、第一印象は「鉄、もしくは氷の女」。

とにかく冷たく、彼女の周囲にはたかーい壁があるような人でした。

その彼女が、鷹野に少しずつ、心を開いていくようになるんです。

きっかけはやはり、鷹野の大ポカの翌日から見せた、彼の奮闘でした。

鷹野の推理に耳を貸してもいいかと思い出し、それが大当たりしたせいもあり、彼のことを見直すようになり、そのうち自分の過去の話もぽろっとしてくれるようになって……

氷の塊の下に隠れていた生身の人間の姿が徐々にとけでてくるようでした。

彼女が本当に心を開いてきたな、と感じたのはもう物語も最後の方、彼女が長年付き合ってきたスパイの家族に会うシーンです。

家族はとある理由から沙也香にめちゃくちゃ腹をたてていて、彼女の謝罪なんて受け入れたくない!という状態だったんですが、その時に初対面の鷹野が少し、しんみりと話しかけたおかげで、家族は沙也香の謝罪を一応、受け取ってくれた形になるんです。

それを見た沙也香、当然複雑です。

「え? 私の方が付き合い長いのに?」

と、ここまではっきりとは言いませんが、沙也香が鷹野に面と向かって「スッキリしない」と感情的な文句を言った時に、「ああ、ここまで距離が近付いたか!」と感動を覚えました。

『邪神の天秤』だけで公安五課のメンバーとはかなり打ち解けてきた鷹野ですが、まだ難攻不落なイメージの班長・佐久間がほぼ手つかず状態で残っています。

今後、この上司の心を鷹野が掴むことがあるのか、注目して読んでいこうと思います。

3. 元相棒、沢木殺害事件の概要と進展

せっかくシリーズものを読み始めたので、シリーズを通して書けるテーマを何か設定したいなと考え、思いついたのがこのコーナー(?)です。

タイトルにある「元相棒・沢木殺害事件」とは、鷹野が公安に異動希望を出すきっかけとなった事件です。

鷹野が捜査一課にいたころ、後輩刑事として配属されコンビを組んだのが沢木政弘です。

彼は職務質問中に殉職してしまい、捜査むなしく容疑者さえあげられずに迷宮入りとなっています。

鷹野は捜査本部が解散された後もその事件を追い続け、唯一掴んだ有力情報が、沢木が殺された当日のその時刻、公安の人間が現場近くにいたらしい、というものでした。

刑事部にいては公安の情報は非公開、知るすべはありません。

そこで鷹野は公安に異動することで、沢木殺害事件のヒントを得ようと考えたわけです。

これは、『警視庁公安分析班』シリーズ通して、鷹野が取り組む大きな事件の序章になりそうな予感……!

というわけで、シリーズを読むごとに、どんな進展がみられたか、ネタバレしない程度に書いていこうと思います。

といっても、1作目、いきなりそんなに進展あるわけない!

でも少しはあったので、ご紹介します。

それは沢木殺害事件当日、実は現場近くで爆弾テロ事件未遂があった、というものです。

犯人は正体不明の殺し屋、その名も「葬儀屋」。

公安の活躍により、葬儀屋の仕掛けた爆弾は爆発前に撤去され、無事ことなきを得たのですが、葬儀屋はこの事件を最後に姿を消します。

沢木殺害事件と葬儀屋のテロ未遂事件は何か関係があるのか?

無関係なわけはないと思いますが今後、さらなるヒントが出てくるのが楽しみです。


いかがでしたでしょうか?

ドラマ版では鷹野の役は青木崇高さんが演じられるそうです。

他にも『鎌倉殿の13人』にも出演が決定されているそうで、イケメンな上にキャリアもしっかりとあって……ぜひ動いている鷹野を見たいなと思いました。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。


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シリーズ2作目『偽神の審判』の感想とあらすじ紹介↓

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