後半はマジックショーのような面白さ!『偽神の審判』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

偽神の審判   麻見和史   講談社

『警視庁公安分析班』シリーズの2作目です。

1作目の『邪神の天秤』から話が続いています

前作では、一応、一つの事件の決着はついたわけですが、いわゆる黒幕の存在が明らかになってしまい、諸悪の根源は野放し状態のまま、というところで終わっていました。

本作で、その黒幕との決着がつくのか?

加えて、公安五課のメンバーたちの過去鷹野が追い続けている「沢木殺害事件」の真相など、未回収のままになっている多くの伏線がどうなるのか?

ワクワクしながら読み始めました。

が、最初の4分の1くらいまでは「肩透かしだな……」というのが正直な感想でした。

1作目と似たような展開の繰り返しで、これは少し期待しすぎたかな? と思ったんです。

しかし!

安心してください、それ以降はグッとひきこまれる展開になるんです!

意外な展開が連続して、まるでネタの尽きないマジックショーのようでした。

それでは、内容をあらすじとともにご紹介していきたいと思います。

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1.おおまかなあらすじ

まずはおおまかなあらすじからご紹介しましょう。

物語は、1作目の『邪神の天秤』で起きた連続殺人事件の黒幕の行方を、鷹野たち公安五課のメンバーが追うところから始まっています。

公安五課は、連続殺人事件の黒幕と繋がっていると思われる組織、民俗共闘戦線を捜査対象にする。

鷹野は民俗共闘戦線のメンバーをエス(民間人のスパイのこと)にして、幹部たちの情報を探らせるように命令される。

鷹野は民間人を危険な目にあわせる捜査の仕方に疑問を持ったまま、命令通りにエスを獲得し密偵させ、有益な情報を得ることに成功する。

鷹野の上司である佐久間は得られた情報をもとに、民族共闘戦線と黒幕を両方片付けようとする。

鷹野はその捜査方針に納得できず、さらにエスとの連絡も途絶えてしまい、警察官として、組織の一員として服従するか、それとも自分の正義を貫くか、2択を迫られることになる……

2.後半はマジックショーのような面白さ!

本作では、鷹野がエスと呼ばれる民間人スパイを使った、公安ならではの捜査方法に初めて挑みます

1作目の『邪神の天秤』を読んでいると、「いよいよ鷹野もエスデビューか!」と感慨深いものがある部分だと思います。

捜査一課から公安に異動していろいろと悩み多き時間を過ごしていたことを知っているだけに、公安の刑事らしくなっていく姿が寂しくもあり、頼もしいようにも感じたわけです。

ところが、公安刑事らしく頼もしくなるどころか、鷹野自身はエスを使った捜査に疑問がつきないようで、戸惑い、時にいきどおりを感じたりする展開が続きます

1作目の『邪神の天秤』でもそうでしたが、鷹野くん、捜査一課のエースだったわりに、けっこう青臭い理想を持っているんですね。

民間人を危険な場所に送り込んで、さらに危険なスパイ行為をさせることに抵抗ありまくりなわけです。

その鷹野の理想や正義感が、彼自身を窮地に追いやることになるのですが……

前半は「あれ? この展開、どっかで読んだ記憶がある」と記憶が刺激されるシーンが多くありました。

それもそのはずで、内容は違えど『邪神の天秤』でも、原因と結果がほとんど同じ展開があったんです。

ここまで読んだ時に「えー、焼き直しみたい」と不満を感じたものです。

不満を感じたものの、まあせっかく読み始めたのだし……と続きを読んでいったのですが、その後は驚きの連続でした。

逆転につぐ、逆転

これが真実だと思ったものがフェイクで、その先に掴んだものもさらにフェイク……

それはマジックショーを見ている時の感覚に近いものがありました。

ひいたカードを当てられて終わりかと思いきや、「胸ポケットの中をご覧ください」と言われ、そこで終わりでもなく、さらに全部のカードがいつの間にかすり替わってた!

そんな感じです。

ドンデン返しほどのインパクトはないんですが、読んでいる人を楽しませようとする作者のおもてなし精神を感じる展開です。

それでも中盤、「公安らしからぬただの殺人事件捜査になっちゃってるなー」と贅沢な文句を言っていた私ですが、ラストは「ザ・公安」な事件に翻弄される展開に変わり、本にかじりつくことになりました。

「すいませんでした!」と心の中で作者と作品に謝りました……

しかも面白いのは事件の展開だけじゃないんですね。

公安五課のメンバーたちにも、大きな変化が起こります。

もちろん、変化の中心は主人公・鷹野です。

『邪神の天秤』でもそれなりに公安五課のメンバーに馴染んだ感のあった鷹野ですが、本作では馴染むところから1歩どころか、100mくらいダッシュして、新しい絆を結ぶことに成功します。

あの、鷹野大嫌いなことを隠すことすらしなかった能見も、あの、命令違反大嫌いな上司・佐久間も「そんな言葉かけたりするの!?」と驚くような言葉を鷹野に向けます。

「がんばった甲斐あったね……!」と鷹野と一緒にジーンとくるものがありました。

そして鷹野がもたらした変化は、実は公安五課全体にまで及んでいたことがラスト4分の1、つまり話が1番盛り上がるクライマックスの展開中にわかるんです。

話の内容自体も盛り上がっている上に、さらに文章構成による演出も巧みで、ぐいぐいと感情を引き出されてしまい、気が付けばどんどんページをめくっていました。

一言で言えば「熱い」展開です。

書いているうちにもう1回読み直したくなってきました……!

それくらい、事件もキャラクター達の変化も盛り上がる良作だったと思います。

3.沢木殺害事件の続報

『邪神の天秤』の感想を書いたページでも触れました、鷹野が公安に異動した動機である「沢木殺害事件」。

鷹野の元相棒が殺され迷宮入りしてしまった事件ですが、前作ではちらりと、真相のヒントがでたくらいだったんですが、本作で一気に真相解明が進みます。

シリーズ通して小出しにするのかなーと思っていたのでこれにはかなりビックリしました。

これだと鷹野が公安に異動した意味が早くもなくなってしまったよう気が……^^;

3作目が出たら、鷹野が公安にいる意味を模索するような内容になっているかもしれません。

この沢木殺害事件は公安五課のとあるメンバーの過去にも大きく関わってきます。

意外な一面が垣間見えて、とあるメンバーの魅力がジャンプアップする内容にもなっていますよ。

ちなみにこれは余談ですが、沢木殺害事件は本シリーズの兄貴分『警視庁殺人分析班』シリーズの1作目から簡単に触れられています。

その1作目は2011年に出版されてるんです。今から10年以上前です。

一体作者さんの頭の中ではシリーズ初期からどれだけ作品の世界観が広がっていたのかと……

プロの作家の頭の中ってすごいですね、できるものなら覗いてみたいです。


いかがでしたでしょうか?

シリーズ2作目は後半にいくほど引き込まれる展開になっているので、ぜひ読んでみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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