日本の歴史3 奈良の都

中公文庫より出版されている『日本の歴史』シリーズの3巻目、奈良の都を読み終わりました。著者は青木和夫さんで、お茶の水大学の名誉教授まで務められた方です。
この『日本の歴史』シリーズは中公文庫から1960年代に発売され、歴史書としては大ヒットし、未だに書店に並んでいます。
時代を細かく区切り、その時代の専門家がオムニバス形式で記述していくスタイルです。
出版されて、50年くらい経ってもまだ書店に並んでるなんてすごいですよね!
歴史書と聞くとなんだか読みづらそうなイメージですが、このシリーズは読み物としてしっかりと面白い出来になっています。何度も重版になっていることが、それを証明していますよね。

それでは、この本の面白さはどこにあるのか、ちょっと考えてみましょう。


出来事の羅列、ではない

一番身近な歴史書はなんでしょう?
おそらく、教科書ではないかと思います。
私も中学高校と、分厚い日本史の教科書をテストのために何度も読みました。
しかし、歴史の教科書が面白かった記憶はあまりありません。テストのために読んでいるので、当然だったかもしれませんが、他の理由もあると思います。
それは、教科書が単に出来事の羅列だったから、ではないかと思います。
●●年に〇〇事件が起こり、そのあと△△が失脚した。
とか、こんな記述ばかり並んでいますよね。
出来事と出来事の間の関連が把握しづらく、そのせいもあって暗記が大変でした。

日本の歴史シリーズでは、単に史実の羅列ではなく、その出来事がなぜ起こったのか、ストーリーを組み立てて紹介されています。
例えば、今ご紹介している3巻目ですと、「平城遷都」という項目をたてて、平城京へ遷都した事情、様子を詳しく記しています。
平城京へ遷都したのは占いの結果によるものだったのではないか。
いやいや、そうではなくて疫病対策だったのでは?
様々な説が採り上げられ紹介されています。
これを読むと、「そういえばなんでわざわざお引越しをしたのかな?」と読者も疑問に思い、その当時の事情に思いをはせたりして、考えた分だけ、面白みが増すわけです。

さらに、平城京へ遷都が決まったのち、工事がどう進められたのか、税金や工事人はどう調達されたのか、それによって古代国家にどのような変化が起こったのか。
順序立てて説明していくことにより、教科書では「平城京へ遷都」の一言で終わっていた言葉が、当時の様子を思い浮かべられるように頭の中で組み立てられていきます。
こうなると頭の中で歴史が物語として動き出し、イメージも膨らみます。
小説を読んでいるときに、情景を思い浮かべるように、歴史書を読めるわけですね。

ついでに、考えたり、想像したりして読むことで、読んだ内容の定着率はよくなります。
面白くなるし、記憶にも残るなんて、いいことづくしですよね。

著者の顔が見える文章

歴史には様々な解釈がつきまといます。
古文書一つとってもみても、当時と今では言葉が違うため、英語を翻訳するときのような労力がいるわけです。
多くの歴史家たちの説を採り上げていると前述しましたが、著者の意見も交えて紹介されています。
その中で、特に印象に残ったのが、「当時生きた人々の心情まで考察に加えるとは、他の専門家から笑われそうだが」(原文ままではないです、こういう主旨の文章でした)、という部分です。

歴史を紡ぐのは人であり、人には感情がつきまといます。
常に理性的で、合理的判断ができる人間などいません。
怒りにかられて衝動的に行動したり、悲しみのあまり呆然として大切なことを見過ごしてしまったり、感情に行動を左右されるのが人間です。
しかし、どうやら歴史考察の世界では、その当時の人間の感情を考慮することはあまりされていないようだということが、この文章から読み取れます。(青木和夫さんがこの本を書いた当時の話であって、現在は違うかもしれません)

しかし、著者はあえて、自分の名前が出るこの本で自説を、当時の人間の心情にまで踏み込んで披露した。著者の歴史研究に対する姿勢が垣間見え、私は著者の情熱をそこに感じました。
教科書では絶対に起こりえないことですよね。
著者の顔が見える文章はこのように魅力的な印象を読者に残すのです。

日本の歴史3 奈良の都 に収録されている内容

最後になりますが、紹介した本に収録されている歴史範囲は、天武天皇が死去した後くらいから、鑑真が失脚するまでの700年代の古代日本の様子です。
前巻は大化の改新や壬申の乱があったり、天智・天武天皇という話題性のある人物も登場したりと、そもそも歴史的に非常に面白い時代を描いていたので、自然と内容も面白くなったのですが、3巻目は歴史的に大きな出来事といえば平城京への遷都くらいで、史実だけ見ると、そこまで面白さを感じないかもしれません。

それでも、著者の手腕により、しっかり読み物として面白くなっていますので、ぜひ手に取っていただきたいなあ、と思います。

いかがでしたでしょうか?
普段小説を読むことの方が多い方も、たまに趣向を変えてみたいときにはいい本だと思います。
ちょっと分厚いので、活字慣れしている方にお薦めですよ。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

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