バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 ③
①、②から引き続き、バチカン奇跡調査官シリーズ最新作のアダムの誘惑の感想を書いていきますね。
この本が面白いと思った方向けの本も最後に紹介しますので、よければ参考にしてください!
※この後は軽微なネタバレを含みますので、嫌な方はご注意ください。
この描写はなんのためにあるのか考えてみる
小説を読んでいると、不思議な文章に出会うことがあります。
今後の伏線でもなく、今どうしても書かなければならないとは思えない、要は「なくても全く問題ない」文です。
そんな文章があることでどんな効果があるのか、ちょっと想像してみましょう。
アダムの誘惑のP236に主人公の2人とエリザベートが事件現場を訪れるシーンがあります。普通の公園の噴水の前に3人が来た、という場面ですが、そこで「エリザベートが大きな声を出したので近くで散歩していた老人が振り返った」という描写があります。
この老人、この後3人と何か絡みがあるわけでも、再登場するわけでもない、ただの通行人Aです。
この一文は、全くなくても問題ない、もしくは単に「エリザベートは辺りに響くような大声をだした」でもいいわけです。
では、なぜわざわざ「大声に驚いて振り返った老人」の描写を入れたかというと、その公園がどんな場所であるか、を読者にさりげなく知らせるためだったと思われます。
本書では、事件が起こりそうもない場所でなぜか事件が起こる、という不思議な現象を調査するのがメインのあらすじです。
そこで意外と重要になってくるのが、主人公たちが訪れた公園はどんな場所なのか、という情報です。一口に公園といっても、常にワイワイと人が訪れるような賑やかな場所なのか、ヤンキーたちの溜まり場になっているようなちょっと怖い場所なのか、または近所の人たちの憩いの場となっているのどかな場所なのか……読者によって想像されるものは違います。
「散歩している老人がいる」と書くことで、読者のイメージは「近所の人たちの憩いの場となっているのどかな場所」に寄せられます。事件が起こりそうな場所ではない、と本文中にそのまま書くよりも、読者にきちんとした公園のイメージを抱かせることができるわけですね。
シナリオや脚本では不必要な部分は限りなく削りますが、小説はその点、融通がきくので細かな描写を入れてもいいです。いいのですが、登場人物たちの背景に「○○があって、こんな色で……」なんてことを細かに書いても長くなるだけですし、読者も読んでて辛いです(--;
なので、さりげなく、登場人物たちの動きに添えて、簡単に情報を出すことで、読者に作者が描いているイメージに近いものを想起させてあげる……そんな藤木凛先生の気遣いの一文だったのではないでしょうか。
この本をお薦めしたいのは
アダムの誘惑によらず、バチカン奇跡調査官シリーズでは、不思議な事件が起こり、それを主人公たちが鮮やかに解決するというのが定番のパターンです。ミステリに属するシリーズと言えます。解決編では科学的、歴史的なウンチクが詳細に語られます。これもシリーズの売りになっているといえます。
・ミステリが好きな方
・科学的、歴史的な知識が増えるのが好きな方
そして、主人公はバチカンに属するイケメン神父2人組です。本文中にはカトリック教の信仰の在り方や、宗教ならではの神秘的なイメージを伝える描写も多く含まれています。イケメン2人の理性的、理知的、清廉な人格も描かれます。
・宗教的の持つ神秘的なイメージが好きな方
・特に女性におススメ
いかがでしょうか? 当てはまる!と思われたら、本屋でちらりとのぞいてみるといいかもしれません。
このシリーズが好きな方へ
そして、冒頭でも触れた、このシリーズが好きな方へお薦めする、ほかの本ですが、
『シグマ・フォースシリーズ』と『ロバート・ラングドンシリーズ』を紹介します。
シグマ・フォースシリーズは竹書房から出版されているジェームズ・ロリンズ作のアクション小説です。毎回、人類絶滅や地球崩壊などの想像を絶する災厄から世界を守る特殊工作員の活躍を描いています。想像を絶する災厄といっても、最新の科学・歴史研究に基づき考えられたもので、全くの荒唐無稽というわけではありません。現実にちょっとだけフィクションを交えてストーリーが作られているのが持ち味です。この災厄が起こった理由や解決方法を探っていくのでミステリ要素も十分です。
ジェームズ・ロリンズ氏はアクション描写が抜群にうまい人で、読書なのに主人公たちが映画さながらのアクションをする様子がリアルに思い描けます。
ウンチクも盛りだくですが、本文中に上手に落とし込んであるので、難なく読めると思いますよ。
ロバート・ラングドンシリーズは有名ですね、「ダヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」でお馴染みのシリーズです。ダン・ブラウン作で角川文庫から出版されています。
歴史や宗教が好きな方はもちろん、ミステリ好きにもたまらないシリーズです。
アダムの誘惑の感想についてはここまでです。
いかがでしたでしょうか? いろいろと想像してみると、読書はもっと面白くなると思います。
少しでも良い読書体験になればうれしいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました!