バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 ②

に引き続き、KADOKAWAホラー文庫から出版されている藤木凛先生のバチカン奇跡調査官シリーズ最新作、アダムの誘惑の感想を書いていきます。
今回は主人公たちの様子にも触れていきますよ。

※ この後は軽微なネタバレを含みますのでご注意ください。


物語開始時点のあらすじ

アダムの誘惑では、シリーズに何度も登場するFBI捜査官のビルの結婚がクローズアップされています。ビルは主人公たちの宿敵である組織に監視されており、両親すらも実はその組織の人間という苦境に立たされています。そして婚約者であるエリザベートは人もうらやむ超美人……なのですが、彼女もまた、組織を探るべくビルに近づいたアメリカ工作員なのです。ビルはエリザベートとの関係を割り切って恋人として振舞っていますが、周囲からは「いつ結婚するの?」と言われ、悩みに悩みまくっている。というのが、本書開始時点でのビルの状況です。

さて、しかしいつまでも悩んでいては物語は進まないので、物語開始からだいたい25%ほど経過したところで、ビルは結婚することを決意し、バチカンの神父である主人公たちに結婚式の司祭を務めてほしいと依頼してきます。
ここでやっと主人公たちが物語に参加してきます。シナリオ用語でプロットポイント1といいますが、物語の中で、主人公たちが状況に流されながらも行動を開始する時点を示す言葉です。
ビルが結婚を決めたことで、主人公たちを含めた物語が大きく動き出します。


その後の展開

しかし、この結婚、すんなりうまくいくわけではありません。ビルは結婚式当日に謎の失踪を遂げてしまいます。花婿の失踪に、主人公たちとエリザベートは捜索を開始します。
捜査の内容やその後の物語の進展はあまりにネタバレがすぎるので割愛します。ぜひ、本書を手に取って読んでいただきたいです。

捜査を進めていく中で気になる描写がありましたので、その部分をご紹介しようと思います。


悲しそうに見えない婚約者

普通、花婿が結婚式の当日に失踪したとなれば、花嫁は動揺し、取り乱し、泣き叫び、あるいは茫然
とし……などの反応を見せると思うのですが、そこはほぼ偽装結婚といってもいいビルとエリザベートの関係なので、花嫁であるエリザベートは全く動揺しません!笑。きびきびとビルの捜索を行う様子が描かれています。これが偽装結婚であると知っている読者と、2人の関係をあらかじめ聞かされて知っている主人公の一人、ロベルトは、そんなエリザベートの様子を不審には思いません。しかし、もう一人の主人公である平賀は、ビルたちが愛ある普通の結婚をするのだと信じて疑っていないはずなのです。しかし、平賀はエリザベートの様子に疑問を持つ様子もなく、淡々とビルの跡取りを追っていきます。そんな平賀の様子をフォローするような表現も本文中には全くありません。
なぜでしょうか?

これは、実は、シリーズ通しての読者なら納得のいく描写になっているからです。
平賀というのキャラクターは、目の前に謎をぶら下げられるとそれに向かって寝食を忘れて猪突猛進、それ以外のことは目に入らなくなる天才肌の研究者タイプの性格をしています。そして、他人の感情の機微を推し量ることが不得手で、不躾な質問や行動で他人を怒らせてしまうこともたびたびです(本書でも何回かやらかしています)。そんな平賀なので、「ビルの捜索」という謎を追っている間に、細かくエリザベートの様子を窺ったり、疑問に思うようなことはありません。

全く悲しそうに見えない花嫁と、それを不審にも思わない主人公、というシリーズならではの面白い描写が生きてくるわけです。
全くフォローがないのは本作から読み始めた読者さんには少し不親切かなー?という気がしないでもないですが、元々、藤木凛先生は詳細に述べる所はとことん書き込み、そうでないところはあっさりと、もしくは書かない、といった緩急のある文章を書く方ですので、それも味だと思います。

いかがでしたでしょうか?
バチカン奇跡調査官シリーズならではの描写の面白さを紹介しました。
実は、まだ書きたいことがあるので③に続きます。
ここまで読んでくださってありがとうございました!

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