バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 ①

作者は藤木凛先生、KADOKAWAのホラー文庫から出版されています。
シリーズもので本作でなんと19作目(数え間違えでなければ)!
アニメ化もされた人気シリーズです。
主人公が天才かつイケメンな神父2人組というキャッチ―な設定で、毎回、主人公たちがオカルト的な雰囲気が漂う事件の解明に奔走するのですが、その解明がマニアックな科学的、歴史的な解説(うんちく)付きで、面白くタメになる! ところがウリなんですよ。

シリーズ最新作を読みましたので感想を書いていきます。

※この後は軽度なネタバレを含みますので、閲覧注意ですよ




まずは最初のプロローグから、気になる描写がありましたので見ていきたいと思います。

フック(読者を引き込む要素は何か?)

プロローグでは、主人公たちは一切登場しません。その代わり、怪しげなツアーに参加中のエマという女性が登場します。冒頭でこのエマが「チャールズ陛下」と呼ばれる人物と密会する描写がはいります。チャールズ陛下、と聞くと「今のイギリスの皇太子のこと?」「なんで一般人のエマと知り合って、しかも親密な関係そうなの?」と疑問がわきます。
これだけでもフックと言えないことはないですが、この後にもまだ、読者を物語の世界に誘う文章は続きます。

エマが半年前、「チャールズ陛下」といかにお知り合いになったのか、そして陛下の正体はだれなのか、が描かれています。
なんとエマは、旅行中に迷い込んだ古城でタイムトラベルを経験した!というのです。そして、古城の主は17世紀のイギリス王・チャールズ1世。エマが冒頭で密会していた男性は現イギリス皇太子ではなく、大昔のイギリス国王だったのです。
「タイムトラベル? あるわけないじゃん、幻覚でしょ?」
「本当にタイムトラベルが起こったのか?」
「ドッキリ、とか?」
いろいろな推論がなりたちますが、この謎はもちろん、物語の中で解かれることになります。
エマも重要人物として再登場します。
このプロローグが終了すると、そのあとはシリーズ中に何度も登場するキャラクター、FBI捜査官のビルの話が語られることになるのですが、この話はシリーズ中の設定・キャラクターの紹介と、現状の説明に終始しているようなものなので、物語はほとんど動きません。
本編がしばらく動かない、それでは読者はつまんない、というわけで、物語の核心に触れるような出来事をあえてプロローグでチラ見せさせるという、よくあるプロローグまるまるフックのパターンでした。

プロローグから読み取れるエマの人物像

エマは重要人物ではありますが、物語中にその人格描写が丁寧にされるということはありません。しかし、こんな人物でも人格をしっかりと読み取れる描き方をされているんだなあ、と個人的に思ったのが、プロローグのエマの「しゃべり方」でした。
エマのしゃべり方は「ええ、わかったわ」「お薦めは何かしら?」「普通でいいわ」など、堅苦しく、日常会話で使うには気取った感じがします。
あんまり、若い女性でこんなしゃべり方をする人って、いませんよね?
まるで海外小説を直訳してしまったかのような違和感です。
フロリダ在住のエマは、イギリスを一人旅しています。若い女性の海外一人旅となれば、少し緊張感もあるので、堅苦しくもなるか……とは思うのですが。
しかし、エマは迷い込んだ古城で死者のチャールズ1世と劇的な出会いを果たした後、一途に再会を望み、スピリチュアルな本を読んでみたり、異世界と繋がるという噂があるパワースポットに出向いたりと、ちょっと痛い子であることがプロローグのなかでわかります。
元々、夢見がちなロマンティストで、現実が少し嫌い、そんな性格が垣間見えます。
そんな人が緊張感のある海外一人旅でどんな話し方をするだろうか?
おそらく、人懐っこく、打ち解けたような話し方はしませんよね。海外という非現実的なところで、いつもの自分とは違う、少し気取ったしゃべり方をするのではないだろうか……?
彼女のそんな境遇が、堅苦しい違和感のあるしゃべり方になって表現されたのではないか、と思います。

いかがでしたでしょうか?
あくまで個人の感想なので、藤木凛先生がどう考えていたかはわかりませんが……
でも、気になる描写を考え詰めていくと、こんな洞察(妄想?)もできて、読書の幅は広がるし、より面白く感じられると思います。
こんな読み方もあるんだ、と少しでも思っていただければ嬉しいです!
他にも気になる部分がありましたので、次回に続きます。
ここまで読んでくださってありがとうございました!

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