喜と楽の感情を手軽に味わえる作品集『豆腐小僧 その他』(読書感想)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

豆腐小僧 その他  京極夏彦  角川文庫

タイトルに「その他」なんて言葉が入ると、どうもおまけみたいで、

「何かのファンブック?」と思われるかもしれません。

本書は違います。

『豆腐小僧双六道中』という同作者の分厚い作品があるのですが、

それを10代の若い読者向けにアレンジした

『小説 豆腐小僧』を始めとする作品集になっています。

ひとつひとつのお話は短いですが、皮肉に富んだ京極夏彦作品の

醍醐味を、味わえる充実した作品集です。

私のおススメは『狂言 狐狗狸噺』と『落語 死に神Remix』の2作品。

狂言も落語も、お客さんを笑わせよう、楽しませようとする芸能ですが、

京極先生はそこに「人生明るく生きようぜ!」というテーマをのせて、

日常のモヤモヤする出来事なんて「気にしなーい!」と

思わせてくれる温かい内容になっています。

他の京極作品の凶器のごとき分厚さから比べても、

本書はごく普通の文庫本の厚さで、

読書初心者の方にはもちろん読みやすく、

ベテランの方の手や腕にも優しい本です。

それでは、さっそく収録されている全5編のあらすじと

感想をご紹介していきましょう。

目次 1.『小説 豆腐小僧』
   2.『狂言 豆腐小僧』
   3.『狂言 狐狗狸噺』
   4.『狂言 新・死に神』
   5.『落語 死に神 remix』

『豆腐小僧双六道中』の記事はこちらからどうぞ↓


1.『小説 豆腐小僧』

まずは簡単なあらすじから。

小学生の淳史は母の勤める研究所のある村に来ていた。

母は天気を操る装置・システムの研究をしている。

淳史は毎日が退屈で、気分転換に廃寺に探検に出かけた。

雰囲気のある場所で淳史が思い出したのは、妖怪・豆腐小僧。

その瞬間、淳史には見えないが豆腐小僧が湧いて出て、

お供の達磨と一緒に淳史の後を追い掛け回し始めた。

淳史が家に戻ると、そこには犬上コーポレーションという、

母の研究している天気システムに投資している会社の社員、

田村がきていた。

しかし、そこに黒塗りの怪しい車がやってきて、淳史をさらってしまう。

淳史をさらったのは過激な自然保護団体・フィールドフォックスの男。

一方、研究所では淳史の母・亜月博士と会社の会長がもめていた。

天気システムの公開実験は明日に迫っているが、成功しても

悪徳会社である犬上コーポレーションが喜ぶだけなのだ。

公開実験を止めたい亜月博士だが、会長は会社のためにも止められないと言う。

亜月博士は公開実験が失敗するように、システムを一部変更してしまう。

そこに、淳史がさらわれたという一報が入り、フィールドフォックスからの

要求が亜月博士に知らされる。

フィールドフォックスの狙いは天気システムの引き渡しであった。

そこに犬上コーポレーションの社長・犬上もやってきて、

今すぐ公開実験をしてしまえばいいと言い出す。

かくして始まってしまった天気システムによる実験だが、

暴走を始めてしまう。

淳史のさらわれた場所がちょうど天気システムの稼働範囲内にあり、

土砂降りの雨が降り注いでいた。

亜月博士は淳史を助けに大雨の中を走る。

後を追いかける犬上社長や、会長たち。

こうして、登場人物全員が淳史が捕まっている場所に集まった。

そして主役の豆腐小僧は、実は淳史と一緒に誘拐された場所まで

ついていっていた。

他にも人間たちは、犬上コーポレーションの人間が狸を、

フィールドフォックスの人間たちは狐をそれぞれ信奉しており、

人間には見えないけれど、豆腐小僧の周りには妖怪たちがうじゃうじゃ集まっていた。

そして、争い始めた人間たちに感化され、妖怪たちも陽気な姿から一転、

恐ろしい化け物へと変貌しようとしていた。

そこに豆腐小僧がしゃしゃり出て、その間抜けな姿をさらしたものだから、

妖怪も人間たちも呆然として、騒ぎを収めることに成功した。

騒動の種、天気システムも皆が得する形に収まって、一件落着となった。

(感想)

京極夏彦の作品といえば、とにかく分厚い。

本編に関係はあるけれど、「これ、全部読まないとダメ?」

と言いたくなるほどのうんちくで、本文が埋め尽くされていて、

読み始める前に相当の覚悟を読者に求めてくる作家です。

本作品は子供向けに書かれただけあって、200ページもない、

普通のボリュームになっています。

それでも、「子供にはちと難しいのでは?」という分量の

うんちくは、しっかりと組み込まれています。

「妖怪とはなんぞや?」「神様に祈るってどういう意味があるの?」

読めばこのような答えづらい質問にも、回答できるようになります。

『豆腐小僧双六道中』が分厚くて無理! という大人の方にも

おススメする作品なのです。

ちなみに、あらすじや登場するキャラクターたちは

『豆腐小僧双六道中』と似たような顔ぶれになっていて、

『双六道中』を読んだ人には懐かしくも新鮮な気持ちで

読める作品になっています。

2.『狂言 豆腐小僧』

(あらすじ)

恐い大名とそのお供が2人。

このお供たち、一人は愚か者、一人は臆病者と、

大名に日々叱られてばかりいます。

そこに湧いて出たのが豆腐小僧。

恐いという大名を脅かしてみたくなり、登場してみたが、

大名にトレードマークの編み笠と豆腐の乗った盆を取られる始末。

しかし、不思議なことに、編み笠をかぶり豆腐の乗った盆を持った

大名は、豆腐小僧のようにぴょんぴょん跳びはね、そのまま豆腐小僧になってしまった。

恐い大名がいなくなってホッと安心するお供たち。

しかし主がいないのは困ると、お供たちは残されたただの小僧になった

元・豆腐小僧に目を付けるのだった。

(感想)

めでたしめでたし……

という最後にはなりますが、恐がりだったりドジな部下でも

文句言いつつ養ってくれてた大名さん、実はいい人じゃないですかね…?

オチの面白さよりも、人の上に立つ難しさを考えさせられてしまいました。

3.『狂言 狐狗狸噺』

(あらすじ)

職を失くした男が当てもない一人旅の途中、

長者の娘と名乗る女に出会い、家まで送ることになる。

そこを襲ってきたのが山犬で、男はまずそうだから、

女を食べようとするも、そこに山伏がやってきた。

坊主にはかなわないと山犬は逃げ出し、

男たちは難を逃れるが、山伏は助けたお礼にと

寄付を要求する。

男には金がないから女が払い、山伏に別れを告げるも

山伏は2人をたぶらかして、何回も寄付をせびり、

ついに女は無一文になってしまう。

果たして山伏の正体とは?

(感想)

二転三転するオチが面白い作品です。

タイトルの狐、狗(イヌ)、狸は人間をだましたり襲ったりする動物の

代表格のイメージで、事実、男はいいように騙されるわけですが……

このお話ではむしろ、動物たちは骨折り損のくたびれ儲けだったかもしれません。

ラストは職なし、金なし、命しかない男が、

それでも意気揚々と旅を続け、爽やかな余韻が残る作品です。

男は「命さえあればなんとかなる」を体現しており、

「生きてりゃそのうちいいこともありそう」と励まされる思いがしました。

4.『狂言 新・死に神』

(あらすじ)

世界一運のない男、生きていても甲斐がないと、死んでしまおうかと考えていたら、

死神がやってきて、人の寿命がわかる砂時計を出す呪文を唱え、

男に残りの寿命を知らせる。

男の寿命はなんと120年!

男はこんな人生が、まだそんなに続くのかと絶望する。

そこにお金持ちの大名と美しい娘がやってくる。

大名は病が苦しく、なんとしても残りの寿命が知りたいという。

男は死神のマネをして砂時計をだすと、大名の命はあとわずか。

男は砂時計をひっくり返して大名の命を救う。

ところが、また死神がやってきて、誰かの砂時計をひっくり返したものには罰として、

自分の砂時計がひっくり返ってしまうと宣告する。

男の寿命は120年から激減し、残りわずかとなってしまう。

ならば、と男は死神の砂時計を取り出して、それをひっくり返した。

すると男の寿命はまた120年に延び、死神の寿命が尽きようとする。

こりゃ参った、と死神は客席を見渡す。

死神はどうやって自分の寿命を取り戻すのだろうか?

(感想)

思わずゾクッとするホラーなラストになっています。

これは舞台で見てたら、思わず周りを見回してしまいそうです。

この砂時計のシステム、老人同士で2人組になって、

一方がひっくり返せば相手も、自分も、

砂時計がひっくり返って寿命が延びて、人生やり直し~と

なるんでしょうか?

ちょっと試してみたい気もしますね。

5.『落語 死に神 remix』

(あらすじ)

売れない幇間(ほうかん、客の機嫌を取り酒席を盛り上げる役)が

師匠に勘当され死のうとしたところ、死神に会う。

死神は男に仕事を授ける。

人が病になると小鬼が憑りつく。

上半身に憑りついている間は軽症ですむが、

下半身に憑りついたものは間もなく死を迎え、

足の裏にまでくるとご臨終になるという。

男の仕事は、上半身に憑りつく小鬼に、休暇を与えて回るというものだ。

男は死神に言われた通り、祈祷師の振りをして、

病を治したり、もうこれは治らないと言ったりして、

商売繁盛することになる。

大店の店主が客としてやってきて、病を治してほしいというが、

小鬼はもう店主の足の裏に辿り着こうとしている。

無理だと言おうにも、美人の娘にすり寄られ、男は断り切れない。

そこで、小鬼がうとうとしている間に、店主の布団を上下逆様にひっくり返し、

小鬼が上半身にきたところで、休暇をやって、一時的に病を治してしまう。

元気になった店主は、男が気に入って、ライバル店の店主を殺してくれないかと

依頼してくる。

もし引き受けてくれれば娘をやるぞ、と言われ、男は承知してしまう。

しかし、これは店主に化けていた死神の罠。

死神は男に罰を与えようと、人の寿命がわかるロウソクが並ぶ洞窟へと連れていく。

こんこんと説教を受けるうちに、男はくしゃみをして、

たくさんのロウソクの火を吹き消してしまう。

これでは人間の世界で大量突然死が発生してしまう……

死神と男は大いに慌ててしまい……

(感想)

『狂言 新・死に神』と似ているお話ですね。

力を悪用したら罰がくだるのですが、

くだった後にどうなるかで、読後感に大きな差が出ています。

金持ちも貧乏人も、極悪人も偉い坊さんも、

人の命はすべてロウソク一本の長さで決まっています。

そのロウソク1本分を、皆、懸命に生きている……

ちょっとくらいの不運がちっぽけに思えてくる、

大きな人生観を気づかせてくれる作品になっています。

狂言の方はホラー味がありますが、

落語版は人生に明るい希望が見える

「明日もがんばろう」と思える最後です。


いかがでしたでしょうか?

『豆腐小僧 その他』は本編にも劣らない面白い作品集なので、

何より読みやすい普通の文庫サイズなので、

京極夏彦が初めて、という方にも手に取ってもらえればなあと

思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。

『豆腐小僧双六道中』の記事はこちらからもどうぞ。

『豆腐小僧双六道中 ふりだし』↓

『豆腐小僧双六道中 おやすみ』↓

喜と楽の感情を手軽に味わえる作品集『豆腐小僧 その他』(読書感想)” に対して2件のコメントがあります。

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