現代によみがえった『走れメロス』かもしれない:心が折れた夜のプレイリスト(読書感想)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

心が折れた夜のプレイリスト  竹宮ゆゆこ  新潮文庫

かわいい女の子のイラストに、「エモさ99.9%」という煽り文句、

「次に出会ったのは少し変わった趣味のあの子」というあらすじ……

私は恋愛小説だと思い、この本を連れ帰ったのです。

そして読んでみれば

……ぶっ飛びました。

「なんだこの小説は? ジャンルがわからん!」

「そして、確実に恋愛小説でないことだけは確かだ!!」

ものの見事に表紙詐欺だったわけですが、

読んでがっかりしたかと言えば、そうでもないんです。

むしろ、ものすごく面白く読めました。

先が読めないというより、「何を読まされてるんだ?」

と思ってしまうくらいぶっ飛んだあらすじなのに、

熱く、濃密に、乱射してくる心理描写で

「状況がおかしすぎるのに、主人公の気持ちだけはよくわかるよー」

という勢いのまま、ぐいぐい引き込まれます。

読み終わったら、必ず誰かと感想を交換をしたくなる

ある意味、すごく問題作です。

それでは、私も思いつくままに、感想をめった書きしていきたいと思います!

目次  1.おおまかなあらすじ
    2.こんな青春は嫌だ……いや、でも。


1.おおまかなあらすじ

まずは簡単にあらすじをご紹介します。

主人公は大学生、3年も付き合った彼女に振られたばかりだ。

振られてから、主人公は自分の部屋が怖かった。

なぜか窓が閉まらない、ひとりでに開いてしまう。

こんな部屋にいたくないと、友達の家を転々としていた。

そしてある夜、飲み会で濃見秀一と名乗る先輩に出会う。

己をド変態と言い切り、とにかくありとあらゆる方法で辱めてほしいが、

もうどんな辱めでもそこまで興奮できないとうなだれているほどのド変態。

主人公はドン引きするが、先輩だけは、主人公の窓の話を

バカにすることなく、ちゃんと聞いてくれたのだ。

その夜、ぐでんぐでんになるまで酔っ払った主人公は、

先輩に連れられ、ある部屋にくる。

そこで、先輩に問い詰められ、主人公は閉まらなくなった窓は、

大好きだった彼女との思い出の象徴であり、

いまだに未練タラタラな証拠だと打ち明ける。

そして、先輩と共に、その部屋で死ぬほど怖い目にあうのだが、

2人で命からがら、逃げ出すことに成功する。

そして少し失恋の痛みが癒えた頃、友達に一人の女の子、通称アナ雪を紹介される。

アナ雪は主人公からいいにおいがすると言って、

橋渡ししてくれるように友人を頼ったらしい。

アナ雪は海辺の合宿所に近い屋台ラーメンを食べて以来、

ラーメンにドはまりしているのだという。

新しい恋の予感に一気に盛り上がる主人公。

毎日のように、アナ雪とラーメンデートを繰り返す。

アナ雪はそれ以外にも一日三食以上、ラーメンを食べ続け、

体調がおかしくなっていった。

主人公は1週間のラーメン断ちを彼女にすすめ、

その間、毎日自分がラーメンを食べに行き、その感想を送ると約束する。

そして約束の最終日、ラーメン屋の近くでド変態の先輩と再会した。

先輩とラーメンを食べ、連絡先を交換し、なぜか神社に参拝し、

アナ雪とのことを話し、それなりに楽しく過ごした。

そして翌日、ラーメンを食べに行ったアナ雪の様子は

すっかりおかしくなっていた。

主人公のにおいをかぎまくり、ラーメンには追加のツユをいれまくる。

止める主人公に、本当においしいから!とキスでスープを口移しする。

つるん、とスープと一緒になにかが口に入り込んできたが、

主人公はそれを飲み下してしまう。

キスの後、急に気持ちが悪いと言い出したアナ雪は主人公を無視して

逃げ帰り、それ以降連絡も取れなくなってしまった。

それから、主人公がおかしくなった。

ラーメンが食べたくてたまらない。

しょっぱいものがほしくて仕方ない。

毎日醤油をだばだばと料理にかけ、塩水を飲む。

いい加減おかしい、と気づいた主人公は、今度は急に母が恋しい思いにとらわれる。

田舎にいる母の元へ行こうかと車をレンタルするが、

自分の母親にそこまで会いたいわけではないと気づく。

混乱する中、こんな時に、絶対にひかずに一緒にいて話を聞いてくれる人……

と思い出したのは、ド変態の先輩だった。

連絡すると、先輩はすぐ来てくれた。

自分に付き合い、主人公の体に何が起きているのか、一緒に考えてくれる。

そして、辿り着いたヒントがアナ雪の研究室紹介の文章。

彼女は寄生虫の研究をしており、紹介文の中で、

にょろにょろした形の寄生虫に食欲を感じることを告白していたのだ。

アナ雪がラーメンにハマるきっかけになった海に行くと、

ラーメンの屋台はなく、ただ海があるばかり。

アナ雪が食べたものは、海のなかに潜む……

ぞっとしながらも母恋しい衝動に突き動かされ、

主人公は海に突き進み、溺れそうになりながら、

喉の奥から何かが海に去っていったことを感じる。

すると、塩を求める衝動も、母恋しい思いもすっかり消えていた。

海に入って、溺れそうな主人公を助けてくれた先輩と共に、

近くの公衆浴場で温まる。

先輩は、アナ雪が口にした「何か」が

人体を海の環境に近づけようと塩をとらせていたこと、

それに主人公が抵抗したので、今度は母のいる海に行くよう仕向けたのでは、

と推論を語る。

2人は、なんだかんだと話したりしながら、

穏やかな朝を迎えていた。

2.こんな青春は嫌だ……いや、でも。

今、この記事を読んでくださっているあなたに質問です。

あなたはこの本を読み終わった後ですか?

読み終わったよ、という方と

もし読んでいなくて、上記のあらすじを読んだよ、という方に

続けて質問です。

この本のあらすじ、意味不明じゃないですか…?

私の文章が下手という意味じゃないですよ。

(そういう意味で「わからん」と思われた方には伏してお詫びいたします…)

読みながらも思ってましたが、改めて書いてみて思いました。

心理描写がほとんど入らないあらすじだからこそ、

その滑稽ともいえる「有り得なさ」が際立った気がします。

この小説のジャンルは何なんでしょうね?

強いて言えば、青春小説?

いや、こんなラーメンと塩分と変態にまみれた青春、

ちょっと……

だいぶ嫌です。

表紙で「かわいい!」という第一印象をくれたヒロイン像も

返してほしい……

作中、一番ヤバいのはアナ雪じゃないか。

「何を食べたんだ……?」とホラー小説でもないのに背筋が寒くなったじゃないか。

海には「何かの母」がいるらしいし、遊べなくなったらどうしてくれるんだろう?

そして、触れないわけにはいかないド変態の先輩。

終盤まで読むと、この人こそヒロインの役割を果たしている人物であることがわかります。

しかし、読んだ人にはわかっていただけるんですが、

タダの変態じゃないんですよね。

ここで具体例を書けないレベルの変態(自称)さんのようなんです。

”ヒロインが実は一番ヤバくて、

ネット上には書けないレベルのド変態(男)がヒロインとして、

にょろにょろした「何か」に憑りつかれた主人公を助ける話”

要約しても、やはりジャンル不明のとんでも小説ですね。

しかし、この作品、不思議と読後感は、悪くないんですよね。

読んでる最中も、けっこうおもしろい。

冒頭にも書いた通り、心理描写の分厚さが、

あらすじのぶっ飛び具合を巧妙にカバーしてくれているんです。

話の流れは「どうしてこうなった!?」状態でも、

主人公がこの瞬間、何を考え、どう思っているかは手に取るようにわかる!

だから感情を揺さぶられて、ついつい先を読みふけり、

主人公目線にどっぷりとつかりこんでしまい、

気が付けばド変態の先輩ですら、いい人に思えてくるんです。

そう、このド変態の先輩、変態オブ変態ではあるんですが、

塩が欲しくてたまらず極度のマザコン状態になっている主人公にもひかず、

最後の最後まで、嫌な顔一つせず付き合ってくれるような人なんです。

なかなかいませんよね。

変態がなせるわざだとしても、稀有な存在です。

後半は、主人公が狂気に突っ走る境界線上にいて痛々しいので、

先輩が一緒にいてくれたおかげで、安心して読めたと言っても過言ではないです。

この先輩のことを、ぼーっと考えていたら、

太宰治の『走れメロス』を思い出しました。

簡単にあらすじをご紹介しますと、

王を怒らせ極刑になったメロスが、妹の結婚式にでるために、

友人セリヌンティウスを人質として残します、

定められた期限までに戻らなければ自分の代わりに友人が死んでしまうため、

メロスがひたすら走る、というお話です。

先輩は、どこか、メロスの友人・セリヌンティウスに似ています。

自分の命が賭けられているのに、一つも動じることなく、

ただメロスを信じ待つセリヌンティウス。

セリヌンティウスは待っている間、

一度だけ「あいつ、本当に助けに来るのかな?」とメロスを疑うので、

もしかしたらド変態の先輩の方が人間の器は上かもしれない。

作者の竹宮ゆゆこさんが、いったいどうやってこのお話を思いついたのか、

分かりようもないですが、もしかしたらモチーフになったのは

『走れメロス』では? 勝手に想像しています。

……少し変態の先輩を褒めすぎたかもしれません。

でも、「身近に一人くらい、いてもいいかもしれない」

読み終わった後にそんなことを思いました。

この小説の面白さの半分以上はド変態の先輩のおかげ、

と言ったら言い過ぎでしょうか?


いかがでしたでしょうか?

竹宮ゆゆこさんは初読みの作家さんでしたが、

この訳の分からない勢いで読ませる作風は癖になりそうです。

また他の作品も読んでみようと思いました。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。

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