読むのが辛すぎる! でもその先には大きな感動が待っている『最後の医者は桜を見上げて君を想う』読書感想

こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。

今回ご紹介する作品はこちら

最後の医者は桜を見上げて君を想う  二宮敦人  TOブックス

作者の二宮敦人さんといえば、ホラー小説家としての印象が強いです。私が最初に読んだのもホラー小説だったと記憶しています。

しかし、実際に調べてみると推理小説やノンフィクションなども手掛け、幅広い執筆活動をされているようです。

で、今回ご紹介する作品はホラーでも推理小説でもなく「医療もの」です。

医療ものというと、難病に立ち向かう医者と患者の物語なんかをぱっと思い浮かべると思うのですが、二宮敦人さんの医療ものはちょっと違います。

難病に立ち向かうのはそうなんだけれど、その方向が「生きる」方向ではなく「死」を向いています。

だから作品の内容自体が重いですし、さらにホラー小説で培ったであろう苦痛や苦悩の表現が非常に真に迫っていて読んでいて痛みを伴うほどでした。

なので実は本作品、安易にはおススメできません。

安易にはおススメできないんですけど、「死」というものを意識する前に自分だったらどうするか?、考えさせられますし、作中で死と向き合う医師、患者たちの姿は勇者そのもので涙が止まらないほどの感動と感銘を受けますので、メンタルが元気な時であれば心に残る1冊になると思います。

それでは、あらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。

1.簡単なあらすじ

まずは簡単なあらすじからご紹介していきましょう。

物語の舞台は大病院。多くの医者と患者が集まり、日々治療に手術に入院に……と生きるための努力が行われている場所です。

その大病院に2人の相反する信念を持った医者が勤務しています。

一人は福原雅和。病院の院長の息子であり、とても腕のいい医者として院内でも一目置かれている存在です。

福原の信念は「患者の命を救うこと」。どんな難病であっても、たとえほぼ0%の可能性でも、「奇跡」が起きることを信じて最後まで病気と戦うことに執着を持っています。

もう一人が桐子修司。

桐子の信念は「患者には死ぬ権利と死ぬ前の生き方を選ぶ権利がある」というもの。

現代の医学では太刀打ちできない病気に患者が直面した時、生きながらえるための延命医療を行うのか、それともたとえ寿命を縮めようと自分の望む人生を送るのか……患者には選ぶ権利があるという信念のもと、桐子は末期患者と無断で面談をしては、患者に延命医療の中止を選ばせてしまうとして、通称「死神」のあだ名がついていました。

相反する信念を持つ2人の医者が待ち受ける大病院に、今日もまた、重い病を抱えた人々が訪れます……

2.死を前にして人が選ぶ道

本書には重い病に侵された3人の人物が登場します。

その一人一人が福原、そして桐子という医者として正反対の信念に触れて、病を前にどう変わっていくのか、どんな決断を下すのかがお話の中心になります。

1人目の患者

患者の一人目は白血病です。

白血病というのは血液のガンで、罹患したのはまだ30代の男性という設定でした。

病院に訪れるまで、少々の体調の悪さを感じながらも元気に働いており、妊娠中の妻と幸せな日々を暮らしていました。

そんな中、青天の霹靂のように白血病を告知されてしまうのです。

想像するだけで衝撃の大きさが伝わってきますよね。。。

白血病は治療法もある程度確立した病らしく、男性は完治を目指して治療を始めるのですが……

このお話では現代医療の限界と、限界を知りつつも治療を受けるべきかどうかの葛藤がえがかれていました。

正直「こんな辛いお話を冒頭に持ってくるか?!」と読んでいる側にも痛みを伴うお話です。

治療法がある=治るというわけではないという現実が、容赦なく襲い掛かってきます。

しかも治るかどうかもわからないのに、治療法自身が与える苦しみもすさまじいんですよね……

それでも少しでも生存確率を高めるために治療を受けるべきだと主張するのは福原。

あなたには治療以外の選択肢があると述べるのが桐子。

患者がどんな運命をたどるのか、見届けるあなたにも相当の覚悟が求められます。。。

2人目の患者

患者の2人目はALSです。

人気漫画『宇宙兄弟』でとりあげられたこともあり、認知度もあがった病気ですが、その症状は筋肉が衰えていくというモノ。

手足、体はもちろん、最終的には目をあけることも、話すことも、そして心臓を動かすことすらできなくなってしまいます。

そして、残念ながら現代医療をもってしても治療法がないという難病です。

この病に侵されたのはまだ若い女性です。

若い女性だけあって、彼女の前途は夢や希望にあふれ、さらには新しい出会いもあって青空のように晴れ渡っていました。

しかし、そこにALSという現実が襲い掛かってくるのです。

決して治ることのないALS。どんどん症状は進行していきます。

どうしたらいいのか? どうすべきなのか?

彼女は混乱と諦めと悔しさと……様々な思いを胸に日々を生きていきます。

治療法が明日にも見つかるかもしれない、奇跡を信じてできるだけ延命医療をすべきという福原。

不死の病だからこそ、自分自身で生き方の選択をすべきという桐子。

選択肢はろくにないのにどんどん時間は過ぎていき、体は動かなくなっていくばかり……

「ちょっと待ってあげて!」と声を張り上げたくなります。

本当に病気というのは一瞬で人の人生を破壊していく恐ろしいものですね……

3人目の患者

最後になる3人目の患者はガンです。

まだ若い男性なのですが、そのガンはかなり進行してしまっており、早急な手術が求められる状態での発見でした。

福原は一刻も早く手術を受けるべきだと主張します。彼の信念から言えばそうでしょう。

一方桐子はというと……いつもの彼ならば患者にも選択肢を、というところなのでしょうが、この患者に対してだけはいつものような面談ができません。

その理由はぜひとも本書を読んでいただくとして、患者自身も、一刻も早い手術は待ってほしいとはやる福原に待ったをかけます。

なぜ待ったをかけるのか? 早く手術をした方が完治する可能性が高くなるのに?

患者が手術を先延ばしにしたいと願う理由が、その後の患者の生き様を、そして福原と桐子の信念をも大きく左右することになります。

3人の患者をご紹介してきましたが、病への向き合い方は三者三様、それぞれのエピソードが、福原、桐子、あるいはそのどちらでもない選択肢を選んだ結果を暗示しているような内容になっています。

理性的にみれば、重い病に侵されたときの選択肢というのは多くもなく、どれを選んだとしても間違い、正解というのはありません。

しかし、だからこそ選択に至るまでの道がとても険しいことが浮き彫りになります。

最後まで奇跡を信じて病と闘うべきなのか。

死ぬまで自分らしく生きる道を選ぶべきなのか。

それとも第3の道があるのか。

どれも「死」というのが目前に迫っている状況で「どう死にたいのか」を選ばされているような感覚になります。

特に、1人目、2人目の患者はその感覚が強く、読んでいて辛くて辛くて……

それでも読み進めていくと、3人目の患者になってようやく、「どう死にたいのかは、どう生きるのか同じ意味だ」ということに気づかされる、そんな構成になっていました。

死が目前に迫っているとしても、死ぬまでは生きている。その残された時間をどう使うのか?

重たい問いかけですが、3人の患者が選んだそれぞれの道の行く末はその人が命を賭けた選択だけあってどれも感涙ものでした。

3.苦悩と苦痛

『最後の医者は桜を見上げて君を想う』は重いテーマではありますが、号泣必死の感動作でもあります。

ただ、万人におススメできないという思いも抱いたので、その点を少し付け加えておこうと思います。

まあ、まず「病」や「死」がテーマになっているだけでも人を選ぶと思うのですが、患者それぞれの闘病の様子がリアリティがありすぎる描写のせいで私は読みながら「うっ……(辛)」となるものがありました。

冒頭にも書きましたが、作者の二宮敦人さんはホラー小説家でもあります。

ホラー小説は人間の恐怖・嫌悪を煽ってなんぼのジャンルなので、それこそ苦痛や苦悩の描写にこそ作者の個性も技量も表れてくるわけです。

そんな人が病気で苦しい・辛いという描写をしたらどうなるか?

もうそれはそれは……読んでいるだけで苦しい!

読書の醍醐味は追体験と言いますが、この苦しみは追体験できなくてもよかったかもしれない!

私自身、この小説を読んでいる時、この記事を書いている時、体調が絶不調な状況だったので余計に辛さ増し増しでした^^;

体調が思わしくない方はもちろん、痛い・辛い・苦しいが苦手な方は、覚悟を決めてから読んでください。

感動作であるという点は保証できますが、感動に至るまでの道は保証できません……


いかがでしたでしょうか?

本作、かなり売れているようで、舞台化や漫画化といったメディアミックスも行われていますし、何十万部と発刊されているそうです。

これだけ重い作品なのにそれだけ多くの人が手に取っているというのは、軽く驚きです。

辛い読書体験を乗り越えて、それでも読むだけの価値がある作品とも言い換えられると思います。

体調、メンタル共に覚悟ができればぜひ手に取ってみてほしい作品です。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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