読後感◎ フェアなミステリ×気まずい青春がテーマの短編集『早朝始発の殺風景』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

早朝始発の殺風景  青崎有吾  集英社

読んでみて、なんとも不思議な短編集だと思いました。

若手ミステリ作家の青崎有吾さんの作品だということで、がっつりミステリなのかと思って読んでみれば、ミステリ……でないとは言えないが、がっつりとしたミステリとは言えない。死人がでないどころか、事件らしい事件など一つも起こらないのだから。

短編集の主人公たちは全員、思春期まっさかりの高校生。ならば恋や部活がからんだ青春ストーリーかと言えば、それもかすってはいるけど真正面から書いているわけではない

歯切れの悪い文章が並んでしまって申し訳ないのですが、この短編集を表すとしたら「青春のワンシーンを切り取ってミステリ風味に仕立て上げた」とでも表現するしかありません。

人に「どんな本だった」と説明するのはかくも難しい本書ですが、でもこれだけは言えます。面白い。そしてなんだかほっこりする。

読んでよかったと思える本です。その理由をご紹介していきましょう。

1.ワンシチュエーション&リアルタイム

本の裏表紙に書かれている紹介文には、こう記されています。

ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイムで進行する五つの青春密室劇。

これだけ読んでも頭の上に「?」が浮かんでしまうと思うのですが、本書を読んでみると、確かに「ワンシチュエーション&リアルタイム」という言葉がしっくりくる内容でした。

5つの短編集すべてに共通するのが、場面転換なし(ワンシチュエーション)なんですね。表題作の『早朝始発の殺風景』を例にすると、主人公の男子高校生は始発の電車に乗り込み、そこで同じクラスの女子に出会います。2人は気まずいながらも、会ってしまったからには別の車両に移動したり離れた席に座るのはもっと気まずい……というわけで、そのまま多少間隔は空けながらも近くに並んで座り、ぽつりぽつりと会話を交わし始めます。そして、お話は最初から最後まで、主人公たちが同じ電車の同じ車両で並んで座って会話を交わすだけで終わります。電車を降りるところまでは語られません。これが場面転換ナシ、の意味です。

短編の主人公たちは最初に登場した場所に物語が終わるまでずっとい続ける。さらに付け加えておくと、主人公たちが登場する場所は「閉じられている場所」というのも共通しています。

電車の同じ車両、ファミレスのテーブル席、観覧車の中、公園の休憩室、友達の部屋。

「そこに座ったらしばらくい続けることが前提の場所」とも言い換えられそうですね。また『早朝始発の殺風景』を例にすると、同じ車両に乗っちゃったからには気まずくても他の車両や席には移動できないぞ、という暗黙の鎖で縛られた感覚とでも言いましょうか。こういった状況を指し示す言葉が紹介文の末尾にある「密室劇」というわけです。

もう一つの「リアルタイム」はどういうことかというと、物語の間は時間をすっ飛ばして話が進むことはない、ということです。

また『早朝始発の殺風景』に登場してもらうと、主人公たちが電車に乗り込んでから、ずっと文章は主人公たちの会話、様子、電車がどこの駅に着いた、という風に起きた出来事を起きた順に追っていきます。「そこから気まずいまま、10分ほど過ぎただろうか」という時間の飛ばし方はしません。主人公たちが体感している時間を、そのまま読者にも体感してもらおうと意識して書かれた文章になっています

普通、小説はどんなに短くても場面転換をしたり、時間をすっ飛ばしてお話を進めていくものです。その方が面白くなるし、不必要なシーンはどんどん飛ばした方が読者にも親切だからです。でも本書はあえて「ワンシチュエーション&リアルタイム」にこだわって表現しています

全部の短編を読み終わると、なんとなく作者さんが意図したところが見えてきた気がします。

おそらく理由は2つあり、その2つが本書の魅力にもなっていると思います。

本書の魅力2つをご紹介していきましょう。

2.魅力その① 出てきた情報だけがヒント

冒頭にも書いた通り、作者さんは若手ミステリ作家、本作品でもミステリ要素は組み込まれています。

しかし殺人が起きるどころか、事件らしい事件は何一つ起きません。

ただ、全部の短編に共通して「何かが不自然だ」という違和感のようなものが物語の最初に示されるのです。

『早朝始発の殺風景』ではそもそも、高校生が、しかも2人も、電車の始発に乗っているということからして「不自然」ですよね。高校の校門が開くのは早くて7時半とかでしょう。でも5時台の電車に乗っているわけですから、これは明らかにおかしい。

じゃあなんで始発に乗ったのか? 『早朝始発の殺風景』ではその「なぜ?」を解き明かすストーリーになっているのですが、ここからが本書の面白いところです。

主人公たちが直面する「不自然」や「ちょっとした疑問」を解き明かすのに、ヒントは全てその場で得られる情報だけを使用しているんです。

よくある、読者には知り得ない情報が後から開示されるというのは一切ありません。主人公たちと同じ場面にいて同じ時間を過ごして、そこで得られるだけのヒントで謎は解けるようになっています

何気ない会話、そぶり、主人公の心の声。すべてがヒントです。

なにしろ、本書に収録されている短編はすべて短い! あっという間に読めてしまう作品ばかりです。だからこそ、文章の至る所に情報がさりげなく埋め込まれているわけです。2作くらい読んだところで、「そういう趣向の作品集なんだな!」とわかるわけですが、だからといって簡単にヒントが見つけられるかっていうとそういうわけでもないんです。隠し方が実に巧妙……最後の種明かしまで読んで「あれがヒントだったのかー!」と空を仰ぐことになりました……

裏を返せばミステリとしては実にフェアな作品集です。これだけでも「ワンシチュエーション&リアルタイム」にこだわったその理由が納得できるというものです。本書の作風は、それ自体が作者さんから読者への挑戦状みたいなものです。

しかし、もう一つ、作者さんは別の魅力を表現していると思います。

3.魅力その② 青春は気まずい

私にとっては既に遠い日々となった「青春」(笑)。本書を読むと、当時の感覚を徐々に取り戻していくような感じで懐かしい思いになりました。

だからといって、本書が思い出させてくれる青春の思い出は、恋愛や部活や行事でキラキラしているものかっていうと、全然そうじゃないんです(笑)

大して仲良くないクラスメイト、いましたよね? 名前と顔も一致しているし、「おはよー」くらいは言うけど、他に話したことないという子。何かの間違いで放課後に教室で2人きりになってしまって逃げるように「部活行こうー」ってそそくさと立ち去った経験、ないですか?

本書が思い出させてくれる青春は、その手の「気まずい」青春です

これも全部の短編に共通するのですが、お話のスタート時点で主人公たち登場人物たちの置かれている状況は「気まずい」の一言です。とっとと立ち去りたいくらい居たたまれない空気なのに、彼ら・彼女らがいる場所は半分「密室」のような場所。そう簡単には逃げられないわけです。

そして気まずい時に人間がやることは大体相場が決まっていて、「誤魔化すようにしゃべる」。主人公たちも不本意ながら、気まずい空気に負けるようにぽつぽつとしゃべる羽目になるのです。

そうしてちょっとしたミステリが展開されていくのですが……

本書のもう一つのお楽しみ要素が別に存在しています。

「気まずい」で始まった物語が、会話を交わしていくうちにちょっとした謎解きをすると、あら不思議、主人公たちの隙間風が吹きそうだった距離感が、すこーし狭くなったような……

何か特別な事件があったわけではないけれど、謎解きを通して相手のことを知ることで、「気まずい」から「親近感」へ、気持ちがすーっと変化していくその瞬間を、絶妙に切り取っているのです。

よく知らなかった相手でもちょっとしたことで話が弾んで、気持ちがマイナスからプラスに針が大きく傾くという経験、誰しもがしたことがあると思うのですが、そういう時って、大したことでもないのに、気持ちがワクワク、浮き立つような快感を感じませんか?

短編を読み終わるごとに、あのふわふわした心地よさを味わうことが出来るんです。

これも、「ワンシチュエーション&リアルタイム」で主人公たちと一緒に、逃げられない気まずさを体験した後なだけに、より強い快感を感じることが出来るんだと思います。

4.魅力(おまけ) 解説もちゃんと読もう

文庫本の末尾によくついてくる「解説」、読んでますか?

私は一応、毎回読んでいるんですが、正直、当たりはずれがあるな、と思っています。基本は本のことを褒める内容なんですが(当たり前だ)、その褒め方が的外れだったり、「無理矢理ひねり出したな……」と苦心の跡が丸わかりだったりする文章にもチラホラ出会います。

でも、本書の解説は、ちゃんと読むことをおススメします。

短編それぞれに解説者の感想が書かれているのですが、共感できるできないは別として、視点が新鮮だからです。

本書はちょっとしたミステリ本になっているのは前述の通りですが、それ以外にも作者があえて書かなかった部分があることが指摘してあったり、短編ごとのムードを紹介してあったりと……謎解きに夢中になっていると見逃しがちな部分にたくさん気づかせてくれました。

特に『夢の国には観覧車はない』は解説を読んですぐに読み返したほど。

読み返すのも簡単な分量なので、ぜひ解説と共に読み返してみてください。

5.おおまかなあらすじ

ここでは5つの短編のおおまかなあらすじをご紹介します。

『早朝始発の殺風景』

自宅の最寄り駅から始発電車に乗り込んだ加藤木。そこには同じクラスの女子・殺風景(これ、苗字です)が乗っていた。無視するわけにもいかず、加藤木は殺風景の近くに座る。それにしても……

「なんでこんな朝早くの電車に乗っているんだろう?」

お互いに感じている疑問は同じで、その理由を知られたくない様子なのも同じ。

しかし気まずい2人はぽつぽつと会話を重ねていくうちに、少しずつ探り合いになっていく……

『メロンソーダ・ファクトリー』

放課後のファミレスに、いつもの3人で、いつものドリンクバーを頼む。

いつもの他愛もないおしゃべりに楽しい雰囲気。

そこに亀裂が入ったのは、一つの話題のせいだった。

学園祭のクラスTシャツのデザイン決め。自分の出したアイディアに反対意見が出た、たったそれだけのことだったのだが……

『夢の国には観覧車がない』

部活の引退記念にやってきた遊園地。本当は気になるあの子と見て回りたかった。が、共に観覧車に乗っているのは男の後輩で……

何が悲しくて男子高校生2人で観覧車に乗らなければならないのか?

単なる偶然……と思っていたが、どうやら後輩は何か伝えたいことがあるらしい……

『捨て猫と兄妹喧嘩』

両親が離婚して離れて暮らす兄と妹。今日は2人で会う久しぶりの機会だった。

が、そこには第三者が立ち会っていた。

その第三者「捨て猫」の落ち着き先を巡って、兄と妹は口ゲンカになってしまうのだが……妹は離れて暮らす兄の変化、そして秘密にきづいていく……

『三月四日、午後二時半の密室』

卒業式を休んだクラスメイトの家に、卒業証書とアルバムを届けに来たクラス委員。

そのクラスメイトは孤高の存在で、悪く言えばちょっと空気の読めない女の子。

お見舞いも兼ねているとはいえ、正直、2人きりで彼女の部屋にいるのは気まずい……

でも、あれ? 少しおかしい。

もしかして彼女、仮病じゃないだろうか……?


いかがでしたでしょうか?

私は前情報一切なしで読み始めたので、本書がちょっとしたミステリ仕立てになっていて、しかも書いてある内容だけで推理可能なフェアな作品ばかりであることに気づいたのは2つ目の短編を読み終えた辺りでした。

ちょっともったいないことしたな……1つ目の短編から謎解きに挑戦すればよかった、と少々後悔しました^^;

それでも読後感の良さに満足の1冊ではありましたが、この記事を読んでくださっているあなたが、まだ本書を未読なら、ぜひ謎解きにも挑戦してみてくださいね!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。

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