読書感想|足るを知る人の幸福論(水木サンの幸福論、水木しげる)

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今回ご紹介する本はこちら↓

水木サンの幸福論 水木しげる 角川文庫

著者はゲゲゲの鬼太郎の作者でおなじみ、水木しげる先生です。

本書の内容は、水木先生が日経新聞の人気コーナー「わたしの履歴書」に

一カ月にわたって記したエッセイがメインです。

「わたしの履歴書」では、著名人が半生をつづり、その人生論が

垣間見えることで人気のコーナーです。

「わたしの履歴書」は文化人に限らず、経済人や政治家も登場するので、

文章力が人によってまちまちで、

中には面白さとしてはいまいち…な方もいらっしゃるのが現実なのですが、

水木先生の一カ月は抜群に面白かったのです!

その時、まだ銀行員として働いていた私は、

自分自身も含めた周囲の人間のほとんどが、日経新聞=愛読新聞だったので、

必然的に「わたしの履歴書」を読んでいる人間が多数周りにいました。

水木先生の「わたしの履歴書」はすこぶる好評で、

朝一番の話題になるほどでした。

水木先生の「わたしの履歴書」をもう一度読み通すことができるだけでも

素晴らしい内容になること間違いなしの一冊なのですが、

本書にはさらにぜひ読んでいただきたいおまけもついてきます。

(おまけと呼ぶにはもったいないほどの内容なのですが…)

それが ”水木サンの幸福7か条” です。

水木先生は自身が幸福な幼少期を過ごせたと自負されており、

その体験が長い人生の根底を作ったと思われていたようです。

そして、人生の様々な場面で、幸不幸について考え、

その集大成として ”水木サンの幸福7か条” を考案したそうです。

ここでそのまま紹介するのははばかられますので、私なりの解釈で

まとめたものをご紹介すると……

   自分の好きを大事に、成功や報酬にこだわらず、

   全力で打ち込めるものがあること、それ自体が幸福である。

このような文章になりました。

漏れている要素もありますが、あくまで私が受け取ったメッセージという

ことでご容赦ください。

水木先生の幸福7か条を生んだ人生を、振り返ってみたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、水木先生は太平洋戦争で南方に赴き、

左腕を失くすという壮絶な体験をされています。

幼少のころ、兄弟や友達に囲まれ、好きなことばかりしていた日々からは

想像もつかない過酷な時期だったと思われます。

大好きな絵を描くこともままならず、そのほかの趣味もすべて捨てて

兵士として理不尽な上官の命に従う日々……

それを乗り越えて日本へ帰国し、水木先生は憧れの

”絵を描く仕事” として紙芝居や貸漫画本を描きます。

しかし、今からは信じられないことに、水木先生は

鳴かず飛ばずのながーーーい下積み時代を送っているのです。

当然報酬など雀の涙です。

それでも、諦めずに描いて描いて描きまくって、

絵や物語の筋書きに役立つと思われる書物を読み漁り、

夢中で仕事にまい進されていたそうです。

極貧の中で仕事に全力を注ぐ日々の中、結婚した当初の

夫妻の楽しみは原稿料が出たときに買うバナナだったそうです。

水木先生の幸福7か条に基づくと、

この時期は ”幸せ” だったということになります。

成功や報酬は時の運だと割り切って考えれば、

(事実、水木先生は割り切っておられる)

好きな絵に全力で取り組んでいるという条件に当てはまります。

そして、40歳、水木先生は漫画雑誌連載で一躍、時の人となります。

『ゲゲゲの鬼太郎』などの名作の大ヒットにより、

極貧の生活からは抜け出しますが、だからといって今度は使う暇がない。

美味しいものを食べたくとも、食べる時間がない。

ゆっくり眠りたくとも、眠る時間がない。

世間が考える成功は、水木先生に幸せを運んできたと言えるでしょうか?

その後は収入は減るけども仕事をセーブして旅行へ出かけたりしながら

新作漫画やエッセイを亡くなるまで書き続けられたのは記憶に新しいところです。

さて、水木先生の人生をざっと眺めてみて……

おや? と思うわけです。

水木先生、幸せだったんだろうか? と。

おこがましいのは百も承知ですが、

戦争体験、売れっ子になるまでの下積み、売れっ子になってからの超多忙ぶり、

そして生涯現役を貫いた姿勢……

真似できますか? と言われたら 「無理です!」 と即答できます。

好きなことに打ち込む楽しさは理解も想像もできますが、

成功不成功にかかわらず、生々しい苦労もまた、楽しさと同等、

あるいは楽しさ以上に襲い掛かることが容易に想像できます。

実際に、水木先生自身も自分の人生を振り返って、幸せだったのかなあ? と

首を傾げている様子が文章からうかがえるわけです。

それでも、水木先生はあえて、幸福の7か条で

好きへのこだわりを歌います。

   自分の好きを大事に、成功や報酬にこだわらず、

   全力で打ち込めるものがあること、それ自体が幸福である。

こんな境地に達することができる人間が、何人いるのでしょうか?

私は水木先生の幸福7か条を読んだとき、涙があふれました。

水木先生は、自分の人生を眺め、

幸福であったと自ら光を灯す人だと思いました。

たるを知る人、自分を癒すのが上手な人……

表現はいろいろあるでしょうが、水木先生の幸福の本質は

己自信を良く知っていたことではないか、と思うのです。

しかも水木先生の幸福7か条は、他人をも明るく照らす力があります。

不成功体験も、成功体験も、数多く経験されてきたからこそ、

水木先生にとっての幸福論が、多くの人に当てはめられる幸福論へと

繋がったのだと、そう感じています。

しかし、このままだと未完でもあるのかな、と私はひねくれた考えを

持っていたりもします。

やはり水木先生の7か条は水木先生のもの。

どこか、自分流にカスタマイズして自分なりの幸福論を考えることが、

己自信を知る、水木先生の境地に近づく一歩なのでは? と

読み終わってから、ふと思い出す日々です。

いかがでしたでしょうか?

『水木サンの幸福論』には、水木先生の仲良し3兄弟の対談の模様や

(これがまた愛情と機知にあふれた素晴らしい内容です!)

幼少の頃に、近場の子供たちと繰り広げた仁義なき(!)縄張り争いの

一部始終を記した漫画も収録されています。

読み物としても面白く、水木先生の温かみを感じられる文章に

元気をもらえる一冊にもなっていますので、

私も心からお薦めできます。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。

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