日本古代のカリスマリーダーがパフォーマンスにこだわった理由『天武天皇の企て』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら↓
天武天皇の企て 遠山美都男 角川選書
天武天皇、私はこの人のことを日本古代史のヒーローだと
思っているんですが、ご存知でしょうか?
日本史の時間には登場していたと思うのですが
時は7世紀、兄は大化の改新で有名な中大兄皇子こと、天智天皇です。
天武天皇は天智天皇没後に即位したのですが、
彼が即位するまでにはひと悶着どころか、
日本古代史最大と言われる壬申の乱を勝ち抜かなければなりませんでした。
即位した後、彼は天皇による親政を行ったり、
有名な日本古代史の資料でもある『日本書紀』の編纂を命じたりして、
政治家としてカリスマ性を見せます。
本書『天武天皇の企て』の目的は『日本書紀』を読み解くことで、
天武天皇の壬申の乱や自身の治世についての思惑を
探り出そうというものです。
正直、かなりマニアックな本であることは否めません。
私のように、個人的に「この人カッコいいんじゃない?」という
ミーハー心でもない限り、手に取ってみようという方も
あまりいらっしゃらないのではないかと思います。
だからこそなおさらですが、この記事まで辿り着いてくださった方、
本当にありがとうございます!
ミーハー心と共に、本書の面白さを伝えたいと思いますので
ぜひ、読んでいってくださいね!
目次 1.天武天皇ってどんな人?
2.超カッコいい、天武天皇を表現した一言
3.パフォーマンス重視の人
4.そこまでするか!『日本書紀』
1.天武天皇ってどんな人?
まずは前提として、天武天皇が歴史上、何を成し遂げた人なのかを
簡単にご紹介しておきましょう。
彼は大化の改新で有名な中大兄皇子こと、天智天皇と両親を同じくする
弟として誕生しています。
即位する前の名前は大海人皇子。
大化の改新の時にはまだ幼児だったため、
天武天皇は関わりがない事件でした。
その後、天智天皇が即位し、死の床に臥す時には
天武天皇は立派な青年に成長していました。
彼は天智天皇が死去する直前に都を出て一度出家しています。
そして兄が死去した後、自身が天皇に即位するために挙兵し
各地の有力者たちの協力を取り付けながら都に攻め入り、
天智天皇の息子であった大友皇子を滅ぼします。
これが日本古代史最大の内乱といわれる「壬申の乱」です。
天武天皇はその後、即位し天皇親政を始め、
『日本書紀』の編纂を命じるなど、数々の事績を残し、
カリスマ性のあるリーダーとして目されていた、とされています。
2.超カッコいい、天武天皇を表現した一言
天武天皇の人生をみると、不思議な点があります。
彼は天皇即位の前に一度出家しているんです。
この当時の出家と言えば、俗世との縁を切るという意味があります。
つまり、天皇になる気はない、と自ら意思表示しているんです。
しかし彼はその後「壬申の乱」を起こし、
兄の子供を討ち取ってまで、天皇の位を目指します。
天武天皇がなぜこんな行動をとったのか?
これには諸説あるのですが、
本書『天武天皇の企て』がとっている説をここではご紹介しておきます。
前提として、天武天皇はおそらく天智天皇が死んだあと、
天皇の跡を継ぐ身分にはなかった、ということがあります。
次期天皇は天智天皇の子供の大友皇子で決まっており、
天武天皇に求められていたのはその補佐をすることだったはず、
という立場をとっています。
しかし結局、天武天皇は一度は出家するものの、
都に軍隊を引き連れて戻ってきています。
天武天皇が出家した理由は「天皇を継ぐ気はないですよ」という
パフォーマンスに過ぎず、都を脱出するための口実だったのだろうと
考えられます。
都を離れて自分の味方を集めるためにわざわざ出家という方法を使ったということですね。
都を離れていく天武天皇を見送る天智天皇陣営は、彼のことを評して
「虎に翼をつけて放すようなものだ」と表現しています。
もう、この表現、私は大好きで、この一文だけでミーハー心を
めちゃくちゃ刺激されました。
なぜって、表現自体もカッコいいのに、
予言だったかのように本当に虎のような強さを身に着けて
戻ってきちゃったわけですからね。
有言実行とは違いますが、彼の雄々しさや有能さを
よく表した惚れ惚れするような一言です。
3.パフォーマンス重視の人
「壬申の乱」を見事に制し、天武天皇は即位するのですが、
彼が天皇として行った事績の中に『日本書紀』の編纂があります。
『日本書紀』は『古事記』と並んで
日本の古代史を研究するうえで超重要な史料になっているのですが、
その内容はというと、簡単に言えば日本の歴史です。
始まりは聖書のように、神話の時代から始まっています。
神様たちが日本の国土を作り、やがて国を作り、
天皇となって国を治めるようになった過程が書かれています。
当然、この辺りはフィクションですが、
どこかのタイミングで実在する天皇の名前が登場し、
以降はフィクションも含みつつ、本当の歴史も記述され始め
史実を研究するうえでも重要な証拠を残してくれています。
この『日本書紀』には、天武天皇自身も登場します。
いや、むしろ自分を登場させるために
編纂を命じたのかもしれないくらい、
天武天皇は気合を入れて自分の登場する文章を
それはそれは入念に作りこんだ節がある……
と本書は読み解いています。
なぜそんなことを?
という疑問の答えは、即位前の天武天皇の立場にあります。
彼は、本来天皇になる立場の人ではなかったはず。
それなのに戦争を引き起こして次期天皇候補を滅ぼして
自分が即位しちゃったわけです。
言ってしまえば、クーデターを起こしたのですから、
その理由をきちんと釈明しなければマズい立場にあったわけです。
だから彼は『日本書紀』という日本の歴史を書くように命じつつ、
本当の目的は自分の天皇即位の正当性を固めるためだった、と
本書『天武天皇の企て』では考察しているんです。
天武天皇は政治家としてパフォーマンスを重視するタイプの人だったようなんです。
そのパフォーマンスの徹底ぶりは今の政治家も
見習うべきところがあるのではないか、という
くらい手が込んでいることが、
本書を読んでいくとわかります。
4.そこまでするか!『日本書紀』
では実際に、どんなふうに記述されているのか、
『日本書紀』の「壬申の乱」を記述した「壬申紀」の
くだりを少しだけご紹介しましょう。
まず、事の起こりは死の床に伏した天智天皇が
天武天皇を枕元に呼びつけたことから始まります。
天智天皇は天武天皇にこう話します。
「私が死んだあとは、天皇に即位して欲しい」
あれ????
諸説あるとはいえ、著者がとっている説とは真逆の内容です。
既に天智天皇の息子が時期天皇と決まっているはずなのに、
天武天皇に即位するように言うなんて、ありえないですよね。
そう、既にこの記述から天武天皇のパフォーマンスは始まっているのです。
この後、天武天皇は「いやいや、私は天皇にはなれません」と
辞退し、出家して都を出る、という実際の歴史の流れに合流します。
しかしその後、『日本書紀』では天智天皇の息子が即位するにあたって、
彼の周りには性格の良くない取り巻きが多く、
天武天皇を念のため殺しておくべきではないか、
という話があった、と続きます。
こうなっては、天武天皇も自らの身を守るしかありません。
彼は「仕方なく」、自衛のために味方を増やして
天智天皇の息子の周りの良くない家臣たちを取り除く必要があった……
と『日本書紀』はつづっています。
見事にクーデターが、説得力のある別のストーリーに置き換えられました。
ここでは紹介しきれませんが、このストーリーの置き換えには
参考にした別の文章があり、それが中国の漢の始祖・劉邦の伝記だったり
するから驚きです。
この後も自らのカリスマ性をアップするために
戦に先駆けて神事を行い、神意をとりつけたとするシーンがあったりと
いや、本当によく練り上げられた物語だと感心しました。
さらに、「壬申紀」の記述の正当性を高めるために
その前の歴史にも少しずつ手を入れ、物語が破綻しないようにしています。
そこまでするか、というくらいの念の入れようです。
全部が全部、天武天皇が指示したわけではないでしょうが、
ものすごくパフォーマンス重視した人だったというのは
よくわかりますよね。
天武天皇がここまで『日本書紀』に凝ったのは当時の事情を
知っておく必要もあるのですが、それについても本書は言及してくれています。
天皇は時の最高権力者、その権力を支えていたものは
「正当性」といった、目には見えないものでした。
なるべくしてなった、天のご加護がある人だから、こういった理由が
天皇の権威を支えていたのです。
今の感覚からすると信じられない話ですが、正当性を失うと
天皇をおりなければならないくらい、当時としては重要な概念だったようです。
天武天皇が自身の権威をかけて『日本書紀』の内容にこだわったのも当然と言えるでしょう。
彼自身、頭もいい人だったんでしょうし、
当時の最高の知識と文章力の持ち主たちをスカウトして
『日本書紀』を編纂させたんだろうなあと想像できて
本好きとしては、その現場の情熱のこもり方まで
想像してしまって、ますますミーハー心が刺激されてしまいました。
有能なボスのところには、きっと有能な人材が集まるのです。
いかがでしたでしょうか。
天武天皇については時代が古いせいもあるのか、
詳しく言及している本というのはあまりありません。
『天武天皇の企て』と『日本の歴史2古代国家の成立』(中公文庫)
の2冊くらいでしょうか。
しかし勇ましさと賢さを感じさせるエピソードに富んだ人なので、
彼について言及した文章は面白く感じられますよ。
大きな書店でないと見つからないかもしれませんが、
見つけた時には手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。
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